業績評価は、日本におけるバブル崩壊後の成果主義の広がりとともに、採用されるようになりました。業績の達成が評価に直結するため、労働意欲や企業業績に反映されます。また業績評価は、客観的な基準で人事評価を行える点も特徴です。
業績評価が行われなければ、業績達成に向かって取り組んだとしても、その過程や結果が評価されません。その結果、従業員のモチベーションが下がったり、離職率を高めたりする可能性があります。また、業務効率が低下するといった影響も懸念されます。
従業員のモチベーションの向上やそれによる生産性アップを目指すのであれば、業績評価の導入は避けて通れないといえるでしょう。
業績評価をもっとも反映しやすいのは営業分野です。しかし近年、業績の定義を広義に解釈するケースも増えています。
工程数や業務改善を実施した数などを目標にするなど、工夫を行うことで事務職や技術職、マーケティング職などにも導入することが可能です。例えば事務職では電話対応の数、業務改善を行った数などを集計することで数値で評価できます。
1-2-1.KPI(重要業績評価指標)の活用
営業分野以外に業績評価を導入する際には、「KPI」を活用すると効果的です。KPIとは、組織の目標を達成するための指標のことであり、KPIの達成状況を確認することで、目標までの進捗の把握ができます。
KPIは営業利益率などの財務指標としてイメージされることが多いものの、顧客訪問数や勉強会の開催回数、クレーム発生件数などもKPIとして設定できます。
「目標管理制度」とは、個人あるいは部門単位で目標を設定し、進捗を確認しながら目標達成に向けてマネジメントする制度のことです。目標管理制度で掲げる目標のほとんどは業績目標や職務遂行目標であるため、業績評価における目標とほぼ同じ意味であるといえます。
ここまでお伝えしたとおり、業績評価制度は人事評価制度の基準の一つで、会社の利益への貢献度合いをダイレクトに測ることができる評価のことです。
「能力評価制度」は、人材が持つ能力や業務中に発揮した能力に対して評価する制度のことを指します。業績評価は職務行動の結果を重視するのに対し、能力評価は成果にはあまり着目しない点が特徴です。職種によっては、資格の所有を能力評価に反映させるケースも珍しくありません。
本来、能力評価は従業員の長期的な育成や意識の向上を目的として行われることが多く、未来への投資と呼ばれることもあります。しかし現在は、業績評価を重視する風潮であるため、能力評価においても、潜在的な能力よりも業務に関する一定期間中の行動に着目する傾向が強くなっています。
一般的に、それぞれの評価項目を能力評価と業績評価に分けて評価し、総合評価を人事評価とすることが多いです。
「情意評価制度」は、職務への姿勢や意欲を評価する制度で、評価対象となるのは主に職場における協調性や積極性などです。「情意」は、通常は思いや気持ちの意味で使われる言葉ですが、人事評価においては職務に対する姿勢や意欲を指します。
遅刻や早退などの勤務態度や、職場でのマナーやモラルも評価項目に含まれることもあります。
客観的に成果を評価する業績評価とは異なり、評価者の主観的な視点での評価がほとんどであるため、定量的な観測は困難な傾向にあるといえます。
業績評価は、定量的な成果を目標として評価を行うものです。そのため、評価につながる目標を掲げることによって従業員のモチベーションが高まり、結果的に生産性向上の効果を見込めます。
業績の向上という目に見える結果に結びつくことで、従業員のモチベーションに還元されるという好循環も生まれます。
業績評価で掲げた目標に対して、従業員が自分で結果を出すためのアプローチ方法を考えるきっかけとなり、従業員のポテンシャルを引き出せる点もメリットの一つです。
従業員のポテンシャルを引き出す利点は、人材開発が促されることだけではありません。従業員個人のモチベーションの向上や、その結果としての企業の業績向上も挙げられます。
業績評価は、従業員があげる業績に基づいて評価を行うため、数字にあらわれる成果を出しているにもかかわらず評価されないという事態は起こりにくくなります。評価基準が明確になり、人事評価が適正なものになるでしょう。
ただし、業績は外部の環境にも大きく左右されるものです。そのため、中長期の待遇に反映させるべきかどうかは検討が必要といえます。従業員の能力やパフォーマンスと待遇に乖離が生じないように、定量的な評価である業績評価は主に賞与に、定性的な評価は給与に反映させるといった対応を取ることも有効です。
業績評価の導入によって、人件費の抑制という効果も期待できます。高度成長期には日本企業の多くで特有の雇用の仕組みである、年功序列制度が取り入れられました。年功序列制度は中高年層の賃金を上昇させ、実際に業績をあげている従業員への還元が少なくなる傾向があります。
業績評価はその客観性や明確さによって不要な人件費を抑制し、年齢や過去の実績に関係なく、優秀な従業員に適切に報酬を支払う仕組みです。それにより、優秀な人材のモチベーションの低下や離職による人材の流出の防止効果が期待できます。
ここでは、注意点の内容を詳しくご紹介していきます。
業績評価を実施するにあたっては、評価単位を明確にすることが重要です。評価単位は業績単位とも呼ばれ、業績評価を実践する組織単位のことを指します。
例えば評価単位が事業全体である場合は、当該事業部の利益の最大化を目指すことになります。一方で、評価単位をもう少し細分化させた場合は、それぞれのチームで利益を最大化させることが目標です。
また、評価の基準として用いる尺度も明確にし、全社で統一しましょう。評価単位が曖昧なこと、あるいは評価の尺度が不揃いであることによって生じる、業績評価の納得性の低下や制度の形骸化を防げます。
業績評価を行う際には、評価のフィードバックの徹底が不可欠です。業績評価においてもっとも重要なのは、目標に向かってどのような意識を持ちどのようなアクションを起こしたかを振り返って、良かった点は継続し、反省点は見直して次の目標に活かすことです。
例えば営業における成約件数が未達成であった際に主な原因として考えられること、また自分に原因がある場合、次回はどのようなアクションを起こすべきかを、言語化できなければなりません。
業績評価の実施にあたって、目標への振り返りを行わなければ、従業員の目標達成度や企業業績の伸びが鈍化する可能性があります。
業績評価の注意点として、評価を昇進と切り離して運用するのが望ましいことが挙げられます。業績は外部環境によって左右されやすく、たとえ個人の努力量や業務量が同じであっても成果にばらつきが出ることを考慮しなければなりません。
発揮した能力の伸びを昇給の基準とし、業績評価を賞与に反映して運用することも手法の一つです。業績評価を昇給の評価基準としてしまうと、個人の裁量ではコントロールできない外部要因によって、実際の能力に見合わない昇進事例が出てしまう可能性も否めません。それによって制度への納得感が低下し、従業員の離職率が上昇するといった弊害を防ぐ必要があります。
ここからは、業績評価のおおまかな流れをご紹介します。業績評価は、基本的に以下の流れで実施します。
業績評価で最初に行うのは、目標設定です。はじめに組織全体の目標を設定し、それを踏まえてチームや個人の目標設定を行います。
個人の目標を設定する際には部下が主体的に考え、上司に申告する流れが理想的です。部下からの申告内容を踏まえて、上司との面談を通じて内容や難易度を調整し、双方が合意する目標を最終決定します。
このとき、上司が一方的に部下の個人目標を設定したり、上司とのすり合わせなしに部下の意向だけで目標を決めたりといった状況は避けなければいけません。そのような目標設定を行うと、部下のモチベーション低下を招きかねず、業績評価を行う意味がなくなってしまいます。
掲げる目標値は、簡単に達成できる水準ではなく、ある程度の努力が求められるレベルのものを設定すると、個人の成長や目標達成に向けてのモチベーション向上を促す効果が期待できます。
実際に業務を遂行する中で外部環境の変化が生じ、成果に影響しそうな場合には、個人の目標を修正するかどうかを迅速に検討することがポイントです。
外的要因による影響が懸念されるにもかかわらず、個人の目標をそのままにしていると、目標達成に対する部下のモチベーションに影響する可能性があります。
評価期間が終了したら、目標値に対する達成度合いを評価します。基本的には自己評価を踏まえたうえで、上司との面談を通じて最終的な評価の確認が行われるという流れです。
その後、具体的には、以下のような内容をフィードバックします。
業績評価で掲げた目標に対する評価のフィードバックを丁寧に行わないと、今期の結果の位置付けや来期に向けたアプローチの方向性が明確にならず、効果が薄れてしまいます。
なお、業績評価の項目は「SS・S・A・B・C・D・E」の7段階評価で評価することがおすすめです。平均値をBとして、もっとも優秀な場合はSSを付けます。業績評価は数値で表せるため段階を細かく設定することができ、それによって評価にぶれが生じにくくなります。
ただし実際には日々の業務に追われ、期中に目標設定の見直しをしたり、十分なフィードバックを行ったりするところまで手が回らないケースも少なくないでしょう。そのような企業は、人事評価制度をシステム化することで、余裕を持った制度の運用につながる可能性があります。
業績評価の目標設定は、「✕✕✕【期限】までに◯◯◯【行動目標】を実行することによって、■■■【成果】を◯◯から◯◯にする」のような、統一フォーマットを用意しておくと便利です。
業績評価の目標設定をする際には、次の3点を押さえなければなりません。
業績評価の目標設定ではまず、評価を行う期限を設定します。人事評価の周期と合わせ、年次評価の場合は1年間、半期評価であれば半年と設定することがほとんどです。
目標値に対して100%以上達成したら高評価、下回ったら低評価となることを前提として、目標の難易度を検討します。難易度を部下1人で決めるのではなく、複数の視点から決定することで、業績評価の適切な運用が実現します。
上司は、部下の目標の難易度が人によって異なることのないように注意が必要です。また、目標は可能な限り数値化することがポイントです。
目標値を設定したら、達成するための具体的な行動目標を定めます。達成条件から逆算し、できるだけ具体的な行動まで落とし込み、言語化することが重要です。行動目標が曖昧だと、それに基づいて行動したかどうかを判断することが困難になる可能性があります。
包括的な視点を踏まえた業績評価とするために、定量的および定性的、2種類の業績評価の質問を設定することが求められます。人事が管理職に対して行う、定量的な質問例は以下のとおりです。
業績評価において目標を数値化することが難しい場合、その従業員が全体に与える影響を考慮して評価します。定性的な質問の例は以下のとおりです。
定性的な質問に対する回答では、評価者は評価の根拠や具体例を提示することが必要です。
業績評価を行う際に記入するコメントは、目標を達成した場合と目標を達成できなかった場合で、記入のポイントが異なります。それぞれの記入のポイントをご紹介します。
【目標を達成した場合】
部下によるコメント
上司によるコメント
【目標を達成できなかった場合】
部下によるコメント
上司によるコメント
人事評価には業績評価のほかに、能力評価や情意評価があります。能力評価と業績評価を組み合わせ、総合評価を人事評価とすることが一般的です。業績評価を適切に運用して、企業の生産性の向上につなげましょう。