人材要件とは、会社が求める人材の条件を言語化したものです。人材要件を作成することは、採用ミスマッチの防止や再現性の高い採用につながります。本記事では、人材要件が採用活動に必要とされる理由や作成方法について解説します。
1.人材要件とは?
「人材要件」とは、企業の理念や目標を達成するために必要なスキルや経験、考え方といった条件を明確にしたものです。人材要件を明確にすることで、どのような人材を採用したいのか把握できるため、共通認識を持って採用活動を進めることが可能です。
「ペルソナ」と混同されるケースがありますが、人材要件とペルソナは異なります。ペルソナとは、人材要件よりさらに詳細に条件を設定することで人物像を作り上げたものです。人材要件は必要な条件を設定した段階です。設定した条件の細かさが人材要件とペルソナの違いといえます。
2.人材要件が必要な理由
人材要件が必要な理由には、人材の獲得競争が激しくなっていることが挙げられます。総務省によると、経済成長と労働参加が適切に進んだ場合でも、2015年から2030年の間に就業者数が161万人減ることが予測されています。就業者数が減少すれば、優秀な人材を獲得できるチャンスが限られるでしょう。
優秀な人材を獲得するためにも、どのような人材が必要なのかを整理し、ターゲットに対して採用活動を進める必要があります。ここでは、人材要件が必要な理由について解説します。
参照元:総務省「自治体戦略2040構想研究会(第6回)」
2-1.経営戦略と連動できる
経営戦略と連動した採用活動を進めるためにも、人材要件が必要です。企業の資源とされている「ヒト・モノ・カネ・情報」の中でも、「ヒト」は「他の資源」を扱うことができる唯一の資源です。
経営戦略に合わせた人材を獲得できれば、企業のビジョン実現や目標達成に近づけます。企業が求める条件に該当する人材を獲得できるかどうかが経営のカギを握ります。人材要件を作成することは、経営戦略の一つといえるでしょう。
2-2.採用ミスマッチを防止できる
人材要件があることで、採用ミスマッチの防止につながります。人材要件がない場合、時間をかけて採用した人材が早期退職に至るケースがあります。これは、会社が求める条件と人材が持っているスキルや経験、考え方が一致していないことが理由です。
人材要件が明確であれば、条件を絞ったうえで自社に適した人材を採用できるため、採用ミスマッチのリスクを減らすことができます。採用ミスマッチの防止により、早期退職も抑制できるでしょう。
2-3.客観的な判断で採用できる
人材要件がない場合、担当者の主観的な判断で採用を決めるしかありません。募集活動を進める際も、どのような人物をターゲットに向けていいのかわからないため、自社に適した人材が集まりにくくなります。
人材要件があればターゲットが明確になり、求めている条件を持った人材に対して募集活動の実施が可能です。採用時も人材要件をもとにすることで、客観的な判断ができます。狙った人材を客観的な判断で採用できるため、採用活動の再現性が高まるでしょう。
3.人材要件作成時に事前に整理しておくべき項目
人材要件には整理しておきたい項目があります。特に中途採用の場合、労働条件や知識、スキルはもちろん、職務経験や考え方を整理することで必要な人材が明確になります。必要な人材が明確になれば、ターゲットに向けた募集活動ができるため、効率的な採用活動を行えるでしょう。
ここでは、人材要件の作成時に整理しておきたい項目について解説します。
3-1.労働条件
人材要件で整理する項目として労働条件が挙げられます。労働条件とは、給与や勤務時間だけでなく、休暇制度や手当、福利厚生のことです。給与や勤務時間は明確になっていても、職種ごとの想定残業時間や業務内容を明確にしていない企業もあります。
退職の原因として、労働条件の不一致が存在します。労働条件を重視する方は、就職したものの「事前に聞いていた条件と異なる」と感じることで、退職を考えてしまう傾向があります。早期退職のリスクを減らすためにも、労働条件を明確にしましょう。
3-2.知識やスキル
知識やスキルも人材要件に欠かせません。どのような職種でも、必要な知識やスキルが存在します。専門性の高い業務であれば、資格や経験が必要な場合もあります。特に即戦力になる人材を求めている場合、知識やスキルを明確にしていなければ、自社の基準を満たさない人材が応募してくる可能性があります。
その場合、採用にかかる時間を浪費することになり、効率的とはいえません。効率的な採用活動にするためにも、知識やスキルを明確にすることが大切です。
3-3.職務経験
知識や経験だけでなく、職務経験も人材要件に必要な項目です。業務の品質には、これまでの職務経験が影響します。即戦力を求めているのであれば、同じ職種や業界での勤務経験がある人材を採用したいと考えるケースが多いです。
事務職や営業職、技術職といった職種だけでなく「どのような企業に勤めてきたのか」「どのような立場を務めてきたのか」「何年勤務したのか」を定義することで、必要な職務経験が明確になります。自社が求めている業務や職種に対し、どのような経験が必要なのかを整理して求める職務経験を明確にしましょう。
3-4.考え方
どのような考え方を持っている人材が必要なのかを整理することも大切です。「志向性」とも呼ばれ、仕事に対して「安定性を求めるのか」「キャリアアップを求めるのか」といった考え方を整理することで、採用後のミスマッチを防ぐことができます。
採用活動では、適性検査で志向性を測る企業も見受けられます。募集職種だけでなく状況によっても必要な志向性は異なるため、自社の状況を整理し、どのような考え方を持つ人材が必要なのかを整理しましょう。
4.人材要件の作り方の手順
人材要件を作る際は、単に条件を書き出せばいいというわけではありません。正しい手順を踏むことで、効果がある人材要件を作成できます。経営戦略と連動させるためにも、自社の企業理念や方針を確認したうえで作成することがポイントです。
ここでは、人材要件作成時の基本的な手順について解説します。
4-1.自社の企業理念や方針を確認する
前述したように、人材要件を経営戦略と連動させることで、企業のビジョン実現や目標達成に近づけます。人材要件の作成前に、自社の企業理念や方針を確認することが大切です。確認しないまま人材要件を作成すれば、経営方針と連動できず、採用のミスマッチが発生する可能性があります。
今後の企業方針を見失わないようにするためにも、企業理念や方針を理解することが、人材要件の作成にとって重要です。
4-2.採用したい職種の業務内容を洗い出す
企業理念や方針を確認できたら、採用したい職種や部署の業務内容を洗い出します。この際、採用担当や経営層だけで業務内容を整理することは避けましょう。現場と採用担当の間で、業務内容の認識に差異があることは珍しいことではありません。
採用担当や経営層だけで業務内容を整理した場合、現場との認識が異なる解釈をし、結果として現場に適さない人材を採用するケースが起こりえます。現場にヒアリングを実施し、「どのような業務内容か」「どのような人材を求めているのか」といった生の声を聞いたうえで業務内容を整理しましょう。
4-3.求める人材の条件を洗い出す
採用したい職種の業務内容を整理したあとは、求める人材の条件を洗い出します。この段階では、企業理念や方針、現場でヒアリングした情報から、求める人材の条件を書き出します。条件が多すぎても構いません。
採用担当側として求める条件があれば、その条件も書き出します。不足している情報や曖昧な情報がある場合は、再度ヒアリングを実施し、不明点がないようにしましょう。
4-4.求める条件に優先順位をつける
求める人材の条件を書き出したあとは、その条件に優先順位をつけることで、条件を整理していきます。優先順位をつけることで条件が整理され、採用時に客観的な判断ができます。
必要な条件は「MUST」、望ましい条件は「WANT」といったように分類しましょう。条件が多すぎる場合は削除しても構いません。書き出したものの、内容が類似した条件があれば整理します。できるだけ項目数を減らすように意識することがポイントです。
4-5.期待行動を整理する
最後に「期待行動」を明確にすることで、人材要件が完成します。期待行動とは、人材に期待したい行動のことです。期待行動を整理することで、どのような考え方を持った人材が欲しいのかが明確になります。
業務内容や求める条件をもとに、「どのような行動を起こしてほしいのか」「どのような意識で仕事をしてほしいのか」を整理しましょう。
5.人材要件を作成する際のポイント
人材要件は基本的な流れに沿って作成することが大切です。さらに、細かい条件設定を避けることや工数を確保すること、新卒採用や中途採用といったターゲットごとに人材要件を使い分けるといったポイントを押さえることで、より効果的な人材要件を作成できます。
ここでは、人材要件を作成する際のポイントについて解説します。
5-1.細かい条件設定は避ける
人材要件を作成するときのポイントとして、細かい条件設定を避けることが挙げられます。条件設定が細かい場合、その条件を満たす人材が限られてしまいます。応募してくる人材の母数も減るため、優秀な人材と出会える可能性を減らすことになるのです。
また、条件が細かければ、その条件を満たしているかどうか確認する時間も必要です。効率的に採用活動を進めるためにも、求める条件に優先順位をつけるとともに、条件の数が多くなりすぎないようにしましょう。
5-2.人材要件を作成する工数を割く
人材要件を作成する工数を確保することもポイントです。採用担当者の中には、他の業務と兼務していることを理由に、採用活動に割く工数が不足しているケースがあります。この場合、人材要件を作成する工数が確保できず、納得できるものを作成できないという問題が生じてしまいます。
しかし人材要件が適切でない場合、採用ミスマッチが発生し、早期退職や現場の混乱といった問題に発展しかねません。人材要件の必要性を会社として認識したうえで、基本的な流れに沿って作成工数を確保しましょう。
もし工数が確保できないのであれば、外注の利用も一つの手段です。採用計画から、入社後のフォローまでサポートするサービスもあるため、利用を検討してみましょう。
5-3.条件の優先度は新卒採用と中途採用で変更する
人材要件は、新卒採用と中途採用で使い分けることもポイントです。中途採用の場合、即戦力としての採用を考えている企業が多い傾向があります。一方、新卒採用では即戦力ではなく、中長期的に戦力になるように教育することを前提に採用を考えている企業がほとんどです。
そのため、人材に求める条件や優先度が、新卒採用と中途採用で異なります。人材要件は1つでなければならないわけではありません。ターゲットごとに使い分けることで効果を発揮します。新卒と中途に限らず、ターゲットが複数ある場合は、ターゲットごとに人材要件を作成しましょう。
6.人材要件を整理して採用ミスマッチを防止しよう
人材要件とは、企業の理念や目標の達成に必要なスキルや経験、考え方といった条件を明確にしたものであり、作成することで共通認識を持った状態で採用活動に取り組むことができます。
人材要件の作成が求められている理由には、人材の獲得競争が激しくなっていることが挙げられます。優秀な人材を獲得するためにも、人材要件を整理し、そのターゲットに対して採用活動を進めていくことが必要です。
なお、人材要件には、労働条件や知識、スキルはもちろん、職務経験や考え方といった項目が挙げられます。ただし、単に条件を書き出せばいいわけではありません。基本的な流れを守ったうえで作成することで、精度が高い人材要件になります。
細かい条件設定を避けることや、工数を確保すること、ターゲットごとに人材要件を使い分けるといったポイントを押さえることも大切です。人材要件を整理し、採用ミスマッチを防止しましょう。