組織開発の目的は、所属する人材の組織への信頼感や貢献意欲を高めるなど、組織との関係性を強化することです。その結果、組織としてのパフォーマンスの向上や、人材の確保・定着化が促進されるといったさまざまなメリットが見込めます。
組織開発と人材開発は混同されがちですが、両者の違いは「働きかける対象の違い」にあります。人材開発が対象とするのは「人材そのもの」であり、個々の人材の能力を高めることで組織の成長を図ろうとするものです。
これに対し、組織開発の対象は「人材の関係性」や「相互作用」です。上司と部下の関係性を改善することで、組織の成長を図ろうといった取り組みが例として挙げられます。
両者は対象が違うためアプローチの手法も異なります。人材開発は、研修やOJTにより個人のスキル向上を目指すものです。一方、組織開発では、上司と部下の関係性を深めるワークショップを開催するなど、組織によい変化をもたらす機会を設けるといったアプローチが中心になります。
人材の流動化やダイバーシティの取り組みにより、多様な人材の活用が求められます。こうした変化への組織的な対応が必要となり、多くの企業で組織開発の取り組みが進んでいるようです。
また、コミュニケーションの手法に変化が起きたことも、背景として考えられます。従来の対面のコミュニケーションが減少し、チャットやWeb会議といった新たな手法を導入する企業も増えてきました。こうしたコミュニケーションの変化に対応するために、人材の関係性の見直しや強化が必要になっていると考えられます。
組織開発に取り組むメリットは、社会の変化に柔軟に対応できる組織力を高められる点にあります。働き方の多様化やテクノロジーの進歩により、「働く人」を取り巻く環境は大きく変化しています。また、ダイバーシティの観点からも、多様性のある人材の活用が求められるようになりました。
こうした変化に対応するには、人と人の関係性が重要視されます。組織開発により、人材のコミュニケーションによい変化をもたらすことが、現代における組織強化に欠かせない要素となっているのです。
一方でデメリットは、組織内に馴れ合いが生じやすい点にあります。組織開発の取り組みで人材の関係性が良好になり、コミュニケーションが活性化するのはよいことです。しかし、一定の緊張感を伴わなければ、単なる仲良しグループのような組織になってしまいます。
組織開発の目的は、従業員どうしの関係性を良好に保ち、組織としてのパフォーマンスを向上させることです。その目的を見失って関係性の改善ばかりに注力した場合、こうした状態に陥るリスクがあるため注意しなくてはなりません。
しかし、定石とされるプロセスは存在します。以下の6ステップです。
詳しく解説します。
まず、組織として目指すべき姿を明確にすることからはじめます。企業理念やミッション・ビジョン・バリューに立ち返り、組織としての目的を明確化するプロセスです。
組織開発は、企業の現状を改善する手段です。そのため、組織がどのような状態になりたいのか、ゴールを明確に言語化し、関係者で共有しなくてはなりません。
組織としての改善点は、「従業員が疲弊している」「部門間の連携が少ない」といった、印象として語られることが多いものです。しかし現状の把握は、こうした印象によるものではなく客観的な事実に基づき行わなくてはなりません。
そのため、従業員へのヒアリングやサーベイを実施して、情報を収集する必要があります。事実やデータにより導きだされた課題に対して改善策を検討することで、組織開発はより精度の高いものになります。
ヒアリングやサーベイの結果に基づき、課題の仮説を立てるプロセスです。組織の課題は、従業員間のコミュニケーション不足やモチベーションの低下など、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることが多いものです。そのため、多角的な視点による課題の絞り込みと、検証を実施しましょう。
課題が個人の資質や能力にある場合でも、組織における人材の関係性にアプローチし、改善を図ることが組織開発の特徴です。複数の従業員の協力が必要になるため、役員など裁量権を持った人物の合意を得ておくことで、スムーズに進められます。
仮説としての課題を設定したら、その課題に対するアクションプランを企画します。プランの企画は長期的視点を持ちつつも、短期的かつ小規模に実施することがポイントです。
たとえば、特定の部署を対象にミーティングやワークショップを開催するなど、小規模なトライアルからはじめるとよいでしょう。小規模に展開することで、効果の検証やフィードバックを効率的に行えるメリットが見込めます。
アクションプランを実施したら、結果について検証し関係部署にフィードバックを行います。アクションプランを小規模で実施することで、スピード感のある検証が可能になります。タイムリーなフィードバックは、関係者の組織開発に対する関心を高めることにつながるでしょう。
アクションに対してよい結果がでた場合、効果を発揮しなかった場合、双方において要因を分析することも必要です。データとして蓄積することで、今後の組織開発の展開に役立てることができます。
成功事例を全社レベルに展開するプロセスです。特定の部署で試験的に実施したアクションプランのなかから、効果を発揮した施策を複数の部署で実施していきます。
アクションプランを全社に展開するときは、小規模で実施した際に生じた問題を事前に検証しておきます。全社で大規模に展開する場合、組織全体に影響する深刻な問題につながることが想定されるためです。
全社展開後も、検証とフィードバックは継続して行います。施策の精度向上だけでなく、多くの従業員のエンゲージメント向上につながることが期待できます。
代表的なフレームワークとして挙げられるのは、以下の6つです。
それぞれ解説します。
「7S」とは、組織を構成する7つの経営資源の相互関係を示したフレームワークです。世界的に有名なコンサルティング・ファームである「マッキンゼー・アンド・カンパニー」が提唱したことで知られています。
同社は企業の経営資源を、3つのハード面と4つのソフト面に分類し、それぞれの頭文字である「S」で示しています。
ハードの3S
ソフトの4S
これら7つの経営資源について自社の現状を分析することで、組織の目指すべき姿とのギャップを洗いだすことができます。
コーチングとは、対象者に働きかけることで本人の気付きを促し、課題解決や目標達成をサポートする手法です。ティーチングのように正解を与え指導するのではなく、対話により対象者が自己の内面から解決策を導きだすように働きかけます。対象者はさまざまな問いかけに答えることで視点を増やし、考え方や行動の幅を広げていけるでしょう。
コーチングの実施は組織内のコミュニケーションを活性化させるため、チームビルディングや、部署間の協力体制の構築など、組織内の関係性の強化にも効果が期待できます。そのため、個人の能力開発だけでなく、組織開発の分野でも活用が進んでいます。
ワールドカフェとは、カフェでの雑談のようにリラックスした雰囲気を演出し、対話を促進する手法です。少人数のグループを編成し、対話により自由に意見を交換します。決められた時間でメンバーをシャッフルし、対話を続けることで参加者から多くの視点や知識・意見を集められることがメリットです。
ワールドカフェは、少人数かつ和やかな雰囲気の対話であるため、自分の意見を伝えやすく、相手の意見も尊重しやすくなる傾向があります。一般的な会議のように、堅苦しい雰囲気ではでてこない、組織に変革を起こすような柔軟なアイデアが生まれる可能性が期待できます。
OKR(Objectives and Key Results)は、目標管理の手法の一つで、企業全体と個人の目標をリンクさせることが特徴です。組織が求める成果が、個人の目標となるため、組織目標の達成に向けた個人の考えや方向性を統一できる点が大きなメリットです。
OKRでは目標の設定から進捗確認、評価までの一連の流れを短期間かつ高頻度で行います。頻繁に目標の共有を行うことで、目的意識や連帯感が生まれ、コミュニケーションも活性化するなど、さまざまなよい影響を組織にもたらすでしょう。
タックマンモデルとは、アメリカの心理学者、ブルース・W・タックマン氏が提唱した、チームビルディングのフレームワークです。タックマン氏は組織が形成され成熟していくプロセスと組織の状態を以下の5段階に分類しました。
タックマン氏は、混乱期を重要なものと捉え、混乱期を乗り越えることで組織力が強化されると説いています。チームのメンバーは衝突や混乱を経て相互理解を深め、組織としての成果を上げつつ、自身のスキルアップも図れるのです。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは、企業理念の構成要素を3つの言葉で示したものです。
これら3つの要素を定義するフレームワークを実践することで、企業の存在意義や価値観が明文化され、経営陣から従業員までの共通認識となります。企業の目指す姿(ビジョン)に対する認識が統一され、組織開発が進めやすくなるでしょう。帰属意識が高まったり、スムーズな意思決定が可能になったりと、組織にさまざまなよい影響を及ぼすことが期待できます。
人材の流動化やダイバーシティの取り組みが進むことにより、さまざまな価値観を持つ多様な人材をマネジメントする必要がでてきます。こうした変化に柔軟に対応する強い組織になるためには、組織開発により社内人材のコミュニケーションを活性化することが求められるのです。