近年は女性の社会進出や外国人の雇用など、ダイバーシティマネジメントに取り組む企業も増えています。
政府はダイバーシティ経営を推進しており、経済産業省ではダイバーシティ経営について「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することでイノベーションを生み出す経営」と定義し、取り組みを進めています。
近年は海外に進出する企業が増加するなど、グローバル化が進んでいます。それに伴い、世界の多様な価値観を受け入れ、柔軟に対応していくことが求められているのです。市場における消費者のニーズも多様化しており、さまざまなニーズに対応していくためには多種多様な価値観を持った人材を活用することも必要です。
また、少子高齢化の影響で人材不足に悩む企業は多く、女性や高齢者、外国人など幅広い労働力の活用が求められています。そのためには、多様な働き方を認めていかなければなりません。
働き方への意識も多様化しており、これまでの「残業は当たり前」といった風潮からワークライフバランスの重視、子育てとの両立など、労働者の意識も変わってきています。意識の変化に合わせ、企業も従来の画一的な働き方にこだわらず、多様な働き方を認めていく必要に迫られているのです。
具体的にどのようなメリットがあるのか、みていきましょう。
ダイバーシティマネジメントは人材不足を解消し、自社が望む人材を確保できるのがメリットです。まず労働力不足を解消するには、まだ労働市場に参加できていない人材の雇用を検討する必要があります。
女性や高齢者、外国人など、働く意欲がありながらさまざまな事情で労働できない人も多いのが実情です。多様な働き方を認めることでこれらの人々を雇用し、自社に必要な人材を確保することができます。
また、近年は若者を中心に柔軟な働き方を求める人が増え、リモートワークやフレックスタイム制などを導入することは若い人材の確保にもつながります。
働き方の多様性を認めることで多様な人材が働きやすい環境を作ることができ、仕事へのやりがいも生まれるでしょう。離職する社員が減り、人材の定着も期待できます。
ダイバーシティマネジメントは、企業イメージを向上できるのがメリットです。女性や高齢者など多様な人材を雇用する企業は社会的責任を果たしていると評価され、好印象を持たれます。
また、多様な働き方が選べる職場は従業員の満足度が向上します。従業員満足度の高い企業は外部にも良い印象を与え、求職者にとっても魅力的です。人材獲得の競争力を高めることにもなるでしょう。
また、企業イメージの向上は自社製品・サービスに対する消費者の購買意欲を促進することにもつながります。
ダイバーシティマネジメントは、経営陣の危機管理能力を高めるメリットもあります。危機管理能力とはトラブルが生じた際に被害を最小限に抑え、もしくは回避する能力のことです。経営陣が多様な価値観を持つ人材で構成されることで、トラブルの際にも迅速な対応が可能です。
また、ダイバーシティマネジメントは経営陣の監督機能向上にも役立ちます。経営陣は監督機能を果たすために知識や経験、能力をバランス良く備えることが大切です。多様な人材を擁する経営陣であれば十分な監督機能を発揮し、経営の健全性を保つことも期待できます。
ダイバーシティマネジメントは、リスクを分散できるというメリットもあります。近年は新型コロナウイルスの感染拡大など予測できない事態が発生することも多く、柔軟な働き方など多様性を備える組織は、リスクを分散して危機を乗り越えることが可能です。
例えばコロナ禍であれば、すでにリモートワークを導入していた企業は不測の事態にも混乱のない対応ができたといえるでしょう。
多様な人材が集まるダイバーシティマネジメントのもとでは、新しい価値の創造が可能です。多様な価値観やスキルが集まることでさまざまな視点から意見交換が行われ、新しいアイデアが生まれやすくなります。
そのため、多様な人材を持つ企業は著しく変化する消費者のニーズに対し柔軟に対応し、市場での競争力を維持することができるのもメリットです。
ダイバーシティマネジメントは、自社のマーケティング力を強化できるのもメリットです。マーケティングで重要なのは顧客を理解することであり、顧客心理を把握するための手法が欠かせません。
多様な従業員を抱える企業はさまざまな顧客の心理を理解しやすく、マーケティング手法に悩むことなく顧客理解を深め、効果的なマーケティングを行うことが可能です。
ダイバーシティマネジメントにおける課題について、詳しくご紹介します。
ダイバーシティマネジメントには組織が多様化することで、全体統制が難しくなるという問題があります。部署やチームの方向性を決めるのに時間がかかることもあります。意見の対立などで調整に手間がかかる場合があることも押さえておきましょう。
統制が取れないと、業務に支障をきたす可能性があります。従業員の勤務時間が異なることで、業務の連携を取りにくいという点もデメリットです。
価値観や言語の異なる人材が集まることで、コミュニケーションの問題が起こりやすくなるのが特徴です。異なる価値観は視野を広げるのに役立ちますが、対立や摩擦が起こる原因にもつながります。
相手に対する理解が足りないとハラスメントを生むことになり、従業員の離職につながる可能性もあります。外国人の雇用では言語の違いで意思疎通がうまくいかない場合もあり、ミスを誘発する恐れもあるでしょう。
また、働き方の多様化により働く時間や場所が従業員ごとに異なり、従業員同士がコミュニケーションを取る場所や機会が少なくなるという問題もあります。
ダイバーシティマネジメントは、多様な価値観で新しい価値を生み出せる反面、ルーティンワークが多く創造性や革新性が必要とされない職場の場合、生産性が低下する可能性があります。
意見の対立で業務がスムーズに進まなくなったり、チームマネジメントの負担が大きくなったりすることもあるでしょう。
指示通りに業務が行われないなど、コミュニケーションがうまく図れないことで起こる問題もあります。パフォーマンスを落とさないための対策が必要です。
ダイバーシティマネジメントを成功させるための6つのポイントをご紹介します。
ダイバーシティマネジメントの成功には、誰もが働きやすい職場環境の整備が不可欠です。まず、導入に際しては経営トップがダイバーシティマネジメントの重要性を明らかにし、取り組みを全社的に進めるために推進体制を構築することから始めましょう。多様な人材が活躍できるよう、人事制度の見直しや働き方改革も必要です。
管理職の行動と意識の改革も重要であり、従業員の多様性を活かせるマネージメントの育成が求められます。
職場では短時間勤務の場合の業務分担やリモートワークに備えたインターネット環境の整備など、多様な働き方に対応する体制を整えなければなりません。
多様な価値観を持つ人材が集まる職場では、意識的にコミュニケーションを行う必要があります。企業は社員同士が気軽に交流できる場所や機会を積極的に作るようにして、社内コミュニケーションを活性化させなければなりません。
社内食堂や休憩場所、ミーティング室を用意したり、社内コミュニケーションツールを導入したりするなどの対応が求められます。
ダイバーシティマネジメントを成功させるには、心理的安全性が確保されなければなりません。心理的安全性とは組織の中で、安心して自分の考えや気持ちを表明できる状態のことです。
心理的安全性が確保されているといえるには、相談や報告、情報の伝達、提案など、業務におけるあらゆる言動に不安を感じることのない状態でなければなりません。
心理的安全性の確保を意識し、誰もがストレスなく気軽に発言できる職場にしていくことが必要です。
ダイバーシティマネジメントでは、これまでの人事評価制度の見直しが求められます。人材や働き方が多様化する中でも従来の一律な基準に基づく評価制度を適用すると、評価に偏りが出て不公平な結果になってしまいます。
一人ひとりの働き方や勤務条件、業務内容を考慮した客観的な評価基準を明確化し、従業員の理解を得なければなりません。
評価制度は1on1ミーティングなど定期的な面談により、見直しをしていくことも大切です。
価値観の異なる人材が集まる職場の統制を図るには、「MVV」を策定して浸透させることが必要になります。
MVVとはミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)の略語であり、企業の価値観や存在意義を示すものです。従業員にとって企業の方向性を示す羅針盤となるものであり、全従業員に浸透させることで多様な人材が同じ方向を目指し、共通意識のもとに業務に取り組むことができます。
ダイバーシティマネジメントのメリットは多様な意見や提案から新しい創造を生み出すことであり、そのためには個人の意見が尊重される企業風土を作ることが大切です。それぞれが互いに相手を理解して受け入れ、認め合える職場でなければなりません。
そのような企業風土の醸成は自然発生に任せるのではなく、望ましい環境を構築できるよう企業側の働きかけが必要になります。
ここでは、ダイバーシティマネジメントに成功している企業の事例を3つご紹介します。
ビジネスソリューションを提供するIT企業・BIPROGY株式会社(旧名・日本ユニシス株式会社)は、多様性を受け入れる「ダイバーシティ経営」の推進と働き方改革を推進しており、経済産業省の「令和2年度 100選プライム」に選定されています。
育児・介護と仕事の両立を図るキャリア開発支援の仕組みを整備しているほか、管理職によるテーマ別研修を行い、ダイバーシティマネジメントを実践できる人材の育成を実施するなどの取り組みが評価されています。
フリマアプリの「メルカリ」を運営する株式会社メルカリは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げ、ダイバーシティ&インクルージョンを推進しています。一人ひとりの多様な経験や視点を尊重し、世界的に競争力のある組織づくりを目指す政策です。
2021年には、ダイバーシティ&インクルージョンをさらに推進するための社内委員会を設立しました。2021年1月時点では、メルカリ東京オフィスのエンジニアリング約50%が日本国籍以外の社員で構成されるなど、社内の多様化が進んでいます。
高知県高知市に本店を置く四国銀行は、多様な人材が個性と能力を発揮できる職場環境を整備するなど、ダイバーシティマネジメントを進めています。
女性従業員が活躍するために女性のキャリア形成・継続就業を支援する取り組みや、ワークライフバランスの推進、障がい者雇用の促進など、幅広い活動が特徴です。
また、働きがいのある職場環境づくりを実現するためにイクボス(部下や同僚のワークライフバランスの考え、個人のキャリアを支援する上司のこと)を推進し、管理職向けにイクボス養成講座を実施するなどの取り組みも行っています。
ダイバーシティマネジメントには全体の統制が難しいなどの課題はありますが、職場環境の整備などに取り組みを行うことで成功させることは可能です。多様性を活かしながら自社を成長させたいと考える方は、成功事例も参考にダイバーシティマネジメントを検討してみるとよいでしょう。