デジタル技術の急速な進展など、企業を取り巻くビジネス環境が大きく変化しているなかで、人事評価制度にも新しい流れが起きています。本記事で取り上げる「バリュー評価」もその一つです。バリュー評価では、年功序列や成果主義といったこれまでの評価制度とは異なり、企業の価値観や行動規範(バリュー)をベースにして人事評価を行います。
バリュー評価で重要視されるのは、企業の価値観や行動規範をどれだけ実践することができたかです。売上高を大きく増やしたとしても、それが企業の価値観に沿った行動によってなされたものでなければ、高く評価されないということになります。
結果や成果を重視する従来型の評価方法とは異なり、結果だけでなく普段の行動や成果を出すに至った過程も評価の対象となります。そのために企業は、従業員に求める行動指針を明確に示しておかなくてはなりません。
バリュー評価と似た評価制度として、実在する高業績社員の行動特性を基に評価基準を組み立てていく「コンピテンシー評価」があります。バリュー評価がコンピテンシー評価と異なるのは、組織としての企業の価値観や行動規範という抽象的な要素を、評価基準としている点です。
成果だけを評価基準としないのはバリュー評価、コンピテンシー評価に共通していますが、評価基準の構築方法が違っています。
近年、バリュー評価が注目を集めている背景には、社会情勢の大きく、急激な変化に企業が直面していることが挙げられます。インターネットの浸透やSNSの普及により、市場環境や消費者ニーズの流動性は高まる一方です。
不確実性の高まる時代において企業が永続的な成長を確保するには、企業の価値観を理解して、市場の変化に合わせて自発的に行動できる従業員が必要である……として、バリュー評価を導入する企業が増えてきていることが考えられます。
「情意評価」とは、評価対象者の勤務態度や意欲、協調性など数値で表しにくい項目の評価を意味します。企業のバリューを意識して行動することは、数値では明確になりにくいため、バリュー評価は情意評価の一環として採用されることが多くなっています。
バリュー評価は業績に対する評価や、目標達成度の評価とともに、人事評価の一部として組み込まれるのが一般的です。
評価者を上司1人のみとするのではなく、場合によっては同僚や部下まで含めた複数人で評価するのが「多面評価」です。360度評価とも呼ばれます。バリュー評価には誰の目にも明らかな尺度は存在しないため、公平公正な評価を行うには多面評価が必要です。
多面評価が行われることにより、従業員個々の具体的な行動が評価され、成長に向けた課題もフィードバックされます。評価を受けた従業員が、自分の行動を客観的に振り返る機会が得られるのも、バリュー評価の特徴です。
バリュー評価の評価基準となる企業の価値観や行動規範は、達成度のような基準を設けることが難しく、絶対評価に向いていません。そのため、グループ内や同じ職位の中で、他の従業員と比較してどれだけ行動規範などに沿った行動や考え方が実践できたかを見る、「相対評価」が用いられます。
バリュー評価は定性的なものですが、従業員に対して説得性を持たせるためには、企業独自に実践度合いを点数化するなどの施策も一案です。
バリュー評価のメリットとしては、「価値観のミスマッチを防げる」「組織力を強化できる」「従業員の定着度が上がる」の3点が挙げられます。バリュー評価の基準となる企業の価値観などは、抽象的であいまいなものですが、従業員の行動規範として明確化されることによって、企業と従業員の方向性が一致し、価値観のミスマッチが防げる効果が見込めます。
企業と従業員が同じバリューを意識して、一枚岩の行動を取ることで、組織力は格段にアップします。経営者の発信が従業員にそのまま伝達され、従業員が自発的に必要とされる行動に移れるようになれば、生産性が向上し、組織力はさらに強化されるでしょう。
従業員が企業の価値観とのミスマッチを感じることなく、組織力が強化された職場で仕事に打ち込むことで、従業員の帰属意識も高まると考えられます。高い帰属意識は職場に愛着を持っているということであり、離職率の低下が期待できるのです。
バリュー評価にはさまざまなメリットがありますが、注意しなくてはならない点もいくつか存在します。例を挙げると、「導入のハードルが高い」「納得度が低くなる可能性がある」などです。
バリュー評価を導入するには、評価基準となる行動規範を策定しなくてはなりません。行動規範が随時変更されるようなものだと、従業員の不信感を招くことになるため、慎重に考案する必要があり、どうしても時間がかかります。
また行動規範は、全従業員が理解できるものであることが求められます。理解可能なだけでなく、全社に浸透していなければ評価基準となり得ないため、研修などの場を設けてしっかり周知しなくてはなりません。バリュー評価の導入には、時間的にも費用的にもコストがかかります。
これまでも述べてきたとおり、バリュー評価は数値で明確に表すことができるような基準を持たない点が特徴です。どうしても評価者の主観が入るため、評価に納得感が得られない従業員が現れる懸念は残ります。
前述のデメリットで示したように、バリュー評価には評価者の主観が入ってしまうため、従業員の納得度が上がらない可能性があります。そのため、多面評価を用いるなどして、できるだけ客観的に評価する方策を講じましょう。評価の客観性を保つためには、「なるべく多くの人に評価させる」「評価基準をできるだけ明確にする」などの対応が考えられます。
バリュー評価は、企業の価値観や行動規範をどれだけ実践できているかが評価の基準となります。そのため、評価者のコメントにはどの点がどのくらい実践できていたか、どの点が実践できていなかったかを明記する必要があります。
従業員は良かった点や足りなかった点のフィードバックを得られることになり、成長につなげることができます。
バリュー評価は明確な数値化が難しいという特徴を持っていますが、評価される従業員の納得感を得るには、具体的な点数で評価を示すことが求められます。バリューに沿った行動の実践度合いを、5段階評価に落とし込むなどのやり方が一策です。
点数化によって、従業員が現状の立ち位置を把握しやすくなり、目標達成率やモチベーションの向上にも役立ちます。
バリュー評価をする際のコメントで重要なのが、従業員に対して、次の目標に向けての改善点を明記することです。改善点がわかれば、従業員は次に目指すレベルがわかります。逆に、従業員が次の目標をどこに置けばよいかわからなかったり、次の目標に向けての行動が不明だったりすると、モチベーションの低下につながりかねません。
フリマアプリで大きく成長した株式会社メルカリは、以下の3点をバリュー評価の対象となる行動規範に定めています。
個人として高い業績を上げたとしても、それが行動規範に沿ったものでなければ、高い評価は得ることができない仕組みです。
メルカリでは、バリュー評価の採用によって企業のミッションと行動規範が全社に浸透し、従業員が個々に主体的な行動をできるようになったとしています。
ネット経由で各種印刷を請け負うラクスル株式会社は、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンのもと、以下の3点を行動指針として規定しています。
「System(技術・仕組)」は、仕組化と技術による問題解決や、無駄の削減で生産性を向上することなどを意味します。「Reality(高解像度)」は、状況を実際に自分の目で見て判断し、そのうえで課題を正しく設定して優先順位付けすることです。
「Co-Operation(互助連携)」は他部署や他職種のメンバーと連携した、施策の立案と実行などが内容に含まれます。