採用業務とは人材を確保するために行う一連の業務のことで、企業の事業計画を実現するために重要な仕事です。採用活動の成功には、採用業務の効率化が欠かせません。
採用業務の効率化を考えるにあたり、まずは採用業務の基本的な流れを押さえておきましょう。
採用業務のフローは、以下の4つに分けられます。
それぞれの段階ごとに、詳しい内容をご紹介します。
採用業務の計画段階では、まず採用戦略の立案と採用計画の策定から始めます。
採用戦略で決定するのは人材の要件です。事業計画や経営方針をもとに、自社が求める人物像を設定します。ここで求める人材の要件をすべて必要とすると、適用範囲が狭くなって採用活動が難しくなる可能性があります。そのため、人材の要件は絶対に欠かせない「必須要件」と、あれば望ましい「歓迎要件」に分けるとよいでしょう。
また、ミスマッチを防止するため、ないほうが望ましい「ネガティブ要件」を設定しておくのもおすすめです。
採用戦略と人材要件を設定したら、採用計画を策定します。決めるのは以下の事項です。
スケジュールは、人員の配置が必要な時期から逆算し、逆算して割り出します。
求職者に自社をアピールをして母集団を形成するため、自社の採用サイト・求人媒体などで募集要項を公開します。その際は、ただ求人情報を掲載するだけでなく、オンラインも含めた会社説明会への申し込みも誘導するとよいでしょう。会社説明会では求人広告では掲載しきれない自社の魅力や抱えている課題を伝えることができ、自社への理解を深めてもらうことが可能です。
求人情報を一般には掲載せず、求人サイトや人材紹介サービスの非公開求人を利用する方法もあります。非公開求人では新規プロジェクトの人員募集など公開したくない内容でも採用活動を進めることができ、自社が求める人材に近い求職者に絞ってスカウト・紹介できるのがメリットです。
採用手法にはトレンドがあり、企業側からアプローチするダイレクトリクルーティングやSNSを活用したソーシャルリクルーティング、社員から人材を紹介してもらうリファラル採用などを利用する企業も増えています。現在の採用手法で成果がない場合は、試してみるのもおすすめです。
応募者が集まったら、選考を実施します。書類選考や適性検査、面接などを行い、内定者を決定するという流れです。書類選考では志望動機やスキル、自社とのマッチ度などをチェックし、適性検査では面接でわかりにくい部分をデータ化します。適性検査は、応募者が多いとき、面接に進む人員を絞り込むために実施することもあります。
選考で重要なことは、明確な評価基準の設定です。判断にばらつきがないよう、担当者間における認識の擦り合わせが欠かせません。
選考は会社が人材を見極める場所ですが、応募者が企業を判断する場所でもあります。そのため、面接では自社について説明し、魅力をアピールすることも大切です。
採用活動では内定後のフォローが重要です。内定を受けた応募者は入社への不安を感じることもあり、適切なフォローがないと辞退される可能性があります。
定期的に連絡をとり、こまめにコミュニケーションしていくことが大切です。
内定者フォローとして、既存社員との座談会や社内イベントに招待し、社員との交流を促す方法があります。社員との交流で職場の雰囲気に触れることができ、入社後の不安も解消できるでしょう。
内定者懇親会や内定者研修会を開催すれば、内定者同士で交流でき、お互いに相談し合いながら入社への意欲を高めることもできます。
また、人事との面談を行い、疑問や不安を解消してもらう方法もおすすめです。
採用業務は人材が入社して終わりではなく、採用後のフォローである「オンボーディング(on-boarding)」も重要です。オン・ボーディングとは、新入社員が早く職場に馴染み、能力を十分に発揮できるようにするために企業が行う取り組みであり、人材の定着・戦力化に欠かせません。
適切なオン・ボーディングを行わずに新入社員が能力を発揮できない場合、人材の早期離職につながる可能性もあります。
オン・ボーディングは人間関係の構築や企業文化の浸透など、社内の環境全般に馴染むためのサポートです。OJTやメンター制度、1on1ミーティング、歓迎会など広範な活動を含み、全社員・役員を巻き込みながら継続的に実施します。
採用業務の効率化が必要な理由は、自社が求める優秀な人材をできるだけ少ない工数で採用するためです。また、人事部の人員が限られる職場では、担当者の負担を軽減する目的もあります。
採用業務の効率化が求められる理由を4つご紹介します。
採用業務の効率化は、人事担当の負担を軽減するためです。採用業務のフローでも見たように採用業務の工数は数多く、特に選考は複数回にわたって行われます。
採用時期は人材育成や労務管理の業務と同時並行する場合もあり、人事部の人員が少ない職場では採用活動に専任できない場合もあります。担当者の負担を軽減するためにも、採用業務の効率化が欠かせません。
採用業務の効率化は、採用の質を上げるための活動に割く時間を確保するためです。採用の質を上げるには、これまでの手法を変えたり新しい手法を取り入れたりなどが必要になることもあり、それらはどうしても手間や時間がかかります。
優秀な人材を採用するためには欠かせない工程であるため、取り組みの時間を捻出するには採用業務の効率化が必要です。
採用活動には多くのコストがかかりますが、採用業務の効率化は採用コストの削減につながります。
自社だけで採用活動を行えばコストをかけないことも可能ですが、それで優秀な人材を確保できるとは限りません。必要な採用人数を確保するには外部の業者を利用しなければならない場合もあり、その際は高額なコストがかかります。また、会社説明会の会場費やパンフレットの印刷費などの支出もあります。
少しでもコストを抑えるには、業務の効率化が必要です。効率化により採用活動期間を短縮すれば、人件費を抑えることができます。また、効率化により内定までの期間が短くなれば、内定辞退者を減らすことも可能です。内定辞退者が減ることで再度採用活動をしなくて済み、コスト削減を実現します。
採用業務の効率化は優秀な人材確保のためにも必要です。少子高齢化による労働人口の減少で採用市場には優秀な人材が少なく、人員確保の競争が激化しています。
採用を効率化してスピードを早めないと、優秀な人材は他社に流れてしまいます。少しでも採用活動の工数を減らして選考を早め、優秀な人材を確保することが必要です。
採用業務を効率化するにあたり、克服すべき課題は少なくありません。応募者とのコミュニケーションをこまめに取らなければならず、システム化できない業務も多々あります。
また、新しい取り組みをする際は、どうしても手間や時間がかかるものです。
ここでは、採用業務の効率化で考慮すべき点を解説します。
採用業務では応募者とのコミュニケーションが大切です。採用業務を効率化するといっても、応募者をフォローするための丁寧なコミュニケーションを省くことはできません。
求人媒体との間でも、コミュニケーションが必要です。担当者と連絡をとりながら募集要項の情報を定期的に更新しなければなりません。
採用活動では他部署の協力も必要であり、社内コミュニケーションも求められます。面接官となる社員や役員、進捗状況を報告する人事の管理職とのコミュニケーションが必要です。密に連絡をとり、協力体制を整えなければなりません。
これらコミュニケーションの多くはシステム化・自動化が難しく、効率化の妨げにもなるものです。
コミュニケーションのほかにも、採用業務にはシステム化が難しい業務があります。採用管理システムなどで一元化できる業務がある一方、応募者一人ひとりの事情は異なるため、個別のヒアリングなどに対応しなければなりません。
面接官との情報共有や日程調整なども、個々に対応しなければならない業務です。効率化を重視して安易にシステム化すると、優秀な人材の採用という本来の目的を果たせない可能性もあります。
採用活動がうまくいかない場合、採用手法を変えるなど新しい試みをすることも必要です。採用手法にはトレンドがあり、古い手法のままでは応募者が集まらない可能性もあります。
新しい取り組みを試みる場合、定着するまでには時間や工数がかかります。新しく人材紹介サービスを利用する場合でも、数多くのサービスの中から自社に合うところを選ぶのは容易ではありません。サービスを選び、依頼したあとも担当者とのコミュニケーションコストが発生します。
また、近年のトレンドであるアルムナイ採用(退職者の再雇用)やリファラル採用(社員からの紹介)など、これまでと異なる手法を試みる場合、体制を整備して実施するまでに多くの時間や工数を必要とします。
採用業務には定型化しにくい業務が多く、効率化が難しい側面があります。そのため、効率化するためのポイントを押さえることが欠かせません。
ここでは、採用業務を効率化する5つの方法をご紹介します。
まず、現在の採用プロセスを見直すことから始めます。無駄な作業や生産性の低い業務など、課題を見つけてください。課題の改善には、排除・結合・交換・簡素化という4つの方法で工程を改善する「ECSRの法則」を取り入れるのもおすすめです。
改善方法がわからないとき、ECRSの原則にあてはめ、以下の4つを考えると改善策が見つかる可能性があります。
まず、排除しても問題がない業務はないか検討します。それぞれの業務で行っている内容の理由や目的を洗い出し、明確な理由や目的が見当たらない場合、その業務は慣例化しているだけで、なくしても問題ない可能性があります。
次に、類似しているのに別個で行っている業務がある場合、統合できるか検討してください。
さらに、順序を入れ替えることで効率化できる業務はないか、自動化により簡素化できる業務はないかも検討します。
ECRSの原則で業務プロセスの見直しをしたあと、業務に優先順位をつけて最優先となる業務から取り組むようにすることも大切です。
採用手法が自社に合わず成果が出ないという課題がある場合、採用マーケティングを見直す方法もあります。
採用マーケティングとは、採用活動にマーケティングの考え方や手法を取り入れることです。求職者に自社のファンになってもらうための取り組みともいえます。
具体的には、以下のような取り組みを行います。
ターゲット層に自社の認知が広がることで、応募者の増加が期待できます。競争の激しい今日の採用市場では、ただ求人広告を出しただけではターゲットに届かない・記憶に残りにくいのが実情です。
企業側からターゲット層にアプローチしていく努力が求められます。また、自社が必要とする人材が企業に求めているニーズを分析することで、それらの層に響く情報・メッセージを発信できます。
採用マーケティングでターゲット層に強くアプローチすることで、より自社に合う人材からの応募が期待できるのもメリットです。
単にスキル・経験が条件を満たしているというだけでは、価値観や社風が合わずミスマッチが起こる可能性があります。採用マーケティングで自社への理解を深めてもらうことでミスマッチを防止し、早期離職のリスクを減らすことが可能です。
面接の評価基準の見直し・統一も採用業務の効率化に役立ちます。面接を複数の人間が担当している場合、曖昧な評価基準のままでは内容の擦り合わせや情報共有、採用の判断などに無駄な時間を要します。また、判断に個々の主観が入り、採用のミスマッチが起こる可能性もあるでしょう。
誰が担当しても同じ評価となるような客観的基準にすることで、面接のたびに情報共有をする手間を省けます。
評価基準は、以下の手順で設定します。
まず、ミスマッチが起きないよう詳細な人物像を設定します。経営層や現場の声を取り入れ、具体的なモデルを設定してください。求める人物像の理想が高くなり過ぎると人材確保が難しくなるため、妥協すべき点も含めて必要な人物像を検討します。
次に、自社が必要とするスキル・経験・能力などを評価項目にして、評価基準を設定します。
スキルや経験など数値化できる項目は、できるだけ数字による評価基準を設けてください。客観的判断が難しい人柄や入社意欲などは、具体的項目によるチェックリストを作ることをおすすめします。
近年は採用の効率化などでオンライン化が進み、コロナ禍によって導入する企業がさらに増えたという状況があります。コロナの収束後もオンライン化は定着の傾向にあり、採用業務の効率化に貢献しています。
オンライン化により応募者・面接官の移動がなくなり、日程調整しやすくなるのがメリットです。面接会場を手配・設営するという手間もありません。遠方からの応募者が増え、優秀な人材確保の可能性が高まるのも利点です。業務の工数が大幅に削減されることで、採用プロセスを短縮できます。
採用業務でIT化できる部分があれば、積極的に導入することで採用業務の効率化が可能です。代表的なツールとして、採用管理システムやWeb面接ツールなどがあげられます。
たとえば、履歴書やエントリーシートなど紙ベースの応募書類を一枚ずつチェックする方法には膨大な時間がかかりますが、ITシステム化によって書類の選別を自動化することで、担当者の負担を大幅に削減できます。
また、面接日程の調整も、ITツールで一部を自動化することで効率化が可能です。
前述したコミュニケーションコストの課題では、自動化できる部分をできるだけ自動化することが効率化に役立ちます。具体的には、説明会の案内やフローの説明・日程調整などは自動化に馴染み、IT化しやすい工程です。
また、社内でも採用担当者のスケジュール調整やスケジュールの再確認なども自動化に馴染みます。
さらに、ITシステム化により応募者の情報を管理するデータベースの構築ができます。選考辞退や内定辞退が発生した際は過去の応募者にスカウト通知を送るといった対応も可能です。
採用業務を効率化するには、ツールの活用がおすすめです。採用管理システムやWeb面接ツールなど、採用業務に役立つツールがさまざまな業者から提供されています。
ここでは、採用業務で実際によく活用され、効率化に役立つツールをご紹介します。効率化を検討する際は、ぜひ参考にしてください。
受付システムは、これまで受付担当者が行っていた、訪問者の対応や電話による取次ぎ業務といった受付業務を自動化するシステムです。
企業の入り口に置いたタブレットによる操作や音声ガイダンスによって、内線への取次ぎ・入館証の発行を行います。受付の人員を削減し、業務の効率化が可能です。
受付システムには、以下のような機能もあります。
内線電話への取次ではなく、受付完了後にメールやチャットで通知を送れるシステムもあります。
また、来訪者や社員のデータを登録しておく機能は本人確認がスムーズにできるのがメリットです。
オンライン面接はZoomなどのWeb会議システムでも対応できますが、近年は面接に特化したWeb面接ツールを利用する企業も増えています。面接に役立ち、採用業務を効率化する機能が充実しているのが特徴です。
Web面接ツールはさまざまな機能があり、導入目的により必要な機能や選ぶポイントが異なります。
たとえば、以下のような目的・課題に対応が可能です。
Web面接ツールを利用することで求職者との早期接触を図り、選考の期間を短縮して選考辞退を減らすことができます。また、画質や音声がクリアで通信が安定しているツールを選べば、画面が途切れることなく面接を快適に進めることもできます。
Web面接ツールには録画機能が搭載されているタイプもあり、面接のフィードバックにより面接官を育成することも可能です。
また、Web面接ツールの種類は豊富で、初期費用や月額料金が手頃なものを選べばコストを削減することもできます。
採用管理システムは、採用活動に必要な業務を一元的に管理し、効率化できるシステムです。採用業務に特化して開発されたシステムで、採用業務のプロセスにおけるさまざまな作業を自動化できます。
主に、以下のような機能があります。
求人情報の一元管理や連絡の一括管理などにより、担当者は面接や応募者への対応など、より注力したい採用業務に取り組めるようになります。
また、採用管理システムにはリファラル採用をサポートする機能や採用サイト作成ができる機能を搭載しているものもあります。
新しい採用手法を取り入れたり、自社の採用サイトに注力したりといった新しい試みができるのもメリットです。
採用管理システムは新卒採用・中途採用それぞれに特化したもの、どちらにも対応できるものなど種類が豊富にあり、自社の目的に合わせて選べます。
採用業務は、自社の未来を担う人材を雇用するために行う一連の業務です。その工程は多岐にわたり、人事担当の負担となっている場合も少なくありません。採用業務に時間をかけすぎると選考期間が長引き、優秀な人材が他社に流れるリスクもあります。
そのため、採用プロセスの見直しやオンライン化などにより、採用業務の効率化が必要です。近年は採用業務に特化したツールも各社から提供されており、自社の目的に合うものを選べば、大幅な採用業務の効率化が期待できます。
採用業務の効率化により採用活動を改善し、優秀な人材を確保しましょう。