企業やチーム、個人が共通の方向に向かって全力で取り組み、生産性を高めることを目的とした手法です。
ここでは、OKRの意味や仕組みを説明し、KPIやMBOなど他の目標管理手法との違いをご紹介します。
OKRとは目標管理手法の一つで、ただ目標を設定するだけでなく、結果を測定できる指標をリンクさせる方法です。
すべての従業員が同じ方向を目指して計画を進めるもので、従来の手法と比較して短い頻度で目標設定から実行、評価、再設定までを行うのが特徴です。優先的な課題に対し、メンバー全員が総力を上げて取り組むことで、早期の目標達成を可能にします。
OKRはノルマとは異なります。ノルマは目標ではなく満たすべき最低ラインのことであり、OKRは達成できるラインよりもやや高い目標を設定するのが特徴です。
OKRの仕組みを簡単に説明しましょう。OKRのOは「Objectives(目標)」を指し、全体として達成したい目標のことです。
OKRのKRは、「Key Results(成果指標)」のことで、Objectiveへの進捗を図るための具体的な指標です。1つのObjectiveに対して2~5つ程度のKRが望ましいとされています。
目標管理の手法としては従来、KPI「Key Performance Indicator(重要業績評価指標)」やMBO「Management by Objectives and Self Control(目標による管理)」といった手法が用いられています。
「KPI」とは、最終目標を達成するために必要なプロセスが適切に行われているかをチェックする中間指標です。
数値化できる目標を定める点はOKRと同じですが、KPIは部署やプロジェクトごとで目標の数値を設定し、100%の達成を目的とします。これに対し、OKRは組織の全メンバーで高い目標を設定し、達成は60〜70%程度を目指す点が異なります。
一方、「MBO」は目標により組織を管理する手法です。企業の生産性を高める点でOKRと似ていますが、MBOは人事評価に活用される点が異なります。MBOは目標達成の度合いを社員の評価に使いますが、OKRでは人事評価とは切り離し、簡単に達成できない高い目標を設定するものです。
これによりメンバーそれぞれの求める方向性が統一され、スピーディな目標達成が可能になるのです。
ここでは、企業全体とチーム、個人それぞれの具体的なOKR設定例をご紹介しましょう。
企業全体が設定するのは、主に中長期的な目標です。数値化できる目標でなくてもよく、メンバー全員が一丸となって挑戦できる目標であることが大切です。ただし、実現できる可能性がなければ意味がなく、ゴールへ向かう過程で具体的にイメージできなければなりません。
企業全体の目標の一例をみてみましょう。
企業全体の目標ができたら、関連するKRをいくつか設定します。達成目標に対するKRの一例は、以下のとおりです。
企業全体の目標をもとに、連動させる形でチームの目標を設定します。チーム目標としてふさわしいのは、以下のような目標です。
チームの目標に対するKRは、以下のようなものを設定します。
個人のOKRも、チームと同じように設定します。できるだけ短期間で達成し、評価できる目標を設定するとよいでしょう。各人がポジションに応じた適切な目標を設定します。
管理職であれば「生産性を上げる専門性の高い人材を獲得して育成する」といった目標を設定し、KRには「採用コストの削減」や「人材育成計画の策定」などが適当と考えられます。
一般社員の場合は、「月次、年次の経理業務の効率化」「新規顧客獲得のためのマーケティング施策の立案」など、業務ごとの目標を設定します。それぞれの目標達成に向けたKRを設定していきましょう。
OKRに適しているのは、主に次のような企業です。
一方、以下のような企業はあまりOKRが適しているとはいえないでしょう。
このような特徴がある場合、OKRを導入しても失敗する可能性があります。導入する前に、自社の体制がOKRを実施できる状態にあるか検討してみる必要があります。
ここでは、OKRを実施するメリットについてご紹介します。
OKRは明確な目標を全員で共有するため、全員に目的意識と連帯感が生まれます。目標達成に向け、協力しながら取り組むチーム作りができるのがメリットです。
従業員が少ない組織であれば意識の統一は図りやすいといえますが、規模が大きくなるほど意思の疎通は難しくなりやすいです。自分の業務が会社に対しどのような貢献をしているかも見えにくくなり、モチベーションの低下にもつながりかねません。
OKRで目標設定することで個々人も会社と同じ方向性を目指すことができ、組織全体の中で自分がどのような役割を持つのかも確認できます。
やるべきことが明確になれば自然と社員間の連携が生まれ、社内コミュニケーションも活性化するでしょう。
OKRはサイクルの頻度が1ヵ月〜四半期と短く、短期間で達成できるシンプルな目標設定を行います。柔軟な調整・変更を行いながらリスクや無駄を削減でき、迅速な事業展開ができるのがメリットです。
一定の期間ごとにOKRを設定し、結果を分析して再びOKRを設定することを繰り返しながら業務を効率化していくことができます。
短いスパンで期間設定をするため達成感を味わう機会も多く、社員のモチベーション向上にも役立ちます。
OKRでは優先事項を明確にして、今やるべき仕事に集中できます。OKRの目標を共有する範囲は企業全体と広く、すべての社員に目標と主要な結果が共有されることで、社員は仕事の優先順位を判断しやすくなるからです。
結果に対し影響の大きい仕事を優先的に行うことで、効率的に業務を進められるようになります。
目標達成に無関係なことに煩わされず、必要な業務に集中できるのがメリットです。集中的に取り組むことで生産性の向上にもつながります。
OKRでは組織の目標と個人の目標が連動しており、自分の仕事が組織にどのような影響を与えているかがわかります。会社に貢献したいという気持ちが生まれ、従業員エンゲージメントの向上を図ることができます。
エンゲージメントの向上により、社員の定着率も高まります。すべての社員が同じ目標を目指すことで社員間の信頼関係が構築され、社員が定着しやすい環境が作られるでしょう。優秀な人材の離職を防ぐこともできます。
OKRの導入手順について、具体的にみていきましょう。
まず、達成目標を設定することから始めます。決める順番は企業、チーム、個人の順です。
目標は企業にとって最重要な課題に取り組めるもので、難易度が高めなものを設定します。1ヵ月〜四半期程度の短期間に60〜70%程度の達成率を見込める目標にしましょう。チームや個人の目標は、企業の目標とリンクさせてください。
設定の際は、目標設定のフレームワークであるSMARTの法則を使うのもおすすめです。
SMARTの法則とは目標達成を実現するため、以下の5つを実施します。
最初の「Specific」では、誰でも理解できるシンプルで具体的な目標であるかを確認します。次の「Measurable」により、曖昧な目標設定ではなく、達成度合いが数値で計測できる目標を設定しなければなりません。3番目の「Achievable」では、現実的に実現できる目標であるかをチェックします。
「Relevant」は、設定した目標が職務に関連しているかを確認するもので、「Time-bound」として目標達成までの期限設定も必要です。
5つの内容に沿って目標を設定すれば、より効果的な取り組みにつながります。
目標を設定したら、達成目標に対して2〜5個の主要な成果(KR)を設定します。目標達成度を測る指標であるため、「30%」や「10件」といった具体的な数値を用いて設定しましょう。どのように測定するのかの基準も具体的に定めておくことが必要です。
主要な成果の設定で大切なことは、目標達成により最終的な目標が達成できるようにすることです。成果目標を達成しても最終目標が達成できないのであれば、成果目標を設定する意味がありません。最終的目標の達成に関連づけた成果目標の設定が求められます。
設定したOKRは全社員で共有するため、グループウェアなどを活用し、いつでも確認できる状態にしなければなりません。自由に閲覧できる状態にして、目標達成を意識しながら業務を行う体制にしましょう。経営者をはじめ経営陣が全社員に向けて、目標達成に関するプレゼンテーションを行うのも効果的です。
全社員への共有や経営陣からの宣言により社員の結束を強め、目標達成に向けてより高い効果が期待できるでしょう。
目標の達成度合いについて、定期的な進捗状況の確認やフィードバックをすることも大切です。フィードバックには、1週間に1回程度の頻度で会議を行う「チェックインミーティング」や、良い部分に着目して互いに褒め合う「ウィンセッション」、達成率を確認する「レビュー」があります。
それぞれの内容を詳しくみてみましょう。
チェックインミーティングは、目標達成のための振り返りを行うものです。ミーティングでは地位や立場に関係なく自由な順番で座り、発言する順番も決めずに自由に話し合います。
目標達成に何が足りないのかを明らかにして、足りない部分についてアドバイスをもらえるのがメリットです。また、期限内に目標達成ができるか、設定されたOKRは妥当かといった内容を検討していきます。
ウィンセッションは基本的に週の終わりに開催され、その週に行ったアクションと成果を共有します。達成したことや発見したこと、気づきなどを報告してお互いを賞賛します。社員の仕事をねぎらう意味も込めて、軽食や飲み物などを用意するとよいでしょう。
できなかったことではなくできたことに着目してセッションを進めるため、社員のモチベーションを維持する効果があります。
ウィンセッションはお互いを褒め合い、取り組みを評価する姿勢が大切です。成果を出せなかった場合でも、頑張ったことを評価します。今後はどのように取り組むのかを、前向きに話し合いましょう。
5-4-3.レビュー
レビューとは、目標に対してどれくらいの達成率なのかを確認することです。OKRの実施期間中と実施後の2回行います。中間のレビューで確認を行い、進捗に遅れがあれば改善すべき点を議論しましょう。
最終的に60〜70%の達成が見込めないと判断した場合は、達成できそうな目標に変更することも可能です。
実施後は最終レビューを行い、それぞれの結果を評価します。後述しますが、ここでの評価は社員への評価は含まれません。最終レビューでは今後も同じ目標を続けるか、別の目標に切り替えるかを決定します。
GoogleなどOKRを実際に導入している企業が大きな成長を遂げているのは、「挑戦的な目標」とも称される高い目標を掲げているからです。到達できそうなレベルより少し上に目標を設定することで、チャレンジ精神が発揮されて目標達成の効果を高めます。
とはいえ、高い目標設定をすると達成できない可能性が高まります。従来の人事評価に直結した目標管理の手法では、低評価が下されて昇進に響くことにもなるでしょう。
それを避けるため、保守的な目標設定が行われる傾向があります。そのような考え方が根強い場合、OKRを導入しても、従来と変わらない目標設定になりやすいでしょう。
そのような事態を避けるため、OKRでは目標の達成率につき70%を理想としています。
また、高い目標を設定するに際しては経営トップや経営陣がその重要性を説き、これまでとは異なる認識のもとに目標設定をするようにしなければなりません。
OKRでは目標だけでなく、進捗状況から結果まですべて公開して透明性を高めることが大切です。透明性があることで、社員は組織全体の動きに自分の行動がどうつながっているかを把握できます。それにより自身が組織の役に立つことを認識し、やりがいへとつながるのです。
また、透明性は協力関係や良い意味での競争環境を作り出すためにも欠かせません。そのためにも、定期的なフィードバックは大切です。
OKRは人事評価と直結していません。これは高い目標設定とも関連しています。目標達成を評価に直結させた場合、目標を達成できないことで昇格・昇進に影響することを恐れ、高い目標を設定できない可能性があるからです。
OKRの目的の一つは、高く設定した「挑戦的な目標」に向かうことによる社員の成長です。評価を恐れた保守的な目標では、OKRが目的とする社員の成長は期待できません。
高い目標設定で成果が理想の70%に届かなかった場合は、次のOKRを改善するためのデータとして捉えるとよいでしょう。
同じ理由で、OKRは人事評価だけでなく報酬にも直結させないことが大切です。
OKRを導入する場合の人事評価や報酬の決定については、以下のような方法が採用されています。
「バリュー評価」とは、社員に求められる企業の価値観や行動規範として「バリュー」を設定し、達成の程度をもとに評価を行う手法です。
OKRの導入とともに、自社に合う人事評価制度を検討する必要があります。
自分の仕事が会社の業務に影響を与えていることが理解でき、モチベーションやエンゲージメントの向上を図ることができるのもメリットです。
OKRを上手に取り入れ、企業全体の目標を達成しましょう。