ここでは、情意評価の目的や基準となる項目、他の評価指標である業績評価や能力評価との違いについて解説します。
情意評価の目的は、成果には現れない「人間力」を評価し、従業員エンゲージメントを向上させることです。たしかに利益を出すためには、成果を追及することは大切です。
しかし、成果が分かりやすい仕事ばかりではありません。意欲や態度、貢献度といった、定量化はしにくくても組織にとって好影響をもたらすものもあります。
成果には現れない要素を評価することで、優秀な人材を多角的に評価できます。成果主義では「成果さえ出しておけばいい」「周囲に悪影響を与える態度を取っても評価に影響しない」といった風土ができあがる可能性がありました。
こういったモチベーションや人間関係は、生産性の低下をもたらします。組織の雰囲気を活性化させ、従業員エンゲージメントを向上させるためにも、情意評価によって人間力を評価することは意味のある取り組みといえるのです。
情意評価の基準には、以下の4つが挙げられます。
情意評価を設定する場合、単純に上記の基準を項目にするのではなく、自社が求めている人物像を作り上げ、その人物像と比較できるような内容にしましょう。
ここでは、業績評価や能力評価との違いを説明します。業績評価とは、売上や成果といった業績を評価するものです。定量的な結果が出るため、客観的に評価できます。
能力評価とは、業務遂行能力を評価するものです。定量的に評価できるものばかりではないものの、業務が「できる・できない」といった判断ができます。
情意評価は定量的な結果が出るものではなく、意欲や態度といった内に秘めた要素を評価することです。業績評価や能力評価とは異なり、評価者の主観的な判断要素が多い評価といえます。
情意評価を導入するメリットは、従業員を多角的に評価できることです。成果や能力だけで人事評価をした場合、結果のみを追及する組織になる可能性があります。
総務や情報システムといった、成果が分かりにくい部署では評価を上げることが難しいため、不公平からくる人事評価への不満が発生する可能性があります。
情意評価を組み合わせることで、結果だけでなくプロセスや態度といった多角的な評価ができます。多角的に評価することで、人事評価に対する不満も軽減できるでしょう。
情意評価は人材育成にもつながります。情意評価は、意欲や態度といった従業員の人間力を評価するものです。会社が求める人物像に沿った項目を評価対象にすることで、従業員は目指すべき人物像を理解できます。
設定した評価項目を面談で活用すれば、従業員は会社が求める人物像をさらに意識できます。従業員も業務の中で評価が上がるような取り組みをするため、結果的に人材育成につながるのです。
組織の連携強化につながることも、情意評価のメリットです。情意評価の基準に、規律性や協調性があります。これらの要素は、組織力向上に欠かせない要素です。規律性と協調性が高いメンバーが集まれば、組織の雰囲気は良くなります。
雰囲気が良い組織は居心地も良くなるため、メンバーの帰属意識も高まります。帰属意識が高いメンバーがいることで、おのずと組織の連携も強化されるのです。
ここでは、情意評価のデメリットについて詳しく説明します。
情意評価を導入するデメリットとしては、評価が主観的になることが挙げられます。情意評価の項目は定量的な結果が出しにくいため、評価者と被評価者との関係性によって評価が異なる可能性もあります。
それでは被評価者が不公平感をおぼえ、評価制度そのものに不信感を持ってしまうかもしれません。対策としては、360度評価を行うことが挙げられます。上司だけでなく、部下や同僚といった複数の評価者を置くことで、客観的な評価ができます。
目標設定が難しいことも、情意評価のデメリットです。情意評価は定量的な結果が出せないため、具体的な数値目標を設定できません。そのため「何を持って達成できたのか」が曖昧になり、行動を起こせないケースもあります。
対策としては、評価基準を明確にすることが挙げられます。「何をしたらいいのか」「どうなっていたら目標達成といえるのか」を評価者と被評価者の間で確認し、お互いの認識を一致させることが大切です。
評価エラーが発生することも、情意評価のデメリットの一つです。情意評価は、定量的に評価できないため、以下の評価エラーが発生する可能性があります。
これは明確な評価基準がなく、評価者が自分の評価に自信がないことが原因です。対策としては、評価者に評価方法に対する教育をします。1~5の5段階評価をする場合、2と3や3と4の評価は何を基準に判断するのかを伝えることで、評価エラーの削減につながります。
情意評価を導入する際に最初に実施するのは、評価手法を検討することです。一般的な評価手法には、「コンピテンシー評価」と「バリュー評価」があります。
コンピテンシー評価は、社内の優秀な人材の行動特性を言語化し、その行動特性をもとに評価する手法です。どのような行動が成果に結びつくのかを分析したうえで、評価項目を決定します。
自社が評価する行動が基準となるため、従業員が目指すべき方向性が明確になるでしょう。ただし、あまりにも高い能力を持つ人材を基準とした場合は注意が必要です。
評価項目や評価基準も高すぎるものになるため、かえって従業員のモチベーションが下がってしまうリスクがあることを理解しましょう。
「バリュー評価」は、自社が理想としている人物像の価値観や行動基準を「バリュー」として設定し、評価する手法です。コンピテンシー評価と同様に、自社が求めている行動が分かりやすくなるため、従業員が目指す方向性が明確になります。
実在する社員、理想の人物像という違いはあるものの、どちらの手法も自社が求めている行動特性が分かりやすくなることが特徴です。
人事評価には情意評価のほかに、業績評価や能力評価があります。この3つの評価は、等級ごとに配分を考えることが必要です。たとえば、結果が求められる管理職であれば、業績評価の割合が高くなります。経験が浅い従業員であれば、結果を求めるのではなく、意欲や態度を重視したいため情意評価の割合が高くなる可能性があります。
部署や職種ごとの配分も必要です。定量的な成果が出やすい部署であれば、業績評価の割合が高くなっても問題ありません。定量的な成果が発生しない事務や総務などであれば、情意評価の割合を高くしましょう。
また、情意評価の中でも、重要度が高い項目の評価割合を高くすることも大切です。主任や係長のような中間管理職であれば、指導育成に関する項目の評価割合を高くする必要があります。経験が浅い従業員であれば仕事の基本ともいえる「報告・連絡・相談」の評価割合を高くします。
このように、等級や部署、職種ごとに評価配分を分けることで、公平性の高い評価制度となるのです。
情意評価の効果を上げるためには、適切な評価を書くことが大切です。具体的には、評価者の意見と客観的な事実を分けて書きます。そうすることで、被評価者は事実と意見の違いを理解でき、自分の改善点を認識することができます。
具体例を挙げることもポイントです。情意評価の項目は定量的に表現できないため、被評価者にとっては、具体的な行動をイメージできない可能性があります。求めていることや改善方法の具体例を挙げることで、被評価者は自分がやるべきことが明確になります。
情意評価をすることで、行動レベルまで落とし込むことも必要です。情意評価は意欲や考え方といった、人間の内面を評価するものです。人間の内面は、他人が簡単に分かるものではありません。そのため、意欲や考え方が判断できるような行動を評価することで、内面を評価するのです。
情意評価に取り入れたい項目をおさえることもポイントです。以下の項目を取り入れることで、情意評価の質が向上します。
仕事は一人ではできません。上司や部下、同僚、顧客といった周囲の人たちの協力があって成り立っています。そのことを理解し、感謝や思いやりの気持ちを持って仕事に取り組める人材は、成果を出すことができるでしょう。
仕事を進めるうえでは、責任感や積極性も欠かせません。与えられた業務に対し積極的に取り組み、やりきる意思を持つことで、目標達成だけでなく従業員自身の成長につながります。
また、地域貢献も必要な要素です。近年では、企業にも地域貢献活動が求められるようになっています。自社の利益だけでなく、地域にとっての利益を考える人材も必要とされています。
4段階評価を採用することも有効です。多くの企業では、5段階評価を採用しています。5段階評価はレベルが分かりやすい反面、1や5といった極端な評価を避けてしまう傾向がありました。その結果、評価に差がつかない中心化傾向が発生することになるのです。
そこで注目されているのが、4段階評価です。中心の値となる評価をなくすことで、中心化傾向を回避できるだけでなく、1や4といった評価もつけやすくなります。中心化傾向になってしまう場合は、4段階評価の導入を検討しましょう。
評価方法には絶対評価と相対評価があります。どちらの評価方法を採用するのかを決めましょう。絶対評価は、評価基準に対する達成度で評価します。評価基準が1つになるため、公平性の高い評価になります。
ただし、評価基準を満たせば何人でも高評価をつけることができるため、賞与やインセンティブなどの人件費が計算できないことがリスクといえます。
一方、相対評価は従業員との比較で評価を決めます。5段階評価であれば、あらかじめ1と5が10%、2と4が25%、3が30%のように評価ランクごとに割合を決めておきます。
決められた人件費の中で配分できることは、メリットといえます。その反面、何を目標に取り組めば評価が上がるのかが曖昧になることがデメリットです。予算や風土を考慮したうえで、自社に合った評価方法を選択しましょう。
一方デメリットとしては、評価が主観的になることと、目標を設定しにくいことです。この2つは情意評価の項目が定量的に評価できないことが原因で、評価基準の曖昧さにより、評価エラーが発生することもデメリットといえます。
情意評価を導入する際は、評価の方法を決めるだけでなく、評価の書き方や取り入れたい項目といったポイントをおさえておくことが大切です。予算や風土を考慮した上で、自社に合った評価方法を選択し、従業員エンゲージメント向上につなげましょう。