少子高齢化で労働人口も減少しており、多くの企業が人手不足に悩んでいます。なかでも飲食業界の人手不足は深刻です。コロナ禍によりさらに採用が難しくなったという状況がありましたが、収束に向かう現在では徐々にコロナ禍以前の状態に戻りつつあります。
飲食業界における採用課題について、詳しく解説します。
飲食業界はコロナ禍の前から人材の定着率が低く、慢性的な人手不足が続いています。アルバイトだけでなく社員でも離職が多く、人材の入れ替わりが激しいのが特徴です。人材の定着率が悪い原因の多くは、過酷な労働環境にあります。
立ち仕事が多いなど事務作業に比べて体力を消耗しやすく、勤務時間が長い・業務量が多いという労働環境です。また、アルバイト・パートでも社員と同じ業務を行っている飲食店も少なくありません。
2020年から拡大した新型コロナウイルスの影響で、飲食店はさらに採用が難しい状況に陥りました。営業自粛や休業などでアルバイトの解雇やシフトを減らすなどの対応を迫られる状況があり、現在は収束に向かいながらも離れた人材が戻るには時間がかかっているのが実情です。
感染リスクが完全になくなるまでは、飲食店での仕事は敬遠されがちです。また、飲食業界がコロナ禍で受けた打撃を見て業界自体に不安を持たれることも多く、応募が集まらないという傾向もあります。
飲食店で本来確保しておきたい人員の目安は、ホールスタッフに関しては店のテーブル数・客席数で算出することが可能です。
目安となる適正人数は、以下の計算式で求められます。
「収容人数÷4(=適切なテーブルの数)÷4=適正人数」
100人収容の店舗であれば、「100÷4÷4=6.25人」で、6人のホールスタッフが必要ということになります。
さらに、店長や調理担当者など、提供サービスの内容に応じて適切な人数の配置が必要です。
飲食店はなぜ人材の定着率が低いのか、理由は複数あります。業務負担が大きいこと、クレーム対応によるストレスなどが大きな原因で、人間関係のトラブルも少なくありません。
飲食店の人材定着率が低い理由を解説します。
飲食店の業務は肉体的・精神的に負担が大きく、働きにくいことが定着率の低い原因です。飲食店は営業時間が長く、従業員の労働も長時間になる傾向にあります。サービス残業が当たり前であったりシフトが柔軟に組めなかったりなど、働きにくさを感じている人が多い状況です。
ホールやキッチンは立ち仕事で、料理や食器類など重いものを運ぶなど体力的な負担も大きいのが実情です。
カスタマーハラスメントの存在も、人材定着が低い原因のひとつです。カスタマーハラスメントとは、顧客から悪質なクレームや不当な要求を受けることを指します。厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成するほど、カスタマーハラスメントは社会問題となっています。
飲食店が受けるカスタマーハラスメントは「必要以上に説教をされる」「長時間、居座り続けられる」といった事例が多く、従業員にとって大きなストレスになりがちです。
カスタマーハラスメントまではいかないものの、日常的なクレームは発生します。料理を提供するまでの時間や接客態度に対して不満を感じる顧客もあり、それらのクレームを受けながら忙しい業務をこなすのは大変です。クレームに対応したり、謝罪をしたりなどによるストレスは大きく、離職につながりやすくなります。
参照元:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
一般的に人間関係のトラブルによる離職は多く、飲食店も同様です。特に飲食店は「少人数で働くことが多い」「上下関係が厳しい」「シフトや勤務時間に不公平感がある」といった理由で人間関係が悪化しやすい環境といえます。キッチンとホールの従業員が対立関係になるという構図もあります。
また、人材が定着せず慢性的に人材不足である店舗は、十分な新人教育もできません。それがさらに離職を生むという悪循環にも陥っている状態です。
飲食業界は報酬や待遇が低く、業務量に見合っていないことも離職の原因となっています。労働環境が悪いうえに待遇が良くないのでは、従業員のモチベーションは下がります。
正社員が少なくアルバイト・パートなど非正規雇用が多く占める店舗では、正社員と同じ業務量をこなすケースも少なくありません。低い給与で同じような仕事を行うことに不満を感じることもあると考えられます。
人手不足になると、飲食店には以下のような影響があります。
飲食店は休暇や季節のイベントで繁忙期と閑散期の差が激しく、時期に合わせた従業員の確保が難しいという特徴があります。
土日や年末の忘年会シーズン、ゴールデンウィークなどの繁忙期は多くの従業員が必要になり、客足の落ち着く平日は少ない従業員でも問題ありません。このような時期ごとの需要に合わせた採用戦略が必要になります。
忙しい時間帯に人員を集中させ、従業員の業務負担を減らすことが人材を定着させるためのコツです。適切な人数を配置ができれば、サービスの質の低下も防げます。
人材不足に悩む飲食店が従業員を確保するために求められるのは、以下の3点です。
それぞれ、詳しく解説します。
離職を減らすとともに新しい従業員を採用するためには、従業員の労働に見合った賃金にすることが大切です。賃金の引き上げは、従業員のモチベーションを高めます。近隣の店舗の賃金や待遇を調べ、自店の賃金・待遇を見直してみましょう。
より高い賃金にしたり、手当など福利厚生を充実させたりすることで、求人の応募を増やすことができます。
働く時間を自由に選べるようにすることも、人手不足解消に役立ちます。短時間勤務や、週に2日など少ない日数で働けるなど選択肢を増やすことで、求人の応募が増える可能性があります。
「週3日以上」や「1日5時間以上勤務」など日数や時間を固定されると、どうしても勤務できない人は多くなりがちです。柔軟な働き方を提供することで、主婦や学生など空いている時間を活かして働きたいという人の応募を増やせます。
近年は注文や会計などにITを導入する飲食店も増えています。ITの導入により従業員の業務負担が改善されるため、人手不足の解消・離職の防止に役立つでしょう。
飲食店が導入して役立つITシステムには、次のようなものがあげられます。
Web予約システムを導入すれば、電話による予約受付や予約台帳への記入といった業務を減らせます。顧客を分散できるため、人手不足でサービスの質が低下するといった心配もありません。
また、キャッシュレスシステムにより、スタッフのレジ対応業務も軽減できます。
ドキュメントツールは、従業員のシフトやメニュー表・連絡事項などを作成・管理でき、誰でも閲覧できるツールです。情報共有の時間をとらず、従業員の出勤が不規則な飲食店でも必要な情報が従業員に伝えられます。
飲食店でアルバイトの採用を成功させるには、採用対象者の範囲を広げる、雇用条件を柔軟にするなどの戦略が必要です。
ここでは、採用戦略となる7つのポイントを詳しくご紹介します。
飲食店の人手不足を解消するには、外国人やシニア層まで採用対象者を広げることが求められます。日本に滞在する外国人には日本語によるコミュニケーションができる人も多く、飲食店で働くことも問題はありません。
ただし、外国人の雇用では在留資格が求められます。在留資格とは、外国人が日本に在留している間に一定の活動ができる資格のことです。
外国人の雇用では、身分証明書に該当する「在留カード」の確認が必要です。在留カードでは、在留期限が切れていないか、就労可能かどうかを確認します。就労可否はカードの表面の「就労制限有無の欄」に記載されており、「就労制限なし」と記載される場合は雇用可能です。留学生を採用する場合は、時間制限などの問題があります。
外国人の雇用でわからないことがある場合は、外国人雇用を専門とする人材サービスを利用するのもおすすめです。
また、近年は60代以降のシニア層を雇用する飲食店も増えています。シニア層は社会人経験が長いことで常識をわきまえている人も多く、トラブル対応力やコミュニケーション能力が高い傾向にあります。家事経験のある女性であればマルチタスクな処理能力を発揮し、高いパフォーマンスも期待できるでしょう。
雇用条件はできるだけ柔軟に設定することが、人手不足を解消するコツです。賃金や待遇が業務量に見合っているかどうかチェックし、福利厚生の充実や有給取得などの状況も確認してください。
勤務時間は短い時間や特定の曜日を選べるように設定し、携わる業務も選べるなど柔軟に対応することで応募者を増やすことが可能です。
飲食店はどうしても長時間労働になりがちであり、人材が定着しない理由でもあります。長時間労働や深夜勤務などが減るように対策をすることで、離職防止や応募の増加につながります。
まず、長時間勤務になっている従業員はいないかをチェックしてください。売上に対して営業時間は適切か、閉店後の業務や開店準備に時間がかかりすぎていないかも確認が必要です。
営業時間外に時間をかけすぎている場合は、業務の効率化を検討してください。閉店後のレジ締めやシフト管理など営業時間外の業務は、ITツールの導入で解決が可能です。
評価制度を設けていない、もしくは曖昧な基準である場合は、具体的な評価制度を設けることも必要です。評価基準と評価が高まった場合に得られる特典を明確にすることで、従業員のモチベーションを高めることができます。
入社間もない従業員でも能力が高く働く意欲があれば待遇が良くなる可能性があり、不公平感もなくなるでしょう。評価制度の確立は求人募集のアピールポイントになり、能力が高く意欲を持った優秀な人材が集まる可能性もあります。
評価制度でははじめに目標を設定し、上司と従業員が定期的に話し合って目標を達成したかどうか検証します。話し合いでは従業員の悩みや不満も共有でき、早いうちに解消が可能です。話し合いによりコミュニケーションが活性化すれば、職場の雰囲気が良くなるというメリットもあります。
人材が定着しないのは、十分な教育制度が整っていないことも理由にあげられます。大手チェーン店では教育のマニュアルが用意されているのが一般的ですが、小規模な飲食店では業務を行いながらOJTで教育をするところも少なくありません。
教育を効率よく行うには、ただ見て覚えるだけではなく、いつでも正しい手順を確認できるマニュアルの用意が必要です。
マニュアルでは仕事内容や行う手順などを明確にでき、何をどのように行っていいかわからないという不安を解消できます。また、すべての従業員が共通の認識を持ち、従業員によって対応が違うといった不都合が起こりません。
飲食店で作成しておきたいのは、以下のマニュアルです。
マニュアルがあれば、導入した機器の使い方など新しい情報が出るたびに追記でき、既存の従業員の教育にも役立ちます。
マニュアルのほか、従業員が覚える業務をリスト化したチェックシートの作成も効果的です。どのような業務があるのかを把握でき、習得すべきスキルもわかります。指導する側もチェックシートに沿って教育できるため、効率的です。
マニュアルやチェックシートとともに、OJTの期間を設けることも必要です。教育内容や期間を設定し、計画を立てて実施します。OJTの教育担当者は、適切なフィードバックも忘れないようにしてください。
従業員の教育では、以下の点を留意することも大切です。
ただ単に業務を覚えてもらうだけでは、顧客が満足できるサービスの提供にはつながりません。店舗の方針やコンセプト、目指すイメージなどを伝え、浸透させることで従業員は店の一員という意識を持ち、顧客への心のこもったサービスを行えます。
また、挨拶の仕方や身だしなみなど店舗独自のルールを伝えることで、サービス向上や従業員の働く意欲を高めることにつながります。
サービスの質が向上すれば現場のクレームも減り、人材も定着しやすくなるでしょう。
評価制度や教育制度の見直しなどは時間が必要ですが、今ある業務の問題点に対応し、改善することは可能です。まず、各業務内容に無駄がないかなどチェックし、効率化を図って労働環境の改善に努めるようにしましょう。
業務の効率化に役立つのが、「ECRS」というフレームワークです。ECRSでは、以下の4つの考えで業務の効率化を考えます。
まず、それぞれの作業を見直し、無駄なものがないかチェックします。慣習化していて重要度が高くない作業があれば、排除を検討してください。似たような作業を別個に行っている場合は、同時に行うことを検討します。
また、作業手順や担当者などを入れ替えることで、作業を効率化できる場合があります。
作業の手順を省略できるものがないかも確認してください。簡略化する際は、サービスの質が低下しないよう考慮することが大切です。
飲食店の業務は大きく「キッチン」「ホール」「バックヤード」に分けられます。業務効率化も、各業務ごとに考えます。
キッチン |
・調理手順がわかるマニュアルを作成する |
ホール |
・新メニューやクレームの情報は従業員全員が共有できるようにする |
バックヤード |
・適切な在庫管理をするための仕組みやシステムを構築する |
飲食店は、「業務の負担が大きい」「賃金が低い」などの理由で人手不足が深刻化しています。
人手不足が続くことで残された従業員の負担が増え、さらに離職が進むという悪循環も起こりかねません。人材不足はサービスの低下も招き、クレームにつながる可能性もあります。人材が定着しない状態が続けば、経営も成り立たなくなります。
雇用条件の緩和や業務改善など、人手不足を解消するための対策を行いましょう。