エンゲージメントとは人事分野では「深い関わり」や「愛着心」の意味で使う言葉です。注目することにどのようなメリットがあるのか、また、従業員のエンゲージメントを高める方法について見ていきましょう。従業員と企業との関わりを客観的に判断する方法についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
1.人事分野におけるエンゲージメントとは?
エンゲージメント(engagement)とは、通常、約束や契約、婚約などの意味で使われる言葉です。しかし、人事などの企業活動で使われるときは、社員が会社に対して愛着心や愛社精神を持つことを指します。
また、人事分野においては、「従業員エンゲージメント」という言葉が使われることも少なくありません。これは企業と社員がお互いに影響を与え、欠かすことができない存在として成長し、関係を深めることを意味する言葉です。
従業員エンゲージメントが高まると企業は成長しやすくなり、社員も成長します。そのため、近年では従業員エンゲージメントに注目し、従業員エンゲージメントを高めるための取り組みを実施する企業も増えています。
1-1.満足度との違い
従業員満足度とは、企業における社員の居心地の良さを示す言葉です。人間関係や労働環境、福利厚生制度など社員にとって快適で、居心地が良いときは従業員満足度は高くなるでしょう。
企業が社員の働きやすさに注目するときは、従業員満足度を意識することが必要です。しかし、従業員満足度の向上は、必ずしも企業成長や業績向上につながるわけではない点に注意しましょう。
一方、従業員エンゲージメントは企業と社員が互いに高め合う関係を指すため、従業員エンゲージメントが向上すると企業は成長し、業績も上向きになります。社員の働きやすさだけでなく企業成長も実現するためにも、従業員満足度と従業員エンゲージメントの双方に注目する必要があるといえるでしょう。
2.エンゲージメントが企業にとって重要な理由
愛社精神や会社への愛着といった言葉は、ともすれば一昔前の概念のような印象を与えるかもしれません。企業における社会人としての役割や立場よりも、より「個」に注目し、個人としての役割・立場を重視する流れもあります。
しかし、個人を重視する流れの中においても、エンゲージメントは企業にとって重要な要素です。企業がエンゲージメントに注目する理由としては、次の2つが挙げられるでしょう。
- 転職へのハードルが下がったから
- 生産性の向上につながるから
それぞれの理由について解説します。
2-1.転職へのハードルが下がったから
かつての日本では、終身雇用制が常識でした。個人は定年退職まで勤めることを前提に入社し、また企業側も社員が定年退職まで勤めることを前提にして、相応の役職や給与を提供してきました。
しかし、現在はそうではありません。かつてとは異なり終身雇用制が常識ではなくなったため、スキルアップや自分の適性に合う職場を探し、意欲的に転職するケースも見られるようになってきています。また、企業側も中途採用希望者を受け入れ、即戦力があり、能力のある人材の獲得に注力するようになってきました。
転職する社員の増加、そして受け入れる企業の増加により、社員を長期にわたってつなぎとめておくことは、かつてよりも困難なことになっています。企業側は何らかの対策を検討し、社員が進んで企業に留まりたくなるように働きかける必要があるでしょう。
そこで注目されるのがエンゲージメントです。エンゲージメントがあれば社員は企業に対して愛着を感じ、離職する可能性を減らせます。つまり、転職が珍しくない時代だからこそ、エンゲージメントの重要性が高まっているといえるでしょう。
2-2.生産性の向上につながるから
エンゲージメントが高い企業は生産性が高いことが一般的です。生産性を高めることは、業績向上、そして企業の成長にも直結します。
生産性を高めるためには、業務フローを見直して無駄を省く、工程ごとに効率性が高いか見直して外注を検討するなどのさまざまな方法がありますが、エンゲージメントを高めるという方法も検討できるでしょう。
3.エンゲージメントを高める4つのメリット
従業員エンゲージメントを高めることで、企業側には次の4つのメリットを得られます。
- 社員のモチベーションアップ
- 企業業績の向上
- ポジティブな社内風土の誕生
- 離職率の低下
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
3-1.社員のモチベーションアップ
従業員エンゲージメントが高まると、社員は企業の成長を自分の成長として捉えるようになります。上司に言われたから仕事をするのではなく、自発的にモチベーションを高め、自主的かつ意欲的に仕事に取り組むようになるでしょう。
3-2.企業業績の向上
社員が意欲的に仕事に取り組むようになれば、生産性は向上します。一人ひとりの生産性が向上すると、社員の人数はそのままでも業績は上がり、企業全体の業績アップにもつながるでしょう。
3-3.ポジティブな社内風土の誕生
社員一人ひとりが意欲的に仕事に取り組むことで、社内の空気がポジティブなものになります。すべての社員が「企業を成長させたい」という共通の想いを持つようになり、誰に強制されるわけでもなく一つの目標に向かって一丸となって働くようになるでしょう。
また、企業全体の業績が向上することも、社内にポジティブな空気を生みます。会社全体が上昇気流に乗り、さらなる成長を目指して意欲的かつ楽しく仕事に取り組めるようになるでしょう。
3-4.離職率の低下
エンゲージメントが高まると、社員は会社に対して愛着を持ち、離れがたく感じるようになります。離職率が下がり、大切な人材の流出を防げるようになるでしょう。離職率が下がると、恒常的に人材募集を行う必要性が減り、採用活動にかけるコストや時間を削減することにもつながります。
また、離職率が低いということ自体が、求職者にとって大きな魅力です。採用選考への応募者が増えるため、より優秀な人材、そして企業に必要な人材を確保しやすくなります。
4.エンゲージメントを向上させる方法
エンゲージメントを高めることは、企業に業績向上や離職率の低下などのポジティブな変化をもたらします。次の5つの方法により、エンゲージメントを向上させましょう。
- 企業理念とビジョンを伝える
- 研修制度を構築する
- 働きやすい環境を整える
- 社内コミュニケーションを活性化する
- 定期的にエンゲージメントを測定する
それぞれの方法について解説します。
4-1.企業理念とビジョンを伝える
企業について深く理解していない状態では、社員は企業に対する愛着を持つことができません。企業についての理解を深め、なおかつ心の底から共感することで、企業に対する愛着が生まれ、愛社精神を育むことができるでしょう。
エンゲージメントを高めるために企業が最初にすべきことは、社員一人ひとりに企業理念とビジョンを理解させることです。入社前だけでなく入社後も何度も企業理念とビジョンについて説明し、社員が理解するように努めます。
また、企業理念やビジョンを掲げて普段から目にする環境を構築することも、社員の理解を深めることにつながるでしょう。企業理念やビジョンを理解し、社員一人ひとりが自分の問題として考えるようになれば、組織の一員としての意識が高まり、最終的にはエンゲージメントを高めることにもなります。
4-2.研修制度を構築する
社員が業務内容について深く理解することも、エンゲージメントを高めるために必要なことです。企業理念とビジョンを理解しても、実際に自分は何をすれば良いのかという点が明確でないならば、会社に対して愛着を持ちにくくなってしまいます。
社員一人ひとりが自分の役割と業務を理解できるようにサポートし、何に向かって努力すれば良いのかを正確に把握させることにより、企業と社員との結びつきを強化していきましょう。
社員が仕事に対応できる能力を持つことも、エンゲージメントを高めるためには不可欠です。自分の役割や業務を理解したところで、それを実施するスキルを持たなければ、社員は仕事に取り組むことができません。
仕事が思うようにできないことがストレスになり、離職を考えるようになる可能性もあります。また、仕事に対しての興味を徐々に失い、生産性の低下を生むだけでなく、周囲にもネガティブな空気感が広まるかもしれません。
社員が自身の役割と業務を適切に果たすためにも、企業は研修制度を整え、社員が業務に必要なスキルを習得できる環境を構築する必要があります。また、すでにスキルを習得している社員に対しては、さらに効率良く業務を行うため、あるいはより高度の業務に取り組むためのスキルアップ研修も提供できるでしょう。
ビジネスに必要な情報や管理能力を高めるためのセミナーも、社員のエンゲージメントにつながるでしょう。例えば、マネジメント研修やリーダーシップ研修などを提供することで、社員は自身のスキルアップに役立てるだけでなく、企業から期待されていることを知り、より愛着を深めていくことができます。
4-3.働きやすい環境を整える
仕事に対するやりがいだけで、エンゲージメントを高められるとは限りません。社員が働きやすさを感じるためにも、福利厚生を充実させることは有効です。例えば、手軽な料金で利用できるカフェテリアや、少し疲れたときに利用できる仮眠室などの施設があれば、社員は働きやすいと感じる傾向にあります。
また、会社の補助でスポーツジムを安価に利用できる制度や保健師への相談サービスなどもあれば、社員の健康を向上させつつ、エンゲージメントを高められるでしょう。社員の意見も反映させて、働きやすい環境を整えることは必要です。
多様な働き方を可能にすることも、エンゲージメントを高めることにつながるでしょう。例えば「育児休暇の取得期間を長くする」「時短勤務やフレックスタイム制を導入する」などでも、社員は働きやすさを感じやすくなります。育児と介護などの事情で早めに帰宅する必要がある社員も、多様な働き方が認められている職場であれば、「この会社だから働ける」と感じ、自社への愛着を深めるでしょう。
4-4.社内コミュニケーションを活性化する
エンゲージメントとは、社員と企業との結びつきを指します。しかし、結びつきが生まれ、社員が企業に対して愛着を感じるのは、企業側の働きかけによってだけではありません。社員間に結びつきが生まれることでも、社員は企業に対する愛着を感じ、離れがたく感じるようになるでしょう。
つまり、社員間の結びつきを強化することで、エンゲージメントを高めることが可能になります。例えば、社内でチャットサービスを導入し、気軽に社員同士が連絡を取り合えるようにすることも検討できるでしょう。
昨今はテレワークに対応している企業も増えているので、チャットサービスを導入してオンラインでもコミュニケーションを取りやすくしておくと、社員間で適度にコミュニケーションを取れるようになり、エンゲージメントを高めることができます。
また、入社したばかりで業務に不安がある場合でも、上司がこまめにオンラインで連絡を取ったり、同期とオンラインで励まし合ったりできる環境があれば、孤立を感じさせにくくなるでしょう。
オンラインだけでなくリアルのイベントを開催することも、社内コミュニケーションの活性化に役立ちます。懇親会やパーティーなどを開催し、部署内の仲間との交流を深めたり、普段はあまり接する機会のない他部署の仲間と知り合ったりできるでしょう。
4-5.定期的にエンゲージメントを測定する
ここまで紹介してきた方法で、エンゲージメントを高めることは可能です。しかし、具体的な方法は会社によっても差があります。同じ方法を実施したとしても、企業風土や社員が異なると効果も異なるため、必ずしも思うような効果を得られるわけではありません。
エンゲージメントを高めるために実施している方法が企業・社員に合っているかどうかは、実際にエンゲージメントを測定することでわかります。前回測定したときよりも数値が高まっていればエンゲージメントは向上していると考えられるため、実施してきた方法がある程度の効果をもたらしていると判断できるでしょう。
反対に、エンゲージメントの数値が下がっている、あるいは変わらないときは、実施してきた方法に効果はあまりないと考えられます。現在のエンゲージメント対策を見直し、新しい方法も検討する必要があるでしょう。また、エンゲージメントは変化するものなので、定期的に測定することも必要です。
エンゲージメントの測定は、「エンゲージメントサーベイ」によって実施します。エンゲージメントサーベイについて、詳しく見ていきましょう。
5.エンゲージメントサーベイとは?
エンゲージメントサーベイとは、従業員のエンゲージメントを数値化するための調査のことです。エンゲージメントを高めたいと考えている企業は、定期的にエンゲージメントサーベイを実施し、社員と企業の結びつきを確認しましょう。
5-1.エンゲージメントサーベイの目的
エンゲージメントサーベイの目的は、社員と企業の関係を数値化することです。数値化することで、企業内のエンゲージメントがどの程度なのか確認することができます。また、すでにエンゲージメントを高める対策を実施している企業であれば、対策が期待した効果を生んでいるのか確認することもできるでしょう。
予想したよりもエンゲージメントが低い場合は、課題発見のチャンスです。エンゲージメントが低いということは、社員が企業に対して愛着を持てない何らかの原因があることを示しているため、労働環境や働き方、企業から社員に対する働きかけを確認し、課題を洗い出すことができます。
5-2.エンゲージメントサーベイの実施方法
エンゲージメントサーベイは、アンケート形式で実施することが一般的です。例えば、次のようなアンケートを社員に行い、エンゲージメントの高さを数値化します。
- 自社で働くことを親しい人にどの程度勧めたいか
- 成果を出すための環境が整っているか
- 適切な評価や賞賛を得られているか
- 上司や同僚はあなたのことを気にかけているか
- あなたの意見は尊重されていると感じるか
- 学びや成長を実感できているか
- 経営陣は事業の方向性や目標、戦略などを適切に示していると思うか
- 自社で働くことに誇りを持っているか
また、上記のような一般的な質問に加え、企業ならではの視点を加えた質問を作成し回答してもらうことも有効です。自社の状況に合わせた質問項目を準備し、定期的にエンゲージメントサーベイを実施しましょう。
5-3.エンゲージメントサーベイを実施する際の注意点
エンゲージメントサーベイを実施することで、社員と企業の結びつきについて理解することができます。また、社員との関わりにおける企業課題を早期発見することもできるでしょう。
しかし、エンゲージメントサーベイのアンケートに回答してもらうためには、業務とは別に社員の時間を使うことになり、負担になる可能性があります。また、質問項目を準備することや、実施・分析に時間がかかることにも注意しましょう。
6.エンゲージメントを意識して社内制度を整えよう
エンゲージメントは、社員と企業の結びつきを示す概念です。エンゲージメントが高まると、社員の仕事に対するモチベーションや生産性が向上し、企業への定着率も高めることができます。
エンゲージメントを高めるためには、社員にとって働きやすい環境を整えること、研修制度を構築してスキルアップできるようにすることなどの対策が必要です。時間をかけて、社員にとって誇らしい企業、求職者にとって魅力的な企業を作り上げていきましょう。