人材確保は、企業の存続や収益率といった将来にかかわる大きな問題です。単純作業のような労働力という意味だけでなく、企画力やリーダーシップ、培われた技術力といった人材の持つスキルは、ときに事業の起爆剤ともなることがあります。そう考えれば企業の活動は基本的に、人材の力によって成り立っていると言っても過言ではありません。
またしっかりと人材を確保するには、離職を防ぐことも重要です。従業員に離職されると、業績に必要な戦力が減るだけでなく、新たな採用コストもかかります。採用できても十分なスキルを身につけるまでには時間がかかるものです。
ただ今の時代、人材確保は困難な状況が続いています。企業は収益力の面でもコストの面でも、人材確保に注力し、人材の適切な維持に努める必要があります。
景気が回復傾向にあるといわれる中、なぜこのように人材確保が難しいのでしょうか。主な理由は次の4つです。
それぞれ詳しく解説します。
日本社会は少子高齢化が進行し、人口は減少し続けています。団塊の世代の多くが現役を引退して高齢者となる一方、出生率は低く子どもの数も少ないため、現役の労働人口は差し引きで減少となってしまうのです。
現に日本における15歳から64歳の人口は1995年をピークに減少し続けており、2050年には2021年に比べ3割近く減少すると予想されています。
採用市場においてこの状況は、売り手、つまり求職者の視点では「好きな仕事を選べる」というメリットといえます。しかし買い手、つまり採用する企業にとっては、必ずしもメリットがあるとはいえません。人気の高い企業は応募数が多い、つまりメリットがあるといえますが、人気の低い企業にとっては応募が少なく、思うような採用ができないというデメリットとなっています。
とくに人材不足と感じているのは、中小企業や飲食業、運輸業、医療・福祉関連業種などです。
参照元:総務省:「第1部 特集 情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~」
企業が社会のニーズに応えるため高いスキルが備わっている人材を求めても、一定以上の専門的な人材は絶対数は少ないのが現状です。だからと言って条件を妥協すればニーズに応えられず、結果として業績に悪影響を与える可能性があります。ハイレベルな人材を確保したいが、競争は激しく確保は難しいといった状況です。
これは、人材が海外へ流出していることも原因の一つです。専門的なスキルを持つ人材は、年功序列の傾向が強い国内より、海外の方が高い評価を得やすいという特徴があります。そのため優秀な人材ほど仕事を求めて海外へ向かう傾向があるようです。
これまで日本では、バブル崩壊やリーマンショック、新型コロナウイルスの流行など社会の仕組みが大きく変わるような事態を経験しています。このような将来に対する不安のためか、今の若い世代の就活生は、より安定を求める「大手志向」が強まっているようです。
そのため現在は、大手に比べ安定性に乏しい中小企業での人材確保が難しい傾向にあります。
以前は、企業の終身雇用や年功序列といった制度の恩恵を受け、多くの人が新卒で入社した企業に退職まで勤めることを模範としていました。しかし現在、年齢にかかわらず仕事のできる人を評価する成果主義が台頭し、人材は企業から別の企業へ移りやすい、つまり流動的になっています。
そのためか、大手に比べブランド力に差のある中小企業では、せっかくコストをかけて優秀な人材を採用し、教育しても転職や再就職といった形で大手企業へ流出しているのが現状です。
人材確保で重要なのは、適切な採用と離職の防止です。現在、人材の確保が難しくなっているならなおさら、採用にも失敗がないよう万全の準備が求められます。そのために役立つのは、人材確保に失敗した原因を明確にすることです。
ここでは人材確保の失敗から見えてくる、失敗の要点を解説します。
もし採用活動の中で、応募者のスキルや経験などにばらつきが見られるようなら、採用基準がわかりにくい可能性が考えられます。採用基準が曖昧ではないか、わかりにくくないかとさまざまな視点から再確認し、誤解を与える表現がないか、一般的な文言を適切に使っているかといった細かな点までチェックしましょう。
もしわかりにくいと感じたら、別部署のスタッフなどに実際に読んでもらった感想が役立つこともあります。自分だけで考え込むのではなく、より客観的に判断できる人の視点も積極的に取り入れてみましょう。
求人情報では求職者に向けて、自社の事業内容や魅力をしっかり伝える必要があります。曖昧だったり不十分だったりすると、求職者は「何か隠しているのではないか」と疑心暗鬼になり、応募を取りやめてしまう可能性もあります。
また求人情報が放置され、古いまま更新されていないのも問題です。自社ホームページも、最終更新日があまりに古いと、掲載されている情報の信憑性まで疑われてしまいます。これらの状態は企業の「外部に対する配慮のなさ」が原因です。とくに外部へ向けた情報の発信は、いつ優秀な人材に見られてもよいよう、常に配慮が求められます。
会社の魅力を伝えるときは「どのような事業をしているか」「自社のどこに魅力があるか」が重要です。常に最新の情報を掲示し、自社の知名度を上げられるよう努めましょう。
求人を行っているのに応募が少ない場合は、募集広告の求人情報が十分でない可能性もあります。求人情報の情報は、読めば自社の状況や自分の働いている様子がわかるくらいが理想です。今の情報で伝えたいことはすべて伝えられているか、逆に必要のない情報が多くないかなどをチェックしてみましょう。
また自社のホームページを設けていない場合、求人情報が十分露出できていないことも考えられます。最近の求職者は、求人情報だけでなくホームページや口コミサイトなど複数から情報を得る傾向があります。インターネットで検索した結果、情報が見つからないだけで、応募から除外されかねません。
たとえそれほど難しく失敗しやすいとしても、企業にとって人材確保は生き残るために欠くことのできない活動であることに違いはありません。ただ、これから状況を改善しようとすると、どこから手をつければいいのか、ある程度具体的なアイデアのあった方が着手しやすいのも事実です。
ここでは、人材確保を成功させるために効果的と考えられる取り組みやアイデアと、それらのポイントを解説します。
求める人材が求人に応募し、採用した後も長く仕事をし続けるには、どのような人材を求めているかを明確に、わかりやすく伝えなくてはなりません。求職者が情報を目にしてすぐにでも、入社した後の仕事ぶりまでを想像できるほど明確で、わかりやすい情報が求められます。
情報の中でとくに重要なことは、担当する業務の内容です。新たな人材を必要としている部署の管理職やスタッフとの間で十分に意見を交わし、ポイントとなる業務や状況などを念入りにすり合わせておきましょう。
求人情報を掲載する媒体も、応募数や実際の面接、採用活動の業務の状況などを加味して検討し、常に最適なのかどうかをチェックしておくことが大切です。
掲載媒体には求人雑誌や新聞などへの求人広告、ハローワークなどもありますが、最近はSNSなども活用されています。ただ応募されるのを待つのではなく、企業が主体となって求職者にアプローチする「スカウト型」を活用している職種も多いようです。
もし他の媒体をあまり利用したことがなければ、実際に業者などから情報を集め、どのような効果が期待できるか検討してみましょう。
追加でコストをかけずにできる取り組みとして、今の求人情報を見直しブラッシュアップするのもオススメの方法です。求める人材像はもちろん、要件としている経験やスキルのどれが必須条件で、どれが必要条件なのかをより明確にする、また給与は最低限の金額を記載するなどが適切かどうか確認します。
また入社後の様子がイメージしやすいよう、募集している職種や業務の内容は可能な限り明確にすることが大切です。たとえば経理担当であれば、伝票入力がメインで、決算業務や試算表作成は担当しないというように具体的に記載すれば、求職者は自分にできるかどうかが明確に判断でき、自信を持って応募できるようになります。
最近は在宅ワークなど働き方も多様化してきました。業務に支障がなければ、できるだけ幅広い働き方に対応している方が、求職者も応募しやすいでしょう。たとえ「相談してもらえば検討する」つもりであっても、求人情報にそう記載していなければ、求職者には伝わりません。
たとえば子育て中の方に対して安心して働けるよう時短勤務や在宅勤務を認めたり、エンジニアなら週3日は副業可としたりといった情報は、該当する求職者にとっては大いに魅力を感じるでしょう。
もともとの求人情報の採用基準を見直すのも、応募者を増やす可能性のある方法です。必須としていた資格や経験年数の要件を緩和して、入社後の研修で対応するなど、採用時点で本当に必要な要件なのかどうかを見直し、より幅広い層から応募ができるよう調整します。
たとえば新卒採用や中途採用に限定していた求人を限定しないようにする、外国人採用や障害者採用の人数を実際に必要な人数まで拡大するといった具合です。今は外国籍でも日本語が堪能な方や、障害者でもデスクワークで実力を発揮する方の応募が期待できます。
できるだけ幅広い層の応募を促すよう、求人情報の対象はしっかりと見直しましょう。
自社の魅力は求人情報や自社ホームページからもPRできますが、求職者にとっては現場の雰囲気やスタッフの働きぶり、人柄といった実感を伴った情報の方が気になるでしょう。そのため職場見学やスタッフとの対話など自社の実際の様子によって、自社の魅力は伝わりやすくなるといえます。
これから働く現場のスタッフとの直接対話や質問は、雰囲気や働き方だけでなく、働く上での目標や将来のキャリアをイメージするためにも重要です。採用活動には人事担当者だけでなく、将来働く部署のスタッフも交えて、気になることが尋ねられる機会をできるだけ設けるよう努めましょう。
企業が内定を出しても、必ず入社するとは限りません。求職者が複数の企業から内定を受けていたり、自社への入社に不安があったりすれば、入社しない可能性は十分あります。このような事態を防ぐには、内定後も担当者がこまめに連絡を取り合うなどして、自社に対する愛着や好感度をしっかり持ってもらうことが必要です。
最近では、心理的なフォローのため内定後も面談する企業が増えています。内定を得たとしても新しい仕事や職場に対する不安や疑問は少なからずあるものです。面談はこの不安や疑問を解消するためにあります。
採用者が入社した後も、人材確保に関する仕事はまだあります。それは採用者の定着率アップ、そしてそのための早期離職の防止です。退職は個人の意思ですが、なかには改善できたものや単なる誤解の可能性もあります。せっかく入社・採用できたことを考えれば、やはり企業側が積極的に、定着率アップに取り組む必要があるでしょう。
ここでは、人材の確保に必須となる定着率アップのための要点を解説します。
新入社員がうまく定着するには、まず新入社員自身が「自分は歓迎されている」と感じることが大切です。そのためにも、採用担当者は配属された部署の管理職やスタッフに対し、新入社員がきちんと受け入れられる方法を、十分検討しておきましょう。
ただしその後も部署にすべて任せてしまうのではなく、採用担当者もしっかりサポートする必要があります。部署のスタッフにしかわからないことは仕方ありませんが、それ以外の社内のルールや備品の収納場所、書類の提出先などわかることもあるでしょう。採用前から関わっている採用担当者などが担当できるように配慮するようにしてください。
受け入れ体制を構成する一員として、しっかり関わるよう努めましょう。
採用されたからといって、新入社員の働く部署が1つだけと決まっているわけではありません。タイミングを見計らって配置転換し、さまざまな部署をローテーションさせると、新入社員のスキルアップだけでなく、部署の活性化や既存スタッフのさらなる能力向上が期待できます。
ただしこのような配置転換は、転換先の部署と綿密に打ち合わせておくことが大切です。部署の管理職や担当するスタッフとは、配置転換の経緯や目的を共有し、十分な理解を得る必要があります。
入社後の教育として、オリエンテーションなどで自社の概要など基礎的なことを、また研修では実際の業務に必要な技術や知識、マナーなどを学びます。内容のもととなるのは、あらかじめ人事で定められたレジュメや、配属される部署の管理職からのヒアリングなどです。
ただその後も、実際に業務にあたる中で、あらためて知識や技術の不足などが見られる場合など、必要に応じて研修など教育する機会を設けます。内容は個別に検討し、社内研修だけにこだわらず、社外での研修を取り入れることも検討しましょう。
企業が評価される重要なポイントに、評価システムがあります。どのような項目についてどのような基準が設けられ、どのように決定、待遇に反映されるのかは新入社員に限らず重要です。部署の上司による主観的な評価だけでは、部下の不満は増えてしまう可能性があります。評価の基準は客観的で、公平でなくてはなりません。
評価基準は、見直すだけでなく評価者に対する研修などで、意図や実際の評価のやり方などをしっかり定着させる必要があります。
企業の業績は、取り扱う商品にどれほど強力な商品力があり、どれほど顧客にとって便利な仕組みがあるとしても、人材によって初めてもたらされるといえます。接客や営業による顧客との応対も、新製品の開発なども、やはり人材あってのものです。
近年の日本の少子高齢化は、労働人口の減少を招き企業の人材確保をより難しくしています。企業には、以前より効率的な人材確保が必要です。
人材確保の要点は、大きく「適切な採用」と「人材の定着」に分かれます。採用においては求める人材像を明確にしてより情報をブラッシュアプし、より幅広い層に訴える求人情報が求められ、定着には入社後のこまめなフォローや公平な評価が欠かせません。
人材確保が難しい今だからこそ、より適切で効率的なしくみが求められます。今自社の抱える課題に沿ってしくみを見直し、1人でも多くの適切な採用を目指して、人材確保に努めましょう。