会社によって従業員に提出を求める書類は異なるものの、一般的に入社手続きに必要となる書類は以下のとおりです。
それぞれ、どのような書類かを解説します。
「年金手帳」は「公的年金制度」に加入していることを証明するものであり、入社に伴う厚生年金の手続きで提出が必要です。会社が保管することが多く、退職時に本人に返却します。入社する従業員が年金手帳を紛失している場合は、社会保険事務所で再発行してもらうように伝えましょう。
2022年4月以降は年金手帳の新規交付は廃止され「基礎年金通知書」が発行されています。年金手帳が交付されていない従業員については、基礎年金通知書の提出を求める必要があります。
「雇用保険」に加入していることを証明する書類が、「雇用保険被保険者証」です。雇用者は基本的に労働者を雇用保険に加入させる義務があり、その手続きの際に必須である書類です。
年金手帳と同じように、前の職場を退職する際に受け取るものですが、従業員が紛失している場合は居住地を管轄しているハローワークで再発行してもらうように伝えます。
「源泉徴収票」には1年間に支払われた給与総額と納めた所得税額が記載されており、年度内の転職の場合は年末調整の手続きの際に必要です。
入社が年明けで前の会社の退職と入社が同じ年度内ではない場合、一般的に提出を求める必要はありません。
ここまでお伝えしてきた書類はいずれも従業員に提出を求めるものでしたが、「扶養控除等申告書」は会社が従業員に書類を渡し、必要事項の記入と捺印のうえ出してもらいます。
扶養控除等申告書も、税金や社会保険の手続きに必要です。扶養家族の有無にかかわらず、準備しなければなりません。
「健康保険被扶養者異動届」は、扶養義務のある家族がいる場合のみ必要です。社会保険の手続きをするために、扶養控除等申告書と同様に、会社から従業員に対して渡す書類に記入・捺印をして提出してもらいます。
会社から渡した給与振込先の届書に、給与振込を受ける金融機関の支店名や口座番号、口座名義人などの記入を依頼します。捺印スペースがある場合、銀行の届出印を押す必要はなく認印でかまいません。
従業員に対し、給与振込届出書ではなく、銀行通帳のコピーの提出を依頼することもあります。
「マイナンバー」は雇用保険や社会保険、年末調整などの手続きに必要です。従業員から収集する際は、必ずマイナンバー情報の使用目的を伝えましょう。
マイナンバーカードを取得している場合は、両面をコピーのうえ提出してもらいます。表面で本人確認、裏面で番号確認を行うためです。
マイナンバーカードを取得していない場合は、マイナンバーの通知カードのほかに本人確認が可能な運転免許証やパスポートの提出が必須です。顔写真のついた身分証がない場合は、健康保険証と年金手帳のコピーも出してもらいます。
参照元:厚生労働省「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概 要」
厚生労働省「健康保険の加入手続きには マイナンバーの記載が必要です」
1つずつ解説していきます。
「入社誓約書」は、内定通知に対して期日までに提出してもらう書類で、就業規則や秘密保持、守秘義務などに関する内容が記載されていることが一般的です。
会社によっては内定時に「入社承諾書」と兼ねて提出を求めるケースもあります。
「雇用契約書」は、従業員に対して賃金や労働時間などの労働条件を明示することを目的に発行します。会社側と従業員、双方の署名・捺印が必要であり、お互いが労働条件を受け入れていることをあらわす書類です。
発行が義務付けられている「労働条件通知書」とあわせて、「労働条件通知書兼雇用契約書」として作成することも少なくありません。
会社によっては、住民票記載事項証明書で従業員が履歴書と同じ住所に住んでいるかを確認します。「住民票記載事項証明書」は必要な情報のみを確認できるため、個人情報保護の観点から住民票による確認よりも適切です。
一般的に、会社から指定の用紙を渡し、市区町村の窓口で申請してもらいます。その他、郵送やコンビニ交付サービスでも取得することが可能です。
従業員が入社してから起こした問題について、身元保証人が連帯して賠償責任を負うことを約束する文書が、「身元保証書」です。従業員ではなく身元保証人が署名捺印を行い、身元保証書と一緒に印鑑証明の提出を求める場合もあります。
身元保証人になるために、一定の要件が設けられていることが一般的です。
健康診断は入社後に実施することも多いですが、入社前に必要な場合は医療機関を受診してもらいます。その場合、会社が費用負担を行うケースもみられます。
「従業員調書」は、人事管理のための基本資料で、家族の情報などを記載した書類です。最近では履歴書で代用するケースも珍しくありません。
学生のときの成績を証明する「成績証明書」は、中途採用では提出の必要がないことがほとんどであり、新卒採用時に提出を求めることが多い書類です。
学校名や学部、学科名が記載されているため履歴書との整合性を確認できるほか、履修内容をもとに配属先を決める場合もあります。
「卒業証明書」も中途採用の場合は必要なく、新卒や第2新卒の採用の際に提出を求めることが多い書類です。従業員が申告する学歴が正しいかどうかを、確認します。
新卒採用の場合、まだ卒業をしていない時期であるため、「卒業見込証明書」の提出を求めます。
会社や職種によっては、業務に就くために一定の技能や知識を有している証明が必要です。医療職の資格取得証明書や、ドライバーの無事故・無違反証明書などがそれにあたります。
資格手当の支給条件として、免許や資格を持っていることを証明する書類を提出してもらうこともあります。
「退職証明書」は、前職の会社から発行される書類です。保険に加入するにあたって、被保険者資格がないことを確認するために必要になります。
退職証明書は離職票のような公的文書とは異なり、記載内容は決まっていません。一般的には「使用期間」「業務の種類」「その業務における地位」「賃金」「退職の事由」の5つを記載しますが、不要な内容は記載しなくてもよいとされます。
それぞれの概要について、ご説明します。
ここまでお伝えしてきた入社手続きに必要な書類は、基本的に入社日に従業員から提出してもらうものです。
提出書類のうち、扶養控除等申告書や健康保険被扶養者異動届のように、必要事項を記入してもらう書類もあるため、提出までに時間がかかることも想定されます。採用する従業員に対して、なるべく早い段階で必要書類と提出期日を伝えるようにしましょう。
法定三帳簿とは、労働基準法によって企業に管理や保管が義務付けられている帳簿のことです。具体的には、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の3つが該当します。
労働者名簿とは、人事や労務の業務に必要な従業員情報を集約した帳簿を指し、従業員の入社時に1名分ずつ作成しなければなりません。賃金台帳は、従業員への給与の支払い状況を記載した帳簿のことで、事業者ごとの作成・保存と、賃金支払いの都度作成する必要がある点に注意しましょう。
出勤簿は、従業員の労働時間を把握するために作成する帳簿です。法律で定められた「出勤日」「労働日数」「出退勤の時刻」「日別の動労時間数」などの項目を記載します。いずれの帳簿も保存期間は原則5年間ですが、現在は法案改正に伴う経過措置として3年間とされています。
法律で決められた要件を満たしている場合は、健康保険や厚生年金保険の手続きが必要です。雇用開始から5日以内に、年金事務所あるいは健康保険組合・厚生年金基金に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出します。
郵送や窓口に持参する方法以外に、電子申請も可能です。試用期間中であっても、これらの社会保険の手続きはしなければならないため、対応の漏れがないようにしましょう。
資格取得手続きが完了すると、協会けんぽに加入する場合は協会けんぽから「健康保険被保険者証」が送付されてくるため、従業員に渡します。
なお、2022年10月より段階的に一部のパート・アルバイトの方の社会保険の加入が義務化されました。これまで対象は従業員数が501人以上の企業でしたが、101人以上の企業まで対象範囲が拡大しています。
さらに、これまでは「雇用期間が1年以上見込まれる」場合に社会保険に加入していました。しかし、2022年10月から以下の場合に加入要件を満たすようになったことに注意しましょう。
雇用保険の手続きでは、雇用開始した月の翌月10日までに、ハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。社会保険の手続きと同様に、窓口への持参や郵送のほか、電子申請をすることも可能です。
雇用保険の資格取得手続きが完了すると、ハローワークから「雇用保険被保険者証」と「雇用保険資格取得等確認通知書」が会社に送付されてきます。届き次第、従業員本人に渡してください。
従業員の入社に際して行う必要があるのは、所得税と住民税の手続きです。所得税は、基本的に給与から天引きで源泉徴収されるしくみです。退職した年内に転職した場合、前の会社から「源泉徴収票」を渡されます。また、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」も必ず記載のうえ提出してもらいましょう。
住民税の納付は、納税通知書によって自分で納める「普通徴収」か、給与からの天引きで納める「特別徴収」のうちから選択が可能です。普通徴収の場合は会社は特に手続きをする必要はありません。
特別徴収の場合、前の会社を退職後すぐに入社しているケースでは、前の会社から「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を送ってもらいます。必要事項を記載のうえ、市区町村に提出してください。
その後、会社に納税通知書が送られてくるため、給与から必要額を天引きし、本人に代わって会社が住民税の納付を行う必要があります。
参照元:厚生労働省「労働者を雇用したら帳簿などを整えましょう」
厚生労働省「雇用保険の加入手続きはきちんとなされていますか!」
厚生労働省「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(その2)」
社会保険の加入のための手続きは、雇用開始から5日以内と決められています。期限が過ぎることのないように対応しましょう。