サクセッションには「継承」「連続」という意味があり、サクセッションプランは事業を継承するための人材計画といえるでしょう。
ここでは、サクセッションプランの目的や人材育成との違い、後任登用との違いについて解説します。
サクセッションプランの目的は、正しい経営判断をできる人材を育てることです。会社では、さまざまな状況で判断を求められます。大きなプロジェクトであるほど、判断によって業績が変わってくるでしょう。
すべての状況で経営者が判断できればいいかもしれませんが、会社の規模が大きければ、すべての判断を経営者がすることは現実的ではありません。幹部やその候補に該当する役職の人材が、判断を下すことになります。
しかし、判断をする人材が力不足の場合、業績を落とすばかりか、会社に対する信頼までなくすことにもなりかねません。継続して事業を続けていくためにも、経営者と同レベルの判断ができる人材を育てることが必要です。
人材育成との違いは、育成対象となる範囲です。人材育成の対象者は従業員全員です。管理者層や人事部が主導して、従業員が成長するための施策を打ちます。
一方、サクセッションプランの育成対象は幹部候補生です。経営層の主導により、経営するうえでの考え方や判断基準を教育します。指導者や指導を受ける対象者の違いが、サクセッションプランと人材育成との違いです。
従来の後任登用との違いは、選び方と育成期間です。後任登用は、直属の部下から後任となる人材を選びます。既に育った人材から後任に相応しい人材を選ぶため、長期的に育成することはありません。
一方でサクセッションプランは、経営理念や経営戦略を理解できる人材をリストアップし、その人材を長期的に育成します。選択肢となる人材の範囲が広いため、部長ではなく課長が選ばれる可能性もあります。
後任の対象範囲の違いが、サクセッションプランと従来の後任登用との違いになります。
そのため、サクセッションプランの候補となる人材の人選は、慎重に行う必要があります。
サクセッションプランのメリットとしては、組織全体の活性化と企業文化の維持が挙げられます。後任候補となる対象者を決める基準が役職ではないため、優秀な人材のモチベーション向上に期待できます。
役職に関係なく、優秀な人材のモチベーションが上がれば、組織の活性化にも効果的です。
また候補者は、経営理念や経営戦略を理解している人材が対象です。そのため、突然の経営陣変更の事態になった場合でも、これまでの経営理念や経営戦略に沿った経営を期待できます。企業文化も、おのずと引き継がれることになります。
サクセッションプランのデメリットとしては、育成コストがかかることです。サクセッションプランの育成期間は1~数10年の長期間で考えます。育成期間がかかれば、当然育成に対するコストも増大します。
途中で候補者が辞退するケースや、退職するケースもあります。その場合、それまで育成にかけたコストも無駄です。ただし、経営層の判断は会社の未来を左右するため、コストをかけるだけの価値があるともいえるでしょう。
また、計画通りに進めるだけではなく、進捗の確認や計画の見直しといった対応も必要です。ここでは、サクセッションプランの作り方と実行時の注意点について解説します。
サクセッションプランを作る際は、はじめに中長期戦略とビジョンを明確にします。自社の経営理念や経営の軸となるサービスを確認し、自社を取り巻く環境と比べながら今後の方向性や戦略を決定します。
企業文化や強みから今後の予測を立て、「何を守るのか」「何を変えるのか」を見極めることがポイントになるでしょう。
中長期戦略とビジョンを明確にしたら、サクセッションプランの対象となるポジションを定めましょう。
代表取締役のみを対象にするのか、部長クラスまでを対象にするのかによってもプランの内容が変わります。中長期戦略で重要と考えられるポジションと、その役割を明確にすることが必要です。
既存のポジションや役割にこだわるのではなく、あくまでも「自社の戦略に必要な役割は何か?」という視点で考えましょう。
サクセッションプランの対象となるポジションを決めたら、各ポジションの人材要件を決めます。曖昧な定義ではなく、どのような能力がどのレベルまで必要なのかを具体的に決めましょう。
一般的には、以下のような項目が挙げられます。
この人材要件をもとに、育成計画の内容が決まります。育成の進捗度を確かめるためにも、項目に対して、定量的に判断できる指標を設けることがポイントです。
人材要件を決めたら、候補者の選出に進みます。候補者は、対象ポジションの次の階層にいる人材から選ぶ必要はありません。長い目で育成することを前提とし、「人材要件を満たす可能性があるか」「成長する可能性があるか」といった視点で選出しましょう。
論文や面接といった試験方式だけでなく、ロールプレイングやディスカッションといった多角的に評価できる方法を取り入れることで、人材を見極めることも可能です。
また、忘れてはならないのが本人の気持ちです。自社を引っ張っていく気持ちや、従業員を守る気持ちがなければ、経営者は務まりません。気持ちを持っているかどうかを見極めたうえで、候補者を選出しましょう。
候補者を選出したら、育成計画を立てます。育成計画には、外部機関を利用した経営学の知識習得や、海外への派遣を通したアクションラーニングのほかに、自社内の知識をつけることを目的とした配置転換も一つの方法です。
ただし、強化が必要な能力や伸ばしたい特性は、個人によって異なります。一人ひとりの特性を見極め、候補者ごとに計画を立てましょう。
計画実行中は、進捗の確認を忘れないようにしましょう。計画通りに進んでいない場合、対策が必要です。定期的に進捗確認することで、遅れが発生した場合でも、速やかに対応できます。
進捗を確認する担当を、決めておくことも大切です。通常の人材育成であれば、上司や人事部が対応します。しかし、サクセッションプランは幹部の育成です。幹部や顧問といった、経営に関する能力を持った方が対応できるようにしましょう。
計画を進めるうえで大事なことは、必要に応じて計画の再構築をすることです。育成計画は、中長期的な経営戦略をもとに立てます。そのため、経営戦略が変更となった場合や、育成を進めるうえで発覚した問題点があれば、速やかに育成計画の見直しが必要です。
計画の見直しは、施策の追加や削除といった柔軟な対応が必要です。PDCAサイクルを回しながら、効果的な人材育成を進めましょう。
サクセッションプランへの取り組み方には正解はありません。企業によって重要視するポイントは異なるため、事例を参考にしながら自社にあった方法で取り組むことが重要です。
花王では、基幹人材の育成に取り組んでいます。候補者を、Ready Now・Ready Soon・Mid Termの3クラスに分けて設定し、名簿を作成しています。
Ready Nowは今すぐに後任となれる人材が対象で、レベル的には最も高いクラスです。Ready Soonは1~3年、Mid Termは3~5年で後任となれる人材が対象となっています。
クラスごとに育成内容が異なるだけでなく、360度評価やコーチングを取り入れることで、一人ひとりの特性や進捗に合わせた育成になっていることが特徴です。
花王は、人材育成の進め方にこだわった事例といえます。
日産自動車は、役員で構成する人事委員会を立ち上げ、サクセッションプランを実施しました。人事委員会には、CEOも参加しています。
任命されたキャリアコーチが世界各地の会議に自由に参加することで、グローバルに活躍できる可能性があるリーダー候補を見極めました。そこで目にかなった人材を、人事委員会に提案しています。
日産自動車は、候補者の選出方法にこだわった事例です。
カゴメはキーポジションの選定と、人材要件やキャリアパスの明確化に取り組んでいます。役割と必要な能力を明確にすることで、現任者と候補者のレベル向上を図っています。
候補者の選出方法として、外部取締役の意見を重視していることが特徴です。外部取締役の承認がなければ、候補者は決まりません。それにより、候補者の選出が独善的になることを防止できる仕組みを構築できています。
また、採用の段階で会社方針や制度、展望について説明していることも特徴です。カゴメでのキャリアパスを描いた状態で入社してもらうことで、自身の価値観とのミスマッチが発生しない仕組みになっています。
カゴメは、公正な候補者選出とキャリアパスの明確化にこだわった事例です。
組織の活性化や企業文化の維持といったメリットがある反面、育成コストがかかることは大きなデメリットといえるでしょう。
サクセッションプランを進めるうえでは、中長期経営戦略やビジョンを明確にすることからはじめます。それに向かって必要な役割や人材要件を決めることで、育成対象となる人材を選出できます。進捗の確認や、計画の見直しをしながら計画を実行することもポイントです。
自社の経営戦略を明確にし、戦略に適した人材を見極めることで、事業継承につなげましょう。