HRBPとは、経営者や事業責任者の相談役となり戦略人事を行う機能です。変化の激しい時代に事業戦略を人事面から支え、経営層をサポートします。本記事ではHRBPの内容や求められる背景、仕事内容、必要とされるスキルなどをご紹介します。
1.HRBPとは?
「HRBP」とは「Human Resource Business Partner」の略で、人事機能の一つです。経営者や事業責任者のパートナーとなる機能集団であり、会社の成長を人事面からサポートします。人事はただ事務処理をする部門というだけでなく、経営者の意思決定に影響を与える存在であるという考えから提唱された機能です。
ここではHRBPの意味や4つの役割、従来の人事との違いなどをご紹介します。
1-1.経営者や事業責任者を支える人事機能
HRBPとは、経営者や事業責任者を支えるパートナーとなり、事業の成長のために戦略的人事を遂行する存在です。従来の人事部門が採用活動や労務管理などを担当するのに対し、HRBPは経営の視点に立って人事戦略を立案し実行する役割を担います。
主に欧米の企業で採用されている機能ですが、日本でも注目を集め、取り入れる企業も増えています。
1-2.ウルリッチ氏の提唱
HRBPは、ミシガン大学教授のウルリッチ氏が提唱した概念です。1997年に出版された著書「MBAの人材戦略」の中で、これからの人事が果たすべき役割の一つとして紹介されています。
著書ではHRBPについて、営業部門などの現場に近い場所にいながらさまざまな課題に対し人事の視点から問題解決を図る機能だと説明しています。
1-3.HRBPモデルの4つの役割
ウルリッチ氏はHRBPが企業経営に果たす役割として、以下の4つをあげています。
- 戦略実現パートナー
- 管理エキスパート
- 従業員チャンピオン
- 組織改革
1番目の「戦略実現パートナー」とは、戦略人事を実現するために経営者や事業責任者に寄り添うパートナーとしての役割です。事業戦略に基づき、人事戦略を策定して実現します。
「管理エキスパート」は従来の労務管理にあたる役割で、従業員の能力や評価をデータ化し、優秀な人材を発掘する仕組みを作ります。
「従業員チャンピオン」は、従業員のモチベーションを高め、メンタルケアなどの支援をする役割です。企業の戦略や経営課題を伝える役割も果たします。
「組織変革」は、企業の目標に合う人材の育成や組織変革を行うという役割です。
HRBPは経営者や事業責任者のよき相談相手となり、経営課題の相談を受け正しい判断へと導きます。
また、従来の人事ではなしえなかった攻めの人事を行えるというメリットもあるのです。年功序列制のもとでは取り入れにくい優秀な若手人材の登用も、HRBPによる人事であれば重要なポジションに登用することも不可能ではありません。
1-4.従来の人事との違い
HRBPは人事機能の一つですが、従来の人事とは異なります。これまでの人事は、各部門の業務を継続維持させるために人材や制度などを管理することが主な機能でした。
従業員が離職した場合には補充するための採用活動を行い、採用した人材の教育・育成を担当します。いわば守りのための機能といってよいでしょう。
これに対しHRBPは、経営者の視点に立ち会社の業績を伸ばすための採用や育成、異動などの人事活動を行います。さらに、部門の問題解決やコンサルティングを行うなど、積極的な人事機能を持っているのです。
1-5.CHRO、CoEとの関係
人事に関わる経営幹部に「CHRO」があります。「Chief Human Resource Officer」の略で、「最高人事責任者」という意味です。
経営陣の一人として戦略人事を行い、人事に関する業務全般に責任を持ちます。CHROが執行役員であるのに対し、HRBPはコンサルタントのような立ち位置で人事マネジメントを行うビジネスパートナーという点が、両者の違う点です。
また、HRBPと似た立場に「CoE」があります。CoEは「Center of Excellence」の略で、組織を横断する取り組みを継続的に行う際に中心となる部署や拠点のことです。
HRBPが現場で問題解決を行うのに対し、人事における各領域の専門機関であるCoEが各領域で行う業務を通じ、HRBPをサポートするという関係性にあります。
2.HRBPが求められる背景
HRBPはもともと欧米の企業で多く導入されている機能ですが、近年は日本でも注目を集めています。HRBPが求められている背景として考えられるのは、少子高齢化による労働力不足の影響です。
変化の激しい社会情勢や人材獲得競争の激化により、従来の守りによる人事ではなく、HRBPによる戦略人事が求められています。戦略人事では人材を経営上重要な資源の一つと考え、経営目標を達成するためのマネジメントを行うのです。
3.HRBPの仕事内容
HRBPが行う主な仕事は、人事戦略の立案です。経営者の立場に立って目標達成のためにはどのような人材が必要かを考え、戦略人事を実現させるための計画を策定します。
また、経営層と現場の橋渡しも行い、現場の声を届けて改善につなげることもHRBPの役割です。
ここでは、HRBPが行う主な仕事内容について詳しくみていきましょう。
3-1.人事戦略を立案する
HRBPの仕事における最大の目的は、業務効率を高めて経営目標を達成することです。そのための具体的な仕事が人事戦略の立案です。
戦略人事では経営目標の達成と人材のマネジメントには深い関係があり、HRBPは経営層のパートナーとして、目標達成のためにはどのような人材や組織が必要かを考えます。
HRBPは人事戦略の立案と実行を行いながら、コンサルティングやカスタマイズ、ロールモデルという3種類の役割を同時に担います。
コンサルティングとは、事業部門のリーダーへのコンサルティングを通じた問題解決やコーチングであり、カスタマイズとはCoEが企画した人事制度や施策を担当部署へスムーズに導入することです。また、自らがロールモデルとなり組織の変革をリードすることもあります。
3-2.経営陣と現場社員をつなぐ
HRBPは経営陣と現場との橋渡しも行います。経営の目標や人事戦略は組織全体に浸透して初めて効果を発揮するもので、HRBPはその役割を担うのです。
また、現場のリアルな声を集め、経営層に届けることもHRBPに期待される役割の一つでしょう。
時には戦略を見直し、これまでの組織の在り方を変えるため経営陣から従業員に向けて指示が出ることもあります。その情報を伝達して、現場の理解を得るのもHRBPの仕事です。
4.HRBPを導入する方法
HRBPを導入するにはいくつかのステップを踏むことが大切です。まず、HRBPの役割を明確にすることから始めます。今後の事業環境や経営戦略を検討し、人事戦略をまとめて実行体制を整えることが必要です。戦略を実行する体制を整えたら、トライアルをして実効性を確かめます。
HRBPを導入する方法について、順に説明していきましょう。
4-1.HRBPの役割を明確にする
事業戦略に基づき戦略人事を行うHRBPの業務は、それだけでは抽象的になりがちです。そのため、HRBPを導入する際は経営層が具体的にどのようなサポートを求め、それを受けてHRBPがどのような役割を担うのかを明確にする必要があります。
HRBPが関わる領域を具体化することで、その後の方針や施策も決定しやすくなるでしょう。
4-2.人事戦略をまとめる
HRBPの役割を明確にしたら、人事戦略のまとめに入ります。今後の経営戦略を検討し、どのような人材や組織が必要なのかを考えましょう。
採用活動はただ人材を確保することを目的にするのではなく、目標達成に向けて育成を含めた計画を策定します。これら人材と組織に関する戦略を、2〜3年の中長期的な計画としてまとめることが必要です。
4-3.実行体制を整え、トライアルを行う
人事戦略のまとめを完了したら、戦略を実行する体制を整えます。現行の人事部体制で実施できるか、各部門にHRBPを設置するかを検討しましょう。HRBPが本当に必要という結論が出たら設置を決め、まずはトライアルを実施します。
トライアルにより各部門とHRBPが信頼関係を築くことができたら、目標達成に向けて本格的な運用を開始しましょう。
5.HRBPに求められるスキル
HRBPを務めるには、必要なスキルがあります。前提として、人事領域における実務経験があることは欠かせません。人事におけるさまざまな問題の解決を行うために必要な知識や経験が求められ、少なくとも人事部門で5年以上の経験が必要とされるでしょう。
さらに、経営者的な知見やコミュニケーション能力など、求められるスキルがあります。詳しくみてみましょう。
5-1.経営者的な知見やビジネス感覚
HRBPは経営層と同じ目線で人事戦略を立案するため、経営者的な知見やビジネス感覚が求められます。ビジネスの変化に対して常に最新の情報収集を怠らず、市場や会社の状況を把握することも必要です。
また、業界や会社独自の文化を熟知しており、事業に対する深い理解と洞察力があること、経営陣と対等の立場で議論できることも求められるでしょう。
5-2.高いコミュニケーション能力
HRBPは経営層と現場をつなぐ役割を果たすため、高いコミュニケーションスキルが必要です。現場の社員との信頼関係を築き、現場のリアルな意見に耳を傾けて汲み取る能力が求められます。
現場社員の意見を経営層に伝え、必要があれば解決策を提案していくこともコミュニケーション能力の一つとして必要になるでしょう。
5-3.課題分析力やリーダーシップ
効果的な人事戦略を立案して実行に移すためには、会社が抱える課題を見つけて分析し、解決策を見つけるスキルがなければなりません。一般的な解釈で問題を解決するだけでなく、革新的な解決案を生み出す能力も求められます。
また、組織の改革が必要なときはリーダーシップを発揮し、経営層や従業員の意見をまとめて改革の実現に向けた舵取りができるスキルも必要といえるでしょう。
5-4.必要とされる資格
HRBPとして働くために特別な資格は必要ありませんが、あれば便利な資格はあります。人事・総務に関する資格として、以下の資格を取得しておけば人材マネジメントに役立つでしょう。
- キャリアコンサルタント
- ビジネスキャリア検定
- メンタルヘルス・マネジメント検定
- 産業カウンセラー
また、資格ではありませんが、取得しておくとHRBPに役立つのがMBAです。日本では経営学修士とも呼ばれ、経営学の大学院修士課程を修了すると授与される学位です。経営者の立場として、ビジネス全体を捉えるスキルが身につきます。
6.HRBPを成功させるポイント
HRBPは経営者と現場を橋渡しする役割があり、HRBP導入を成功させるには各部門との信頼関係を築くことが大切です。信頼関係を構築できなければ現場の本音を汲み取れず、問題解決に導けないでしょう。
信頼を築くことで経営層と各部門が一つになって問題を解決し、目標達成へと向かうことができます。
また、HRBPは経営者の視点に立って現場の声を経営に反映させる役割があります。そのため、経営層の意見に同調するのではなく、現場の代表として時には異を唱えることも必要です。
ちなみに、HRBPに求められるスキルをすべて備える人材はまだ少ないといえるでしょう。社内で育てていく場合は、まずHRBPを部分的に導入し、スキルアップしながら取り組んでいく方法もあります。
まずは優先して行う役割を決め、経営とリンクする小さな課題を担当しながら少しずつノウハウを蓄積していくとよいでしょう。
7.HRBPを導入して攻めの人事をしよう
HRBPは経営層のパートナーとなり、事業戦略を達成させるための攻めの人事を行う機能です。近年の日本は深刻な人材不足を受け、従来の守りの人事ではなく、経営者の視点に立った積極的な人事機能が求められています。
HRBPを導入する際はまず役割を明確にし、人事戦略をまとめて体制を整えるなどの手順を踏まなければなりません。実施にあたってはトライアルを行い、現場との信頼関係を築いてHRBP導入を成功させましょう。