ジョブディスクリプションが使われるシーンは、主に求人や人事評価です。特に、仕事の範囲を明確にした採用方式であるジョブ型雇用において、職務を定義する場面で使われています。
従来、IT関連など一部の業界を除き、日本で使う機会は決して多くありませんでした。しかし、外国人雇用を進める企業が増えるにつれて、主に欧米で使われていたジョブディスクリプションが注目を集めはじめています。
日本経済団体連合会(経団連)がジョブ型雇用の活用・導入を提唱している点も、ジョブディスクリプションの日本における注目度が増している要因といえるでしょう。
参照元:一般社団法人 日本経済団体連合会「Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年2月24日 No.3534 春季労使交渉・協議の焦点〈4〉」
それぞれ確認しておきましょう。
ジョブディスクリプションには、業務の範囲や責任などが明記されているため、各従業員が行う職務をはっきりできます。そのため、職務に関するあいまいさを排除することがジョブディスクリプションを利用する目的の一つです。
ジョブディスクリプションを利用しなければ、従業員間で職務に対する認識のズレが発生する恐れがあります。結果として、業務における非効率や、従業員間のトラブルにも発展しかねません。
ジョブディスクリプションにより、企業側の求める職務が明確になるため、各従業員がそれぞれ該当するレベルに到達しているかがわかりやすくなります。そのため、適正な人事評価をすることも、ジョブディスクリプションを取り入れる目的の一つです。
基準が明確化されることで、従業員側も人事評価に対して納得しやすくなるでしょう。
ジョブディスクリプションの6つのメリットを解説します。
まず、ジョブディスクリプションにより、採用時の要件が明確になる点がメリットです。要件を明確化しておけば、求職者があらかじめ業務をイメージしやすくなるため、入社後に「こういう業務をするとは思わなかった」と後悔してモチベーションが低下することを防げます。
結果として、従業員が早期退職するリスクも軽減できるでしょう。
ジョブディスクリプションの中の項目(知識やスキル、資格、経歴など)に、自社が求める内容を落とし込みます。基本的に、求職者は記載された要件を満たすか確認した上で応募するため、ジョブディスクリプションを作成することで求める人材を採用しやすくなる点もメリットです。
求める人材を採用できれば、即戦力としての活躍も期待できるでしょう。
ジョブディスクリプションには、業務に関する事柄だけでなく、成果に応じた報酬を定めることがあります。あらかじめ定めた目標やレベルに到達したかどうかで、明確に従業員の報酬を検討できるため、評価の公平性を保てる点もメリットです。
スムーズな人事評価が可能になるため、結果として人事面における業務の効率化にもつながるでしょう。
採用のミスマッチとは、企業と求職者の間で認識のズレ(ギャップ)が生じることです。ジョブディスクリプションを作成しておけば、企業側は自社が何を求めているかを明確にでき、求職者側も自分が基準を満たしていることが説明しやすくなるため、採用のミスマッチを軽減できます。
採用のミスマッチ軽減により、企業は退職金をはじめとするコストや、新たな人材を探す手間が削減できるでしょう。
ジョブディスクリプションで各従業員の業務内容や責任範囲がはっきりとするため、都度誰の担当か確認する手間を省けます。余計な作業に手間がかからない分、各自が自分の業務に集中することで業務の効率化を図り、生産性が向上する点もメリットです。
生産性が向上すれば、そのほかにも競争力の向上やコスト削減、労働環境の改善など、企業にさまざまなメリットをもたらすでしょう。
現代社会では、テクノロジー分野を中心にさまざまな分野で専門性を問われるため、スペシャリストの人材確保が欠かせません。ジョブディスクリプションで職務に応じた高い報酬を定めておけば、スペシャリストの人材育成につながります。
ジョブディスクリプションは、もともと欧米で使われているもののため、グローバル人材の確保にも役立つでしょう。
ジョブディスクリプションを利用する前に、あらかじめ6つのデメリットを把握しておきましょう。
ジョブディスクリプションが作成されることで、従業員は記載された以外の職務を積極的に行わなくなる恐れがあります。その結果、各従業員の仕事内容に柔軟性がなくなる点がデメリットです。
従業員の仕事内容に柔軟性がないと、経済状況や業界を取り巻く環境が変わった際に対応しきれなくなる点にあらかじめ注意しなければなりません。
人事異動には、各部署の流動性を高めることによる組織の活性化や、従業員に新たな知識やスキルを身につけさせることによる人材育成の効果があります。しかし、ジョブディスクリプションはあらかじめ従業員の職務を定めてしまうため、本来の職務内容と異なる部署への人事異動をしにくくなる点がデメリットです。
また、企業の方針転換から、部署を解散した際に従業員をどうすべきかにも、頭を悩ませなければなりません。
業務範囲が制限されたジョブディスクリプションを作成すると、組織が硬直化する恐れがあります。組織の硬直化とは、各メンバーが自分の責任の範囲内でしか業務を行わないため、環境の変化が生じた際に、組織全体が十分なパフォーマンスを発揮できないことです。
ジョブディスクリプションを利用しつつ、組織の硬直化を防ぐためには、同僚間・各部署間のコミュニケーションを図る機会を増やす必要があります。
それぞれ与えられた職務で忙しければ、あえて自分に関係のない仕事に手を出そうとしません。もし割り振りに漏れがある場合、誰もその業務を遂行せず、空白が発生する恐れがある点もデメリットです。
ジョブディスクリプションを作成する際は、業務の空白を防ぐために内容を細かく定め、漏れがないようにしなければなりません。
ジョブディスクリプションを作成すると、定められた業務の範囲外での人事異動がしにくくなります。結果として専門分野においてのみ知識やスキルを身につけることとなるため、幅広く業務を遂行できるゼネラリストの育成をしにくい点がデメリットです。
ジョブディスクリプションは、スペシャリストを求める欧米型のジョブ型雇用に向いた仕組みであり、ゼネラリスト育成を前提とした従来の日本型のメンバーシップ型雇用には馴染まないことを理解しておきましょう。
一般的に、学生は十分な職歴やスキルを有していないため、ジョブディスクリプションで定める要件を満たしません。そのため、ジョブディスクリプションは、実務経験よりも個々の潜在能力をみる新卒採用に向かない点がデメリットです。
新卒採用ではなく、中途採用時からジョブディスクリプションの導入を検討した方がよいでしょう。
職種・職務名 |
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職務目的 |
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職務責任 |
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職務内容 |
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職務範囲 |
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求められる経験 |
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求められる知識 |
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求められるスキル |
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必須資格 |
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優遇資格 |
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期待される特性や行動 |
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自社でジョブディスクリプションのテンプレートを用意できるように、各記載項目内容を確認しておきましょう。
まず冒頭に、職種や職務名を記載します。具体例は、営業課長や人事部長などです。
職務目的では、自社が求める業務の目的を明確に伝えます。営業であれば、「自社製品の利便性や価値を顧客に伝えるなどの営業活動により、成果を出す」などです。
職務内容や範囲には、企業調査や営業活動、アフターフォローといった業務内容を盛り込みます。求める経験の具体例は、「営業経験5年以上」や「マネジメント経験3年以上」などです。
求められる知識やスキルには、「語学力」や「プログラミング知識」、「コミュニケーション能力」、「分析能力」などを記載します。必須資格や優遇資格に記載するのは、「TOEICー点以上」、「普通自動車免許」などの具体的な資格名です。
期待される特性や行動には、「決断力のある人物」や、「正確さを重視する人物」などを記載しましょう。
自社でジョブディスクリプションを導入できるように、フローを一つずつ確認していきましょう。
対象職務の分析をするため、まずジョブディスクリプションを作成予定の各職務の情報収集をはじめます。職務内容や責任範囲をどうするかを意識しながら、情報収集に努めましょう。
求める人材とのギャップが生じないように、ジョブディスクリプション作成前に現場の声をヒアリングしておくことも大切です。同じ部署でも職員によって考え方は異なるため、意見が偏らないように、複数人にヒアリングします。
対象職務についての情報が出揃ったら、人事や管理職(マネージャー)が中心となって、精査・分析していきます。ここでは、「なぜ」「何を」「どのように」といったポイントを意識して必要なタスクを挙げていくことがポイントです。
続いて、挙げられたタスクの必要性や優先度を話し合い、対象職務の具体的な業務内容やスキルなどをまとめます。判断が偏らないように、対象分野の専門家や関連部署の管理職にも意見を尋ねることが大切です。
精査・分析した情報から職務内容や責任などを書類にまとめましょう。
一般的に、ジョブディスクリプションでは、一職務あたりA4用紙1枚に記します。事前に多くの情報が集まっていたとしても、読みやすいように要点をまとめて簡潔に記すことがポイントです。
最後に、完成したジョブディスクリプションに対し、部門の責任者などのチェックを受けます。
ジョブディスクリプションの主なメリットは、採用時の要件が明確になる点やスペシャリストの人材育成につながる点です。一方で、人事異動がしにくい点やゼネラリストの育成はしにくい点がデメリットとして挙げられます。
ジョブディスクリプションの特性を理解した上で、採用や人事評価に活用していきましょう。