人事ノウハウ一覧|スタンバイ

キャリアアップ助成金とは?【令和4年】計画書の書き方や支給要件確認申立書(正社員化コース)の注意点も

作成者: スタンバイ制作チーム|2022/08/10

1.キャリアアップ助成金とは?


「キャリアアップ助成金」とは、非正社員といわれる有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者などの、社内でのキャリアアップを後押しするための制度です。具体的には、正社員化や処遇の改善に向けて取り組んだ事業主に対して助成を行い、労働者の雇用の安定を図り、処遇の改善を推進するためのものです。

1-1.キャリアアップ助成金のコース

現在、キャリアアップ助成金には、以下のコースが存在します。

正社員化支援

正社員化コース

障害者正社員化コース

処遇改善支援

賃金規定等改定コース 

賃金規定等共通化コース 

賞与・退職金制度導入コース

選択的適用拡大導入時処遇改善コース 

短時間労働者労働時間延長コース 


キャリアアップ助成金は、正社員化を支援するコースと、賃金や労働時間などの処遇改善を目的としたコースに分かれることを、押さえておきましょう。

1-2.人材開発支援助成金との違い

キャリアアップ助成金と混同しやすいものに、「人材開発支援助成金」があります。キャリアアップ助成金の目的が有期雇用労働者のキャリアアップの促進であるのに対し、人材開発支援助成金は、労働者の職業生活の全期間を通じた職業能力開発促進のための制度です。

人材開発支援助成金は、基本的に長期労働かつ一週間の労働時間が20時間を超える場合は、有期雇用労働者であっても正社員であっても関係なく対象となります。しかしすでにお伝えしたとおり、キャリアアップ助成金は有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者などの非正社員が対象であることに注意しましょう。

参照元:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」

2.【キャリアアップ助成金】正社員化コースの概要


キャリアアップ助成金の正社員化コースは、就業規則や労働協約などに基づき、有期雇用労働者などを正社員に転換したり、派遣社員を正社員として直接雇用したりした際に助成金を受けられます。

ここからは、正社員化コースが設立された目的や、増額の対象である生産性要件の定義、申請条件や助成金額などを解説します。

2-1.目的

アルバイトやパートを含めた非正社員の多くは、不安定な雇用形態であるといえます。キャリアアップ助成金の正社員化コースは、企業に対し、安定的な正社員への転換を積極的に進めてほしいという政策的意図のもと導入されました。

2-1-1.「正社員」と「非正社員」の定義

令和4年10月以降の正社員への転換から、正社員と非正社員の定義が下記の通り変わることに注意しましょう。

 

現行

改正後(令和4年10月以降)

正社員の定義

事業所内の正社員に適用されている就業規則が適用されている労働者

事業所内の正社員に適用されている就業規則が適用されている労働者

※ただし、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されているものに限定する

非正社員の定義

6ヵ月以上雇用されている非正規雇用労働者

契約社員と正社員で賃金規定が異なっているなど、賃金額またはその計算方法が「正社員と異なる就業規則など」を6ヵ月以上適用されている非正規雇用労働者


令和4年10月以降の正社員への転換においては、正社員の定義に「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が適用されるという要件が追加されます。つまり、そもそも賞与も退職金も支給を行なっていない会社はキャリアアップ助成金の正社員化コースの対象外であるということです。

また、非正社員に関しても、賃金額またはその計算方法が、正社員とは別の雇用区分の就業規則などの適用を受けていることが要件となります。 

2-2.生産性要件を満たすと増額される

キャリアアップ助成金のみならず、いくつかの助成金には「生産性要件」があります。生産性とは労働者が生み出す付加価値のことで、労働力人口の減少が想定される中で経済成長をしていくには、それぞれの労働者の生産性を向上させることが必須となるでしょう。

そのため企業の生産性向上の取り組み支援を目的に、生産性を向上させた企業がキャリアップ助成金をはじめとした労働関係助成金の一部を利用する場合に、助成額または助成率が割り増しされます。

助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、3年度前に比べて6%以上増えている必要があります。

また、金融機関から一定の「事業性評価」を得ている場合、生産性の伸びが3年度前に比べて1%以上(6%未満)の企業も増額の対象です。事業性評価とは、都道府県労働局が与信取引のある金融機関に事業の見立てを照会し、その回答を参考に割増をするか否かの判断をするものです。

生産性要件は、次の方法で計算します。

生産性=付加価値÷決算月の雇用保険加入者数

生産性の計算に必要な、付加価値は次のように算出します。

付加価値=(営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産貸借料+租税公課)÷(決算月の雇用保険加入者数)

2-3.申請条件

キャリアアップ助成金の正社員化コースの対象となる従業員は、通算して6ヵ月以上雇用されている非正規雇用労働者、6ヵ月以上継続して同じ業務に就いている派遣労働者などです。該当する従業員が継続して働いている期間を、しっかり確認することが重要です。

上記の対象者を正社員に転換あるいは直接雇用する場合、過去3年間にその事業所で正社員として雇用されたことがある場合や、事業主や取締役の3親等以内の親族は除外されます。

また支給申請ができるのは事業主、就業規則などの規定のもと正社員に転換し、転換後6ヵ月以上継続雇用しその分の賃金を支給している必要があります。さらに、雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置し、キャリアアップ計画を作り認定を受けていることが条件となることを押さえましょう。

キャリアアップ助成金の正社員化コースは、非正規雇用労働者を正社員に転換後、あるいは直接雇用後の賃金をそれ以前6ヵ月間よりも3%以上増額させていることなども要件です。

申請の対象となる従業員や事業主、取り組みの詳細については厚生労働省の「キャリアアップ助成金パンフレット」をご参照ください。

2-4.助成金額

キャリアアップ助成金の正社員化コースにおける、助成金額は以下のとおりです。なお、①と②を合計して、1事業所につき1年度ごとに申請できる上限人数は20人までです。

※〈〉内は生産性要件に該当した場合の金額、()は大企業の金額で、記載のないときには企業規模に関わらず同額

①有期雇用労働者→正社員に転換した場合

1人あたり57万円〈72万円〉
(42万7,500円〈54万円〉)

②無期雇用労働者→正社員に転換した場合

1人当たり28万5,000円〈36万円〉
(21万3,750円〈27万円〉)


次のケースではさらに加算措置の対象となります。

派遣労働者を派遣先にて正社員として直接雇用する場合

1人当たり28万5,000円〈36万円〉

母子家庭の母などまたは父子家庭の父などが対象者にあたる場合

1)1人当たり9万5,000円〈12万円〉
2)4万7,500円〈6万円〉

人材開発支援助成金の特定の訓練を修了した後に正社員へ転換などした場合

1)1人当たり9万5,000円〈12万円〉
2)4万7,500円〈6万万円〉

「勤務地限定・職務限定・短時間正社員」制度を新設し、有期雇用労働者等を転換などした場合

事業所当たり9万5,000円〈12万円〉
(7万1,250円〈9万円〉) 【1事業所で1回のみ】


上記のうち人材開発支援助成金の特定訓練とは、「特定訓練コース」における労働生産性向上訓練の中の、IT技術の知識や技能を習得するための訓練などのことです。

2-5.申請の流れと必要書類

キャリアアップ助成金の正社員化コースの申請の流れは下記のとおりです。

・転換や直接雇用を実施する日までに「キャリアアップ計画」を作成、提出する

・就業規則や労働協約に転換制度を規定し、改定後の就業規則を労働基準監督署に届け出る

・就業規則や労働協約に基づき、正社員への転換や直接雇用を実施する

・転換後の6ヵ月分の賃金を支給し、支給日の翌日から起算して2ヵ月以内に支給申請する

・審査を経て支給決定される

キャリアアップ計画とは、有期雇用労働者などのキャリアアップを後押しするための、取り組みイメージを記載するものです。キャリアアップ計画の作成に際して、必要な知識などを有したキャリアアップ管理者の設置配置も求められます。

また、キャリアアップ助成金の正社員化コースの申請にあたっては、下記の申請書類が必要です。

・キャリアアップ助成金支給申請書

・正社員化コース内訳

・正社員化コース対象労働者詳細

・支給要件確認申立書

・支払方法・受取人住所届 

さらに、「管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書の写し」「転換前及び転換後の就業規則または労働協約等の写し」なども添付する必要があります。代理人が提出する際は「委任状」、生産性要件に該当する場合は「生産性要件算定シート」、「生産性の算定根拠となる証拠書類」なども用意しましょう。

 

 

2-6.正社員化コース申請にあたっての注意点

キャリアアップ助成金の正社員化コースの支給を受けるには、正社員に転換あるいは直接雇用した後に3%以上昇給させなければなりません。基本給の昇給が望ましいですが、要件を満たせば役職手当や職務手当などによる昇給でも該当します。

また、転換される有期雇用労働者は、雇用された期間が通算して3年以内の者に限られることにも注意しましょう。

さらに、提出書類が多いため、申請書類や添付書類の不備がないように申請前に隅々までチェックする必要があります。そのほか、正社員への転換規定を設けるにあたって、転換後の賃金やその他の労働条件にも、どのように影響するかしっかりと確認しておくことが重要です。

参照元:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」

参照元:厚生労働省「労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます」

 

 


 

3.キャリアアップ助成金のその他のコースの概要


キャリアアップ助成金には、前述した正社員化コース以外にも複数のコースがあります。ここでは、そのうち下記の2つのコースをご紹介しましょう。

・賃金規定等改定コース
・賃金規定等共通化コース

それぞれのコースのポイント、支給申請の流れ、申請時に必要な書類などを解説します。

3-1.賃金規定等改定コース

「賃金規定等改定コース」は、すべてまたは一部の有期雇用労働者の基本給の賃金規定などを2%以上増額改定し、昇給させた場合に助成されるものです。

助成金額は以下のとおりで、対象となる労働者の人数によって金額が異なることに注意しましょう。また、1年度につき1事業所100人が上限であり、申請回数は1年度あたり1回です。

※〈〉内は生産性要件に該当した場合の金額、()は大企業の金額で、記載のないときには企業規模に関わらず同額

対象となる労働者数

助成金額

1〜5人

1人につき3万2,000円〈4万円〉
(2万1,000円〈2万6,250円〉)

6〜100人

1人につき2万8,500円〈3万6,000円〉
(1万9,000円〈2万4,000円〉)


さらに中小企業において3%以上増額改定した場合、次のように助成額の加算が行われます。

対象となる労働者数

助成金額

3%以上5%未満

1人につき1万4,250円〈1万8,000円〉

5%以上

1人につき2万3,750円 〈3万円〉

キャリアアップ助成金の賃金等改定コースの支給申請は、以下のような流れで行います。

・キャリアアップ管理者を配置し、労働組合などの意見を聞いてキャリアアップ計画書を作成し、賃金規定などを増額改定する前日までに管轄労働局へ提出し認定を受ける
・賃金規定などの増額改定の実施
・増額改定後、6ヵ月分の賃金を支給し、支給日の翌日から起算して2ヵ月以内に支給申請する
・審査を経て支給決定される

また、申請時に必要な書類は次のとおりです。

・キャリアアップ助成金支給申請書
・正社員化コース内訳
・支給要件確認申立書
・支払方法・受取人住所届 

3-2.賃金規定等共通化コース

「賃金規定等共通化コース」は、有期雇用労働者などに関して正社員と共通する職務に関わる賃金規定などを新たに作成し、適用した場合に助成するコースです。

助成金額は下記をご参照ください。

※〈〉内は生産性要件に該当した場合の金額、()は大企業の金額で、記載のないときには企業規模に関わらず同額

1事業所当たり

57万円〈72万円〉(42万7,500円〈54万円〉)

キャリアアップ助成金の賃金等改定コースの支給申請は、以下のような流れで行います。

・賃金規定などを共通化する前日までにキャリアアップ計画を作成し、賃金規定等を増額改定する前日までに管轄労働局へ提出し認定を受ける
・賃金規定などの共通化の実施
・共通化した後、6ヵ月分の賃金を支給し、支給日の翌日から起算して2ヵ月以内に支給申請する

審査を経て支給決定される

申請時に必要な主な書類は賃金規定等改定コースと同じです。

参照元:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」

 

 

4.キャリアアップ助成金の注意点3つ


キャリアップ助成金の注意点は、下記の3つです。

・キャリアアップ計画書を忘れずに提出する

・審査は厳しくなっている

・不正受給をした場合延滞金や違約金が発生する

一つずつ、注意点を確認していきましょう。

4-1.キャリアップ計画書を忘れずに提出する

キャリアアップ助成金の支給申請に必要なキャリアアップ計画書の提出を忘れ、その後遅れて提出した場合、助成金を受け取れない可能性があります。キャリアアップ助成金の各コースを実施する前日までに、管轄労働局長に提出しましょう。

4-2.審査は厳しくなっている

キャリアアップ助成金は、審査が厳しくなっている傾向にあります。そのため審査結果が出るまで時間がかかったり、申請内容や提出書類によっては不支給になったりする場合もあることに注意が必要です。

4-3.不正受給をした場合延滞金や違約金が発生する

キャリアアップ助成金を不正受給し、それが発覚した場合、受け取った助成金を返還する必要があります。さらに、変換時には受給日の翌日から返還が終わるまでの期間に対して、年3%の延滞金が付加されるほか、違約金として返還額の20%の金額を請求されることを覚えておきましょう。

参照元:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」

5.キャリアアップ助成金の制度や申請方法を知ろう


キャリアアップ助成金は、企業の非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するための取り組みに対する助成制度のことです。生産性要件を満たすと増額されるため、要件の詳細を確認しておきましょう。

主なものは正社員化コースであり、有期あるいは無期雇用契約社員を正社員に転換させたり、派遣労働者を正社員として直接雇用したりした場合に助成対象となります。

キャリアアップ助成金の制度を理解し上手に活用することで、社内の非正規雇用労働者の待遇を改善し、従業員のモチベーションや生産性の向上につなげましょう。