良い人材を獲得し、会社をより成長させるためには採用戦略が重要です。しかし、どんな戦略をどう立てればよいのかわからない、という方も多いでしょう。そこで本記事では、採用戦略が必要な理由から立案の方法、実施にあたって不可欠なポイントまで詳しく解説します。
1.採用戦略とは
採用戦略とは、自社を成長させるために必要な人材をどのように獲得するかに関する戦略です。
人材獲得は、企業にとって極めて重要な意味を持ちます。人材の採用戦略は企業全体の将来を占うものであるため、人事部門だけでなく、経営層や各事業部門を巻き込んだ全社的な施策として構築すべき重要課題です。
採用戦略がなぜ必要なのか、どのように戦略を立案すればよいのかなど、個別の論点について以下に解説していきます。
2.採用戦略が必要となる5つの理由
人材を採用する理由としては、業績拡大に向けた要員の補充や業容拡大に伴う幹部社員候補の確保などが挙げられます。
採用活動は自社の将来を担う人材の獲得を目的とするものであるため、経営層や人材を必要とする事業部門などに広く展開した採用戦略が必要です。なぜ採用戦略が必要になるのか。その理由を以下の5点で説明します。
2-1.応募者を集めるため
優秀な人材を確保するためには、多数の応募者に集まってもらうことが大前提となります。少ない応募者の中にキラリと光る人材が混じっている可能性もありますが、多くの応募者から選抜する方が、確率的にも優秀な人材の採用につながる可能性が高まるでしょう。
最近では、新卒採用の早期化が進んでいます。これまで、経団連は各企業に対し、就活スケジュールについて一定のルールを定めた「就活ルール」を守るよう要請していました。当初、就活ルールは2021年卒(2021年春入社)以降の学生には廃止される予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で要請は続いています。
しかし、実際は早期化が進行しています。最近では、インターンシップの参加が就職活動のステップとして当たり前となっており、中には大学3年の夏頃に選考を兼ねたインターンシップを実施する企業も存在するほどです。インターンシップに参加した学生に対して早期選考を実施し、大学3年の冬に内定を出すケースも珍しくありません。
このように新卒採用の早期化が進むと、優秀な人材を他社にとられないよう、すみやかに採用戦略を立てる必要性が高まります。
応募者を多数集める方策は、採用戦略の第一歩です。何人の履歴書を読み、何人と面接を行い、何人の内定者を出すかまで細かな目標設定をしておくことで、進捗状況の確認や採用活動全体のスピード調整ができるようになります。
参照元:一般社団法人 日本経済団体連合会「2023年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請について」
2-2.ミスマッチを防ぐため
企業側の考えと応募者の志向や希望がすれ違うミスマッチが起こると、採用活動を円滑に進めることが難しくなります。
日本では、新卒入社の3人に1人が3年以内に離職しているのが現状です。厚生労働省が2022年に発表したデータでは、新規大卒就職者の31.5%、新規高卒就職者の35.9%が就職後3年以内の離職しています。
このように、早期離職は多発しており、企業には対策が求められます。
自社が必要としている人材にはどういう能力を求めているのか、自社で活躍できる人材にはどのような特徴があるのかといった項目を把握したうえで、採用したい人物像を固めておかなくてはなりません。
自社の強みと弱み、社風を認識した上で採用戦略を立てることで、ミスマッチを防ぐ効果が期待できます。
参照元:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します 」
2-3.内定辞退を防ぐため
せっかく良い人材を見つけても、肝心の応募者に内定を辞退されてしまってはもとも子もありません。新卒採用のように多数の企業が一斉に選考を実施している期間であれば、優秀な学生は他社の内定も取っている可能性が高いと考えられます。
自社の魅力をアピールしたり、内定後のフォローを丁寧に行ったりすることはもちろん、競合する他社の採用スケジュールを把握しておくことも、採用戦略の一部です。採用活動は時間と費用をかけて取り組むものであるため、それらを無駄にしないように明確な採用戦略が必要といえます。
2-4.採用コストを削減できるため
採用戦略を立てて計画的に採用活動を進めることで、自社に合った適切な採用手法を選択できます。結果、採用コストの削減につながるのがメリットです。
無計画に採用活動を行うと、「採用コストのわりに成果が出ない」という状況に陥ってしまう可能性があります。期待した成果が出ず、採用手法を変更すると、さらにコストがかかってしまい、無駄に異なってしまうのです。
綿密な採用戦略のもと、効果のある採用手法を見極めて実行することで、採用コストを適正化できます。
2-5.会社全体の組織力を強化できるため
必要な人材を獲得するためには、採用担当者だけではなく、企業全体で採用戦略を考えることが必要です。採用戦略を立てる過程で、人材に対する価値観や今後のビジョンについて社内で共有することで、人材の採用や育成に対する社員の意識向上が期待できます。その結果、会社全体の組織力を強化できるのもメリットです。
さらに、採用戦略に基づいて自社に適した人材を獲得し、能力を活かせるポジションに配置できれば、生産性が向上し、組織力が強化します。
3.採用戦略の立て方と流れ
欲しい人材を獲得するには、まず採用戦略の立案が大切です。では、その戦略立案はどのように進めればよいのでしょうか。
採用戦略を立てる流れは以下のとおりです。
- 市場環境や自社の経営計画を把握する
- 採用戦略を立てるチームを編成する
- 採用を成功に導く条件を見つける
- 採用計画を立てる
- 採用したい人材を明確化する
- 自社の強みを分析する
ここでは、それぞれの流れについて解説します。
3-1.市場環境や自社の経営計画を把握する
採用戦略の目標は自社の将来的な成長を実現するために、自社の経営計画に基づいて立案されるべきものです。
市場環境の変化に伴う事業領域の拡大や新規事業の開始など、経営層が見据えている自社の成長の道筋に合わせて、人材の採用も行われます。経営計画と無縁な採用戦略はないといえるでしょう。
競合他社の経営計画から、他社の採用ターゲットを分析することも、採用戦略の一環といえます。
3-2.採用戦略を立てるチームを編成する
採用戦略を立案するなら、人事部員に片手間でやらせるのではなく、それに専従する社員をアサインすべきでしょう。採用戦略は経営方針に直結する重要事項であるため、経営層を始めとして人材を必要とする各部門の責任者など、関係者を巻き込んで作り上げていくのが定石です。
自社の経営計画にのっとった採用戦略を、専従のチームが立案し、経営層の承認を得て実施に移すというのが大まかな流れです。
3-3.採用を成功に導く条件を見つける
この条件を満たしていれば採用活動が成功する可能性が高まる、という条件を「KSF」(重要成功要因=Key Success Factor)と呼びます。KSFをベースに置くことで、施策の展開に統一感が出て、応募者への訴えかけから内定者フォローに至る一連の活動に一貫性を持たせることができます。
採用戦略の立案で重要なのは、戦略を立案すること自体ではなく、採用活動を成功裏に終わらせることです。戦略立案チームには、正しく有効なKSFの設定が求められます。
3-4.採用計画を立てる
採用戦略の内容を理念と実践に分けるとすれば、採用計画の策定は実践部分に当たります。綿密な採用計画を立てるには、採用人数の目標を決め、採用スケジュールを固めて、募集媒体や選考フローまで検討しておきましょう。
採用計画は新卒採用と中途採用で異なりますが、採用人数や選考期間などの目標を定めてから実施に移す点は同じです。
3-5.採用したい人材を明確化する
採用計画の策定と並行して進めなくてはならないのが、採用したい人物像の明確化です。自社にとって必要な人材はどういう人かを洗い出し、年齢や性格、職歴から趣味嗜好に至るまで、具体的な人物像として再構成していきます。これを「ペルソナ設定」と呼びます。
欲しい人物像が不明確なまま採用活動を始めると、選考段階で評価軸にブレが生じ、採用してもミスマッチで早期に退職してしまうなどの失敗につながりかねません。
求める人材を明確化する際は、採用要件について考えることがポイントです。どのような経験・スキル・価値観を持った人材が欲しいかを書き出し、その採用要件をランクづけしましょう。
「必ず持っていてほしい」という必須条件と、「持っていたら嬉しい」という歓迎条件、そして「こういった人材は合わない」というNG条件にわけて考えると、スムーズに進みます。
この時、必須条件が多すぎると、人材を確保できなくなってしまいます。入社後の研修でフォローできる部分については歓迎条件にする、というように、条件を縛りすぎないようにしましょう。バランス感覚を持ったペルソナ設定を心がけることが大切です。
3-6.自社の強みを分析する
採用戦略を立てる際は、自社の強みを分析し、他社との差別化やブランディングを行うことも重要です。自社ならではの強みを理解し、アピールポイントを明確化した採用活動を実施することで、欲しい人材からの応募が期待できます。そのためには、求職者にとって自社がどう見られているのか、競合他社と比較してどこに強みがあるのかなどを理解しなければなりません。
強みを分析する際は、後ろの章で解説するフレームワークを用いるのが有効です。自社の魅力や課題のほか、競合他社の強みや弱み、求職者のニーズなどを分析・把握しましょう。
4.採用戦略を実行するための6つのポイント
採用戦略を練り上げたら、実行フェーズに移ります。採用手法を決め、募集から面接、内定を出して内定者フォローと、採用チームには次々とタスクが降ってきます。
この際に目の前の仕事をこなすだけでなく、次回の採用戦略を策定する際に役立てるよう改善項目をリストアップしておくことも重要です。採用活動は今回だけではなく、次回もその次も成功させなければなりません。そのためにフィードバックが重要な意味を持ちます。
4-1.社内各部署と連携を取る
新卒であれ中途であれ、採用活動を行う時には受け入れ先の部署と連携を取っておく必要があります。営業部門と製造部門では求める人物像が異なるのは当然ですし、部署ごとに受け入れ態勢を整備してもらうためにも連携は大事です。
しっかりとした受け入れ態勢で教育・研修に臨めば、新規採用者にとっても働きやすい職場となり、早期退職といったリスクを軽減できるでしょう。
4-2.自社に合った採用手法を検討する
採用募集をするには、どのような媒体やツールを利用するのかを決めなければなりません。新卒ならナビサイトや合同説明会などが定番の手法です。中途採用の場合はスカウトやエージェントなどの活用も考えられるでしょう。
近年はSNSを使った採用活動もあり、今いる社員に紹介してもらう「リファラル採用」も注目を集めています。どの手法を使うかは、採用したいような人材の目に留まるかどうかをポイントに、自社に合ったやり方に決めましょう。
4-3.面接のスキルを上げておく
採用選考は面接によって応募者の能力を見極め、志望度や自社の社風との親和性などを判断する作業です。面接官のスキルが低く、応募者の本音を引き出せなければ、正当な評価ができません。
また面接官によって評価軸が異なっていては、欲しい人材を取り逃がしたり、本当は自社にはマッチしない人材に内定を出してしまったりといった失敗につながる可能性が高まります。
面接官のトレーニングにより、スキルアップと評価基準の統一をしておくことは、採用戦略の一環として極めて重要な項目です。
4-4.内定者フォローの体制を整える
自社の評価基準にかなう優秀な人材を採用できるところまでこぎつけたとしても、内定辞退や早期退職をされてはせっかくの採用活動が水の泡です。入社や転職に関する不安を取り除き、スムーズに自社に馴染んで実力を発揮してもらうには、内定段階でのフォロー体制の整備が肝要です。
研修によって自社の魅力や業務内容を伝えたり、内定者懇親会を催して他の内定者や先輩社員との交流を深めたりするなどの丁寧な目配りが、内定辞退の防止につながります。
4-5.入社後の体制も重要
採用戦略では、採用した人材が定着するよう、入社後の体制整備も重要です。せっかく採用した人材がすぐに離職してしまっては、採用コストが無駄になってしまいます。人材不足に陥ると、企業の成長は不可能です。
定着を目的とした施策のことを、リテンションマネジメントと呼びます。リテンションは、維持や引き留めを意味する言葉です。リテンションマネジメントとは、優秀な人材が定着し、能力を発揮できるようにすることを指します。
リテンションマネジメントを構成するのは、以下のような要素です。
- 福利厚生
- 従業員満足度の向上
- ワークライフバランス
- 健康・メンタルヘルス
- 働く環境・制度の整備
- 適正な評価
- 報酬
- マネジメント
- 育成・能力開発
- 上司と部下の関係性強化
これらの要素を意識して、人材の定着を目指しましょう。
具体的には、福利厚生を充実させる、1on1を定期的に実施する、マンツーマン指導で優秀な人事の育成を強化する、などの施策が挙げられます。
4-6.PDCAを回しつづける
採用活動は、1回実施して終わりでは意味がありません。企業を持続的に成長させるためには、採用活動を継続的に成功させることが求められます。次の採用活動に活かすために、必ず採用戦略と実際の採用活動を振り返り、改善点を分析しましょう。
また、採用戦略は中長期的に取り組むものであるため、期待した成果がすぐに出るとは限りません。採用戦略が大幅にずれてしまっていないかを、定期的に確認する必要があります。PDCAサイクルを回しつづけ、計画が予定どおりに進んでいるかを確認しながら進めていきましょう。
効果検証の際は、得られた成果や期待どおりにいかなかった事項、その理由と改善策について分析します。その際は、応募者や採用者数といった指標だけでなく、入社後の定着率についても分析することが大切です。
5.採用戦略立案に使える5つのフレームワーク
人材の採用には、マーケティングで使われる分析手法であるフレームワークを応用することが可能です。フレームワークを使った採用戦略の策定を採用マーケティングと呼び、戦略立案が効率的に行える利点があります。
ここでは、採用マーケティングとして代表的な4つのフレームワークについて、個別に解説していきましょう。
5-1.3C分析
「3C」とはCustomer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの頭文字を取ったものです。ここで言う顧客は応募者のことで、応募者と競合他社及び自社を分析することにより、人材市場における自社の立ち位置や応募者に対する効果的な働きかけのあり方などの把握につながります。
「3C分析」では、自社の強みが明らかになりやすく、強みを生かした採用活動の策定と実行に役立つとされます。
5-2.4C分析
4C分析とは、求職者が希望する企業像や応募しやすい企業などについて考える際に利用できるフレームワークです。4Cは、Customer Value(顧客価値)、Cost(価格)、Convenience(利便性)、Communication(意思疎通)の頭文字を取ったものです。
採用戦略において、4Cは以下のように定義できます。
- Customer Value:企業が求職者に対して発揮できる価値
- Cost:求職者が採用活動においてかかる手間やコスト
- Convenience:求職者にとっての利便性
- Communication:求職者とのコミュニケーション
5-3.SWOT分析
「SWOT分析」は採用マーケティングでも定番中の定番といえるもので、自社と取り巻く環境をStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4項目で分析する手法です。強み、弱み、機会、脅威を4象限に分けて書き出していくことで、自社の強みを生かして機会を得る方法や、弱みを理解して脅威を最小限に抑える対策の検討などに結びつけることができます。
より詳細な分析を行いたい場合は、前述の3C分析と組み合わせて使われることもあります。
5-4.カスタマージャーニー
マーケティング領域では、消費者が商品やサービスを見つけて、購入に至るまでの経緯を「カスタマージャーニー」と呼びます。それを採用戦略に応用し、応募者が自社の募集を見つけてから選考を経て入社するまでの足取りを時系列で分析するものです。
応募者の目線で採用戦略を立案し、チェックすることができるのが特徴で、採用活動での応募者とのやり取りにおいて注意すべき点が明らかになりやすい分析手法とされます。
5-5.5A理論
Aware(気付く)、Appeal(印象づける)、Ask(尋ねる)、Act(行動する)、Advocate(勧める)の5つの頭文字を取ったのが「5A理論」で、カスタマージャーニーと同じように、元々は消費者の購買行動を分析するための手法です。
自社が応募者の目に留まってから企業研究をし、面接を受けて採用されるまでの流れを時系列で追う手法であり、採用活動において着目すべき点のあぶり出しに効果的だとされています。
6.採用戦略にフレームワークを使うメリット
採用戦略にフレームワークを活用するメリットとして、以下の3点が挙げられます。
- 自社を客観的に見つめ直せる
- 効率的な採用活動ができる
- 必要な人材の確保につながる
「SWOT分析」のように自社の強みと弱みを明らかにする分析手法を使えば、自社を客観的に再評価でき、必要とする人材の人物像も自ずと明らかになります。カスタマージャーニーのようなやり方を採用すれば、採用活動の筋道が明確化でき、採用活動が効率化できるでしょう。
ここでは、それぞれのメリットについて解説します。
6-1.自社を客観的に見つめ直せる
フレームワークは、自社の置かれた状況を整理して、客観的に見つめるための枠組みです。そのため、フレームワークを利用することで、自社を客観的に分析できます。たとえば、3C分析やSWOT分析を用いれば、自社の強みや弱み、競合や市場と比較しながら分析可能です。
フレームワークを活用し、自社の状況を正しく理解できるようになれば、採用戦略にとどまらず、今後の企業戦略立案にも役立ちます。
6-2.効率的な採用活動ができる
フレームワークを用いることで、筋道を立てて採用戦略を立案できるのも大きなメリットです。フレームワークが分析の指針となるため、目標を見失うことなく分析できます。結果、自社に合った採用手法を見つけやすくなり、効率的かつ効果的な採用活動が実現するのです。
また、フレームワークによって思考が整理され、必要な論点が抜けることなく網羅的に検討できるというメリットもあります。採用戦略では、ターゲットの明確化や自社の強みの分析、採用手法の選定など、さまざまな事項について検討しなければなりません。情報の効率的な整理や分類化において、フレームワークは非常に役立ちます。
さらに、フレームワークに沿って採用活動を進めると、採用戦略が可視化されます。そのため、社内で採用戦略に関する意識や方向性について共通認識を持ちやすくなったり、PDCAサイクルを回しやすくなったりするのもメリットです。
このように、採用戦略の立案や採用活動の推進を効率化する際に、フレームワークが力を発揮します。
6-3.必要な人材の確保につながる
フレームワークを用いて採用戦略を進めることで、採用基準が明確化し、面接官に左右されることなく人材を確保できます。
基準に関する統一した指針がなければ、面接官の個人的な印象や好みで人材を採用することになります。その結果、「第一印象は良いが、会社の成長に必要な人材ではなかった」という事態に陥りやすいのが難点です。
フレームワークという意思決定や戦略立案の枠組みを利用することで、面接官に左右されず、自社に本当に必要な人材を確保できます。
7.採用戦略を効率化するサービス
ここで、最近台頭してきている、採用戦略を効率化するためのサービスをご紹介しましょう。
人事・総務部門では既に一般化しているアウトソーシング型のサービスと、人工知能(AI)を採用活動に組み込んだ最新トレンドのサービスがあります。それぞれについて特徴とメリット・デメリットを説明していきます。
人事担当者の要員不足に悩んでいる企業であれば、一考に値するかもしれません。
7-1.採用代行サービス
採用業務の一部をプロに任せるのが採用代行サービスです。企業の事情によっては、採用にかかる全てを任せてしまう事例もあります。
人事担当者の負担が軽減されるのが最大のメリットですが、採用の全てを委託した場合は特に、フィードバックができにくく採用活動のノウハウが蓄積できない点が問題です。コスト増になりやすい点もデメリットとして知っておくべきでしょう。
7-2.AI採用サービス
こちらは選考の一部を人工知能(AI)の力を借りて行うサービスです。AIは処理能力が高いため、選考をスピーディーに進めることができます。判断基準にブレがなく、公平性が高いのもメリットです。
しかし、採用活動において最終判断するのは人間であり、AIと人間で二重に選考を行う点が逆に非効率との指摘もあります。AIが正しい判断を下せるようにするためには、過去のデータを大量に読み込ませなくてはなりません。この手間がかかる点もデメリットの一つに挙げられます。
8.採用戦略コンサルティングを活用するのも一つの選択肢
採用に関する課題が複雑化し、採用の難易度が高まっている現在、採用戦略コンサルティングの活用も有効です。
冒頭で述べたとおり、人材の獲得は企業にとって極めて重要であり、採用戦略は企業の将来を左右します。外部の専門家の力を借りて採用戦略を立案し、採用活動を効果的に進めることは、企業にとって大きなプラスとなるのです。もちろん費用はかかりますが、依頼先や依頼内容を見極めれば、費用対効果は十分に期待できます。
ここでは、採用戦略コンサルティングの導入にあたって理解しておきない、具体的なサービス内容や導入時のポイント、メリットなどを解説します。
8-1.採用戦略コンサルティングとは
採用戦略コンサルティングとは、採用戦略に関するさまざまな課題を発見し、効果的な解決策を提示してくれる、採用のプロのことです。
具体的には、以下のようなサービスを提供してくれます。
- 採用に関する幅広い情報の提供
- 採用課題の可視化
- 効果的な解決策の提示
- 人材育成計画を立案
採用活動に成功するポイントの一つは、トレンドや競合他社の状況など、多くの情報を収集することです。採用戦略コンサルティングは、採用に関する鮮度の高い情報を、幅広く提供してくれます。
また、自社の現状をヒアリングし、潜在的な採用課題まで可視化してくれるのも特徴です。課題を抽出し、それぞれに合った効果的なアプローチ方法を提示してくれます。
さらに、人材の確保だけでなく、育成についても支援してくれるのがポイントです。プロの経験や知見を活かし、内定者フォローや人材育成計画などについても積極的に提案してくれます。
8-2.採用戦略コンサルティングを導入するポイント
採用戦略コンサルティングの導入には、もちろん費用がかかります。むやみに導入して丸投げにしても、費用に見合った効果は得られません。
採用戦略コンサルティングを導入する際は、以下のポイントについて検討しましょう。
- 費用対効果は十分か
- 実現可能性は高いか
- 成果が出るまでどのくらいの期間がかかるか
まずは、採用戦略コンサルティングの導入にかかるコストと期待できる効果を比較し、後者が大きいかどうかを確認します。コストには、依頼にかかる費用だけでなく、採用活動への影響も含まれる点に注意が必要です。たとえば、社員との交流会を新たに導入したり、面接の進め方が変わったりする場合は、面接官や現場の社員に協力してもらわなければなりません。採用戦略を根幹から変更する場合は、その旨を全社的に共有するコストがかかります。
採用戦略コンサルティングの導入にあたって、トータルでどのくらいのコストがかかるかを考え、それを上回る効果を得られるかを確認しましょう。
次に、実現可能性について検討します。理論上費用対効果があると判断できても、実際に効果がなければ意味がありません。自社と似たような状況の企業を支援した実績があるか、その結果どのような効果が得られたかなどを把握し、実現可能性を検討しましょう。
さらに、成果が出るまでの期間について考える必要があります。一朝一夕で成果が出るものではありませんが、成果を得たいタイミングと、予想されるリードタイムが一致しているかは重要なポイントです。
8-3.採用戦略コンサルティングを依頼するメリット
採用戦略コンサルティングを依頼するメリットは、以下のとおりです。
- 専門的な知見を活かして戦略を立案できる
- 中立な立場からアドバイスをもらえる
- 効果的な解決策を提示してもらえる
- 採用をワンストップで支援してもらえる
採用戦略コンサルティングは、採用について幅広い情報を持ったプロです。豊富な知識量と専門的な知見を活かして、戦略の立案をサポートしてくれます。
また、第三者という中立的な立場からアドバイスをもらえるのもメリットです。自社だけで採用戦略を考えると、どうしても主観的になってしまいます。客観的な情報をベースに、適切な課題設定・戦略立案が可能です。
さらに、豊富な支援実績を持つ採用戦略コンサルティングに依頼できれば、より効果的な解決策を提示してもらえます。戦略立案という上流工程だけでなく、アウトプットの細部まで支援してくれるのもメリットです。たとえば、依頼先によっては、デザイン性が高く、求職者に刺さる質の高い採用ホームページの制作も依頼できます。外部のリソースを活用することで、採用業務や普段の業務と並行して行うのが難しい部分についても、こだわりを持って実現できるのです。
ほかにも、採用プロセス全体をワンストップで支援してもらえるというメリットもあります。
9.採用戦略として中途採用を行うメリット
採用においては、新卒採用だけでなく中途採用を活用することも重要です。
採用戦略として中途採用を行うメリットは、以下のとおりです。
- 即戦力として期待できる
- 自社にとって必要な時に採用できる
- これまでなかった新たな視点を得られる可能性がある
中途採用の重要性を理解し、より効果的な採用戦略を立てられるようにしましょう。
ここでは、中途採用を実施するメリットについて解説します。
9-1.即戦力として期待できる
中途採用では、前職で実務経験のある人材を採用できるため、即戦力を獲得できます。異業種・異職種から採用するケースもありますが、基本的には前職と同業種・同職種からの採用が多いです。
そのため、現場で必要な基本的な知識や専門用語などがある程度身についた人材を確保でき、即戦力として期待できます。前職で優秀な成果を発揮していた人材を獲得できれば、短期間で企業の成長に貢献してくれる可能性も高いです。
さらに、新卒採用で重視される人材育成コストについても、中途採用なら大幅に削減できます。職種未経験から採用する場合であっても、基本的なビジネスマナーは身についているため、研修にかかる期間や費用を抑えられるのです。
9-2.自社にとって必要な時に採用できる
中途採用は、通年採用が可能です。そのため、事業計画や経営状態、離職状況などに応じて、採用タイミングを決められるのがメリットです。たとえば、新規事業の立ち上げにともない人員拡大が必要になった、ある部署で多くの人材が離職してしまったため、急遽補充が必要になったなど、企業のニーズに合わせて柔軟に選考日程や入社日を調整できます。
一方、新卒採用の場合は学生が対象となるため、基本的には入社タイミングが決まっています。自社の都合に応じて、必要な時に人材を採用できるのは、中途採用ならではの大きなメリットです。
9-3.これまでなかった新たな視点を得られる可能性がある
中途採用の社員を迎え入れることで、これまでになかった新たな視点を取り入れられるのもメリットです。たとえば、前職の経験を活かし、新たな知識やアイデアをもたらしてくれる可能性があります。そこから、新規事業や事業拡大のきっかけを得られたり、生産性を向上するためのヒントを得られたりすることも期待できます。
このように、中途採用は企業の成長のために重要な役割を果たす採用活動なのです。
さらに、中途採用の社員が同業種から転職している場合は、前職での実務経験や取引先との人間関係などから、競合他社のスキルやノウハウを持っている可能性もあります。競合他社の対策や差別化戦略に役立てられるのも、大きなメリットです。
10.採用戦略を活かした企業の成功事例
ここまで採用戦略について解説してきましたが、実際の採用に活かすためには、企業の成功事例を参考にしましょう。
ここでは、採用戦略を活かした企業の成功事例として、以下の3つをご紹介します。
- トヨタ自動車株式会社:キャリア・第二新卒採用を強化している事例
- キャディ株式会社:さまざまな施策を積極的に打ち出している事例
- アクセンチュア株式会社組織風土を改革して採用を強化している事例
成功事例から、自社で取り入れられる部分はないか検討することがおすすめです。
10-1.トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、2019年から採用改革を行い、キャリア採用と第二新卒採用を強化しています。
日本の大企業といえば、新卒採用を中心に実施しているイメージがある方も多いでしょう。
トヨタは、自動車会社からモビリティーカンパニーへの転換を目指して、さまざまなチャレンジを行っています。そのために、即戦力になる人材を確保するキャリア採用や、第二新卒採用を積極的に推進しているのです。
より多くの求職者にトヨタで働くイメージを持ってもらおうと、職場情報の発信や、オウンドメディアを活用した採用ブランディングにも注力しています。さらに、キャリア・第二新卒で採用した人材がスムーズに職場になじめるよう、定期的な研修やイベントの開催などを通して、積極的にサポートしているのもポイントです。
10-2.キャディ株式会社
ITサービスの開発を手がけるキャディ株式会社(以下、キャディ)は、2017年に設立されたスタートアップ企業です。創業時から多くの採用施策を打ち出し、注目されています。
キャディでは、求職者に事業について深く理解してもらえるよう、最終選考でディスカッションの場を設けています。また、オープンポジションを用意しているのも特徴です。採用プロセスを通じて、求職者一人ひとりにあった適切なポジションを見極め、アサインします。エントリーしたポジションにかかわらず、活躍できると判断したポジションを柔軟に検討・提案しているのです。
さらに、会社説明会やミートアップ、代表が登壇するイベントなど、さまざまなイベントを実施しています。イベントのアーカイブ動画も特設サイトで公開しており、採用イベントを母集団形成に役立てているのがポイントです。
10-3.アクセンチュア株式会社
多様なコンサルティングサービスを提供するアクセンチュア株式会社(以下、アクセンチュア)は、労働時間や離職率に関する課題を解決するため、2015年から「Project PRIDE」という働き方改革を推進しています。
「人を活かす職場づくり」を掲げ、多様性を尊重した職場や優秀なグローバル人材の獲得に向けて、組織風土改革を進めました。18時以降の会議原則禁止や在宅勤務制度の全社展開、定時退社奨励や有給休暇取得推進活動の実施など、さまざまな施策を行った結果、残業減少や離職率低下、女性比率向上といった効果が現れています。2021年7月に実施した社内調査では、「労働環境の改善を実感している」との声や、「組織風土改革が現場に浸透しつつある」などの声が寄せられました。
そして、このような取り組みをメディアや書籍などで積極的に発信することで、求職者からのイメージアップにつなげています。2023年1月に、産経新聞社と株式会社ワークス・ジャパンが発表した「2024年卒大学生就職人気企業ランキング」で、アクセンチュアは6位にランクインしているほどです。
11.しっかりした採用戦略で優秀な人材を確保しよう
本記事では採用戦略の必要性から戦略立案の流れ、戦略を実行する際のポイントや活用できるフレームワーク分析などについて詳述してきました。
採用に限らず、企業活動には戦略が必要です。社員や顧客に対する責任を果たすためにも、企業は成長し続けることが求められ、そのためにはあらゆる施策のバックボーンとなる戦略が不可欠です。
しっかりとした採用戦略を策定し、優秀な人材を獲得していくことが明日の自社の成長につながります。本記事を参考に、自社にマッチした採用戦略を作り上げてください。