リバースメンタリングは、ゼネラル・エレクトリックの元CEOであるジャック・ウェルチが取り入れたのが最初だといわれています。
具体的には、若手社員の指導によってベテラン社員がインターネットスキルを習得させるというものでした。実際にジャック・ウェルチ自身も若手社員から指導を受け、ネットサーフィンスキルを獲得しました。
「メンタリング」とは、メンターである上司や先輩社員が、若手社員に助言や指導を行う人材育成方法で、多くの企業で導入されています。メンタリングにおいて指導するのはメンターで、指導を受けるのはメンティーです。
リバースメンタリングは、通常のメンタリングとはメンターとメンティーの立場が入れ替わった取り組みであり、以下のように実施目的も異なります。
リバースメンタリングの目的 |
若手社員が詳しい分野の知識を共有するほか、組織的なイノベーションの推進を図る |
メンタリングの目的 |
上司や先輩社員などが培ってきた経験や知識を、若手社員と共有する |
このようにリバースメンタリングは単に若手社員の知識を共有するだけでなく、組織的な革新を期待したり、若手社員のリーダーシップを育成する側面もあります。
リバースメンタリングを導入するメリットは、主に次の5点です。
メリットを一つずつ確認していきます。
リバースメンタリングの導入により、社員同士のコミュケーションの活発化が見込めます。リバースメンタリングによって、上下関係に縛られず、上司や先輩社員と若手社員が自由闊達に意見を交わす風土の醸成につながる可能性が高いです。
リバースメンタリングによって立場に関わらず意見を伝えやすい環境に変化すると、業務で問題が生じた時にも相談しやすくなります。その結果、スムーズな問題解決につながる支援を受けやすくなります。
管理者のマネジメントスキルの向上も、リバースメンタリングによって期待できる効果の一つです。
若手社員と先輩社員や上司間のコミュニケーションが活性化し、コンタクトを取る機会が増えることで、先輩社員や上司は若手社員の価値観や悩みを把握しやすくなります。それによって、管理者としてどのようにマネジメントすべきかの理解につながるといえます。
若手社員のエンゲージメントが高まることも、リバースメンタリングのメリットです。エンゲージメントとは、企業に対する社員の信頼や思い入れなどを意味する言葉です。
リバースメンタリングの運用によって、若手社員が自らの知識が役立っていると感じられると、仕事のやりがいや達成感を抱くことができます。その副次的効果として、離職率の低下や生産性向上なども挙げられます。
リバースメンタリングで若手社員から共有される知識により、先輩社員や上司の視野や知見が広がることも期待される効果です。上司が多様な価値観や考え方に触れることで、仕事に関する新しいアイディアが生まれたり、業務の効率化につながったりする可能性もあります。
順を追って説明していきます。
最初に行うのは人選です。リバースメンタリングを行うメンターとメンティーは、被評価者と評価者の立場ではないことが望ましいです。また、対話の内容が日常業務の相談に偏らないようにしたほうが、コミュニケーションの活性化に効果的です。
そのため、同じ部署内で上下関係にある上司と若手社員を選ぶことは避けたほうがよいでしょう。直接の利害関係がない別の部署の先輩社員がメンティーとなるなど、いわゆる「斜めの関係」での人選を推奨します。
人選が終わったら、セットアップ(目的・意図説明)に着手します。
リバースメンタリングを行う際、本来の目的を見失わないようにすることが重要です。目指すゴールは立場のリバース(逆転)ではなく、社員間のコミュニケーションが活発になったり、上司の視野や知見が広がったりすることです。
そのため、特にメンターに対して期待することを伝えましょう。また「職場の理解を得ること」や「いつでも相談に乗る」といった、人事がサポートすることを約束すると、若手社員は安心してメンターを務めることができます。
次に、リバースメンタリングのキックオフの場としてオリエンテーションを行います。オリエンテーションでは、メンターとメンティーがメンタリングのガイドラインを共有するほか、メンターにメンタリングやコーチングの基礎を習得させることがポイントです。
この機会にメンターとメンティーそれぞれがお互いのことを少し踏み込んで話す時間を設け、信頼関係の構築までに至ることが理想です。
メンターが安心してリバースメンタリングを行うには、職場の理解を得ることも欠かせません。職場に対してリバースメンタリングのための時間を確保することや、この取り組みの優先度の高いことを理解してもらい、同意を得ることが重要です。
職場の上司が部下のリバースメンタリングを気にかけ、定期的に声がけを行うといった環境にあると、メンターは自信を持ってリバースメンタリングに取り組むことができます。
人事は、メンターとメンティーの間で交わす守秘義務契約のサポートも行います。リバースメンタリングにおける守秘義務契約とは、リバースメンタリングの中で話した内容を人事以外の第三者に口外しないという約束を取り交わすものです。必ずしも書面への落とし込みをする必要はありません。
リバースメンタリングが開始したら、人事とメンターで中間と終了時のタイミングで振り返りを行い、テーマや内容の軌道修正の必要性や進め方の見直しを検討します。
定期的にフォローアップを行うことで、メンタリングが形骸化することを防ぎ、問題に対する迅速な対処につながります。
リバースメンタリングによって成果を出すために注意したい点について、それぞれ解説していきます。
リバースメンタリングを行う目的はいくつかあるため、自社において実施する際にはどういったことを目標とするのか、あらかじめ明確にしておきます。そしてリバースメンタリングを行う際の目標を、メンターとメンティーそれぞれにわかりやすく伝えることが重要です。
メンターは、若手社員が担うことがほとんどです。そのため、経験を積んだ社員に比べて「教え方」や「伝える力」が未熟である可能性があります。そういった点を事前にメンティー側にも伝えておくことをおすすめします。
またメンターには教え方や伝え方の方法を身につけるコミュニケーション研修を行い、メンティーには助言やフィードバックを学びとして受け入れるよう、促すことも効果的です。双方へのセットアップによって、リバースメンタリングの効果がより高いものになります。
通常、メンターは通常業務に上乗せする形で、リバースメンタリングに参加します。メンターとしての働きが人事評価に反映されないと、単なる業務負荷になってしまう可能性があります。
ただしリバースメンタリングを実施する際には、明確な目標設定やメンターの保護、評価制度の整備を行うことが重要です。自社の企業戦略の一環として、リバースメンタリングの取り組みを導入してみてはいかがでしょうか。