新卒採用において、内定者研修は内定を出した人材を対象に、入社前に行う研修のことです。内定者が抱える会社への不安の解消や、学生から社会人への意識転換を促すことを目的に実施することが一般的です。今回は新卒採用における内定者研修の概要やメリット、成功させるためのポイントなどを解説します。
1.内定者研修の概要
「内定者研修」の実施に向けて検討する前に、内定者研修の「目的」「内容」「注意点」を確認しておきましょう。
1-1.目的
内定者研修は新人社員研修とは実施目的が異なり、内定者の不安や悩みの解消、内定辞退の抑制、社会人としてのスキル習得と早期の戦力化などが一般的です。
学生から社会人への意識転換を促す、あるいは社会人に求められるチームワークの醸成を経験することをイメージゴールに設定する企業もあります。
1-2.内容
内定者研修で行うのは、以下のような内容です。
- ビジネスマナーなど、社会人への意識転換を促す講座
- eラーニングによるビジネススキル習得
- ビジネスゲーム研修などのグループワーク
- ビジネス文書の通信添削
- インターンシップ
- 先輩社員との座談会
たとえば、講師派遣型の研修で「学生と社会人の違い」「会社の常識」などを学び、社会人への意識転換を促したり、eラーニングでOAスキルやコンプライアンスを学んだりします。
なかには、謎解きゲームで内定者同士の交流を促したり、定年までのキャリアプランを描く「エンプロイー・ジャーニー・マップ」を作成させたりするといった、ユニークな企業もあるようです。
1-3.注意点
内定者研修への参加に強制力がある場合や、入社後の業務に関係する内容である場合は、内定者の同意を得ていても、賃金相当額の支払い義務が発生する可能性があることに注意しましょう。
表向きは任意参加としていても、研修に参加しないと入社後に不利益となることが想定されるビジネスマナーに関する研修などは、実質的には強制力があるとみなされることがほとんどです。
また、内定者研修が労務の提供にあたると判断されるケースで、内定者が業務に起因した災害でけがをした場合、労災保険が適用されることも考慮したほうがよいでしょう。
2.内定者研修を行う3つのメリット
内定者研修を実施するメリットとしては、次の3つが挙げられます。
- 内定辞退の抑制
- 内定者の悩みや不安の解消
- 早期の戦力化
それぞれの内容を確認していきましょう。
2-1.内定辞退の抑制
内定者研修の実施は、内定辞退の抑制につながると考えられます。内定が出てから入社までの間に、会社から一度も連絡がなかったり集まりがなかったりすると、内定者は不安を覚えるかもしれません。
また、現在は売り手市場で複数社からの内定を持っている学生も多いため、内定者研修がない企業への興味が薄れてしまう可能性も高いといえます。
内定者研修での共同作業を通じた内定者同士の一体感の醸成は、その企業で働く意欲につながるでしょう。
2-2.内定者の悩みや不安の解消
内定者研修のなかでほかの内定者と交流を持ったり、実務に通じる知識を得たりすることで、入社後のイメージを描きやすくなるはずです。それによって、漠然とした不安を軽減することができる点も内定者研修のメリットです。
それだけでなく、内定者研修で集まる機会を設けることで、入社に関して不安に感じていることや悩みを直接聞くことも可能です。不安や悩みを抱えている内定者をフォローすることで、入社への意欲の向上が期待できます。
2-3.早期の戦力化
内定者研修で業務に必須となるOA操作や用語などを学んでおくことで、入社後の業務へのスムーズな移行につながるでしょう。すぐに戦力となるだけでなく、早期の退職を抑制する力もあるといえます。
3.効果的な内定者研修にするための5つのポイント
内定者研修を効果的なものにするために、おさえておきたいポイントは次の5つです。
- 目的とゴールを意識する
- 目的に沿ったスケジューリングをする
- 内定者の特性やスキルを把握する
- 現場の意見を反映させる
- 内定者が望む研修内容も盛り込む
3-1.目的とゴールを意識する
内定者研修の目的とゴールを意識しましょう。たとえば、内定辞退の抑制が目的であれば、内定者同士の交流を重視した研修内容にします。一方、スキルの習得を目的に掲げる場合は、内定者同士の競争心があおられるプログラムにすることも効果的です。
いずれにしても新入社員研修との関連性と差別化を考慮し、内容を設計することをおすすめします。
3-2.目的に沿ったスケジューリングをする
内定式までは内定辞退の抑制のために内定者同士の交流を重点的に行い、その後は社会人への意識転換を促す講座を設けるなど、目的に沿ったスケジューリングをするとよいでしょう。
ただし、内定者はまだ学生であることを考慮し、学校の授業や試験などの学業に影響しないように時期や回数を設定しなければなりません。内定者研修や連絡の頻度が多すぎると負担になり、少なすぎると内定者が不安になる可能性があるため、適度な頻度となるように配慮が必要です。
3-3.内定者の特性やスキルを把握する
選考の過程だけでは十分に把握できなかった、内定者の特性やスキルを把握できるようなプログラムを組むことも有効です。
苦手な分野がわかれば入社前にフォローしておくことも可能ですし、得意なことや持っているキャリア志向などを踏まえて、入社後の配属や新入社員研修に活かすこともできます。
3-4.現場の意見を反映させる
内定者研修に、現場の意見を反映させることも重要です。入社後に実際に現場で求められるスキルや人物像と内定者研修の内容に乖離が生まれないように、各部署が期待することをあらかじめヒアリングしておく必要があるでしょう。
3-5.内定者が望む研修内容も盛り込む
内定者研修を効果的なものにするには、内定者の望む研修内容を盛り込むこともポイントになります。会社目線でのみ内定者研修のプログラムを決めてしまうと、内定者が抱える入社前の悩みや不安に応えることは難しくなるでしょう。
そのうえ、身につけて欲しいスキルや成長にばかりとらわれ、内定者の不安や悩みに寄り添うことがなければ、内定辞退を防ぐことはできません。内定者研修は入社に向けての準備という側面だけでなく、内定者との信頼関係を構築する役割も担っていることを忘れないようにしましょう。
4.内定者研修の実施にあたり知っておくべきこと
内定者研修の実施にあたって、知っておきたいのは次の2点です。
- 内定者が抱える不安や悩み
- 伸ばしておきたい内定者のスキル
これらの内容を知っておくと、内定者研修の内容を決めるのに役立つでしょう。一つずつ解説していきます。
4-1.内定者が抱える不安や悩み
内定者が抱える不安や悩みには、以下のようなものがあります。
- 会社や組織に馴染めるか
- この会社に入社を決めて良かったのか
- 会社や仕事についてあまりよくわかっていない
会社や組織に少しでも早く馴染めるように、受け入れる立場である会社からの積極的な働きかけが求められます。
また自分の選択への不安に対しては、会社が内定者のことを気にかけていること、そして受け入れる準備が整っていることを伝え、少しでも不安が軽減するようなフォローを行うことが必要です。
さらに、先輩社員と交流する場の設定によって、入社後の仕事や職場環境への理解を深められるようにするとよいでしょう。
4-2.伸ばしておきたい内定者のスキル
伸ばしておきたい内定者のスキルとしては、以下のようなものが挙げられます。
- ビジネスマナー
- 文書作成スキル
- 伝えるスキル
- ExcelやPowerPointなどのOAスキル
ビジネスマナーとは、具体的には身だしなみや言葉遣い、あいさつの仕方などを指します。短く簡潔な文章を作成するスキルや、限られた時間のなかで要件を簡潔に伝えるスキルも重要です。
また、スマートフォンの操作に比べ、ExcelやPowerPointなどのOA操作を苦手とする内定者も少なくありません。入社前の期間に伸ばしておきたいスキルの一つといえるでしょう。
5.ポイントをおさえて意義のある内定者研修にしよう
新卒採用における内定者研修は、内定者の不安や悩みの解消、内定辞退の抑制、早期の即戦力化などを目的に実施されます。自社の内定者研修における、主な目的や目指すべきゴールをあらかじめ明確にしておくことが重要です。
内定者研修は入社に備えてスキルを身につけたり、同期と交流を持ったりする場であるだけでなく、会社と新卒の内定者の信頼関係を構築する役割も担っています。会社にとっても内定者にとっても意義のある内定者研修を目指しましょう。