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コンピテンシー評価とは?導入手順から失敗しないための方法まで解説

作成者: スタンバイ制作チーム|2022/09/29

1.コンピテンシー評価とは

「コンピテンシー評価」とは、高い業績を上げている社員(ハイパフォーマー)の行動特性を基準に評価項目などを定め、評価に使っていくやり方です。日本では2000年前後から、大企業を中心に採用されるようになっています。

この項では、そもそもコンピテンシーとは何かから始まり、コンピテンシー評価の重要性や、従来型の職能資格制度との違いなどについて説明していきます。

1-1.コンピテンシーとは高業績社員の行動特性

コンピテンシーとは、業務で高い成果を出す人の行動特性のことです。米ハーバード大学のD.C.マクレランド教授らによる研究で、業績の高さは学歴や知能とはあまり関係がなく、業績の高い人には共通した行動特性があるとの結果が導き出されたことから注目されるようになりました。

コンピテンシーは、高業績社員に共通する行動の傾向を、インタビューや行動観察などから分析し、まとめたものです。  

1-2.コンピテンシー評価の重要性

コンピテンシー評価は、高業績を上げている人の行動特性を調査、分析して、それを基に評価基準を設定し、社員の評価に用いていく手法です。仕事ができる人をベースとした評価項目を明示することで、社員の能力や適性を客観的に評価しやすくなる特徴があるとされます。

従来型の成果主義では成果のみが指標として示されるため、プロセスに対する評価が難しいという問題がありました。コンピテンシー評価を採り入れることで、直接の成果ではない部分への評価基準も構築しやすくなります。

成果に加え、業務プロセスの評価もできる制度なので、評価される側の納得も得られやすいといえるでしょう。

1-3.コンピテンシー評価と職能資格制度    

コンピテンシー評価への関心が高まっている背景には、これまで多くの企業が採用してきた「職能資格制度」が 現代にマッチしなくなってきているためとの指摘があります。職能資格制度とは、社員の能力に応じた資格等級を設定し、等級ごとに給与や賞与の額を当てはめていく手法です。

職能資格制度では、スキルや知識、経験などが評価項目となり、ゼネラリスト養成には向いている反面、判断基準があいまいで評価者の主観に左右されがちだという難点があるとされます。経験が重視される職能資格制度は、勤続年数が長いほど資格が上がり、給与も上がる仕組みです。勤続年数の短い社員は高い業績を残しても昇給されにくく、不満を抱きやすいともいわれます。

評価に納得がいかなければ、社員のモチベーションは低下し、個人の業績が悪化したり、場合によっては早期退職者が増えたりすることも考えられるでしょう。従来型の職能資格制度が時代にマッチしなくなってきていることが、コンピテンシー評価に注目が集まる原因とも指摘されています。

 

 2.コンピテンシー評価4つのメリット

コンピテンシー評価のメリットとしては、以下の4点が挙げられます。

  1. 効率的な能力開発と育成が可能
  2. 評価者が評価しやすい
  3. 評価に納得感を得やすい
  4. 経営ビジョンが浸透しやすい

いずれも、評価基準が具体的で明確であるというコンピテンシー評価の特徴が反映されたものです。以下に、メリットのそれぞれについて説明します。

2-1.効率的な能力開発と育成が可能

コンピテンシー評価の基準となるのは、その職場で高い成果を上げている社員です。実際に働いている社員の行動がベースとなっているため、評価基準が実践的なものとなり、必要なスキルが明確化されます。成果を上げる方法が伝わりやすくなるため、効率的な能力開発と社員の育成が可能となるのです。

実務をベースとした評価であり、即戦力を育成するのに役立つ特徴を持っています。次の課題が何であるかがわかるため、社員のモチベーションが高まる点もメリットといえるでしょう。

2-2.評価者が評価しやすい

コンピテンシー評価では、評価する側にも利点があります。評価基準が明確になっているため、評価しやすいということが代表的なものです。 従来の職能資格制度と異なり、評価者の主観が入り込む余地が少ないため、社内の人間関係や評価者の保身などといった要素で評価が歪むことがなく、客観的で公平な評価の実行が期待されます。

2-3.評価に納得感を得やすい

評価者が評価しやすいということと裏表の関係になりますが、コンピテンシー評価を用いれば、評価される側の納得感も得やすくなります。コンピテンシー評価では、「勤続年数が長い」「成果は上がらないがやる気はある」といった要素は、高い評価につながりません。透明性の高い評価基準で下された評価であるため、評価される社員から不信感を持たれることが少なく、モチベーション低下につながりにくい点も期待されます。

社員の評価に対する納得感が高まれば、会社への帰属意識が高まり、早期退職のリスク低減やパフォーマンス向上も期待できます。

2-4.経営ビジョンが浸透しやすい

コンピテンシー評価を企業が導入する理由の一つとして、企業が望む社員像という形で経営ビジョンを反映させ、具体的な形で社員に提示する目的が挙げられます。抽象的になりがちな経営ビジョンを評価基準を通じて行動に落とし込めるため、企業理念や経営ビジョンを社員と共有することができます。日々の業務の中でビジョンの浸透が促進できると考えられています。

3.コンピテンシー評価導入のデメリット

前項に示したとおりメリットの多いコンピテンシー評価ですが、もちろんデメリットもあります。また、導入に当たっては高いハードルもあります。

高業績を上げている社員の行動特性をモデル化することがそもそも難しいほか、市場の変化などにより評価基準も変化するため、メンテナンスの負担が大きいこともデメリットです。以下に主要なデメリット3点について詳述します。        

3-1.コンピテンシーの分析が困難                

 コンピテンシー評価の基準には決まりきったものがないため、自社に合った評価基準を自社で作り上げるしかありません。しかも、1回で有効な評価基準が決められるとは限らず、多くの場合は試行錯誤と修正が必要になります。職種や部署、職位ごとにコンピテンシーは異なるため、評価基準の確定までには手間と時間がかかるのが難点です。

コンピテンシー評価の評価基準を決めるには、まず社内の高業績社員からヒアリングを行います。しかし、高い成果を上げている社員は一般的に多忙であるため、ヒアリングすること自体が簡単でないという問題があるのです。成果につながっている行動特性が何であるか、明確にわからないこともあり、コンピテンシーの分析自体が困難という事態も考えられます。     

3-2.メンテナンス負担が大きい    

会社の成長や景気変動などに応じて、業容や業務内容は変化します。コンピテンシー評価における基準は高業績な社員の行動特性をベースとしているため、会社や外部環境が変化すれば評価基準も自ずと変化します。お手本とするべき社員の行動特性も、時代とともに変化するでしょう。

環境変化に対応しなければコンピテンシー評価の評価基準は陳腐化してしまうため、普段からの見直しが必要です。必然的に、人事担当者による評価基準のメンテナンス負担も大きくなり、ゼロからコンピテンシーを見直すことになれば、コスト負担も大きなものとなると考えられます。            

3-3.導入のハードルが高い               

前述の通り、コンピテンシー評価を導入するための評価基準は、自社で独自に決める必要があります。職種や部署ごとに何種類もの評価基準を用意しなくてなならないなど、時間のかかる要素が多いため、運用開始までは、最低でも1年かかるとされているのです。

高業績社員のヒアリングに始まり、評価基準の策定と検証、調整といったように、導入までに踏む段階が多く、巻き込まれる関係者も多いため工数が増加します。コンピテンシー評価の導入には手間と時間がかかり、それが高いハードルとなっています。

4.コンピテンシーモデルの3つのタイプ

コンピテンシー評価を行うには、評価の土台となるコンピテンシーモデルを作る必要があります。コンピテンシーモデルは、以下の3つのタイプに分かれます。

  1. 理想型モデル
  2. 実在型モデル
  3. ハイブリッド型モデル

会社にとって理想的な人物像を設定するのが「理想型モデル」です。モデルとするべき高業績社員が見当たらない場合に、理想型モデルが使われます。自社でゼロから理想型モデルを作り上げるのは難しいため、人事コンサルタントなど、モデル設計の経験が豊富なプロに依頼するのが有効です。

「実在型モデル」は、社内にいる高業績の社員をモデルとするやり方です。コンピテンシー評価を採用している企業の多くは、実在型モデルを作っています。実務に即したモデルを構築できる利点がある一方、作り上げるのに時間がかかるのが弱点です。

「ハイブリッド型モデル」は、理想モデルと実在型モデルの特長を併せ持つモデルです。実在の高業績社員をモデルとしつつ、不足する部分を理想モデルで補完して作成されます。職種や職位ごとにモデルとなるような社員が必ずいるとは限らないため、ハイブリッド型モデルを使うのが実務上は一般的だと考えられます。

コンピテンシー評価の導入により求める効果は何か、モデルとなり得る高業績社員がいるか、検討に使える時間がどの程度あるかなどの条件により、自社に合ったモデルを選びましょう。

5.コンピテンシー評価の導入方法 

ここでは、コンピテンシー評価の具体的な導入方法を時系列的な流れで説明します。

プロジェクトチームの結成に始まり、コンピテンシーモデルの構築方法から調整して導入するフェーズまで、詳細にわたって説明します。

5-1.プロジェクトチームの結成

まずはコンピテンシーモデルを開発するプロジェクトチームを作ります。自社の人事制度の根幹となる施策の決定に関わるため、メンバーには部門責任者やマネジャーなど管理職を起用しましょう。評価項目の検討に当たっては、理想となる行動特性を理解できる人材が必要となるため、実際に高い業績を上げている社員をアサインすることが不可欠です。

5-2.コンピテンシーモデルの設定方法を決める

コンピテンシーモデルには前述の通り、理想型モデル・実在型モデル・ハイブリッド型モデルの3つの類型があります。ロールモデルとなるような高業績の社員がいれば、そうした社員の行動特性を抽出して実在型モデルを構築するのが定石です。

管理職など、職階によってはロールモデルが存在しない場合もあります。その場合は理想型モデルを選択し、経営者や管理職階層の社員らで理想の人物像を設定することが必要です。実在型モデルをベースに、理想型モデルの要素を加えてハイブリッド型モデルを構築するやり方もあります。お手本にしたいような完璧な社員が職階ごとに存在することはまずないため、実務上はハイブリッド型でモデル構築されることが多いといえます。

職場にかかる負荷が小さく、設定しやすいのは理想型モデルです。実在型モデルの場合は、ハイパフォーマーへのヒアリングを行い、行動特性を収集します。ヒアリングで重要なのは、「どうしてそのような行動をしたか」という思考パターンを抽出できるようにすることです。ハイパフォーマーを観察する中で得られた特徴点も、コンピテンシーとなり得ます。

5-3.コンピテンシーの検討

ここまでのプロセスで集めた情報を分析し、コンピテンシー項目を検討していくフェーズに入ります。コンピテンシーを体系化し、包括的に尺度付けした「コンピテンシー・ディクショナリー」を参考にする方法が多く取られます。

コンピテンシー・ディクショナリーは、コンピテンシーを取りまとめるうえでの目安となるものです。一般的には、以下の6領域に分けられます。

  1. 達成・行動
  2. 援助・対人支援
  3. インパクト・対人影響力
  4. 管理領域
  5. 知的領域
  6. 個人の効果性

この領域ごとに、例えば「達成・行動」なら「達成思考、秩序・品質・正確性への関心、イニシアチブ、情報収集」の4項目といったように細分化され、計20項目で構成されます。コンピテンシー・ディクショナリーを参考にしたうえで、自社の実態に適合した、最適な要素を選び出してください。

コンピテンシー評価は企業と社員の成長のために行うものです。自社の経営ビジョンを組み込んだ形で設計しましょう。  

5-4.レベルと基準を定める 

評価項目に対してレベル分けをし、何段階で評価するかという基準を決めます。レベルは、求めるコンピテンシーに対する達成度や習熟度を判定できるように設定しましょう。

その際、組織内で共通の尺度と、個人ごとの尺度の2方向から設定するのがよいとされています。職種や業務によっては組織共通の尺度が当てはめにくいこともあり、その場合は業務内容や個別のスキルを基にした尺度を設定します。

評価の段階をどの程度細分化するかについては、決まったスタイルはありません。なお、1から5の5段階評価とする企業が多い傾向がありますが、AからDの4段階にするなど、自社に合った方式を採用してください。細かすぎたり複雑すぎたりすると運用が難しくなるため、その点は注意が必要です。

5-5.調整して導入する  

コンピテンシー評価ができる状態になったら、設定した基準が適正かどうかテストを行い、場合によっては調整を繰り返します。高い業績を上げている自社の社員をモデルケースとして、本当に高評価が出るのかをチェックしましょう。業績が中位程度の社員についても評価を行い、評価結果が高過ぎたり低過ぎたりしないように修正していきます。

複数人に対して複数回の評価を繰り返していくことで、精度の高い評価基準が設定できるようになるのです。

6.コンピテンシー評価導入の注意点   

コンピテンシー評価は、企業文化になじめば社員の能力開発やモチベーション向上などメリットも多い手法です。しかし環境の変化に弱く、随時内容を更新していく必要があるなどの課題も抱えており、導入しただけでは効果の発揮は限定的といえます。

この項では、コンピテンシー評価を導入する場合の注意点を示します。コンピテンシー評価の導入が自社を発展させ、社員を活性化させられるよう、以下の注意点を確認してください。

6-1.目的は成果の向上である     

コンピテンシー評価は人事評価に活用する手法であるため、人材育成や能力開発といった観点からのみ捉えられがちです。しかしコンピテンシー評価は本来、高業績社員の行動特性を分析して、成果の出せる行動をベースに評価基準を決める仕組みであり、最終的に目的とするのは成果の向上です。

形式的にコンピテンシー評価を導入しても、思うような成果が上げられないことも考えられます。

6-2.完全に満たす人はいないことを認識しておく          

コンピテンシーモデルに完璧に当てはまる社員など存在しないということも、認識しておきましょう。理想像を追い求めるあまりに社員に高い目標を押し付けすぎては、かえってモチベーションのダウンを招くなど逆効果になりかねません。

コンピテンシー評価の目的は、社員個々人の能力を伸ばし、弱みのあるところは他の社員がフォローしやすい体制を整備することにより、成果の向上を実現することです。

6-3.定期的な更新を行う必要がある

コンピテンシー評価は、周辺環境の変化に弱いという問題点も持っています。景気変動や技術革新などにより自社の業容に変化が生じれば、業務そのものも社員に求められるスキルも変化し、コンピテンシーモデルにも手直しが求められるのは必然です。評価項目は定期的に見直し、企業理念や経営ビジョンともすり合わせながら、更新するようにしましょう。

6-4.現場に負担をかけないやり方を検討する   

工数のかかるコンピテンシーモデルの設定では、現場の負担が少ない理想型モデルの採用から進めていくのも方法の一つです。ハイパフォーマーが存在しない場合はもちろん、インタビューに協力が得られないような場合にも理想型モデルが活用できます。

実在型モデルを作る場合は、ハイパフォーマーのインタビューから行動特性を明確化するなど、高度な分析力も必要です。コンサルタントなどプロの手を借りることも、効率的な導入に結び付く可能性があります。      

6-5.一部の部署からはじめる

コンピテンシー評価の導入を成功させるには、段階的に取り組みを広げていくことも方策として考えられます。もともと導入に時間がかかるコンピテンシー評価は、困難も伴うものです。いきなり全社で一斉に始めるのではなく、一部の部署だけでパイロット的に導入し、不備があれば修正を加えながら拡大していくやり方を取れば、社員の戸惑いや不満などを防ぐことができるでしょう。 

 7.コンピテンシー評価は数々の長所を持ち合わせている

本記事ではここまで、コンピテンシー評価についてその概要から沿革、メリットとデメリット、導入方法と導入時の注意点まで、幅広く解説してきました。

「高い成果を上げている理想的な社員の行動特性を基準に、評価制度を作り上げる」というコンピテンシー評価は、構築までに手間がかかります。また、その後も不断の見直しが必要となるなどの運用上の難しさは否めません。

しかし、効率的な人材育成や評価への納得度向上など数々の長所も持ち合わせています。コンピテンシー評価の導入を検討しているなら、新しい評価体系構築にチャレンジしてはいかがでしょうか。