アサーションは互いにストレスを感じずに自己主張を行うという点で、コミュニケーションスキルの一つといえます。相手の意見を聞きすぎる、もしくは自分の意見を主張しすぎると、お互いの考えを反映できずに誤った意思決定をしてしまう場合もあります。
アサーションは一方の意見に偏ることなく、お互いの考えを十分に伝えあえる望ましい関係を構築するスキルです。
アサーションは1950年代に行動療法の一つとして生まれた考え方です。当時は自分の考えを主張できない方の悩みを解決するためのカウンセリング技法として認知されていました。しかし、1960〜1970年代にアメリカで起こった公民権運動により、アサーションの考え方は広まっていきます。
他者を尊重しつつ自分の意見もしっかりと伝えるというアサーションの考え方は、当時の黒人差別や女性差別への反対運動の際に注目され、広く知られることとなりました。
日本では、平木典子氏がカウンセリングの技法として実践したことが始まりであり、その後は民間企業でもコミュニケーションスキルの一つとして認知されています。
また、部下のタイプを知ることで、マネジメントにおいても関係性構築や育成に役立ちます。
「アグレッシブ」は攻撃タイプともいわれており、自分の主張を声高に押し通すタイプです。相手の気持ちを汲み取らずに一方的に主張を行うため、相手から疎ましく思われてしまい正しいことも聞き入れてもらえない可能性があります。
また、勝ち負けにこだわり優位に立とうとする傾向があることも、アグレッシブタイプの特徴です。
「ノン・アサーティブ」は自己主張が弱く、相手が強く意見をすると受け入れてしまう傾向があるタイプです。また、真面目な性格であることも多いため、頼まれた仕事を断れない場合や、仕事を一人で抱えてしまい周囲に頼れない場合も少なくありません。
意見を求められても曖昧な返答で自分の意見を強く伝えない点も、ノン・アサーティブの特徴です。
「アサーティブ」は相手の意見を受け入れつつ自分の意見も主張し、場の空気を重んじて発言できるタイプです。アグレッシブとノン・アサーティブの良い点を上手く合わせたタイプといえます。アサーティブは相手や場に合わせて適切な言葉を選べるため、自己主張を行っても対人関係や職場の人間関係を悪化させません。
アサーションを身につけて実践できれば、アサーティブタイプの自己主張を行えるようになります。
周囲と協力して仕事を進める場合、コミュニケーションミスによる認識の齟齬は、仕事の成果に悪影響を与えるリスクとなります。自分の意見をしっかりと伝えられていない、もしくは相手の考えを汲み取れていないといったことがあると、ミスや失敗に繋がりかねません。
アサーションを身につけることで、周囲のメンバーとのコミュニケーションミスを防ぎ、仕事上のリスク回避につながります。
アサーションのスキルを身につければ、話し合いの際に深い議論ができることで良い意見が出やすくなり、パフォーマンスの向上につながります。
さらに、アサーションのスキルを身につけることで、自分の意見も聞き入れてもらいやすくなるというメリットもあります。相手を傷つけずに自分の意見も伝えることができれば、より議論が活発になり参加者全員が納得できる結論を出せる可能性を高めることが可能です。
結果として、仲間同士の関係性も深まり、仕事の成果にも繋がるという好循環を生み出します。
アサーションを活用すれば、受け入れられない要求や無理な仕事の依頼などがあった場合でも、関係性を崩さずに断ることが可能です。アサーションは自分の意見を通すことが目的ではなく、あくまでも相手を尊重して自己主張を行うスキルであるため、依頼を断る場面でも不快感を与えずにNOと言うことができます。
具体的なポイントは後述しますが、相手に歩み寄る姿勢や相手を尊重する心構えなどを身につけることで、関係性を保ったまま自己主張ができます。
習得するための手法を知識として体系立てて覚えることで、アサーションが身につくスピードを早めることが可能です。
アサーションで最初に必要なことは、相手を尊重する気持ちと、自分の主張を伝える勇気です。相手を尊重する気持ちとは、相手を一人の人間として尊重し、自分自身も卑屈にならず対等な立場で接することを指します。
誠実な姿勢を持って自分の主張を誤魔化すことなく伝えることで、より相手を尊重する気持ちが伝わります。また、会話によって生まれた結果を他人のせいにしない自己責任の気持ちを強く持つことで、自己主張ができる勇気を持てるでしょう。
伝えたいことを整理することで、自分の意見が相手に伝わりやすくなり、コミュニケーションを円滑に進めることができます。伝えたいことを整理するには、以下の3つのステップで進めましょう。
上記の観点をまとめることで、自分の意見を簡潔かつ客観的に相手に伝えることができます。
アサーションスキルを活用する手法として、以下の4つの頭文字をとった「DESC法」と呼ばれるものがあります。
上記の4つのポイントを踏まえて自分の主張を伝えることで、相手も尊重しつつより良い結果を得られる可能性が高まります。
自分を主語にして相手に気持ちや意見を伝えることを「Iメッセージ」と呼びます。相手に対しての反対意見が、「あなたの言っていることはおかしい」というメッセージと解釈されてしまうと、相手の納得を得ることにつながりません。
また、一般論や第三者の意見を用いても、対話が進まない場合もあります。Iメッセージを効果的に活用して、「私はこう思う」と主語を自分にすることで、相手を批判していると受け止められることもなく、自身の意見として主張することで、1対1の深い対話を進めることが可能です。
打ち合わせや面談の前に、その場のゴールを明確にしたうえで話し合いを始めましょう。事前に会話のゴールを設定しておけば、話すことが明確になるためコミュニケーションの質が上がります。また、最初のタイミングで相手と会話のゴールを共有することで、より的を射た会話が実現します。
会話のゴールは目的によりさまざまです。会議の際は問題に対しての解決策がゴールですが、関係性の構築をしたいという目的であればお互いに自己開示をして理解深めることがゴールです。
日々の業務でのコミュニケーションにおいてアサーションを意識することは、スキル習得に直結します。関わるメンバーそれぞれの自己主張タイプを考えながら、適切な対応を心がけることがアサーション・トレーニングとなります。
また、会議や打ち合わせの際には、アサーションを実践するポイントである「会話のゴールの設定」や「Iメッセージを活用した主張」といった点も意識することで、効率的にアサーションスキルを身につけることができます。
アサーション研修に参加をして、ロールプレイングなどを行うことでアサーションスキルを身につけることも有効です。アサーションは組織開発やマネジメントの観点で注目されているため、コンサルティング企業などの研修メニューに取り入れられている場合も多くあります。
会話中の自分の態度や言葉遣いを客観視することは難しいため、プロの視点からのフィードバックが得られると、スキルアップのスピードも早くなるでしょう。
アサーションは個人や組織での成果を最大化するために役立つコミュニケーションスキルです。アサーションを活用できれば、周囲の方との関係性を深めることもでき、コミュニケーションにおいて自身のストレスも減らすことができます。
アサーションはスキルとして体系化されているため、日々の業務内での意識改善や、トレーニングを通じて身につけることが可能です。また、ビジネスだけでなくプライベートにおいても有効であるため、アサーションはさまざまなシーンで役立つ汎用的なスキルといえるでしょう。