報酬制度は、評価結果や役職をもとに給与や賞与といった報酬を決める制度です。等級制度は、能力や役職をもとに社内における等級と役割を明確にする制度です。評価制度は、報酬制度や等級制度のもとになる制度といえるでしょう。
ここでは、従来の評価制度と近年でトレンドになっている評価制度について解説します。
これまで採用されることが多かった評価制度として以下のものが挙げられます。
「MBO(Management by Objectives)」とは、目標に対する成果を評価する制度です。会社が従業員に期待する成果や従業員自身の意向を考慮して目標を設定するため、自社の方針に沿った取り組みを促すことができる制度といえます。
「コンピテンシー評価」は、行動特性を評価する制度です。優秀な人材の行動特性と従業員の行動特性を比較し、優秀な人材の行動特性に近い行動特性を持っているかどうかを評価します。模範となる行動特性を意識させることで従業員の能力を向上させる制度といえるでしょう。
「年功評価」は、年齢や勤続年数をもとに給与や等級を決める制度です。以前までは主流となっていました。しかし、新卒一括採用と終身雇用が前提となるため、中途採用や転職が増加している昨今では、年功評価を廃止する会社が増えてきています。
「職務評価」は、職務や役割に対する成果や行動を評価する制度です。自社で定められた職務分掌に基づいて評価することで、自社の方針に沿った評価ができます。
「能力評価」は、年齢や勤続年数ではなく、従業員の能力を評価することで、給与や等級を決めます。中途採用や転職の増加といった人材の流動化により、年功評価が成り立たなくなってきたことから、採用する企業が増えてきました。年功評価と対極の評価制度といえるでしょう。
近年でトレンドになってきている評価制度には以下のものがあります。
「OKR」は、短いスパンで目標に対する成果を評価する制度で、Objectives and Key Resultsの頭文字をとったものです。会社の目標を定め、その目標を達成するための目標をチームや個人に設定します。会社の方針とチームや個人の目標を連動させることで、個人の成果が会社の成果につながる仕組みです。MBOと評価の仕組みが似ていますが、評価期間が異なります。MBOは半年や1年といった長いスパンで評価するのに対し、OKRは短いスパンで評価することで目標の進捗に対する軌道修正ができます。
「リアルタイムフィードバック」は、1ヵ月や2週間といった短いスパンで目標の進捗度や振り返りを実施する評価制度です。短スパンで実施することで、タイムリーな評価や軌道修正ができることがメリットです。その反面、評価者の負担が増えることがデメリットになります。近年では、ランク付けしない「ノーレイティング」という手法も出てきています。
「360度評価」は、上司からだけではなく、同僚やクライアントといった多様な角度から従業員の評価をする制度です。さまざまな視点から評価することで、新たな一面が発見できます。評価基準を明確にしなければ、馴れ合いのある評価になってしまう可能性があるため、注意が必要です。
「バリュー評価」は、行動力を評価する制度です。行動に対する評価をするため従業員の意識向上が狙えます。ただし、評価基準を明確にしなければ評価者の主観的な評価になるというリスクがあります。
「ピアボーナス」は、従業員同士で評価し、報酬を贈りあう制度です。アプリやチャットツールを利用して評価ポイントを貯め、一定期間ごとにポイントを商品や手当に換算します。コミュニケーションが活性化するだけでなく、お互いを称賛する文化ができるため、風土改善や離職率低下につながります。仕組みを構築するコストがかかることがデメリットといえるでしょう。
評価制度の目的として、生産性や業績の向上が挙げられます。生産性や業績を向上させるためには、企業の方向性や目標に沿って取り組むことが大切です。企業理念や方針に沿った評価ができる評価制度にすることで、従業員に対し企業が求める人物像や行動を示すことができます。
それにより、従業員がやるべきことが明確になり、結果的に生産性や業績の向上につながるでしょう。
評価制度は人材育成も目的としています。人材育成とは、企業の求める人物像に近づけることです。企業理念や方針に沿った評価ができる評価制度ができれば、従業員の方針や目標に対する理解度や達成度がわかるようになります。
従業員の理解度や達成度に合わせて、目標の軌道修正や対策を打てるため、従業員の成長につながります。評価基準ややるべきことが明確になることで自発的に行動でき、ひいてはエンゲージメントも向上するでしょう。
人材配置に活かすことも、評価制度の目的です。従業員の能力や特性に合わせて人材を配置することで、組織全体の生産性が向上します。明確な評価基準になっている評価制度を活用することで、従業員一人ひとりの能力や特性を把握できます。
適性に合わせた組み合わせを考えることができるため、適切な人材配置につながります。
処遇を決定する根拠として利用することも、評価制度の目的です。企業は従業員に対し、給与や賞与といった報酬を支払います。目標を達成するための組織づくりとして、役職や役割も決めています。
その報酬や役職といった処遇を決めるには根拠が必要です。根拠が明確でなければ、従業員からの納得は得られません。従業員が処遇に対して納得してもらうためにも、明確な評価基準が定められている評価制度が必要です。
ここでは、評価制度の変遷と、近年のトレンドの特徴について解説します。
評価制度のトレンドが生まれる背景として、役割主義型への変遷があります。1945年以降の日本では、年齢や勤続年数で従業員を評価する「年功評価」がトレンドでした。新卒採用と終身雇用が一般的だった時代において、優秀な人材を確保するためには、この精度が適していたからです。
しかし、1990年代のバブル崩壊により状況が変化します。転職する人材の増加とともに、終身雇用が当たり前ではなくなりました。人材のモチベーションを向上させるため、従業員の成果や目標達成度によって評価する「成果主義」を導入する企業が増えたのです。
ただし、成果主義の評価制度はモチベーション向上につながるメリットがある反面、チームワークの向上にはつながりにくいことや、定量的な成果が発生しない職種には活かせないといったデメリットがありました。
2018年から実施された「働き方改革」によって、働き方の多様性や同一労働同一賃金に向けた取り組みが推奨され、個人を尊重した制度の導入が求められています。それにより、年齢や成果だけでなく、行動やリアルタイムでの評価が評価制度の基準になってきました。
つまり社内情勢の変化に合わせて、評価制度に求められるものが、年功や成果型から役割主義型へと変わってきたのです。
参照元:厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)の概要」
近年の評価制度では、行動を評価基準にすることがトレンドになっています。前述したように、社会情勢の変化により働き方の多様性が求められ、定量的な成果が発生しない職種では、成果型の評価が適正な評価方法ではないケースがあることも明らかになってきました。
それにより、成果だけでなく行動も評価基準の一つとすることで、定量的な成果が発生しない職種でも適正な評価をすることができます。多様な働き方や職種に対し、公正に評価するための指標として、行動がフォーカスされています。
リアルタイムでの評価も、評価制度に求められている基準です。これまでの評価期間は、半年や1年、短くても四半期というのが一般的でした。しかし、現在のビジネスは変化が早く、半年後には状況が変わっているケースも珍しくありません。
期首に設定した目標を目指す必要がなくなるといったケースもあります。そのため、従来よりも短いスパンで目標達成度や状況を確認し、変化に対応することが求められています。
リアルタイムで目標達成度や状況を確認するには、状況を「見える化」することが必要です。見える化とは、情報が必要な人と情報を共有することです。目標達成度や状況を見える化することで、評価に対する時間が短縮できるだけでなく、評価に対する納得性の向上にもつながります。
ここでは、トレンドの評価制度を導入するメリットとデメリットについて解説します。
トレンドの評価制度を導入するメリットとして、公平性とコミュニケーション向上が挙げられます。近年の評価制度のトレンドには、多角的な視点で評価するものがあります。特に定量的な成果が発生しない職種の従業員にとっては、成果だけでなく行動に対して評価されることで、納得性が高まります。
また、トレンドでは短スパンでのフィードバックが主流になっています。短スパンでフィードバックをすることで、社内でのコミュニケーションが増加することは想像できるでしょう。コミュニケーションが活性化されることで、組織としての生産力向上や、エンゲージメント向上、ひいては企業の目標達成実現が期待できます。
トレンドを導入するデメリットとしては、従業員からの反発が挙げられます。これまでの年功評価で高評価を受けていた従業員にとっては、評価基準が変わることはいい話とはいえません。「なぜ新しい評価制度を取り入れるのか」「新しい制度を導入するとどうなるのか」を説明し、納得してもらうことが必要です。
そのためにも「流行しているから」といった理由だけでなく、どのような効果が見込めるかを検討したうえで、従業員に納得してもらえるような評価制度にすることが大切になります。
トレンドの評価制度を導入するときは、自社の風土や理念に合っているかを確認しましょう。目標達成度を重視したい場合と、エンゲージメントの向上を重視したい場合では、適した評価制度は異なります。
従業員が受け入れるかどうかもポイントです。導入後の状況をシミュレーションし、自社にとってメリットのほうが大きいかどうかを判断することが大切です。メリットとデメリットを把握したうえで、見極めましょう。
実際に運用できるのかを検討することもポイントです。評価制度を変更する場合、制度の内容を決定するだけでなく、報酬制度との連動や説明会の実施、評価者への教育といった準備も必要です。
準備が不十分のまま運用した場合、運用後に問題が発生し、従業員からの信頼を失う可能性も考えられます。導入後だけでなく、導入前の準備ができるかどうかも検討したうえで導入しましょう。
制度の本質を理解したうえで、トレンドの評価制度を導入することが必要です。導入する評価制度が「なぜ有効なのか」「どのような条件で導入したのか」といった本質を理解せずに導入した場合、成功する確率は下がります。
本質を捉え、自社に合わせてカスタマイズすることで、評価制度の効果が出る確率が上がります。手法をそのまま採用するのではなく、自社の状況に合わせた制度に変えていきましょう。
人事評価制度を導入ではじめに実施することは、目的と目標の設定です。新しい人事評価を導入する理由には、インセンティブや報酬基準の再設定、昇進基準の再設定などが考えられます。
「何のために導入するのか」「何をしたいのか」といった目的を設定することで、従業員は納得してくれます。また、目標設定も大切です。「どうなりたいのか」を定量的に示すことで、従業員は目標に向かって取り組めます。
動機付けのためにも、目的と目標を設定することは大切です。
目的と目標を決めたら、評価項目を決定します。役職や職種、等級によって、求められる能力は異なります。全員が同じ評価項目の場合、従業員の納得は得られません。従業員に意欲的に取り組んでもらうためにも、役職や職種、等級ごとに評価項目を設定しましょう。
設定した評価制度の内容は、文書化することも必要です。評価規程として文書化することで、評価の基準が明確になります。評価規程を活用することで、評価者によって評価がぶれることがなくなります。評価規程とともに、評価シートのテンプレを準備しましょう。
評価項目は一度作ったら完成するわけではありません。運用後も改善を続けることで、精度が上がっていくことを理解しましょう。
評価項目が決まれば、評価制度の目的や内容を従業員に周知します。社内報の配布や説明会を開催することで、導入に至った背景や目的、評価方法について説明しましょう。このときの達成目標は、従業員の疑問や不満を解消することです。
従業員からの理解が得られない場合、評価への不満からモチベーションが失われる可能性があります。従業員が理不尽に感じた場合、離職や裁判といった事態に発展する可能性も考えられます。そのような事態になった場合、生産性向上や人材育成どころの話ではなくなるでしょう。そのため、評価制度の目的や内容を一方的に説明するのではなく、対話型にすることで従業員の疑問や不満を解消し、納得したうえで取り組んでもらいましょう。
また、評価者に対し、研修を実施することも必要です。評価規程を作るだけでは、評価者は理解できません。研修で評価基準や評価方法を学ぶことで、はじめて評価規程を活用できます。評価される従業員だけでなく、評価する側にも周知が必要なことを覚えておきましょう。
評価制度にはトレンドがあります。その背景として、環境と評価自体に対する考え方の変化が挙げられるでしょう。年功評価が成立しなくなったことや、より公正な評価を求められるようになったことから、時代背景に適した評価制度が出てきました。
しかし、トレンドの評価制度を導入した場合、公正性やコミュニケーション向上といったメリットがある反面、従業員からの反発を受けるリスクもあります。安易に導入するのではなく、「運用前の準備ができるかどうか」「なぜその制度が自社に有効なのか」も確認することが肝要です。
評価制度を導入する場合、評価制度の内容を決めること以外にも、導入を決めた目的や目標を決め、評価制度の内容とともに従業員に周知します。評価制度の目的や導入時の注意点を理解し、自社に適した評価制度を導入しましょう。