まずここでは、面接時に応募者の人柄を見抜くことが重要である理由を考えてみましょう。理由をきちんと理解しておけば、面接ではずっと集中でき、相手の一挙手一投足を見逃さず人柄を見抜くヒントになります。
人柄とは、その人の品格や性質をいいます。応募者がどれだけ企業の求めるスキルや経験、資格を持っていても、実際に働く環境や同僚、上司、企業理念と価値観が合わなければ、能力を十分に発揮できません。職場にうまくなじめず、すぐに退職してしまう可能性もあります。
このような採用のミスマッチは、企業にとっても応募者にとってもデメリットです。応募者によっては、就職したいあまりに事実と異なることを申告する可能性があるため、面接官は応募者のこのような行動を見抜いたうえで採用の合否を判断する必要があります。
採用後、きちんと業績に貢献してもらうためには、共に働く同僚や上司とうまく協調できるかどうかも大切です。部署にとって採用は、業務の進め方や割り振り、スケジュールなどさまざまな変更を余儀なくされ、手間や配慮を強いる一面があります。
そのような状況でも、新メンバーに高いコミュニケーションスキルがあり部署のメンバーに適切に配慮できれば、かえってチーム全体がこれまでとは違ったよい雰囲気に変わります。ひいては組織全体の士気を向上させることも可能です。そのためには採用する人材が社会人としてのマナーやモラルを身につけ、相手を尊重して合わせられる人柄である必要があります。
人材の適性の確認は、入社する前の面接の段階で行うことが理想的です。対面やオンラインでお互いの顔を見合わせて言葉を交わし、的確に把握することが求められます。
人柄には、物事を前向きにとらえる、向上心が強いといった人間の内面的な要素も含まれます。しかしこれらはよほど説得力のある具体例がない限り、採用のための応募書類には明確に書きづらい要素です。確かめるには実際に面と向かう面接が適しています。
このような内面的要素は、ただ会って話すだけでは見落としかねないものです。スキルや経験は入社後のOJTや研修で身につけることは可能ですが、内面的要素はそう簡単にはいきません。最近は多くの企業で内面的要素を重視し、備えている人材を率先して採用する傾向があります。
面接では、表面的な質問だけではわかりにくい内面的要素も、人柄に含まれる大切な要素として的確に見抜くことが重要です。
どのような状況であろうと、初めて会うに等しい間柄でいきなり核心を突く質問をするのはあまりおすすめできません。なぜなら万が一にも応募者が心情的に壁を作り、面接官が人柄を見抜くときの障害を生んでしまうことを避けるためです。
面接でうまく人柄を見抜くためには、応募者との信頼関係を作り上げる順番があります。ここでは的確に人柄を見抜くための面接の流れをみていきましょう。
自分の将来が決まるかもしれない重大な面接だからこそ、応募者が緊張してしまうのは当然です。なかにはうまく受け答えできずに焦ってしまい、準備していたのに思い出せないなど、普段の力がまったく発揮できないこともあり得ます。
しかしそれでも面接官は、限られた時間内に応募者の本来の力を適切に引き出すことが責務です。このようなときに役立つのが、アイスブレイクと呼ばれる手法です。アイスブレイクは、緊張のあまり氷のように固くなってしまった様子を溶かすように、応募者の緊張を緩め、話しやすい雰囲気を作ります。
例えば「わかりにくい場所ですが、迷ってしまいませんでしたか?」と笑顔で尋ねるだけでも、応募者の緊張の原因である「仕事」からポイントが外れ、緊張がややほぐれます。そこですかさず自己紹介などをすれば、スムーズに面接に誘導することが可能です。
面接官は書類上とはいえ応募者のことを多少なりとも知っています。一方で応募者は、採用の成否を分けるキーパーソンであるにもかかわらず、面接官がどんな人物なのかをまったく知りません。そのような状況に配慮して面接官は、応募者の緊張を和らげるため、また人間同士の礼儀としても、先んじて自己紹介をしましょう。
自己紹介では、順番はともかく名前と役職、担当業務を伝えます。例えば「(名前)と申します。人事部で○○部署の採用と面接官を務めております」といった具合です。応募者の方を向いて、相手の目をまっすぐに見ながら丁寧に伝えましょう。
応募者は、いずれ仲間となるかもしれませんが、面接の時点では社外の人物です。面接官は採用の面で会社の「顔」でもあるため、逆に応募者から入社に適した会社かどうかを判断する要素として測られている面があります。そのため面接官は、応募者の期待を裏切ることのないよう、会社の代表として努めて丁重に、失礼のないよう対応することが大切です。
次に企業説明や業務内容の説明をします。求人に応募しているとはいえ、応募者が企業の情報や実際の業務内容について、企業が考えているほど理解しているとは限りません。同じ情報でもとらえ方が違ったり、一部だけを見て他は見ていなかったりといったこともあり得ます。入社後の早期退職につながらないよう、この時点で正確に伝えましょう。
企業説明では主な事業の内容や今後のビジョンを、業務内容の説明では募集に至った経緯や具体的な仕事の内容、注意点などを伝えます。伝える内容は、応募者の様子を見ながら少し詳しすぎるくらいがおすすめです。そうすれば、応募者に「ここまで詳しく説明してくれる親切な会社だ」と好意的な印象を与えられます。
また今後のビジョンとしては、開始予定のプロジェクトの内容や展望などを可能な範囲で伝え、会社への理解を深めてもらいましょう。
履歴書・職務経歴書の内容に関する質問は、応募者にとってはスキルや経験といったPRのポイントがどう評価されるかを判断する根拠になりえます。また、面接官にとってはそれらのレベルを測るだけでなく、関連して志望の意欲や仕事に対する価値観の見極めの根拠といえる重要なポイントです。
新卒の応募者には、履歴書とエントリーシートから志望動機や経験について、中途採用の応募者には履歴書と職務経歴書をもとに志望動機と転職理由について、といったように質問の内容を変えるとよいでしょう。
質問するときは、質問の意図を伝えると応募者も適切に答えやすくなります。また得られた回答からさらに掘り下げた質問は、応募者のより深い理解につながるため、状況に応じて臨機応変に対応できるよう準備しておきましょう。
面接官による質問を一通り終えたら、必ず応募者からの質問がないかを尋ねましょう。面接官と同様、応募者も会社や業務について理解を深め、自分に合う会社かどうかを確認したいと考えています。ただ、すぐに質問が出るとは限らないため、様子を見て少し時間を取るような配慮も必要です。
もし質疑応答の時間を設けず、応募者に疑問や不安が残ったまま面接を終えれば、配慮のない会社、事情を汲んでもらえない会社と判断され、内定辞退につながる恐れがあります。ここでは逆に応募者が、面接官や会社を見定めているととらえ、努めて丁寧かつ誠実に対応しましょう。
尋ね方も「質問はありませんか?」と直接的な方法だけでなく「○○については問題ありませんか?」といったように、あえて具体的に絞り込むと質問しやすくなります。
面接の最後では、採用の合否連絡について誤解のないよう、合否連絡までの予定日数や連絡方法などを明確に伝えましょう。
合否連絡は選考に十分な検討時間を設けることが前提ですが、遅くとも1週間以内などできるだけ早めに連絡する方が応募者に喜ばれます。なぜなら、並行して応募している他社の面接を受けてよいかどうかといった判断材料になるためです。また連絡方法も、ただ「電話で」ではなく「こちらの○○の電話番号へ」などより明確に伝えることをおすすめします。
不採用だった場合の応募書類の取り扱いについても、この時点で了承を得ておきましょう。
人柄を見抜く質問の重要性や効果的な面接の流れがわかったら、今度は実際の面接のどんな場面でどんな質問をすると効果的かを考えましょう。とはいえ質問の種類は多く、うまく活用するには面接官の意図ごとの例を知っておくとより効率的です。
ここでは、面接官の意図別の、人柄を見抜くための質問の例をご紹介します。
志望度や入社の意欲の強さを確かめられるのは、次のような質問です。
これらの質問の返答からは、志望の強さや意志の明確さ、具体性を測れます。また少々挑戦的な質問ですが、ある程度の意欲が感じられたら次のような質問も志望度を測るために有効です。
これらは会社や業態、業務内容をどの程度知っているか、どのようにとらえているか、どのくらいの経験があるかがわかる質問です。志望度や入社の意欲が高く、一定以上の知識や情報があると感じたら、それらの程度を測るため質問してみましょう。
共に仕事をするうえで重要になる価値観は、次のような質問によって確かめられます。
これらは、仕事や自分自身について求める価値観と、その判断基準が見えてくる質問です。これから長く付き合う相手と考えれば、会社の企業理念や社風に合うかどうかは重要です。応募者の価値観はできるだけ正確に把握し、求める人材像に合致するか長期的な視点で検討しましょう。
応募者が、一緒に仕事をする同僚や上司、取引先などと適切にコミュニケーションが取れるかどうかは、次のような質問から推し測ることができます。
仕事では、接するのがあまり得意でない人と接しなくてはならない場面があります。そこで大切なのは、苦手な人とどのようなコミュニケーションを取るか、またコミュニケーションを取れるかどうかです。
面接でのさまざまな質問への返答からも、応募者のコミュニケーション能力を測れます。発信力だけでなく情報を正確に受け取る力、理解できる力もしっかり見極めましょう。
応募者が実務をこなすための能力を備えているか、またどのような考えを持っているかを確かめる質問は、次のようなものです。
実務のイメージが曖昧なまま採用してしまうと、ミスマッチによって早期退職してしまうリスクが高まります。求人対象の業務に対する知識や具体的な認識があるか、うまくこなすためにどのような能力があり、また不足しているかは、これらの質問でしっかり把握しましょう。
長期にわたって活躍してもらうためには、面接の場だけでの向上心や意欲では不十分です。応募者の向上心や成長意欲がどれほど確固たるものであるかどうかは、次のような質問によって確かめられます。
近年のグローバル化は、社会のあらゆるところに思わぬ変化を生み、仕事で失敗した経験を持つ応募者もいる可能性があります。しかし大切なのは失敗の有無ではなく、それをばねにして、向上心や成長意欲を持っているか、確固たるものにできているかどうかです。
失敗についての分析や反省、活かし方についてのコメントにも注意しながら、向上心や成長意欲の強さを見極めましょう。
仕事を続けていれば、想定外の出来事によって計画が崩れ、窮地に追い込まれるような事態は起こります。採用する人材にはそのような状況でも仕事を投げ出したりせず、知恵を絞ってなんとしても完了する責任感を持っていてもらいたいものです。責任感の強さは、次のような質問から見極めることができます。
責任感の強さを確かめるには、過去の経験や事実について尋ねるのが効果的です。気になる点は深掘りする質問をして、どのような学びを得たか、仕事のやり方や考え方にどう活かされているかを見極めましょう。
まったく新しいチームや環境で仕事をするとき、大きく影響する要素の一つは協調性の高さです。応募者の協調性を確かめるには、次のような質問があります。
仕事は一人でできるものではありません。メンバー同士が連携し、担当や作業の違いはあっても同じ目的に向かう意識を持ち続けることが大切です。とはいえメンバーにはそれぞれ個性があり、意見が衝突することもあります。
しかし大切なのは正しいかどうかではなくどう成果を上げるかということです。協調性をどのように考え、実際に役立てているかをしっかり見極めましょう。
面接での質問で人柄をより的確に見抜くには、次のようなポイントを意識することが大切です。
それぞれどんな理由で大切なのかをみていきましょう。
求める人材とは、採用の時点ですでに完成されている人材という意味ではありません。最終的に、自社にとって「こうなってほしい」という理想の人物像になれる人材のことです。人は時とともに変化し成長するものですが、そのためには欠かせない資質があります。面接では適切に質問することで、そのような資質を見抜くことが重要です。
面接に臨む前に、一般論ではなく今、自社が必要としている人材が持つべき資質を、余さず洗い出し明確にしましょう。求人の対象となる部署や管理者の意向、事業の性質、携わる業務の詳細を把握することも大切です。同時に実際にそのなかで成果を上げているメンバーが持っている資質を分析すれば、より納得できる要素を挙げることができます。
面接における評価基準とは、最終的に求める人材となってもらうために現時点で備わっていることが望ましい資質を見極めるためのものさしです。面接官によってものさしが違えば、適切な評価はできません。さまざまな資質があるかどうかだけでなく、どのくらいのレベルか、どの資質を優先するかといった基準を定めておく必要があります。
資質を洗い出すときの対象は、高い成果を上げている重役やハイパフォーマーです。それぞれに共通する能力や元から備わっている資質を精査し、必須と考えられるものから順に評価基準に設定します。このような優先順位は、全事業共通や各部署などそれぞれに設定しておけば、評価にずれのない適切な面接が可能です。
場合によっては返答が質問に対して不十分な内容だったり、より詳しく知りたい興味深い内容だったりすることがあります。そのようなときは、質問内容を深掘りして追加で質問することで、合否判定に役立つ材料になる返答を得ることが可能です。
例えば過去の職歴で営業補助という仕事を担当していたとします。そこでこちらが「営業補助とはどのような内容の業務でしたか?」と尋ねたとき、「営業担当者の補助です」という返答だけでは十分とはいえません。
そこで追加で「営業担当者とどのようなやり取りをしましたか?」「業務で独自に工夫したところはありますか?」「一番大変だったと感じたことは何ですか?」など質問します。抽象的すぎる言葉も、言い換えてもらえば、応募者の返答の意図がより明確になります。
面接は単に応募者の返答を記録する作業ではありません。応募者の様子や返答の内容によっては、臨機応変に質問を変えるなど柔軟な対応が求められます。
面接で緊張しがちな応募者が、リラックスして話しやすい雰囲気を作るには相槌を打つことが効果的です。相手の話に耳を傾け、観察や質問、提案を通して相手の内面を引き出す手法「コーチング」の基本テクニックも活用できます。
応募者の人柄や内面を理解したいあまり、質問攻めにしてしまうと応募者はより緊張してしまい逆効果になりかねません。質問は相手の理解のスピードに合わせるよう努め、返答に対しても相槌を打つなどしてこちらが聞いていることをわかりやすく示すことが大切です。
しっかり耳を傾けることと相槌を打つことを上手に組み合わせれば、応募者の緊張は徐々にほぐれ、本音を話しやすくなります。
面接で人柄を見抜くこと、そのための質問を投げかけることは重要です。しかしだからといって、面接官はどんな質問をしてもよいというわけではありません。面接官は、面接において注意しなくてはならないことを正しく把握する必要があります。
ここでは、面接官が面接で避けるべきこと、やってはいけない行動について考えてみましょう。
面接官は、応募者を不快にさせる次のような質問は避けなくてはなりません。一般に避けるべきとされているのは、次のような質問です。
思想や信条に関する質問
出身など本人の責任のない質問
プライバシーに関する質問
応募者の緊張を少しでも和らげたいという配慮からした質問であっても、応募者にとってはかえって緊張したり気持ちが沈んだりしてしまい、結果として合否に影響してしまう可能性があります。むしろ面接官としては、面接の際にこちらから趣旨を説明し、このような内容は話す必要がないことを伝えるよう配慮しましょう。
そもそも応募者は、採用求人の応募者である以前に尊重されるべき一人の人間です。面接官は同じ社会の一員である個人として、会社の代表として適切なコミュニケーションに努め、丁重に対応することが求められます。
なかにはストレス耐性を測ると称して、あえてモラルに反する答えにくい質問をする企業もあるようですが、このようないわゆる圧迫面接は、企業の評判をかえって落とすことにつながるためおすすめできません。
また応募者が意図を理解できない質問も避けましょう。どのようなことを返答すればよいのかわからずに困惑し、圧迫面接ととらえられる可能性があります。意図がわかりづらい質問は、あらかじめ意図を明確に提示して尋ねましょう。
面接官は、面接で得られた情報によって応募者が会社の求める人材かどうかを見極める重要な役割を持っています。応募者はそれぞれ異なる経歴や特徴を持っており、そのすべてを正確にとらえるのは簡単ではありません。この記事でご紹介した人柄を見抜く質問は、これから面接に臨む面接官が、すぐにでも活用できる手法の一つです。
とはいえ状況によって見抜く必要のある人柄には違いがあるため、質問も適切に使い分ける必要があります。面接を実施する際は、避けるべき質問ややってはいけない行動を把握し、事前に求める人材像を明確にするなど入念に準備して、適切にコミュニケーションするよう努めましょう。