ある集団の中で特定の個人がどの位置にいるのかを、同じ集団の他者との比較で評価するのが相対評価です。最上位のS評価は上位10%、次のA評価はその下の20%、その次のB評価はさらにその下の30%……というように、集団の中の順位で評価を決めていくという特徴を持ちます。相対評価では、SやAなどそれぞれに評価される人数が最初から決まっています。
受験の現場でよく使われる偏差値も、相対評価の一例です。偏差値は、集団全体の平均が50になるように設定された中で、自分の位置がわかるようになっています。
絶対評価は、あらかじめ決めておいた評価基準に則って評価する手法で、目標の達成度合いが評価軸となります。企業で人事考課に活用される例では、自ら設定した目標を大きく超える成果を上げれば高い評価が付き、目標が未達であれば低評価にとどまります。
グループ内での比較ではなく、個々人の業績を客観的に評価する点が相対評価との大きな違いです。評価基準も一律ではなく、通常は職種や職位などによって異なります。
相対評価では組織や集団の中での順位付けによって評価が決まるため、評価者にとっては明確な軸で評価しやすい方法です。専門的な知識が必要なく、作業も比較的簡単で、導入に時間がかからないメリットもあります。
評価者が多忙なプレイングマネジャーであったりする場合、相対評価が採用されていれば人事考課の負荷が軽減できるでしょう。
集団内の順位付けで評価を行うため、評価者ごとの差が出にくいのも相対評価のメリットです。評価者の主観や好みに影響されて評価に揺れが生じることが少なく、客観的に評価が下されます。S、A、Bなど各評価段階の分布率が最初から決まっているため、厳しすぎる評価者と甘すぎる評価者の評価結果を調整するなどの手間もありません。
相対評価は、特定の集団内での順位付けが評価に反映されます。その集団の中で順位を高めれば、評価も上がることになるため、集団内での競争が活発化する利点があります。競争意識が高まれば、上司が叱咤激励しなくても、社員が自発的にスキルアップを図るなど成績向上に努めるようになり、職場でのモチベーションの向上と緊張感の醸成が期待できるでしょう。
相対評価では、評価段階ごとの分布率が決まっているため、良い評価を取って昇給する社員の数を事前に把握できます。昇給の対象者が限定され、人件費が高くなりすぎる弊害もありません。集団内の全員が高い成績を上げたとしても、相対評価であれば高評価の社員と低評価の社員が必ず存在し、全体のバランスが変わることはありません。そのため、人件費を予算内に収めるコントロールが可能です。
以下に、相対評価のデメリットを3点挙げました。
特定の集団内での順位付けであるため評価がしやすい、というのが相対評価のメリットですが、評価される社員が別の集団に異動した場合は、評価が変わる可能性があります。例えば、1000万円の利益を上げて高い評価を得ていた社員が異動して、異動先では2000万円の利益を上げたにもかかわらず、集団内では下位の成績にとどまったため評価が低くなった、などということもあり得ます。
相対評価は集団内の他者との比較がベースとなるため、どうしても適正な比較と評価が難しくなるという問題を抱えているのです。
同じ集団の中で評価されるため、低評価の社員が固定化しやすいという難点があります。個人としては努力を積み重ね、成績が上がったとしても、集団内での順位が上がらなければ評価されにくいのが相対評価です。
低評価が固定してしまった社員は、「努力しても無駄だ」と思ってしまい、モチベーションを維持できなくなる可能性があります。モチベーションが下がった状態で仕事をしても成果は上がりにくく、さらに低評価が固定する悪循環に陥ることすら考えられます。
相対評価は集団内の他者との比較であるため、個人の努力や成長が評価に結び付きにくい弱点を持っています。努力はみられるものの評価が上がらなかった社員に対して、評価について納得できる説明をするのが難しいのが懸念点です。
全員の成績が振るわなかった場合も、一定の割合で高評価を獲得する社員は現れます。集団内での自分の順位を上げなければ評価や昇給につながらないため、同僚をサポートしないなど、職場の一体感が欠けるものとなる危険性もあるでしょう。
その他にもメリットがあり、以下でそれらについて解説します。
相対評価が他者との比較に評価軸を置いていたのに対し、絶対評価で評価の根拠となるのは、自分です。自分の目標に対する達成度が基準となり評価されるため、評価結果について納得を得やすいのです。
目標を達成できず低い評価がついてしまった社員に対して、合理的な説明ができ、納得させることができます。低評価を受けた社員にとっても、評価基準がはっきりしているため、達成できなかった理由を振り返り、次の目標達成につなげる意欲がわきやすいでしょう。
絶対評価は、他者との比較で評価するのではないため、個人の成長や努力のプロセスを評価できるメリットがあります。自分が成長して目標を達成すれば、他者とは関係なく評価に反映される仕組みであり、個人の成長を汲み上げることができます。組織全体として見た場合も、どの部署のどの社員が成長しているかを可視化でき、人事異動に活用することが可能です。
それに対して相対評価では、自分で立てた目標を大きく超える成果を上げても、集団の中で上位に食い込めなければ高い評価は得られません。
絶対評価では評価基準が明確であり、次に取り組むべき課題が明確になる利点を持っています。課題がわかれば、評価される社員側は努力の方向性がわかりやすくなり、評価する側もその課題解決がなされたかどうかを見ればよいため、次の評価軸がわかりやすいというメリットがあります。
社員にとっては、明らかになった課題をクリアしていくことでスキルアップにつながることから、絶対評価には人材育成の効果を上げる側面もあるといえます。
この項では、絶対評価の4つのデメリットについてまとめました。
絶対評価は個人の業績や目標達成にフォーカスした評価制度であるため、極端な例を挙げると、全員が成果を上げた場合は全員が高い評価になってしまいます。会社全体で見た場合にバランスを欠いているように見えるだけでなく、全員が高評価ではそもそも評価として機能するのかどうかも疑問です。
絶対評価では、個人ごとの努力や成長を評価することが可能ですが、会社や組織を全体として見る視点に欠ける傾向もあります。
絶対評価のデメリットとして大きいのは、評価者によって評価がぶれやすいという点です。部下からの反発を恐れて全員を甘めに評価したり、逆に厳格すぎる評価をしたりする例があるため注意が必要です。
客観的に評価できる売上高や利益、件数などを目標とすることで、評価者によるぶれを抑えることもできますが、評価項目にはコミュニケーション能力や勤務態度など数字で表しにくいものも、往々にして含まれています。同じ業務を同じようにこなしていても、評価者によって評価が大きく変わる危険性は、排除しきれないでしょう。
目標の達成が評価基準となる絶対評価では、社員が簡単にクリアできる目標を設けがちになるといわれています。簡単な目標を設けると成果を上げる社員が多くなりますが、目標のハードルを上げると越えられない社員ばかりになり、いずれも評価制度としては問題です。
評価基準は、やさしすぎず、難しすぎない中間的な難易度とするのが望ましいとされ、職位や職種によっても異なる設定とする必要があります。評価基準の設定は、対象者を知らない人事担当部署だけで行うものではなく、各部署の管理職クラスと連携して進めていくのが一般的ですが、ここに時間とマンパワーを取られるのもデメリットといえます。
相対評価であれば、高い評価を獲得する社員の数がわかっているため、人件費がどの程度になるか予測がつきます。絶対評価の場合、多くの社員が高い成果を上げ、評価が高くなると昇給総額も大きくなってしまい、人件費のコントロールが難しくなるのです。
理屈のうえでは、目標を達成した社員が多ければ多いほど、人件費が高騰していくことになります。現実には人件費が膨らみすぎて、全員を昇給させたり高い賞与を支払ったりすることができなくなる事態も考えられます。そうなると、高評価が昇給につながる制度自体の機能を喪失する可能性がある点にも注意が必要です。
ここでは、相対評価と絶対評価それぞれの活用法と、組み合わせて使う場合のポイントなどを説明します。
相対評価は、S評価が10%、A評価が20%といったように、評価段階ごとの分布率を最初に設定します。分布の内訳を厳密に決めたうえで、評価の基準を社員に公開し、集団内での自分の位置が確認できるようにすれば、納得感を持てる評価制度となるでしょう。
相対評価は数値で判断しにくい業務の評価に向いているため、総務や経理といった数値目標の立てにくい職場に導入すると、うまく機能します。
評価の目的が社員育成のためであれば、絶対評価が向いています。絶対評価では社員自身の成長が評価につながるため、目標達成や課題解決に向けた方法を自ら考える習慣がつくことが期待されます。自分で決めた目標を自分で達成できれば、モチベーションの向上にもつながるでしょう。
重要なポイントは、社員個人ごとに評価基準を設定することです。職種や経験、ポジションによって評価項目やレベル感は異なるため、社員一人ひとりに合わせた丁寧な対応が必要になります。
絶対評価は、売上高や利益など数値化できる業務の評価に向いた方法です。営業や開発などの部門で絶対評価を採り入れれば、業績アップにつながることが見込めます。
人事評価には、誰もが納得する魔法のような評価方法は存在しません。絶対評価と相対評価の選択も、どちらかだけを使わなければならないわけではありません。近年、透明性の高い評価方法として絶対評価を採用する企業が増えていますが、競争心を高めるなど相対評価にしかないメリットもあります。
1次評価は絶対評価とし、2次評価を相対評価にして調整するなど、2つの評価を組み合わせている企業もあります。自分の目標は達成したのに相対評価では高く評価されないという不満や、成果を上げた社員が多すぎて人件費増が懸念されるという企業側の悩みに、相対評価と絶対評価の組み合わせで対応することも可能です。
この項では、絶対評価が重視されるようになってきた理由を詳述していきます。
絶対評価は、どのような基準によってどのような評価になったのかがわかりやすいのが特徴です。この特徴により、透明性の高い評価制度として社員に支持される事例が多いとされています。社員が自らの評価に疑問を持つようでは、制度として十分に機能しない懸念もあります。
透明で客観性を持った評価基準により、社員が正当に評価されていると感じられるのは、相対評価ではなく絶対評価です。相対評価は他者との比較で自分の評価が決まるため、どうしても他人を意識することになるのに対し、絶対評価であれば周囲との比較を気にすることなく業務に打ち込めるメリットもあると指摘されています。
努力して目標達成したことが評価されれば、その後の業務に対するモチベーションが向上し、成果もさらに上がることが期待できます。絶対評価は個人の成長を評価に組み込むことができるため、社員のパフォーマンス向上につながると考えられるのです。
個人的な目標の達成度が客観的に把握できることから、次の目標が立てやすくなり、さらには個人の目標達成が組織全体にどのように貢献するかもイメージしやすくなる利点もあるといえます。
競争心を高めるなど、相対評価にしかないメリットも考慮が求められる点です。評価方法はどれか1つが正解というわけではなく、各企業の業態や社風なども加味して、自社に合った手法を選択するものです。社員と企業全体の業績がさらに上がるような評価方法を採り入れてください。