福利厚生とは、企業から従業員に提供する「賃金ではない報酬やサービス」のことです。雇用保険や健康保険などの法律で定められたものだけでなく、社員食堂、施設の割引といった会社独自のものが存在し、その種類は多岐にわたります。
福利厚生はすべての従業員が対象です。従業員の支援とともに、エンゲージメント向上も福利厚生の目的の一つへと変化しています。ここでは、福利厚生の対象者と目的について解説します。
福利厚生の対象者は、契約社員やパートタイマーも含むすべての従業員です。この背景には「同一労働同一賃金」の実現に向け、2020年4月1日に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」があります。
この法律により、同じ企業で働く従業員間での不合理な待遇差が認められなくなりました。待遇には福利厚生も含まれます。そのため、福利厚生もすべての従業員が同じように利用することが定められました。
参照元:e-Gov「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」
参照元:厚生労働省「パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために」
参照元:厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
福利厚生は「従業員とその家族が健康で幸せな生活をおくること」を目的としています。元々福利厚生という言葉は、幸福と利益を指す「福利」と生活を健康で豊かにする「厚生」とを組み合わせたものです。福利厚生という言葉の由来からも、その目的を理解できるでしょう。
福利厚生は時代背景に合わせ、その役割を変えてきました。働き方改革により、働き方の多様性が求められるようになったことで、人材の確保や定着させるための役割を福利厚生が担うようになりました。
つまり、現在の福利厚生には「従業員を支援すること」「従業員エンゲージメントを高める」という2つの目的があるということです。
福利厚生の導入には、従業員エンゲージメントや企業イメージの向上といったメリットがあります。会社にとっては節税効果があることもメリットといえます。
導入時は、特徴を考慮したうえで費用対効果や、不公平感のない施策を考えることが大切です。ここでは、福利厚生を導入するメリットについて解説します。
福利厚生を導入するメリットとして従業員エンゲージメントの向上が挙げられます。従業員エンゲージメントは従業員の会社に対する帰属意識や貢献意欲を表す指標です。
ワークライフバランスに役立つ制度や従業員のリフレッシュにつながる福利厚生を導入すれば、従業員が働きやすい労働環境の実現に近づけます。
働きやすい環境をつくることで、従業員エンゲージメントは向上するでしょう。従業員エンゲージメントの向上は従業員定着率の向上につながります。会社への帰属意識が高まることで、退職する人材自体が減少することがその理由です。
従業員エンゲージメントと従業員定着率の向上は、生産性向上にも期待できます。定着率が上がれば、スキルを持った人材が減ることがないため、必然的に業務の質も保たれます。貢献意欲を持つ従業員が増えれば、さらなる業務改善が期待できます。
福利厚生の導入により、企業イメージも向上します。求職者は、会社を選ぶ基準として待遇面をみます。なお、待遇には福利厚生も含まれます。
求職者は福利厚生の内容を踏まえた上で、職場環境や従業員の扱いについて見極めるのです。
福利厚生が充実している会社は「従業員の労働環境を大切にする会社」と認識されます。このような背景から、福利厚生を活かしたブランディングに力を入れる会社も増えてきました。福利厚生の充実により、求職者にポジティブなイメージをアピールできます。
また、福利厚生が充実しているということは、経営基盤が安定している証拠でもあります。福利厚生によって企業イメージを向上させることで、優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。
節税効果が向上することも、福利厚生導入のメリットです。福利厚生費として認められた費用は経費として計上できます。経費は非課税対象となるため、福利厚生費が上がることで、法人税の節税につながります。
なお、福利厚生費の条件は以下といわれています。実は福利厚生費が認められる条件は明確に定められているわけではありません。過去の判例から、これらが福利厚生費と認定される条件と考えられています。
福利厚生の導入した場合、メリットだけでなく、導入コストや運用面での負担がかかるといったデメリットも存在します。ここでは、福利厚生を導入するデメリットについて解説します。
福利厚生の導入にはデメリットも存在します。魅力的な福利厚生を導入するには、相応の費用が必要です。福利厚生の内容によって金額は異なるものの、施策を増やせばそれだけ導入コストや運用コストがかかります。
さらに、人員が限られている会社の場合、福利厚生の運用が負担になるケースがあります。メリットや節税効果と比較し、費用対効果があるのかどうかを検討したうえで導入しましょう。
最近では福利厚生の運用業務を代行する外部サービスも出てきています。費用は問題ないものの、運用業務が負担になる会社であれば、外部サービスを利用することも方法の一つです。
複数の福利厚生を導入したものの、利用率に差が出てしまい、利用率が低い施策が無駄になってしまうこともデメリットといえます。人は好みやライフスタイルが異なるため、すべての従業員が満足できる福利厚生を提供できるわけではありません。
宿泊施設の割引制度を例に出すと、旅行好きの従業員にとっては魅力的に映りますが、旅行に行かない従業員にとってはメリットを感じられないため、不満を持つかもしれません。このように限られた施策だけでは利用率に差がでることから、不公平感がない福利厚生の導入が求められます。
なお、福利厚生には住宅手当や時短勤務制度といった従業員の生活に欠かせない制度もあります。不公平を理由に制度の廃止や変更をした場合、反発が起こりトラブルの原因になる可能性も考えられます。よって、制度の見直しを実施する場合は、従業員の同意を得ることがポイントです。
福利厚生の種類は、法定内と法定外に分けられます。法定内福利厚生は社会保険料や労働保険料を指し、企業には実施が義務づけられています。一方、法定外福利厚生には決まりがないため、会社独自の制度を導入することが可能です。
また、福利厚生の外部サービスを利用すれば、自社の負担を軽減した上で充実したサービスを利用できます。ここでは、福利厚生の種類や外部サービスを利用するメリットについて解説します。
福利厚生は「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2つが存在します。法定福利厚生とは、法律で定められた福利厚生のことです。社会保険料3種類、労働保険料2種類が法定福利厚生とされており、従業員を雇用している会社には実施義務があります。
種類 |
制度 |
概要 |
社会保険 |
健康保険 |
医療費・手当金の一部を負担する公的な医療保険料 会社が半額負担 |
介護保険 |
介護が必要な高齢者を支えるための保険料 会社が半額負担 |
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厚生年金保険 |
老後の生活を支える保険料 会社が半額負担 |
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労働保険 |
雇用保険 |
雇用に関するさまざまな支援をするための保険料 会社が費用の原則2/3を負担 |
労災保険 |
業務中・通勤中の事故や災害によるケガ、業務が原因の病気などに対して補償する保険制度の保険料 会社が全額負担 |
児童手当や子育て支援事業、仕事と子育ての両立支援事業に充てられている税金「子ども・子育て拠出金」は、子どもがいるかどうかは関係なく、厚生年金に加入している全員が対象です。それらは、会社が全額負担することになります。会社の負担が福利厚生となるため、「子ども・子育て拠出金」も法定福利厚生に含まれます。
なお、法定外福利厚生は、会社が独自に導入する福利厚生です。法定外福利厚生には明確な決まりはないため、従業員のニーズに合わせた多種多様な制度があります。
法定外福利厚生は会社が独自に設けられるため、その内容は多種多様です。代表的な法定外福利厚生は以下のものがあります。
種類 |
制度 |
概要 |
通勤・住宅 |
通勤手当 |
自宅から会社までの通勤にかかる交通費を支給する 公共交通機関やガソリン代の費用として支給される |
家賃補助・住宅手当 |
家賃を会社が一部負担する 寮や社宅を提供する場合も存在する |
|
健康・医療 |
社員食堂・昼食補助 |
無料または格安で社員食堂を利用できる 食事代を会社が一部負担 低価格で弁当を購入できる |
健康診断の補助 |
年に一度の会社が実施している健康診断 法定外の健康診断を受ける場合の費用補助 |
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休暇 |
特別休暇制度 |
会社独自の休暇 次のような休暇がある ・誕生日休暇 ・結婚休暇 ・リフレッシュ休暇 ・ボランティア休暇 ・教育訓練休暇 |
自己啓発 |
資格取得補助 |
資格を取得するための費用を全額または一部補助する |
書籍購入補助 |
ビジネス書・技術書などの書籍購入費用を全額または一部補助する |
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勉強会・イベント参加補助 |
勉強会やイベント、カンファレンスなどに参加する費用の補助 |
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育児・介護 |
社内託児所の設置 |
社内や近隣に託児施設を設置する |
育児休業 |
法定期間以上の育児休暇を取得できる |
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慶弔・災害 |
結婚・出産祝い金 |
従業員が結婚・出産したときに支給するお祝い金 |
昇進祝い金 |
従業員が役職に就任・昇進したときに支給するお祝い金 |
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文化・体育・レクリエーション |
部活動費の補助 |
社内の部活動に必要な施設利用費や道具代、活動費の補助 |
飲食店や宿泊施設の割引補助 |
提携する飲食店や宿泊施設の割引 |
ほかにも、会社独自の福利厚生を提供することで、エンゲージメント向上を図っている会社があります。
福利厚生の代行サービスを提供している企業があります。住宅手当や家賃補助、お祝い金といった金銭補助の福利厚生であれば、導入や運用の負担は高くないでしょう。しかし、社員食堂や社内託児所、スポーツ活動支援といった福利厚生は、導入や運用の負担が大きく、自社だけでは簡単に対応できません。
このような福利厚生は、外部サービスに福利厚生業務を委託することで、自社の負担を減らすことができます。外部サービスに福利厚生業務を委託するメリットには以下が挙げられます。
従業員のニーズに応える福利厚生を導入したいと考えていても、実際に導入するには大変な準備が必要です。制度ごとに手続きや打ち合わせの実施が求められます。そのようなときに、外部サービスに委託すれば、福利厚生業務を担当する従業員の負担を減らすことができます。
外部サービスを提供している企業は福利厚生の専門家です。そのため、自社で提供するよりも種類が豊富で質が高いサービスを提供できます。利用している会社が多いサービスを利用すれば、コストを抑えることにもつながります。
福利厚生はポイントを押さえたうえで導入することが大切です。従業員のニーズを調査することはもちろん、何を狙って導入するのかを見失わないこともポイントです。あくまでも従業員エンゲージメント向上を狙うという目的を忘れないようにしましょう。
導入時には目的を周知し、改善し続けることでエンゲージメント向上につながります。ここでは、福利厚生を導入するときの注意点について解説します。
福利厚生を導入する前に、従業員のニーズに合っているかどうかを確認しましょう。福利厚生のニーズは時代とともに多様化しています。会社側がよいと思ったサービスでも、従業員からは求められていないサービスの場合も考えられます。アンケートやヒアリングをするなど、従業員のニーズを調査した上で、導入する福利厚生を検討しましょう。
また、平等性もポイントです。福利厚生の中には、子どもの有無や趣向によって制度を利用できる従業員とできない従業員がでてくるものがあります。不平等感を感じた場合、会社に不信感を持つ従業員が出てくる可能性も考えられます。
すべての従業員が福利厚生を利用できるよう、選択肢を増やすといった配慮が必要です。
福利厚生は、従業員満足度の向上ではなく、従業員エンゲージメント向上を狙うことが大切です。従業員満足度は、職場環境や業務内容に対する満足度を表す指標です。会社に対する帰属意識や貢献意欲を示すものではありません。
従業員満足度の向上だけを目指して福利厚生を運用した場合、業績悪化を理由に福利厚生が利用できなくなれば満足度が下がり、離職につながるケースも考えられます。従業員エンゲージメント向上を目指して福利厚生を運用していれば、仮に福利厚生を利用できなくなったとしても、前向きに新たな施策を考える従業員がでてくる可能性があります。
満足度だけを狙うのではなく、会社に対する帰属意識や貢献意欲が上がるような制度を導入することがポイントといえます。
従業員エンゲージメント向上を狙った福利厚生を導入するには、目的を周知することが大切です。例えば、業務に関連する映画はチケット代の補助が出るといった制度の場合、補助が出ることだけを伝えても、その制度の意図は伝わりません。
「映画鑑賞を通してこの部分を学んでほしい」「この業務に使う視点で観てほしい」といった目的を伝えることで、エンゲージメント向上につながります。
福利厚生は導入したら終わりではありません。コストに見合っているのか、どのくらい利用されているのか、どんな効果が出てきているのかといった効果測定をする必要があります。場合によっては廃止を検討するものも出てくるでしょう。
福利厚生の導入や運営には、大きなコストがかかるだけでなく、会社経営に影響するものも存在します。継続的に改善し、柔軟に対応するためにも、経営陣を巻き込めるかどうかもポイントになるでしょう。
ここではユニークな福利厚生を導入した事例を紹介します。3食無料の社員食堂や疑似家族を作る制度、昼寝を推奨する制度など多種多様ですが、どの事例も明確な目的があります。継続的に改善していることも注目するポイントです。
「Google」の福利厚生で有名なものは社員食堂です。3食すべてがビュッフェスタイルで提供され、利用料もかかりません。食堂とは別に、飲み物やお菓子を食べられるマイクロキッチンもあります。そのため、食事に関する出費が要りません。
また、すべてのオフィスではないものの、社内に診療所やトレーニングジムが併設されているオフィスもあるようです。また、医療サービスは無料ではないものの、トレーニングジム利用は無料となっています。
食事や健康面での手厚いサポートにより、従業員エンゲージメント向上につなげた事例といえるでしょう。
「ウエディングパーク」では「カレーファミリー制度」というユニークな福利厚生を導入しています。部署内で親や兄弟といった疑似家族を設定し、家族でカレーを食べることでコミュニケーション活性化につなげます。
この制度は、新入社員の上司や先輩との人間関係構築をサポートすることが目的です。新入社員からの提案で導入されました。斬新な方法を取り入れることでコミュニケーションを活性化させ、従業員エンゲージメント向上につなげた事例です。
参照元:株式会社ウエディングパーク「新社会人向けスタートアップ支援制度! 社内の”オリジナル家族”と一緒に、カレーでコミュニケーション 「カレーファミリー制度(カレファミ)」を発表」
「GMOインターネット」では、作業効率や生産性の向上を目的として、昼寝を推奨しています。2011年には、マッサージ・おひるねスペース「GMO BALI Relax」を設置し、さらに従業員からの高評価を受けて「おひるねスペースGMO Siesta」を設置しました。昼寝用ベッド30台に耳栓やアイマスクも完備しています。
作業効率を向上させる取り組みと、従業員の声に応えることでエンゲージメント向上に成功した事例です。
参照元:GMOインターネット株式会社「GMOインターネットグループ 福利厚生施設拡充プロジェクト第四弾 大人気のおひるねスペースを拡充し「GMO Siesta」として5月1日にオープン」
参照元:GMOインターネット株式会社「待遇・福利厚生」
「ChatWork」では、従業員の帰省を支援する制度「ゴーホーム制度」を導入しています。帰省1回につき1万4,000円を支給します。職場から実家までの距離が140km以上あることと、利用回数が年2回までが支給条件です。
家族とのつながりを充実することがパフォーマンス向上に好影響を与えるという考え方から生まれた福利厚生です。コミュニケーションツールを提供している会社ならではの事例といえるでしょう。
福利厚生とは、企業から従業員に提供する「賃金ではない報酬やサービス」を指し、すべての従業員が対象です。従業員の支援だけでなく、エンゲージメント向上も福利厚生の目的とする会社が増えてきました。
福利厚生は、実施が義務づけられている「法定内福利厚生」と会社独自の制度を導入できる「法定外福利厚生」に分けられます。法定内福利厚生には、社員食堂や施設の割引といった会社独自のものが存在し、その種類は多岐にわたります。
導入するメリットは、従業員エンゲージメントや企業イメージの向上、節税効果です。その反面、導入コストや運用面での負担がかかる点はデメリットといえます。そのため、費用対効果や、不公平感のない施策を考えることが大切です。福利厚生の外部サービスを利用すれば、自社の負担を軽減した上で充実したサービスを利用できます。
福利厚生を導入する際は、従業員のニーズを調査することはもちろん、何を狙って導入するのかを見失わないことも大切です。あくまでも目的は従業員エンゲージメント向上であることを忘れてはいけません。
福利厚生の種類を知り、従業員のニーズを調査したうえで、自社に合った福利厚生を導入しましょう。