適正人員とは、会社の与えられた業務に対して事業計画の実現や目標の達成に適した人員のことです。適した人員の判断基準は、利益が残るかどうかです。適正人員以上の人員を抱えた場合、人件費がかさんで利益が残りません。反対に、人員が不足していては目標を達成できません。
利益を残したうえで、事業計画の実現や目標を達成できる人員が適正人員です。人員は人件費に連動しています。人件費は、企業のコストの中でも多くの割合を占めるものです。人件費を抑えたうえで目標を達成できるかどうかが、企業の業績に影響するといえるでしょう。
適正人員を算出するには、「要員計画」を作成する必要があります。要員計画とは、事業を進める際に必要とされる人材や人数、配置の計画などのことです。要員計画がなければ、どの業務に、どんな人材が、何人必要なのか分かりません。過度な人員を配置し、利益の損失につながる可能性も考えられます。
要員計画の作成により「どの部署に」「どんな能力を持った人材が」「何人必要なのか」を判断できるため、適正人員数が算出できるのです。
適正人員の算出方式には、「捐益分析方式」や「業務分析方式」、「ベンチマーク方式」「組み合わせ方式」があります。ただし、どの算出方式にもリスクがあります。算出方式を組み合わせることで、精度が高い適正人員が算出できます。
【4つの分析方式】
ここでは、4つの適正人員数の算出方式の特徴についてに解説します。
適正人員数の算出方式には、損益分析方式が挙げられます。損益分析方式は、財政面から適正人員を算出する方式です。売上高や労働分配率、付加価値、損益分岐点といった要素から人件費を算出します。算出した人件費から人員を算定することで、適正人員を算出します。
トップダウン的なアプローチであるものの、利益を出すための計算であるため、人材の特性は考慮していません。そのため、この方式で適正人員を算出した場合、人手不足となる可能性があります。
適正人員数の算出方式には、業務分析方式もあります。業務分析方式は、業務面から適正人員を算出する方式です。業務量から必要な工数を割り出し、工数をもとに適正人員を算出します。
損益分析方式とは逆で、ボトムアップ的なアプローチのため、業務の性質や人材の特性には考慮して人員を算出するものの、利益は考慮しません。そのため、必要な人員が多くなり人件費が膨れ上がるリスクがあります。
ベンチマーク方式も適正人員の算出方法の一つです。ベンチマーク方式は過去の事例を参考に適正人員を算出する方式です。自社の事例を参考にするパターンと、他社の事例を参考にするパターンがあります。
事例をもとにするため、説得力がある結果となります。ただし、他社での事例の入手は簡単ではないため、自社に前例がない場合は算出が困難です。
損益分析方式と、業務分析方式を組み合わせる方式もあります。損益分析方式には人手不足、業務分析方式には人件費の増加というリスクがあり、それぞれの方式で算出した人員数には差が出てきます。これは経営層と現場での、情報量や立場の違いから生まれるギャップです。
双方の考え方をすり合わせることで、より適正な人員数が算出できます。ただし、利益を出しつつ目標を達成するためには、生産性向上は欠かせません。
損益分析方式と業務分析方式のギャップを埋め、自社の目標を達成するためには、業務プロセスの見直しや付加価値の向上に取り組むことがポイントといえるでしょう。
適正人員を算出するには、要員計画を作成する必要があります。ただし、要員計画を作成する前に、事業計画の確認や人員の現状把握、ニーズの把握といった事前調査が必要です。
ここでは、適正人員を算出する具体的な方法について解説します。
要員計画を作成するためには、事業計画の確認は欠かせません。要員計画は、事業計画を進めるために作成します。事業計画を進めるには「人材」が必要です。しかし、「どんな目的」で「どんな業務」なのかを理解しなければ、必要な人材に対する認識の方向性がずれてしまいます。
事業計画の内容によって、適正人員数の算出方式も変わります。事業計画を確認し、方向性を理解したうえで、要員計画を作成しましょう。
事業計画の確認により方向性を理解できたら、人員の現状把握をしましょう。人数や能力、雇用形態、年齢といった情報ごとに整理します。このときのポイントは、3年後や5年後といった数年後の変化を想像することです。
数年後の人員構成をシミュレーションすることで、年齢構成や雇用形態の変化が分かります。変化を想定した要因計画を立てることで、事業計画実現や目標達成に近づけるでしょう。
人員の現状把握の次に、採用実績を確認します。応募数や合格率、内定承諾率などの採用プロセスにおける結果を確認しましょう。採用目標に対する、達成率の確認も必要です。
採用プロセスの結果をみることで、採用プロセスごとの数値目標の設定や、想定採用人数を算出できます。採用実績をデータ化していない場合は、今後のためにもデータに残しておきましょう。
採用実績の確認後は、現場でのニーズを把握します。ヒアリングやアンケートを利用するとよいでしょう。以下のニーズを確認することで、要員計画の作成に活かせます。
異動や退職により欠員が出ている場合に、業務に支障が出ているのかを確認します。支障が出ている場合は、どんな人材が必要なのかを確認しましょう。
繁忙期がある場合、繁忙期に対して人員の補充が必要なのかを確認します。業務によっては、人員を補充しただけでは対策にならないケースもあるためです。人員補充以外の対策も検討する必要があります。
難易度が高いプロジェクトを実施する場合、即戦力となる人材や専門性が高い人材が必要なケースがあります。コストや他部門との調整も必要になるため、経営層も交えて検討しましょう。
現場のニーズを把握できれば、経営側のニーズを把握します。以下の内容を確認することが大切です。
事業計画や新規事業を進める場合に、専門的な能力を持つ人材が必要なのかを確認します。また、人員構成に対する改善点も確認しましょう。年齢や能力に偏りがある場合、人員構成の見直しや補充が必要です。現状把握で、シミュレーションした数年後の人員構成を参考にしましょう。
現場と経営側のニーズが把握できれば、そのニーズをもとに適正人員を算出します。損益分析方式と、業務分析方式から算出します。ただし多くの場合、2つの算出方式で算出した適正人員数は一致しません。
その差を調整するには「直間比率」と「労働生産性」をみることがポイントです。直間比率とは、売上を上げる「直接部門」の人員と、総務や経理といった直接的な売上がない「間接部門」の人員との比率を指します。
業界によって適正な比率は異なりますが、直接部門の人員割合が70~90%になっているとよいとされています。
労働生産性とは一人当たりの売上高のことです。売上高を人員数で割って算出します。予測している売上高から労働生産性を算出し、目標の労働生産性を達成するのか確認しましょう。
適正人員とは、利益を残したうえで、事業計画の実現や目標を達成できる人員のことです。人員が多ければ人件費がかかりますが、反対に人員が少なければ人手不足となり、目標未達の可能性が高まります。
そして、適正人員を算出するには要員計画が必要です。要員計画の作成前に、事業計画の確認や人員の現状把握、ニーズの把握といった事前調査をする必要があります。
適正人員の算出方法は3つあり、捐益分析方式や業務分析方式、ベンチマーク方式です。ただし、どの算出方式にもリスクがあります。それぞれの算出方式を組み合わせたり、比較して調整したりすることでより精度が高い適正人員を算出でき、生産性向上につながるでしょう。