在籍証明書と似たものに退職証明書がありますが、両者は使用する場面が異なります。
ここでは、在籍証明書と退職証明書との違いをみていきましょう。
在籍証明書と退職証明書は似ていますが、両者は法律的な性質や使用目的が異なります。
退職証明書は、退職した事実と在籍していたときの内容を証明する書類です。転職先で提出を求められたときや国民健康保険・国民年金の加入手続きの際、雇用保険の失業給付を手続きするときなどに必要になります。一方の在籍証明書は、子どもの保育園入園や賃貸物件への入居など、さまざまなシーンで必要になる書類です。
退職証明書は労働基準法22条に定められており、会社は従業員から請求があった場合、遅滞なく発行しなければなりません。これに対し、在籍証明書は会社に発行義務がなく、あくまでも任意に作成するものです。
保育園・保育所の入園手続きでは、在籍証明書が必要書類の一つです。自治体によって「就労証明書」など名称が異なる場合もありますが、記載する内容はほぼ共通しています。保育園・保育所の入園手続きで在籍証明書を求められるのは、保護者が働いていることが入園の要件であるためです。保育の必要性を判断するために保護者の就労状況を知る必要があり、在籍証明書で保育の必要性が高いと判断できれば入園が許可されます。
在籍証明書は入園後も毎年提出を求められるのが一般的であり、フォーマットは自治体で指定されるケースがほとんどです。毎年、一定の時期に依頼が集中することになるため、早めに申請するように周知しておくとよいでしょう。
賃貸物件への入居時や住宅ローンを組むときなども、在籍証明書が必要になる場合があります。安定した収入があるかどうかを確認するためです。賃貸契約では在職状況や、毎月の家賃を払えるかどうかを確認します。また住宅ローンでは、勤続年数や年収などから返済能力があるかどうかを確認するために在籍証明書が必要です。
ただし、収入は源泉徴収票などほかの書類でも確認できるため、必ず在籍証明書が必要になるというわけではありません。
外国人労働者が日本で働くためには、日本で居住するための在留資格やビザの申請が必要になります。その際に必要になるのが在籍証明書です。また、更新の際にも在籍証明書が求められます。
提出する在籍証明書に指定の書式はありませんが、職務内容など必要とされる項目があります。必要事項については事前に管轄の地方入国管理局などへ確認してもらうようにしましょう。
転職活動では履歴書と職務経歴書を提出しますが、転職先企業によっては在籍証明書の提出を求めてくる場合があります。必要とする理由はさまざまですが、主に提出された履歴書・職務経歴書の内容が正確であるかを確認したり、過去の在籍年数をもとに基本給を算出したりといったことが主な理由です。
また、外資系企業の場合は海外での就労ビザを取得するためなど、実務上の理由で在籍証明書を必要となる場合もあります。
基本的に記載が必要な項目を網羅したテンプレートは、以下のとおりです。
在籍証明書
上記の者は、当社に勤務する社員であることを証明します。
年 月 日 所在地 会社名 代表者名 印 |
テンプレートを利用する際も、従業員には特別な記載事項があるかどうかを確認しましょう。提出先によっては用紙が指定されている場合もあるため、作成前に確認が必要です。
ここでは、在籍証明書の基本的な記載事項について解説します。
氏名は在籍証明書の必須項目です。表記に間違いがないよう、注意しなければなりません。同じ漢字でも旧字体など異なる場合があるため、事前の確認が必要です。
例えば普段は書きやすいように新字体の漢字を使っている社員でも、戸籍上の正しい表記が旧字体であれば、正式書類の在籍証明書は戸籍上の漢字を使用しなければなりません。
また、女性の場合は結婚して苗字が変わっていないかもチェックが必要です。
性別も重要な基本情報の一つです。間違いのないように記載しましょう。氏名だけでは性別がわからないケースもあり、担当者が自己判断することなく必ず確認が必要です。
近年ではセクシャルマイノリティであるLGBTへの理解を示す企業も増え、社員の見た目と戸籍上の性別が異なる場合もあります。しかし、あくまでも在籍証明書では戸籍上の性別を記載することが必要です。
生年月日も必ず記載しなければならない事項です。数字は間違えやすいため、元の人事情報をよく確認しながら転記しましょう。特に生年月日を重視する提出先もあり、正確な記載が求められます。
生年月日と一緒に年齢を記載する必要がある場合、基準日を提出日にするか、指定された日付にするかで年齢が変わってくる場合もあるため、事前に確認するようにしましょう。
住所も在籍証明書に必要な記載事項で、正確な記載が求められます。保育園への入所手続きは居住地も判断事項のひとつになり、重要な項目です。転居などで住所が変わっていないかもよく確かめておかなければなりません。
また、住所は郵便番号や都道府県名、マンション名なども省略せず、自治体に届けているとおりの住所を漏れなく記載することが大切です。
採用した年月日は、西暦で記載します。雇用形態はさまざまであるため、採用した年月日の判断がわからないケースもあります。雇用契約ではなく委託契約を締結するケースもあり、正式な採用になる前に試用期間やアルバイト期間を経る場合もあるでしょう。
判断に迷う場合には、採用した年月日はいつを基準にするのか、提出先に確認してもらうとよいでしょう。解釈が違ってあとから作り直すということのないようにしてください。
在籍証明書は内容を証明するために会社印が必須であり、そのための会社の捺印・印鑑欄が欠かせません。ただし、コロナ禍の影響から、保育園への入所に必要な在籍証明書について、押印を不要または条件付き不要としている自治体も増えています。
押印は代表社印にするのが一般的です。しかし手続きが煩雑であり、作成依頼が多いときは負担が大きくなります。そのような場合は、人事担当役員の証明でも問題ないか従業員に確認してみるとよいでしょう。
ここでは、在籍証明書を作成する際に注意したい4つの点を説明します。
在籍証明書の記載事項は提出先によって記載内容が異なるため、事前に使用目的と記述項目を確認しておきましょう。作成してから「必要な記載がない」といった事態が起きないよう、提出先に詳細を確認してもらうようにしてください。
在籍証明書の依頼が集中する時期もあります。従業員ごとに個別に対応していると業務に支障も出てくるため、確認事項はあらかじめ全体に周知しておくことをおすすめします。
転職先が外資系企業の場合には、英文の在籍証明書が求められます。記載事項は日本語の場合と同じですが、英文に不慣れな場合は慌ててしまうでしょう。いつ依頼が来てもいいように、英文のフォーマットを用意しておくとよいでしょう。
事務が煩雑になる場合は、「英文の在籍証明書を請求する際は各自フォーマットを用意する」という決まりにしておくのも一つの方法です。
在籍証明書に記載する内容には、個人情報が多く含まれます。作成時には情報漏洩がないよう、取り扱いに十分な注意が必要です。
作成依頼を電話やメール、郵送などで受けた場合は、本人確認書類の写しを求めるなど、本当に従業員本人かどうかの確認が大切です。書類の受け渡しは手渡しを基本とし、郵送の場合は配達記録が残る方法で行いましょう。
在籍証明書の作成は通常の業務以外に行うことになり、担当者の負担を増やします。時期によっては依頼が重なることもあるでしょう。書式は使用目的ごとに異なり、1枚1枚に手間がかかります。そのため、作成には時間がかかること、緊急の依頼にはすぐに応えられないことなどを従業員にあらかじめ伝えておくようにしましょう。
「在籍証明書の申請は〇日前まで」などルールを設け、時間に余裕を持った申請を奨励しておくことをおすすめします。
依頼を受けたときは使用目的や記載事項を確認し、間違いのないよう作成しましょう。また、作成や管理にあたっては、個人情報の取り扱いにも十分注意してください。