キャリア採用とは、実務経験があり、自社と同じ業界・業種の経験がある人材を採用する活動です。営業職で「法人営業の経験〇年以上」という募集や、「マネジメント経験〇年以上」とする募集が該当します。
なんらかの勤務経験のある人材を採用するという点で中途採用と共通していますが、中途採用は業種を問わず、ただ就業経験がある人材を対象とする点で異なります。
そのため、中途採用には自社の業種についての未経験者も含まれており、採用後に即戦力を期待する場合はキャリア採用の実施が必要です。
現代はキャリアアップを目的に転職する人材が増え、転職市場には前職で培ったスキルや経験を持つ人材が集まっています。採用する側も即戦力となる人材を求めており、キャリア採用は需要と供給がともに高まっている状況です。
キャリア採用の面接において、面接官には自社に合った人材かを見極める役割があります。そのため、面接で質問する内容は重要です。また、面接官には企業の顔として応募者に接するという役割もあります。
ここでは、キャリア採用の面接における面接官の役割について詳しく解説します。
面接官は応募者と最初に接触するポジションにあり、応募者が自社に合う人材かを見極める重要な役割があります。応募者の人柄や価値観などが自社の社風に合うかを判断し、採用後のミスマッチを防きます。
面接では、履歴書や職務経歴書などの書類だけでは判断できないことを、適切な質問により見極めなければなりません。応募者から本音を引き出せるコミュニケーション力も求められます。
面接官は、応募者にとって入社を志望する企業で最初に接する関係者です。会社の顔となる存在であり、その印象が企業への志望度や入社意欲に影響を与えます。
面接官の対応や発言内容に問題があると、企業イメージを損なう結果にもなります。企業を代表して応募者に対応しているということを自覚し、適切に対応しなければなりません。
面接の質問は、応募者の人格や価値観を見極め、採用のミスマッチを防ぐために行います。そのため、面接で応募者に質問する項目は、選考で応募者を見極めるために重要な役割があります。質問は採用基準に沿って設定することが重要であり、事前に準備すれば、採用基準を踏まえた適切な質問を作れるでしょう。
また、一般的に面接は複数の面接官で行うため、面接官によって質問がバラバラにならないためにも、事前に質問項目を準備しておくことは重要です。
質問項目を事前に準備することで、質問内容が統一され、面接のクオリティの差異をなくすことができます。
加えて、どの応募者にも同じ質問をすることで、応募者を相対的に比較できることもメリットです。応募者ごとに質問が異なると、適切に比較ができません。同じ質問をすることにより、それぞれの回答を比較することができます。
キャリア採用の面接で質問する一連の流れは、以下のとおりです。
各項目の内容を解説します。
まず、応募者の緊張をほぐすためにアイスブレイクを行います。アイスブレイクとは、初対面の人と話すなど緊張感のある場を和ませるために行うコミュニケーション手法です。
アイスブレイクでは誰でも知っているような時事の話題や天気についてなど、面接とは関係ない内容にすることで、応募者をリラックスさせることができます。
以下のような質問を行うとよいでしょう。
アイスブレイクが済んで応募者の緊張がほぐれたら、面接官の自己紹介をします。これから話す相手について知ることで応募者は親近感を持ち、よりリラックスして質問に答えられるでしょう。本音を引き出しやすくなります。
次に、企業に関する具体的な説明を行い、自社について正しい理解を促します。面接の段階で自社はあくまで応募者の志望企業のひとつに過ぎません。質問に入る前に企業説明を丁寧に行えば、応募者の入社意欲を高めることができます。
自己紹介の一例は、次のとおりです。
次に、応募者の履歴書や職務経歴書に書かれている経歴・実務経験を確認します。記載内容に間違いがないかを確認するとともに、書類に書かれていない有益な情報を引き出すことも目的のひとつです。
ここでは、履歴書や職務経歴書などを細かく確認したり、すでに記載されている事項について質問したりしないよう注意してください。これらは面接官の準備不足を表し、応募者の入社意欲を低下させてしまいます。
記載事項の簡単な確認を行ったら、応募者の入社意欲や志望動機を確認する質問を行います。採用において入社意欲の高さは重要な事項であり、志望動機の確認はミスマッチを防止するためにも大切です。
入社意欲や志望動機の確認には、以下のような質問をします。
一方通行のコミュニケーションにならないよう、応募者からの質問を受ける機会も設けなければなりません。これを逆質問といい、面接で一通りの質問が終わり、面接官から応募者に対して「弊社について何か質問はありますか?」と問いかけます。逆質問は応募者の不安や疑問を解消し、自社とのミスマッチを防ぐためにも重要です。
逆質問により、応募者の志望度の高さを確認することもできます。志望度が高い応募者は、逆質問があることを予想し、あらかじめ企業について情報を収集し、質問する内容を準備していることが少なくありません。
そのため、逆質問で特に質問することがないということは、自社の志望度が低いと判断することができます。
応募者からの質問をスムーズに受けるためには、それまでの質問で応募者が発言しやすい雰囲気を作っておくことが大切です。はじめに「質問の時間を設けてあるので、疑問点や気になることはなんでも気軽にお尋ねください」と伝えておくと、心構えができて質問しやすくなります。
キャリア採用の面接における質問は、キャリア採用の成功を左右するといってよいほど重要です。限られた時間のなかで自社に合う人材を見極めるためには、自社の採用基準に合った質問の準備が欠かせません。
ここでは、キャリア採用の面接で行われる代表的な質問事項と質問例をご紹介します。
退職・転職理由についての確認は、キャリア採用で必ず行いたい質問です。採用後、すぐに応募者が辞めてしまうようなことがないかを見極めます。
質問例は、以下のとおりです。
現在の会社に不満があるなど、前向きではない退職・転職理由の場合、採用後にも同じような不満が生じて退職する可能性があります。早期離職につながりやすい退職理由かどうかを確認してください。
特に、経歴の中で短い職歴がある場合、早期離職のリスクがあるため、よく確認しておくことが大切です。
コミュニケーションスキルはあらゆる仕事に共通して求められ、その見極めは多くの企業が選考における重要項目と位置付けています。
しかし、コミュニケーションスキルの定義は曖昧で、具体的な数値で確認することは困難です。面接官の主観や感覚で評価してしまうなど採用基準にバラつきが出やすく、見極めが難しいという問題があります。
コミュニケーションスキルをあえて定義するとすれば、「人間関係をストレスなく構築し、維持できる能力」ということです。
ただ「うまく話せる」ということだけでなく、表情やあいづち、身振り手振りなどで場を和ませる力や聞く力・議論を本質に導く能力・共感力など、幅広い能力を指してコミュニケーションスキルということができます。そのため、ポイントをひとつに絞らず、総合的な判断が必要です。
キャリア採用の面接でコミュニケーションスキルを見極める質問は、「はい」「いいえ」などの選択肢がなく、回答の範囲を制限しない「オープンクエスチョン」がよく用いられます。
一例として、以下のような質問が挙げられます。
面接の冒頭で行う自己紹介は、短時間で自分のことを整理して話せる能力を判断できます。
コミュニケーション自体について尋ねる質問では、コミュニケーションに対する考え方や価値観まで含めた応募者のコミュニケーションスキルを見極めることが可能です。
価値観を確認する質問は、応募者が自社の社風に合うかを判断するために大切です。社員と良好な関係を築けるかという点も判断できます。入社後の配属先や業務内容を考えるためにもよい判断材料になります。
価値観を知るためには、以下のような質問が有効です。
キャリア採用は自社の業務に経験があり、即戦力となる人材を獲得する手法です。そのため、経験やスキルを確認する質問が欠かせません。
経験やスキルは履歴書や職務経歴書からもある程度の情報を確認できるため、面接ではより踏み込んだ内容について質問します。
質問例は、以下のとおりです。
専門職の場合は現場の社員に同席してもらい、専門的な内容を深堀りしてスキルを確認することも大切です。
価値観の質問とも関係しますが、採用後からスムーズに働いてもらうためには、自社との相性を確認することも大切です。どれだけスキルが高くても、自社との相性が悪ければすぐにしてしまう可能性あります。
入社後のミスマッチを防ぐためにも、自社との相性や自社への理解度を確認する質問を考えてください。
ストレス耐性とは、ストレスに耐える強さを表します。ストレスとなる出来事に対してどう感じ、対処できるかを判断する目安となります。
安全衛生法では、一定規模以上の企業でストレスチェックが義務化されており、ストレス耐性を重視する企業は少なくありません。仕事のストレスが原因でメンタルヘルスの不調を訴える人が増えているという現状もあり、ストレスが休職や退職につながるケースも多い状況です。人材不足を解消するには、ストレスに対する対策が欠かせません。
ストレス耐性があれば仕事でも安定的に高いパフォーマンスの発揮が期待できます。ただし、ストレス耐性に関する質問は応募者のプライベートに踏みこむ可能性があり、質問内容には十分注意しなければなりません。
質問例は、次のとおりです。
キャリア採用の面接で質問する際は、いくつか押さえるべきポイントがあります。ここでは6つのポイントを解説しますので、事前に質問を設定する際の参考にしてください。
キャリア採用は即戦力となる人材を採用することを目的としています。そのため面接の質問でも、入社後の戦力となり、活躍できる人材かを見極めなければなりません。
スキルや経験が豊富な場合、前職で身につけた手法にこだわりを持つケースもあります。転職後もスムーズに働いてもらうためには、業務の進め方にこだわらない柔軟性を確かめることも必要です。
また、即戦力かを判断する際は100%の即戦力にこだわらないことも大切です。人材不足が深刻化する今日、即戦力にこだわっているといつまでも人材確保ができないという事態も考えられます。求める人材に近いスキルや経験がある、入社後の教育しだいで戦力化できるという点も考慮することが必要といえるでしょう。
求める人材を採用するには、まず自社が求める人物像を設定し、そのような人材に合わせた採用基準を作らなければなりません。面接の質問も、採用基準に合わせて設定することが重要です。
それをせずに面接の質問を現場に任せてしまっては、面接官が主観により応募者を判断し、自社の採用基準に合わない求職者を採用してしまうリスクがあります。
設定した人物像に合致する求職者であるかを見極めるため、面接の質問を採用基準に沿って作成する必要があります。
キャリア採用の面接は、できるだけ2人以上の面接官で行うことが大切です。採用基準を定めていても、面接官によって応募者に対する印象が異なる可能性があります。評価に偏りを出さないためには、面接官を複数人配置し、多角的に判断することが求められます。
面接の精度を高めるためには、マニュアルの作成も必要です。面接も基本的な流れや面接官の心構え、質問例などを記載しておけば、面接のクオリティを均一化できます。
後述しますが、面接は禁止される質問もあるため、基本的なルールを徹底させるためにもマニュアルが必要です。
初めて面接を担当する社員には、研修の実施が求められます。講義やロールプレイングなどを行い、企業の魅力を伝えて応募者の本音を引き出す力などを身につけてもらいましょう。
専門職を採用する場合、面接官だけでは応募者が現場の実務レベルに適しているかどうかを判断することが難しい場合があります。スキルや経験の程度を見極め、応募者の申告に偽りがないことを裏付けるためには、スキルを理解できる現場社員を面接に同席させることが必要です。
現場社員であれば、前職でスキルをどのように活かしていきたのかを確認し、自社の環境や方向性と照らし合わせて判断することができます。
面接では、現場社員が応募者とやりとりしながら即戦力として通用するかを深堀りしていきます。そのため、質問自体は大きな項目にまとめるにとどめて、詳細な内容は現場社員に任せる方法でもよいでしょう。
経営陣と現場とでは必要とするスキルについて判断が異なる場合があるため、採用基準についても現場社員との擦り合わせが必要です。
キャリア採用では、転職理由への着目が必要です。転職理由は前職への不満などネガティブなものや、キャリアアップなど前向きな理由など、求職者によってさまざまです。
前にも説明したように、転職理由がネガティブな場合、入社後も同じような理由で離職してしまう可能性があるためよく確認しなければなりません。
転職理由の質問は、自社との相性を確認するためにも必要です。キャリアアップなど何かを目的とする転職の場合、面接官は自社にそれを実現できる環境があるかを考えます。自社でそれを満たせない場合は、入社後にモチベーションを失う可能性があるでしょう。
転職理由の確認は、応募者の問題解決能力を確認する役割もします。「残業が多かった」「人間関係が悪かった」という理由には、「残業を減らすため、あるいは人間関係をよくするために何か取り組みをしたか」という質問することで、問題が起きたときに求職者がどのように行動するかを判断できます。なんらかの対策を講じているのであれば、問題解決能力が高いという評価が可能です。
転職理由を聞くことで、志望動機との整合性があるかも判断できます。例えば、「ワークライフバランスが図れないこと」を転職理由としながら、志望動機には「キャリアを高めるため」としていると、一貫性が感じられません。
これに対し、「現在の職場ではスキルアップに限界がある」という転職理由があり、志望動機を「幅広い業務を経験してスキルアップを図りたい」としているのであれば、一貫性があると判断できます。
面接では、質問してはいけない禁止事項があります。次の3点です。
どのような質問なのか、詳しく解説します。
出生に関する事項や家族、生活環境に関する事柄は、本人の責任に関わらないことです。これらの質問は応募者の能力や適性とは関係ありません。人種や居住地などの差別にもつながりやすく、質問として不適切でとされています。
具体的には、以下の項目に関する質問です。
質問例は、以下のとおりです。
個人の思想信条は憲法で自由を保障されている基本的人権であり、採用選考で質問するのは憲法に抵触する可能性があります。
主に、宗教・支持政党に関する質問や、人生観などに関する質問が該当します。
質問例は、次のとおりです。
思想や信条に関する質問は、応募者の価値観を知るために質問しがちです。愛読書などを聞くことはありそうですが、それが合否判定につながる場合は「思想の自由」などに抵触する可能性があるとされています。禁止事項にあたる場合があることをしっかり把握しておかなければなりません。
男女差別を連想されるような、男女雇用機会均等法に抵触する可能性がある質問もNGです。
主に、以下のような質問が該当します。
面接の流れでうっかり不適切な質問をしてしまった場合、速やかに訂正をしてください。応募者が答える前に「こちらの質問は不適切でした」と謝罪をし、答える必要がないことを伝えます。
不適切な質問は企業イメージを損ねるため、十分に気をつけなければなりません。問題が起こらないよう、質問内容を精査するなど万全な事前準備をして面接を行ってください。
キャリア採用は即戦力の人材を迎え入れる手法であり、面接の質問には工夫が必要です。面接官は自社の顔として面接にのぞみ、適切な質問で自社に合った人材かを見極めなければなりません。そのためにも自社が求める人物像を反映させた採用基準を明確にし、適切な質問項目の設定が大切です。
面接はアイスブレイクから入り、自己紹介や自社の説明を行うなどの流れがあります。各段階の質問項目も準備が必要です。キャリア採用の専門職では、現場社員が同席して質問を掘り下げることも忘れないようにしてください。