従業員エンゲージメントとは、会社の理念に対する理解度や共感度、貢献意欲を示す指標です。この指標が上がることで、職場の一体感が高まり、離職率低下だけでなく生産性も向上します。本記事では、従業員エンゲージメントを高めるメリットや向上させる方法について解説します。
1.従業員エンゲージメントとは?
従業員のエンゲージメントとは、従業員が組織に対して強い関与や情熱を持って働くことを指します。エンゲージメントの高い従業員は、業務に対する意欲が高く、自発的に行動したり、自分の能力を発揮したりする傾向があります。
従業員のエンゲージメントは、組織の生産性や効率性、顧客満足度、従業員の離職率などに影響を与えることが知られています。そのため、組織はエンゲージメントの向上に取り組み、従業員が自分の仕事にやりがいを感じ、成長や達成感を経験できる環境を提供することが求められています。
エンゲージメントの向上には、従業員とのコミュニケーションやフィードバック、仕事の意義や目的の明確化、報酬や福利厚生の充実、仕事とプライベートのバランスなどが重要な要素となります。
2.従業員エンゲージメントを構成する要素
「従業員エンゲージメント」とは、従業員が持つ会社の理念に対する共感や信頼、貢献意欲を表す指標です。従業員エンゲージメントが高い状態にある会社は、業務に対するモチベーションが高い従業員が多く、離職率も低いといわれています。ここでは、従業員エンゲージメントを構成する要素について解説します。
2-1.理解度
従業員エンゲージメントを構成する要素として、会社の理念や目標に対する理解度は欠かせません。会社に貢献する気持ちは、会社が立てた理念や目標を理解することから始まります。
従業員は、会社の理念や目標を理解してはじめて共感や行動につながるのです。会社は従業員に対し理念や目標を示し、それを理解してもらうことから始める必要があります。
2-2.共感度
共感度も従業員エンゲージメントを構成する要素です。会社の理念や目標を理解していても、共感していなければ従業員は行動に移しません。会社の理念や目標を理解するだけでなく、共感することで自身が会社に所属する意味を感じ、自信を持って業務に取り組めます。
会社の理念や目標に共感してもらうためには、従業員とのコミュニケーションは欠かせません。話し合いや意見を交わし、お互いの方向性を一致させることが大切です。
2-3.行動意欲
従業員エンゲージメントが高い従業員は、会社の目標に対して意欲的に行動する傾向が高くなります。会社の理念や目標に対し、理解と共感していることで「会社の目標達成に向けて取り組もう」という行動意欲が湧いてくるのです。
自身の取り組みが会社の目標達成につながれば、会社への愛着や信頼が上がり、従業員エンゲージメントはさらに向上するでしょう。
3.従業員エンゲージメントの定義とは?
従業員のエンゲージメントは、従業員が自分の仕事や職場、または組織に対して強い関与や情熱を持ち、自発的に取り組むことを指します。つまり、単に仕事をこなすだけでなく、自分の仕事にやりがいを感じ、目標達成に向けて積極的に努力する状態を指します。
従業員エンゲージメントは、単に従業員の満足度やモチベーションの問題ではありません。エンゲージメントは、従業員が組織との繋がりを感じ、自分の役割や貢献が重要であると認識し、自分の能力を最大限に発揮するための環境が整っていることを示します。
エンゲージメントは、従業員のパフォーマンスや生産性、クリエイティブなアイデアやイノベーションの創出、および従業員の離職率や不満の削減などに影響を与えます。そのため、組織はエンゲージメントの向上に注力し、従業員が自分の仕事にやりがいを感じ、成長や達成感を経験できる環境を提供することが求められます。
4.従業員エンゲージメントが注目されている背景
従業員エンゲージメントが注目されている背景には、時代背景が関係しています。人材不足や価値観の多様化、労働人口減少により人材の流動化が加速したことで、人材の定着率向上が課題となる会社が増えてきました。その対策として、従業員エンゲージメントが注目されています。
新型コロナウイルス感染症の影響によるリモートワークの浸透も、従業員エンゲージメントが注目されている理由の一つです。ここでは、従業員エンゲージメントが注目されている背景について解説していきます。
4-1.日本企業の従業員エンゲージメントは高くない
日本企業の従業員エンゲージメントが高くないという見方が一般的です。実際、2019年にグローバルな調査企業ギャラップが実施した調査によると、日本の従業員のエンゲージメント率は32%で、世界平均の21%よりは高いものの、米国の38%や中国の39%など他の先進国に比べると低い結果となっています。
また、日本の従業員が抱える問題として、過労やストレス、ワークライフバランスの不均衡が挙げられます。多くの日本企業では長時間労働が当たり前とされ、休暇取得率も低い傾向にあります。このような状況が、従業員の健康やプライベートとのバランスを崩し、エンゲージメントの低下につながる可能性があります。
ただし、近年、日本の企業も従業員エンゲージメントの重要性に気づき、改善策を模索する動きがあります。例えば、フレックスタイム制度の導入や、働き方改革による労働時間の削減、育児休暇の取得促進など、従業員のワークライフバランスを改善する取り組みが進んでいます。これらの改革が、従業員エンゲージメントの向上につながることが期待されています。
4-2.多様化する社会
従業員エンゲージメントが注目されている背景として、多様化する社会になってきていることが挙げられます。人材不足や価値観の多様化により、これまでの終身雇用という概念がなくなりつつあります。
さらに、少子高齢化による労働人口の減少もあり人材の流動化が加速しはじめました。生き残るためには、優秀な人材が会社に残りたいと思えるような対策が求められています。そこで注目されたのが従業員エンゲージメントです。
従業員エンゲージメントが高い従業員は、会社への共感度や帰属意識が高く、退職のリスクが少ない傾向があります。人材の定着率向上の指標として、従業員エンゲージメントが注目されています。
現在では技術の進歩やニーズの多様化により、変化の激しい時代になってきています。急激な変化に対応するためには、従業員のスキルアップは欠かせません。従業員エンゲージメントが高い従業員であれば、業務に対する意欲が高いため、自律的なスキルアップを望むことができます。従業員エンゲージメントを高めることで、会社としての成長につなげる狙いもあるのです。
4-3.リモートワークが浸透
リモートワークの浸透も、従業員エンゲージメントが注目されている理由です。新型コロナウイルス感染症の影響により、リモートワークが浸透した結果、コミュニケーションの方法が変化し、非対面でのコミュニケーションが増えてきています。
対面でのコミュニケーションの減少により、自分の必要性や評価の正当性に疑問を感じる従業員が出てきています。そのような従業員は会社への帰属意識が低下し、退職のリスクを持っています。退職リスクを下げるためにも、従業員エンゲージメントへのアプローチが必要です。
6.従業員エンゲージメントに似た用語との違い
従業員エンゲージメントに似た用語に、従業員満足度とモチベーションがあります。従業員満足度は、待遇や職場環境に対する「居心地のよさ」を示す指標です。モチベーションは、方向性に関係なく「動機や意欲、やる気」を示す指標です。
ここでは、従業員エンゲージメントに似た用語との違いについて解説します。
6-1.従業員満足度とエンゲージメントの違い
従業員エンゲージメントと似た用語に「従業員満足度」があります。従業員満足度は、会社が従業員に提供している待遇や職場環境に対する「居心地のよさ」を表す指標です。そのため、従業員満足度が高くても、業務に対する意欲や会社への共感性が高いわけではありません。
たしかに、定着率を上げるためには、従業員満足度の向上も必要な要素の一つです。しかし、居心地の良さだけでは貢献意欲向上や会社の生産性向上にはつながりません。貢献意欲向上や会社の生産性向上につながるかどうかが、従業員エンゲージメントと従業員満足度の違いといえるでしょう。
6-2.モチベーションとエンゲージメントとの違い
モチベーションも従業員エンゲージメントと似ている用語といわれています。モチベーションは動機や意欲、やる気を意味する用語です。ただし、モチベーションが高いからといっても、会社と同じ方向を向いているとは限りません。
会社とまったく異なる方向や指標で動いていたとしても、やる気に満ち溢れていれば、その従業員はモチベーションが高い社員です。しかし、従業員エンゲージメントが高い社員とはいえません。
会社の理念や目標に対して共感し、同じ方向を向いているかどうかが、従業員エンゲージメントとモチベーションの違いになります。
7.従業員エンゲージメントを向上させる企業側のメリット
従業員エンゲージメントを高めるメリットとして、雰囲気の活性化と離職率の低下が挙げられます。会社に対して貢献しようという気持ちから、目標達成に向けて能動的に考える従業員が増え、職場も活性化とともに退職を考える従業員も減るでしょう。
また、従業員それぞれが高いパフォーマンスを発揮することで業務の質が高まり、業績向上にもつながります。ここでは、従業員エンゲージメントを高めるメリットについて解説します。
7-1.職場の雰囲気が活性化
従業員エンゲージメントを高めるメリットとして、職場の雰囲気が活性化することが挙げられます。従業員エンゲージメントが高くなることで、会社に対して貢献しようという気持ちから、目標達成に向けて組織は何をすればいいのかを能動的に考える従業員が増えます。自分のことだけでなく組織として業務に取り組もうとするため、職場も活性化するでしょう。
ただし、業務過多や長時間労働といった劣悪な労働環境が続いた場合、職場の雰囲気も悪くなり、従業員エンゲージメントも低下します。心身の疲労から、労務トラブルに発展する可能性があるため、労働環境には十分気をつける必要があります。
7-2.離職率の低下
退職率の低下も従業員エンゲージメントを高めるメリットです。退職を考える従業員は、業務や会社に対して不満を抱えています。従業員エンゲージメントが高い従業員の場合、会社に対する共感度や帰属意識が高いため、不満を持つことは少ないでしょう。
会社にとって人材流出は損失です。優秀な人材であれば、その影響はなおさら大きくなるでしょう。従業員エンゲージメントを高めることで、不満を持つ社員が減るはずです。優秀な人材の流出を防止できることで、採用費の削減にもつながるでしょう。
7-3.企業の業績が向上
業績向上も従業員エンゲージメントを高めるメリットといえます。従業員エンゲージメントの向上により、従業員それぞれが高いパフォーマンスを発揮することで、業務の質が高まります。業務の質が上がることで、顧客満足度向上にもつながるでしょう。
顧客満足度向上は業績向上にもつながります。業績向上は会社の戦略に対する正当性を証明することになるため、会社への信頼度も上がるでしょう。会社への信頼度向上はさらなる従業員エンゲージメント向上につながるという好循環を生み出すというわけです。
8.従業員エンゲージメントを高める方法|向上の施策
従業員エンゲージメントを高めるには、理念の浸透や正当な人事評価制度の構築は欠かせません。承認や称賛の組織風土を作り、マネージャーのフィードバック能力を向上させることで、従業員の自尊心や会社への信頼度向上につながります。そのためには定期的に従業員エンゲージメントをサーベイすることも大切です。
また、働きやすい制度や福利厚生により、職場環境を整えることで、共感度や貢献意欲向上につながります。ここでは、従業員エンゲージメントを高める方法について解説します。
8-1.企業理念の浸透
従業員エンゲージメント向上に、企業理念の浸透は欠かせません。従業員が会社の理念や方向性を理解し、共感することで会社に貢献しようとする気持ちが強まります。顧客や社会に何を提供するのかを明確にすることで、従業員の共感を得られます。
ただし、理念や方向性を周知しなければ浸透することはありません。会議や社内報、ブランドブックといった方法で会社の理念や方向性を周知し、浸透を図りましょう。
8-2.正当な人事評価制度を作る
従業員エンゲージメントを高めるには、正当な人事評価制度を作ることも大切です。正当な評価を得られていないと感じる職場では、会社に貢献する意欲が湧くことは考えにくいでしょう。正当性の高い人事評価制度があることで、従業員の頑張りが評価されるため、会社に対して貢献する意欲が湧いてくるものです。
成果だけを評価していては不満を持つ従業員が現れます。成果に至る過程や取り組み方を評価することで従業員の納得度が上がるはずです。従業員が納得できる評価制度を作ることで、行動意欲の向上につながるでしょう。
8-3.承認・称賛の風土を作る
承認や称賛の組織風土を作ることも従業員エンゲージメント向上につながります。人は「自分のことを尊重してもらえる」ことで、相手に対する貢献意欲が上がります。会社でいえば、上司が部下の意見や行動に対し否定ではなく尊重する意思を見せることで、従業員もやりがいを感じるはずです。
そのためにはコミュニケーションの方法を工夫する必要があります。例えば、従業員同士で感謝の気持ちを贈りあう「サンクスカード制度」や「1on1ミーティング」は有効な手段の一つです。上司や同僚とのつながりを感じることで、帰属意識の向上につながるでしょう。
また、定期的に表彰の場を設けることも有効です。従業員の成果や頑張りを形として称賛することで、従業員の自尊心向上につながり、従業員エンゲージメントも上がるでしょう。
8-4.マネージャーのフィードバック能力の向上
マネージャーのフィードバック能力は従業員エンゲージメントに影響します。人事評価制度に対する納得度は、マネージャーからのフィードバックに左右されます。マネージャーからのフィードバックが適切ではない場合、従業員はその評価に納得せず不信感を持つのです。人事評価に対する納得度を上げるためにも、マネージャーに対する研修を実施し、適切なフィードバック方法を学ぶことが大切です。
適切なフィードバックとは、上司が部下に評価内容を伝えることではありません。従業員の話を「訊く」ことが大切です。「訊く」とは、話を聞くだけでなく話の背景や感情を読み取ることです。従業員の話を訊くことで、従業員は「上司からサポートを受けている」と感じ、信頼度が上がります。上司に対する信頼度が上がることで、従業員エンゲージメント向上にもつながるでしょう。
関係性の構築もフィードバックに影響します。面談以外でも日常的にコミュニケーションをとり、本音をいいやすい環境をつくることも必要です。従業員の日常的な取り組みを把握し、変化に気づいてあげることで関係性を構築できます。
対面だけでなく、テキストコミュニケーションからでも、小さな変化に気づくことはできます。誤字脱字やレスポンスの速度に注意し、少しでも変化を感じれば、コミュニケーションを取ることが重要です。フィードバックやマネジメント方法を改善することで組織全体の意欲を高め、従業員エンゲージメント向上につながるでしょう。
8-5.定期的にサーベイする
定期的に従業員エンゲージメントをサーベイすることも大切です。従業員エンゲージメントは表に出にくい概念といえます。従業員エンゲージメント向上に向けた取り組みを実施しても、見た目ではその効果を確認できません。
従業員エンゲージメントのサーベイにより、従業員エンゲージメントを可視化できます。定期的にサーベイを実施すれば、取り組みに対する効果や変化を実感できるでしょう。従業員エンゲージメントを測定する方法としては、アンケート調査が簡単です。従業員の声を確実に拾えるだけでなく、コストも抑えられます。定期的にサーベイすることで、取り組み内容を改善していきましょう。
8-6.働きやすい制度や福利厚生
働きやすい制度や福利厚生で職場環境を整えることも、従業員エンゲージメント向上に欠かせません。休みが少なく、長時間労働が常態化している職場では、従業員の貢献意欲は上がりません。
労働時間を把握し、ワークライフバランスを整えることで、従業員に心のゆとりを与えられます。「フレックスタイム制度」や「ノー残業制度」といった制度により、時間的な余裕を与えることで、会社に対する共感度を高められるでしょう。
また、従業員は「自身が成長している」と感じられる職場であるほど、貢献意欲が高まります。従業員のキャリア開発を支援する取り組みを実施することで、従業員は「自分のために会社が動いてくれている」ことを実感でき、帰属意識や貢献意欲が高まるでしょう。
「マネジメント研修」や「キャリアデザイン研修」といった階層別の研修を導入すれば、従業員のキャリア開発支援につながります。
9.従業員エンゲージメントの事例4選
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良い職場環境の提供:従業員が働きやすい職場環境を整備することは、従業員エンゲージメントを高める上で重要な要素の1つです。例えば、明るく清潔で広々としたオフィス空間、自由なコミュニケーションや情報共有ができる社内ツールの提供などがあります。
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キャリアアップ支援:従業員にキャリアアップの機会を提供することは、従業員のモチベーション向上につながります。例えば、社内研修や外部研修の提供、社内のキャリアアップ制度やポテンシャルマップの活用などがあります。
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パフォーマンスフィードバック:従業員に対して定期的にパフォーマンスフィードバックを行うことで、彼らのモチベーションを向上させ、パフォーマンスを高めることができます。例えば、1on1面談、定期的な目標設定や評価制度の導入などがあります。
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社内コミュニケーションの促進:従業員が情報を共有し、自由にコミュニケーションを取り合うことは、従業員エンゲージメントにつながります。例えば、社内SNSやチャットツールの活用、社内報やニュースレターの発行、定期的な社内イベントの開催などがあります。
これらの事例はあくまでも一例であり、企業によって取り組むべきポイントは異なります。しかし、従業員エンゲージメントを高めるためには、従業員が働きやすい環境を整備し、自分の力を発揮できる場を提供することが重要となります。
10.従業員エンゲージメントを高めて生産性を上げよう
従業員エンゲージメントとは、会社の理念に対する共感や信頼、貢献意欲を示す指標です。人材不足や価値観の多様化、労働人口減少により人材の流動化が加速しています。人材の定着率向上の指標として、従業員エンゲージメントが注目されています。
従業員エンゲージメント向上のメリットとして、雰囲気の活性化と離職率の低下が挙げられます。会社に対して貢献しようという気持ちから、目標達成に向けて能動的に考える従業員が増え、職場が活性化され、離職率のリスクを軽減できます。従業員それぞれが高いパフォーマンスを発揮することで業務の質が高まり、業績向上にもつながるでしょう。
従業員エンゲージメントを高めるには、理念の浸透や正当な人事評価制度の構築は欠かせません。承認や称賛の組織風土を作り、マネージャーのフィードバック能力を向上させることで、従業員の自尊心や会社への信頼度向上につながります。
従業員エンゲージメントをサーベイすることも大切です。定期的にサーベイし、働きやすい制度や福利厚生により、職場環境を整えることで、共感度や貢献意欲向上につながります。従業員エンゲージメントを高め、生産性向上につなげましょう。