企業における人材流出とは、従業員が離職し、他社へ転職することを指す言葉です。通常は円満退職ではなく、ネガティブな退職という意味で用いられます。企業における人材流出が止まらない場合に想定されるリスクは、主に次の6つです。
1つずつ解説していきます。
人材流出が止まらない企業では、採用・教育コストが増加する可能性があります。人材が流出した後に何もしなければ人手不足の状況に陥り、労働力の補充が求められるためです。そのため、新たに採用活動を行わなければならなくなります。
さらに、新しい人材を採用した後は、業務を覚えてもらうための教育が必要になります。
企業における人材流出が止まらないと、人材と一緒に知識や業務のノウハウも流出するリスクが高まります。長く活躍していた従業員が退職することで、この間、人材が培ってきたノウハウや業務の知識も失われることに注意が必要です。
さらに、辞めた人材が関係性を構築してきた顧客も一緒に離れてしまう可能性があります。社内で活躍してきた優秀な人材であるほど、その後の企業に及ぼす影響は大きいです。
人材流出が止まらない職場では、残された従業員で離職した人材の分の業務も行わなければならなくなり、労働力が不足します。
人材流出後、すぐに採用活動を開始したとしても、新しい人材が戦力として活躍できるようになるまでは時間がかかることが多いです。また企業によっては、採用にかける予算がないことを理由に、人材流出の穴埋めのための採用活動を行わないことも少なくありません。
いずれの場合でも人員が補充されないままの状態が続くと、残された従業員の業務負荷が大きくなり、さらに人材流出が止まらないという負のスパイラルに陥るリスクもあります。
企業の人材の流出が止まらない状況が続くと、生産性が低下するリスクが生じます。誰かが退職すると、新しい人材が採用されるまでの期間は、他の従業員が未整理の仕事を担うことになるため、仕事量の増加は避けられません。
それに伴い、本来の自分の業務が手薄になったり、ストレスや疲労を抱え込んだりして生産性が低下しやすくなります。
人材流出が続く企業では、他の従業員のモチベーションダウンのリスクも懸念されます。残された従業員が「自社に何か問題があるのではないか」と考えたり、前述のとおり業務負荷がかかり、人員の穴埋めに対応してくれない企業に対して不信感を募らせたりするためです。
場合によっては、それによってさらなる人材の流出が起きる可能性もあります。
人材流出が止まらない企業は、企業の信頼性やイメージが低下するリスクを抱えます。離職率が高いと、周囲は何かしらの問題が起きていると認識するためです。
企業の信頼性が損なわれたりイメージが低下したりすると、人員を補充しようと採用活動を行ったとしても、なかなか応募が集まらない負の連鎖が起きる場合もあります。
企業の人材流出が止まらない原因としては、以下の6つが考えられます。
自社に当てはまるものはないか、確認していきましょう。
人間関係への不満は、多くみられる離職理由の1つです。そのため人間関係が良好でなく、不満を抱えている従業員が多い職場は、人材流出が止まらない可能性が高いです。
人間関係への不満を理由とした退職が多い企業は、意見を言いにくく風通しが悪い、悪口や陰口が絶えない、人の入れ替わりが激しいといった特徴があります。
周囲に気の合う同僚や上司などがいないといった退職の理由の場合、大手企業であれば部署異動で解消できる可能性があります。しかし中小企業では、退職以外に人間関係への不満を解消する術が無いことも少なくありません。
評価制度に帯する納得感の低さも、企業における人材流出が止まらない原因の1つです。評価制度がしっかりと確立されていない、仕事で貢献しているのに適切に評価されない、評価基準が不透明、評価のフィードバックがないなどのいくつかのパターンが考えられます。いずれのケースでも、どれだけ業績に貢献したとしても給与や待遇での見返りが期待できないため、人材流出を招きやすくなります。
前述の評価制度への納得感の低さともつながる内容ですが、仕事内容や責任の重さと給料のバランスが取れていない場合も、離職が多い傾向にあります。また、同業他社の給与水準と比べて著しく低い企業も、人材流出が起こる可能性が高いです。
長時間労働が恒常的に行われている、パワハラなどの問題を抱えているなど、労働環境の劣悪さが原因で、人材流出が止まらないこともあります。
働きやすい環境作りに取り組む企業が増えているなかで、このような状態を放置する企業は、人材が流出する状況を自ら作り出しているといえるため、早急な対策が必要です。
企業において人材流出が止まらない原因として、自社の将来性に不安を覚える人材が退職をしていることも考えられます。企業の将来性は、単に現在の業績の良し悪しで決まるわけではありません。たとえ業績が好調だったとしても、保守的な姿勢に対して将来性を感じられないと捉えられることもあります。
なお業績が不調の場合は、現状を変える姿勢や施策がないと、従業員から見限られる可能性が高いです。
また企業の将来性にくわえて、在籍中に自分が成長している実感がないと、スキルアップできる環境に移りたいと考える従業員もいます。特に、若年層の従業員はその傾向が強いです。
特定の従業員への業務の集中も、人材流出を引き起こす原因となります。特定の従業員の業務量が著しく多くなると、ストレスを抱えるなどメンタルヘルスの問題が生じるリスクが生じます。疲弊した従業員が、業務量が少ない企業へ転職しようとするのも当然の結果です。
ほかの従業員に比べて業務量が明らかに多いにもかかわらず、まったく同じ給与額であるなど適切な待遇を受けられない企業も、人材の流出が起こりやすいといえるでしょう。
人材流出が止まらない企業に必要な対策として、次の5つが挙げられます。
それぞれの対策内容を確認していきましょう。
企業の人材流出が止まらない場合は、給料や評価制度の見直しが有効です。給料が仕事量や責任の重さと見合っていなかったり、同業他社に比べて著しく低い水準にある場合は、適切な給料の金額に是正する必要があると考えられます。報酬を貢献度や成果に見合った適切な金額にするには、各職務の業務内容のほか、仕事上の役割や責任を明確にすることが不可欠です。
また、従来の年功序列型の評価制度である場合は、成果を出した人材には給料も職責もバランスよく与える制度に改善することを検討しましょう。貢献度合いに応じて適切に評価を受けられる制度にするポイントは、以下の2つです。
経営陣や評価者の経験や主観によって偏ることのない、誰から見ても納得できる制度を構築する必要があります。売上などわかりやすい項目以外についても評価される制度を構築したり、インセンティブを与えたりすることも選択肢として挙げられます。
さらに、適切な評価者を選ぶことも重要です。評価者は業務内容や評価制度の重要性をよく理解している必要があります。
そのほか、上司が部下を評価するだけでなく、部下が上司を評価する「360度評価」の導入を検討することもおすすめです。360度評価は、直属の上司以外からも評価を受けるため、より客観的な意見を聞くことが可能です。
パワハラや長時間労働などの実態がいまだに散見される企業は、労働環境の改善を急ぐ必要があります。働き方改革のスピードを早め、目標として掲げる労働環境に少しでも近づくように取り組みましょう。
労働環境の問題が原因で人材流出が続いている場合は、全社的にこの状況を改善しないと状況は変わりません。退職した従業員が企業の労働環境の劣悪さを周囲に伝え、それによって風評が広まるリスクもあります。1度定着したイメージを覆すのは非常に困難であるため、早めに手を打つことが求められます。
人材の流出が止まらない企業においては、柔軟な働き方の導入も、検討の余地がある対策の1つです。具体的には、以下のような働き方の制度の導入がおすすめです。
ハイブリッドワークとは、従来の出社型オフィスワークと、自宅やシェアオフィスなどの勤務地と離れた場所で働くテレワークを組み合わせた働き方です。在宅ワークが可能な職種の場合、テレワークやハイブリッドワークなどの柔軟な働き方を取り入れるほうが、従業員の満足度が高まる可能性があります。
また短時間勤務やフレックス勤務によって、それぞれの従業員の生活に合わせた多様な働き方が実現します。
コミュ二ケーション活性化を図る取り組みも、人材流出が止まらない企業にとって重要です。社内のコミュニケーションとは、従業員同士の情報交換や情報共有を指し、部門内外で行われる業務に関するやり取りだけでなく、業務外で発生するコミュニケーションも含みます。
職場内のコミュニケーションが盛んな企業は、人材が流出せずに定着する傾向にあります。社内のコミュニケーションを活性化させるための具体的な取り組み事例は、以下のとおりです。
社内にリフレッシュスペースを確保することで、食事をしたりコーヒーを飲んだりしながら、従業員同士がリラックスした雰囲気でコミュニケーションを図ることが可能になります。所属先の部署に縛られない、フラットなコミュニケーションの促進に有効です。
またフリーアドレス制の導入も、社内のコミュニケーションの活性化につながります。フリーアドレス制とは、従業員の座席を固定せず、好きな席に座るワークスタイルを意味します。さまざまな人と隣同士になる可能性があり、部門の垣根を超えた社内コミュニケーションの促進に効果的です。
勤務拠点が分散している企業や、在宅勤務をはじめとした多様な働き方を取り入れている企業は、社内SNSなどのコミュニケーションツールを導入するのもおすすめです。そのほか社内イベントの企画も、従業員同士の親睦を深め、社内のコミュニケーションを活性化させるために効果が高い取り組みといえます。
従業員が自身の成長を実感できる能力開発の機会を提供することも、人材の流出を食い止めるのに効果的な手法です。たとえば社内の集合型研修や、外部の研修機関を利用してもよいでしょう。
特に優秀な社員であるほど、能力開発に前向きな傾向があります。人材の流出が企業に及ぼす影響を考慮し、ぜひ能力開発の機会の提供を検討してください。
人材流出が止まらない企業は、ここまで確認してきた対策のほかに、以下のような従業員へのアプローチも行いましょう。
各アプローチ法について解説していきます。
人材流出が止まらない状況に悩む企業は、定期的なヒアリングによる状況把握を実施しましょう。従業員が企業や職場に対してどのような不満を抱いているかがわかると、具体的な手立てを講じやすくなります。
人事担当者などが従業員に定期的にヒアリングする機会を設け、状況を把握するのが理想的です。すべての従業員に対して行うことが現実的では無い場合、まずは退職者の多い職場メンバーに話を聞きましょう。
ヒアリングに際しては、以下の点に注意します。
退職者が、本当の退職理由を話してくれることは少ないです。しかし、現職のメンバーの場合は職場が抱える課題を改善したいと考え、実態を話してくれる可能性があります。ヒアリングは不満を抱えている従業員のガス抜きの効用があるほか、状況を変えようと取り組む姿勢を見せることで、退職の意向がある従業員に踏みとどまってもらう効果も期待できます。
さらに、面と向かってのヒアリングでは伝えにくいというケースもあるため、アンケート調査を実施して従業員の不満をリサーチすることも手です。アンケートであれば、職場の課題や不満を伝えやすいという従業員も多いと考えられます。
人材流出を食い止めるためには、従業員が課題と改善策を話し合う場を設けることも、検討の余地があります。人材流出が止まらない企業は、労働条件や労働環境、人間関係などに多くの課題を抱えている可能性があるためです。
経営陣や管理職などが、一方的に状況を判断し対策をしたとしても、従業員が本当に必要とする内容とはズレが生じる可能性があります。そのため従業員同士が話し合い、認識をすり合わせる場を設けることが重要です。
人材流出が止まらない場合、経営者から従業員に対する発信を行い、その意向や思いを直接伝えることも有効です。経営者が従業員に向けて発信する際は、未来志向の視点を盛り込むようにしましょう。
経営者から直接、企業のこれまでの成果や今後のビジョンに関する発信を行うことで、従業員は企業が成長していることや将来性を実感しやすくなります。
企業の人材流出は、採用・教育コストの増加や従業員の知識やノウハウが失われるほか、残された従業員のモチベーションの低下を招き、生産性の低下を引き起こすリスクがあります。また、企業の信頼性やイメージが低下することにより、新たに採用しようとしても応募が集まらないという負の連鎖が起きる可能性も高いです。
企業の人材流出が止まらない場合、さまざまな原因が考えられます。人材流出が及ぼす影響を考慮し、主な原因を探り、迅速に対策を講じることが不可欠です。企業によって人材流出の理由は異なるため状況に応じた選択が必要ではあるものの、一般的には給料や評価制度の見直しや、労働環境の改善、柔軟な働き方の導入などが有効です。
なお原因を探り対策を講じる際は、経営陣や管理職などが、一方的に状況を判断し決定を下すことは避けましょう。従業員に対し1対1のヒアリングを行い、正確に状況を把握する必要があります。また従業員同士が話し合い、職場や企業の課題に対する認識をすり合わせる場を設けることも大切です。人材流出が止まらない事態への適切な対策を講じ、従業員が引き続き働きたいと思えるように職場環境の整備を行いましょう。