企業の成長には、新しい人材が欠かせません。しかし人材の確保では募集だけでも広告費、制作費などさまざまな費用がかかります。費用をかける必要はありますが、かといってどれくらいかければいいのかがわからず、二の足を踏むことも多いでしょう。
この記事は、採用にかかる費用である「採用コスト」の理解を深め、その相場や削減のための方法について解説します。
1.採用コストとは
採用コストとは、その名の通り採用にかかるすべての費用を指します。採用コストに含まれるのは、求人誌への掲載費用や人材紹介業者に対する成功報酬、採用担当者の人件費・業務経費、採用状況を管理するためのさまざまなツールの利用料金などです。
採用コストを採用人数で割った値を、採用単価といいます。企業の規模や業界の傾向など、さまざまな要因によって期間中の採用人数には大きな開きがあるのが一般的です。しかし採用単価がわかれば、どれくらいの費用をかければどれくらいの採用が見込めるかという判断材料になります。業界の平均値と比較すれば、自社の特徴も見えてきます。
2.採用コストの計算方法
採用コストの計算方法は、前述の通り「採用コスト全体/採用人数」です。しかしこれはあくまで結果であって、より効率よく採用するためのコスト削減や効果的な方法の絞り込みといった改善にはあまり役立ちません。
そこで重要になってくるのが、採用コストの分析です。採用コストの実情を把握するには、性質の似たものを集め、違うものと適切に分ける必要があります。
2-1.外部コストと内部コストに分類する
どの業界、どの企業にも共通する分け方として、「外部コスト」と「内部コスト」があります。外部コストは「見えるコスト」、内部コストは「見えにくいコスト」とされるのが一般的です。これはコストのかけ方や支払先の違いからきています。
それぞれ例を交えて、特徴や性質を比較してみましょう。
2-1-1.外部コストとは
外部コストとは、外部に支払うコストです。採用活動にもさまざまなコストが発生しますが、そのうち次のようなコストは外部コストに含まれます。
- 採用のためのPR動画や採用ホームページの制作費用
- 会社案内やパンフレットなどの広報物の制作費用
- 会社説明会のための外注費用や会場の利用にかかる費用
- 新聞や雑誌、求人専門誌などの媒体への掲載費用
共通しているのは、すべて「自社から外部に支払う」費用であることです。どれも間違いなく請求書が届くため、どの活動にいくらかかったか正確にわかります。これが「見えるコスト」といわれる理由です。
外部コストは、内部コストより高額になる傾向があります。なぜなら、動画やWebサイト、パンフレット、イベントなど一定のクオリティが求められるためそれぞれその道のプロにお願いする方が効率がよいためです。
どれも目的は、「自社を広く知らせる」「自社の魅力を伝える」ことだといえます。業界や職種によっては、SNSのようなツールを利用した方がよい場合もあるでしょう。求人に対して、適切な方法を採用する必要があります。
2-1-2.内部コストとは
内部コストとは、自社の内部で発生する費用をいいます。
- 採用担当者の人件費や業務経費:面接官を務める、説明会を運営する など
- 応募者に支払う交通費や宿泊費、懇親会などの交際費
- 内定者のための研修費用やその会場にかかる費用
- 採用者の転居にかかる費用
これらの費用は計算も可能ですが、発生ごとの請求書などはないことから「見えにくいコスト」とされます。またそれぞれ散発的に発生する特徴があり、一度で終わらず継続的に発生することも少なくありません。
例年と同じコストをかけても、同じ結果が得られないことも特徴です。外部コストと違い、費用対効果も非常に見えにくいコストといえます。
3.新卒・中途採用の採用コスト
採用コストを分類する方法はほかにもあります。社員を募集することを前提とすれば、もっとも代表的な分類は「新卒採用」と「中途採用」です。それぞれ人材としてのスキルや経験値、求める理想像の違いから採用コストも異なります。
ここでは、採用コストを新卒採用と中途採用に分けて詳しく見てみましょう。
3-1.新卒採用
近年採用コストは増加傾向にあり、今後もその傾向は続くと考えた方が自然です。
これは採用活動の内訳の変化が影響しています。現在採用のために企業が学生との接点を得るために力を入れているのが、自社ホームページや自社単体での会社説明会、学校主体の会社説明会などです。
即戦力ではなくても一定の将来性が期待される学生に対して、どれも自社の独創性や他企業と違う魅力を前面に打ち出すことで応募や入社を促す必要があります。
となればデザインやコンテンツの構成などに高いクオリティが求められるため外部コストが、会社説明会によって内部コストが増えてしまうのは当然といえます。
3-2.中途採用
一般的に中途採用の採用コストは、新卒採用より高額です。これは中途採用に求められる人材像の違いが影響していると考えられます。
新卒採用が将来性や教育が前提とされていることに対して、中途採用はある程度のビジネスに関するスキルは身についていることを前提とし、より専門的なスキルや実績が問われる「即戦力」としての活躍が前提です。
しかし、そのような人材が転職することはあまり多くないことが考えられます。なぜならその人材はその企業が育成した結果であり、それだけのコストを回収するため適切な評価や年収、職場環境の整備にも配慮しているものだからです。中途採用で理想とされる人材は、新卒採用より少ないことは容易に推測できます。
そのため採用コストをかけても採用にいたるまでには長い時間を必要とし、その間複数の採用活動を繰り返すことになるでしょう。中途採用の採用コストの高さは、そのまま求められる人材の少なさによると考えられます。
4.採用コストの今後の推移
新型コロナウイルス感染拡大によって、現在離職希望者は減少傾向にあります。しかし、有効求人倍率は緩やかに増加し、採用コストが上がり続けているため、企業も人材不足であることが推測できます。
新型コロナが落ち着いても、数年で変化した社会がすぐに元に戻るとは限りません。採用コストの増加傾向は当面の間続くと考えるのが妥当です。
5.採用コストを削減する7つの方法
採用コストが増える傾向にあるのならなおさら、限られたリソースを効率よく活用する必要があります。ただ低く抑えればよいというわけではありません。コストは必要なボリュームをつぎ込みながらも、その効果は常に監視しておくことが原則です。
ここでは、採用コストをできる限り有効に費やすための方法を7つ紹介します。
5-1.採用のミスマッチをなくす
採用のミスマッチの多くは、採用された側と採用する側の間の理解の不足が原因です。入社前に聞いていたことと違う、誤解していたなど理由が何にせよ、当人のモチベーションの低下や場合によっては早期の退職につながります。
採用のミスマッチを防ぐには、必須とする年齢制限や持っているスキル、資格、求める人物像採用の条件といった就職にまつわるさまざまな要件を明確に示すことが有効です。ある応募者にとってデメリットになるようなことも、伝えておかなくては本当の意味で理解しあえることにはなりません。
そもそも情報を伝える機会が少ない状況も避けるようにしましょう。入社前から研修や他の社員との交流会を有効に利用し、企業のことをより正確に知ることができるよう整える必要があります。
5-2.求人媒体を見直す
現在利用している広告や雑誌掲載、Webサイト、人材サービスといった求人媒体の効果は、常に正しく評価し把握しておく必要があります。そもそも求人媒体にはそれぞれ強みや弱みがあり、例えば「エンジニアの中途採用に強い」「新卒採用が集まりにくい」といった特徴に沿って選ぶことが大切です。
特徴がわかったら、次は求める人物像がどれくらい登録しているかを確認しましょう。登録者の属性データはもちろん、ターゲットの1カ月以内でのログイン数は、全登録数ではなく現在アクティブな求職者数もチェックするとよいでしょう。
また求人を掲載する時期や、掲載内容にも常に見直しは必要です。企業にとって少しでも誤解がなく、より魅力が伝わるよう応募者の反応や効果に十分配慮する必要があります。
5-3.内部コストの見直しを行う
見えにくいコストである「内部コスト」の見直しも重要ですが、見えにくいだけにチェックが行き届かず、効果も測りにくいという特徴があるため注意が必要です。人件費を削減するなど安易な方法に傾けば、採用活動のボリュームはもちろんクオリティも下がってしまい、結局思うような効果が得られなくなる可能性があります。
内部コストは、例えば求める人材像を再確認することでも見直すことができます。もう一度ゼロから、次のような手順で求める人物像を設計してみるのもおすすめの方法です。
- 採用の目的を明確に示す
- 求める人材像を要素ごとに書き出す:年齢、学歴、経験、スキルだけでなく価値観や求めている環境なども含む
- 書き出した要素に優先順をつけ、必須条件を絞る
求める人物像が明確であれば、求人広告の内容も面接官の質問も、書類審査のポイントも定まります。余計な検討の手間や時間をかけずに済み、トータルで効率よく採用活動を進めることにつながります。
5-4.リファラル採用を活用する
リファラル採用とは、社員や身近な関係者からの紹介によって採用する方法です。自社について詳しいありのままの情報を持つ身近な人物が紹介することで、一般的な面接では聞きにくいことも尋ねやすく、これからの付き合いを考えれば、得られる情報も信頼できると考えられます。そのため、早期退職の原因となるミスマッチのリスクも大きく軽減できます。
その他高い定着率も期待できますが、リファラル採用は採用する側とされる側が積極的に活動した結果というわけではないため、採用したいときに採用するような方法ではありません。
そのため、人員補充といった時間的な制約のある場合には不向きといえます。普段の採用活動と並行して行う、長期的な活動といえるでしょう。
5-5.選考プロセスを見直す
応募から内定にいたるまでの選考プロセスにも、さまざまな手間や時間がかかっています。特に面接には、採用活動全体の中でもかなり時間がかかるといわれる工程です。
こちらの都合だけでできるとは限らず、スケジュールや面接場所の確保や調整、連絡などむしろ応募者の都合に合わせる必要があります。
選考プロセスの見直しには、次のような項目を確認すると効果的です。
- 面接回数の削減:内定までの平均回数を減らす、または書類選考時点でより絞り込むなど
- 評価基準を定める:評価のポイントや判断基準をできる限り客観的に定める
- 動画面接を利用する:事前に用意された質問への答える動画をもとに選考する
どれを見直すにせよ、最重要なのは適切な採用であってコスト削減ではありません。選考プロセスの見直しが目的になってしまわないよう、注意しましょう。
5-6.採用マーケティングに取組む
採用マーケティングとは、採用活動にマーケティングの考え方や手法を取り入れることです。
採用マーケティングでは、求職者の行動を段階でとらえ、段階ごとに適切な手法でアプローチするのが一般的です。用いるツールもより効果的なものに変え、最終的に求職者を自社の「ファン」にすることを目的とします。そうすることで自社への応募や長期的な定着が期待できる手法です。
5-7.外注やフリーランスをの活用を検討する
企業活動は、独自のノウハウなど自社にしかできないものと他社にもできるものに分かれます。自社にしかできない業務は自社で採用した人材に頼るしかありませんが、そうでない業務は外部に委託すると人件費も含めて効果的です。
外注やフリーランスの活用には、「明確に分担することでよりシンプルな業務運用が可能になる」「正社員と違い福利厚生費や法定福利費が発生しない」「必要に応じた発注ができるためコストがコントロールしやすい」などのメリットがあります。
うまく活用できれば、必要不可欠な採用に絞ってコストをかけることも可能です。採用する人員の性質の違いを見極め、バランスよく使い分けましょう。
6.自社の採用コストを見直してみよう
企業に不可欠な人材は、残念ながら一定のペースで退職者が出るのが通常です。これからの自社を担う人材の確保は、さまざまな企業活動の中でも非常に優先度の高い活動といえます。
採用活動で大切なのは、費用対効果が失われない範囲で効果的に採用コストを費やすことです。そのためには採用活動そのものについて、基本から見直す必要があります。どのような人材を必要としているか、選考の手順や基準は適切かなどについても、採用担当者たちが自信をもって活動できるよう、きちんと整備し共有して適切に活用したいものです。