「働き方改革推進支援助成金」は、働き方改革に取り組んだ企業を費用面で支援する制度です。対象となる取り組みは年度ごとに異なるため、確認が必要です。本記事では、2022年度の働き方改革推進支援助成金に該当するコースの概要や過去の事例についてご紹介していきます。
1.働き方改革推進支援助成金とは
労働者の事情に合った働き方を選べる労働環境の整備を目的に、働き方改革が施行されました。「働き方改革推進支援助成金」とは、働き方改革に取り組む企業をサポートする制度です。4つのコースがあり、取り組み内容によってコースが異なります。
ここでは、働き方改革推進支援助成金の概要と、働き方改革の背景や目的について解説します。
1-1.働き方改革に取り組んだ企業をサポートする制度
働き方改革推進支援助成金とは、働き方改革に取り組む企業を費用面でサポートする制度です。具体的には、労働時間削減や年次有給休暇の促進といった長時間労働の改善に取り組む中小企業に対し、取り組み時に発生した費用が支払われます。
働き方改革推進支援助成金には以下の4つのコースがあり、取り組み内容によって適用となるコースが異なります。
・労働時間短縮・年休促進支援コース
・勤務間インターバル導入コース
・労働時間適正管理推進コース
・団体推進コース
参照元:厚生労働省「労働時間等の設定の改善」
1-2.そもそも働き方改革とは
働き方改革とは、一億総活躍社会実現に向けた改革です。この背景には少子高齢化による人口減少が挙げられます。2005年を境に、死亡数が出生数を上回るようになりました。主要労働力となる15~64歳の人口が、総人口の減少を上回るペースで減少しています。
それにより、一人当たりに求められる生産性が高まるとともに、労働市場に参加していない層が働ける環境をつくることで、働き手を増やす必要がでてきました。「長時間労働」や「正社員と非正規社員の格差」も解決すべき課題です。
また、性別や考え方に対する多様性を受け入れる社会への変化にともない、働き方に対するニーズも多様化しています。働き方改革によって、多様な人材が能力を発揮できる労働環境を提供することで、生産性向上やワークライフバランス実現を目指しているのです。
参照元:内閣府「人口・経済・地域社会の将来像」
参照元:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 (平成29年推計) 」
2.労働時間短縮・年休促進支援コース
時間外労働の削減や年休取得の推進に向けた取り組みを支援するコースです。ここでは、「労働時間短縮・年休促進支援コース」の対象となる事業主や取り組み、支給額をご紹介します。
2-1.対象となる事業主
労働時間短縮・年休促進支援コースの対象となる事業主は、以下の条件すべてに該当する中小企業です。
・労働者災害補償保険に加入していること
・交付申請時点で、成果目標を設定できること
・交付申請時点で、対象となる事業場に対し、年5日の年次有給休暇の取得を促す規則を整備していること
中小企業とは「資本または出資額」「常時雇用している労働者」のいずれか条件を満たしている企業を指します。
小売業(飲食店を含む)
資本または出資額:5,000万円以下
常時雇用している労働者:50人以下
サービス業
資本または出資額:5,000万円以下
常時雇用している労働者:100人以下
卸売業
資本または出資額:1億円以下
常時雇用している労働者:100人以下
その他の業種
資本または出資額:3億円以下
常時雇用している労働者:300人以下
2-2.対象となる取り組みと目標設定
支給対象となる取り組みは以下のとおりです。この中から1つ以上実施することで対象になります。支給対象となる取り組みは、下記の成果目標の中から1つ以上を選び、選んだ目標に向けて取り組む必要があります。
支給対象となる取り組み
1.労務管理担当者に対する研修
2.労働者に対する研修、周知・啓発
3.外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
4.就業規則・労使協定等の作成・変更
5.人材確保に向けた取組
6.労務管理用ソフトウェアの導入・更新
7.労務管理用機器の導入・更新
8.デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
9.労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)
※研修には、業務研修も含みます。
※原則としてパソコン、タブレット、スマートフォンは対象となりません。
成果目標
1:全ての対象事業場において、令和4年度又は令和5年度内において有効な36協定について、時間外・休日労働時間数を縮減し、月60時間以下、又は月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うこと
2:全ての対象事業場において、年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入すること
3:全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入すること
4:全ての対象事業場において、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること
上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。
2-3.支給額と期間
支給額は、成果目標の達成状況に応じて取り組み実施にかかった経費の一部が支払われます。以下の金額のうち、低い方の金額が支給対象です。
(1)成果目標1から4の上限額および賃金加算額の合計額
(2)対象経費の合計額×補助率3/4(※)
(※)常時使用する労働者数が30名以下かつ、支給対象の取組で6から9を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は4/5
上限額は成果目標によって異なります。成果目標2達成時の上限額は50万円、成果目標3と4を達成したときの上限額は25万円です。成果目標1達成時の上限額のみ、36協定において取り組み実施前後の時間外労働時間の設定によって上限が以下のように異なります。
成果目標1達成時の上限額
取り組み実施前の時間外労働時間数が月80時間を超えている場合
・時間外労働時間数等を月60時間以下に設定している事業場:150万円
・時間外労働時間数等を月60時間を超え、月80時間以下に設定している事業場:50万円
取り組み実施前の時間外労働時間数が月60時間を超えている場合
・時間外労働時間数等を月60時間以下に設定している事業場:100万円
・時間外労働時間数等を月60時間を超え、月80時間以下に設定している事業場:なし
参照元:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」
取り組み期間は、交付決定の日から2023年1月31日(火)までとなっています。申請の受付は2022年11月30日(水)までです。ただし、国の予算によって支給対象者数が制限されるため、受付締切日より前に締め切られてしまう可能性があります。
3.勤務間インターバル導入コース
「勤務間インターバル制度」の導入への取り組みを支援するコースです。勤務間インターバル制度とは、退勤から次の出勤の間に一定時間以上の休憩時間を設けることで、過重労働の防止や労働者の健康保持を図ることを目的としてつくられた制度です。
ここでは、勤務間インターバル導入コースの対象となる事業主や取り組み、支給額をご紹介します。
3-1.対象となる事業主
対象となる事業主は、以下の条件すべてに該当する中小企業です。
(1)労働者災害補償保険の適用事業主であること
(2)次のアからウのいずれかに該当する事業場を有する事業主であること
ア 勤務間インターバルを導入していない事業場
イ 既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
ウ 既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場
(3)全ての対象事業場において、交付申請時点及び支給申請時点で、36協定が締結・届出されていること。
(4)全ての対象事業場において、原則として、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態があること。
(5)全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。
3-2.対象となる取り組みと目標設定
対象となる取り組みは労働時間短縮・年休促進支援コースと同様です。支給対象となる取り組みは、以下の成果目標を達成する必要があります。
事業主が事業実施計画で指定したすべての事業場において、休息時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」の勤務間インターバルを導入し、定着を図ること。
具体的には、事業主が事業実施計画において指定した各事業場において以下のいずれかに取り組んでください。
ア 新規導入
勤務間インターバルを導入していない事業場において、事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とする、休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルに関する規定を労働協約または就業規則に定めること
イ 適用範囲の拡大
既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下であるものについて、対象となる労働者の範囲を拡大し、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とすることを労働協約または就業規則に規定すること
ウ 時間延長
既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場において、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象として、当該休息時間数を2時間以上延長して休息時間数を9時間以上とすることを労働協約または就業規則に規定すること
上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。
3-3.支給額と期間
支給額は、労働時間短縮・年休促進支援コースと同様に、成果目標の達成状況に応じて、取り組み実施にかかった経費の一部が支払われます。原則として、経費の3/4が助成金となりますが、上限額は休息時間によって以下のように異なります。
休息時間が9時間以上11時間未満の場合
新規導入に該当する取り組みがある場合:80万円
新規導入に該当する取組がなく、適用範囲の拡大または時間延長に該当する取組がある場合:40万円
休息時間が11時間以上の場合
新規導入に該当する取り組みがある場合:100万円
新規導入に該当する取組がなく、適用範囲の拡大または時間延長に該当する取組がある場合:50万円
参照元:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」
ただし、労働者数が常時30名以下かつ、対象となる取り組みの6~9つの項目を実施する場合で所要額が30万円を超過する場合、4/5が助成金になります。
取り組み期間及び申請の受付は、労働時間短縮・年休促進支援コースと同様です。取り組み期間は交付決定の日から2023年1月31日(火)まで、申請の受付は2022年11月30日(水)までとなっています。
4.労働時間適正管理推進コース
生産性を向上させることで、労働時間の適正な管理に取り組む企業を支援するコースです。2020年4月1日より、賃金台帳をはじめとした労務管理書類の保存期間が5年に延長されています。ただし、当面の間は3年でもかまいません。
ここでは、「労働時間適正管理推進コース」の助成内容について紹介します。
4-1.対象となる事業主
対象となる事業主は、以下の条件すべてに該当する中小企業です。
(1)労働者災害補償保険の適用事業主であること。
(2)全ての対象事業場において、交付決定日より前の時点で、勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステムを用いた労働時間管理方法を採用していないこと。
(3)全ての対象事業場において、交付決定日より前の時点で、賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することが就業規則等に規定されていないこと。
(4)全ての対象事業場において、交付申請時点で、36協定が締結・届出されていること。
(5)全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること。
4-2.対象となる取組と目標設定
対象となる取り組みは「労働時間短縮・年休促進支援コース」や「勤務間インターバル導入コース」と同様です。支給対象となる取り組みは、以下の成果目標のすべてを達成する必要があります。
1:全ての対象事業場において、新たに勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステム(※)を用いた労働時間管理方法を採用すること。
※ネットワーク型タイムレコーダー等出退勤時刻を自動的にシステム上に反映させ、かつ、データ管理できるものとし、当該システムを用いて賃金計算や賃金台帳の作成・管理・保存が行えるものであること。
2:全ての対象事業場において、新たに賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することを就業規則等に規定すること。
3:全ての対象事業場において、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に係る研修を労働者及び労務管理担当者に対して実施すること。
上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。
4-3.支給額と期間
支給額は、労働時間短縮・年休促進支援コースや勤務間インターバル導入コースと同様に、成果目標の達成状況に応じて、取り組み実施にかかった経費の一部が支払われます。原則として、経費の3/4が助成金となりますが、上限額は100万円です。ただし、労働者数が常時30名以下かつ、対象となる取り組みの6~9を実施する場合で所要額が30万円を超過する場合、助成金は経費の4/5になります。
取り組み期間及び申請の受付は、労働時間短縮・年休促進支援コースや勤務間インターバル導入コースと同様です。取り組み期間は交付決定の日から2023年1月31日(火)まで、申請の受付は2022年11月30日(水)までとなっています。
参照元:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)」
5.団体推進コース
中小企業の団体や連合体を支援するコースです。中小企業の傘下に属している事業主が、雇用する労働者に対し時間外労働の削減や賃金引上げといった労働条件改善に向けた取り組みを支援します。ここでは、団体推進コースの助成内容についてご紹介します。
5-1.対象となる事業主
対象となるのは、3事業主以上で構成された、1年以上の活動実績がある事業主団体です。共同事業主の場合、10事業主以上で構成されている必要があります。以下のいずれかに該当することが条件です。
(1)事業主団体
ア
法律で規定する団体等(事業協同組合、事業協同小組合、信用協同組合、協同組合連合会、企業組合、協業組合、商工組合、商工組合連合会、都道府県中小企業団体中央会、全国中小企業団体中央会、商店街振興組合、商店街振興組合連合会、商工会議所、商工会、生活衛生同業組合、一般社団法人及び一般財団法人)
イ
上記以外の事業主団体(一定の要件あり)
(2)共同事業主
共同する全ての事業主の合意に基づく協定書を作成している等の要件を満たしていること
※事業主団体等が労働者災害補償保険の適用事業主であり、中小企業事業主の占める割合が、構成事業主全体の2分の1を超えている必要があります。
5-2.対象となる取組と目標設定
対象となる取り組みは、他のコースと同様です。支給対象となる取り組みは、以下の成果目標を達成する必要があります。
成果目標は、支給対象となる取組内容について、事業主団体等が事業実施計画で定める時間外労働の削減又は賃金引上げに向けた改善事業の取組を行い、構成事業主の2分の1以上に対してその取組又は取組結果を活用すること。
5-3.支給額と期間
支給額は以下の金額の中から、最も低い金額が支払われます。
1.対象経費の合計額
2.総事業費から収入額を控除した額(※1)
3.上限額500万円(※2)
(※1)例えば、試作品を試験的に販売し、収入が発生する場合などが該当します。
(※2)都道府県単位又は複数の都道府県単位で構成する事業主団体等(構成事業主が10以上)に該当する場合は、上限額1,000万円です。
参照元:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(団体推進コース)」
申請の受付は、他のコースと同様に2022年11月30日(水)までとなっています。取り組み期間は交付決定の日から2023年2月17日(金)までとなっています。
6.働き方改革推進支援助成金の活用事例
働き方改革推進支援助成金の活用方法には、設備投資やソフトウェアの導入といった、道具を導入する方法だけでなく、外部のコンサルティングを受けるといった方法もあります。ここでは働き方改革推進支援助成金の活用事例についてご紹介します。
6-1.設備を購入して生産性向上
新たな機械や設備を導入することで、生産性を向上させた事例があります。ある企業では、古い設備を使用していたため効率が悪く、生産性が上がらない状態でした。効率化を狙い、助成金を利用して新たな設備を導入したところ、実際に効率化され、生産性が向上しました。
助成金を使用した設備投資で成功した事例といえるでしょう。
6-2.ソフトウェアを導入して業務改善
助成金を利用することで業務のデジタル化を進め、業務の標準化に成功した事例です。この企業では、手書きの勤務表を使って記録しているため、始業時刻や終業時刻の書き間違いといったミスが頻繁に発生していました。業務改善として、助成金を利用して労務管理用機器やソフトウェアを購入。記録方法をICカードに変更したことで、勤怠時間が正確に記録されるようになりました。
6-3.専門家によるコンサルティング
助成金を利用することでコンサルティングによる業務改善体制を構築できた事例です。この企業では、業務改善をしたいものの、何から手を付けていいのかわからない状態でした。助成金を利用し、外部の専門家によるコンサルティングを受けることにより、業務内容を抜本的に見直すことができました。
7.働き方改革推進支援助成金を賢く活用して、働き方改革を推進しよう
働き方改革推進支援助成金とは、働き方改革に取り組む企業を資金面で支援する制度です。労働環境の整備を目的に施行された働き方改革をきっかけにつくられました。4つのコースがあり、取り組み内容によって適用となるコースが異なります。年度ごとにコースや条件が異なるため、確認が必要です。
働き方改革推進支援助成金の活用事例として、設備投資やソフトウェアの導入、外部コンサルといった方法が挙げられます。どの方法も、助成金を利用した業務改善により、生産性向上につなげた事例です。働き方改革推進支援助成金制度を賢く活用し、働き方改革を推進しましょう。