MBO(目標管理制度)の導入は、組織目標の達成確率を高めます。従業員個人の目標への意識が高まり、達成に向けた行動が活発化するためです。また従業員の自律性の向上など、さまざまなメリットをもたらすでしょう。本記事ではMBOについて、詳しく解説します。
1.MBO(目標管理制度)とは
「MBO」は、「Management By Objectives」の略で、組織マネジメントの手法の一つです。個人で業務目標を定め、達成のための行動や、進捗管理も自身が行う自主性を尊重した管理手法で、目標管理制度とも呼ばれます。
正しく運用することで従業員のモチベーションに良い影響を及ぼし、組織全体の生産性の向上が見込まれるなど、多くのメリットをもたらします。
日本においてMBOは、人事評価の手法として定着しています。MBOにおける個人目標は組織目標とリンクしていることが前提で、組織目標に貢献するための個人目標を設定し、その達成度により評価が決まるといった仕組みです。
しかし、誤った運用方法で、本来の効果が得られないこともあります。人事評価の要素が強くなるあまり、目標設定の自主性が損なわれ、単なるノルマ管理に陥ってしまうケースです。
MBOが機能するためには、個人の目標は自主性が尊重され、上司はその達成のサポート役というスタンスが理想といえます。
2.MBOが日本企業に定着した背景
MBOの歴史は、経営学者ピーター・F・ドラッカー氏が1954年に刊行した著書にさかのぼります。その後ドラッカー氏を含む経営学者により概念が形成され、1960年代の半ばには日本でも知られるようになりました。しかし、当時の日本は高度経済成長の真っ只中であり、定着にはいたらなかったのです。
1990年代後半、バブル経済の崩壊による景気低迷により、MBOは注目を集めます。人件費をかけずに業績を向上させなければならない企業が、成果主義の導入を進めたことが理由です。成果を出す従業員に高い報酬を払う評価の仕組みとして、MBOを活用するようになりました。
日本においてMBOが人事評価のツールとして活用されるのは、こうした背景があるためです。
3.MBOとOKRの違い
MBOと同じ目標管理の手法に、「OKR(Objectives and Key Results)」があります。両者の違いは、評価と能力開発という視点の違いです。MBOは組織目標にリンクした個人目標の達成度により個人を評価しますが、OKRは達成困難な高い目標にチャレンジさせることで、個人の能力を引き出そうとします。
その他にも、目標管理の手法として「KPI(Key Performance Indicator)」と「KGI(Key Goal Indicator)」があります。KPIは最終目標達成のためのプロセスを示す中間指標のようなもので、KGIは企業が達成を目指す最終目標のことです。
ここでは、MBOとOKRを比較していきます。
3-1.目標管理の目的
MBO・OKRともに、本来の目的は組織目標と個人目標を共通化し、組織の生産性向上を図ることです。
MBOでは組織目標と個人目標がリンクすることにより、個人の役割が明確になります。個人目標の達成度が組織目標への貢献度と一致するため、人事評価にも活用されるようになりました。
OKRでは、個人単位から部門単位、会社単位と目標を集約することで方向性を一致させ、組織としての総合力を発揮し組織目標の達成を目指します。
個人目標の難易度は、かなり野心的で達成が難しい目標を設定します。こうした高い目標に挑むことで、パフォーマンスの向上を図ることが目的としてあるため、人事評価に連動することはありません。
3-2.個人目標の共有範囲
MBOにおいて個人目標は人事評価と連動するため、上司(評価者)などの一部の限られたメンバーだけに共有されます。評価の指標として取り扱われるため、評価に関わる管理職で共有されることはあっても、すべての従業員に広く共有されることはありません。
OKRにおける個人目標やチームの目標は、企業全体に共有されます。OKRのゴールは企業としての組織目標の達成で、成果を確認するためには個人目標やチーム目標の進捗をリアルタイムで確認する必要があるためです。
チームや一人ひとりの従業員が、何に取り組んでいるかがわかるため、コミュニケーションが促進されるという側面もあります。
3-3.評価の頻度
MBOとOKRでは、評価の頻度にも大きな違いがあります。MBOは人事評価に使用されるため、半年〜1年のスパンで評価がなされます。個人目標の達成度を図るためには、途中経過よりも最終段階での成果を測定した方が都合がよいためです。
OKRは高頻度に目標の達成度を確認します。多い場合は1週間に1度、少なくとも1~3ヵ月に1度は確認の機会を設けましょう。頻度が高いのは、状況をこまめに把握して、必要に応じ軌道修正する必要があるためです。
3-4.達成度の計測方法
MBOにおける目標達成度の計測は、一般的な決まりはなく定性的な目標でもよいとする企業もあります。しかし、明確に数値化できない目標を設定した場合、評価者の主観に左右されるケースもあるため注意が必要です。
OKRは定性的な目標を設定した場合でも、必ず数値指標をプラスすることが特徴です。しかもその数値目標は高い水準で設定され、評価とは連動しません。
3-5.理想とされる達成度
MBOにおいて、目指す目標の達成度は100%です。人事評価において点数化した場合、100%の目標達成度であれば100点、80%であれば80点という扱いになります。そのため、100%の達成度は、ある程度の努力により達成可能な難易度で設定されることが普通です。
OKRは達成困難な高い目標に向けた努力をパフォーマンスにつなげることが目的のため、目標の難易度はかなり高く設定します。
60〜70%の達成度であっても「素晴らしい成果である」と、周囲の誰もが認める水準の難易度です。OKRの考え方では、100%達成できる目標は余力を残しており、生産性が低いとみなされます。
4.MBOのメリット
多くの企業がMBOを導入するのは、個人目標を組織目標に統一できる点にメリットを感じるためだと考えられます。方向性の統一により、組織目標達成の可能性が高まるといえます。
その他にもメリットがあります。ここでは、MBOのメリットについて詳しく解説します。
4-1.自律した従業員の育成につながる
努力すれば達成できる水準の目標を立てることは、達成に向けた行動を自分の意思で起こすことにつながります。強制された目標や、実現不可能な目標ではないため、達成に向けた業務行動に対する本気度も違ってくるでしょう。
目標達成に向け、従業員が主体的に動くことで自律性が養われ、セルフマネジメント力が向上する効果を期待できます。
4-2.従業員の能力開発が促進される
目標達成に向けた創意工夫が生まれることで、能力開発が促進されます。多くの従業員は、努力すれば達成できる少し高めの目標に挑むことで、達成のために必要なスキルや知識を自ら身につけようとするでしょう。
個人の努力が活発に行われることは、組織の活性化をもたらします。個人レベルのスキルアップが集約されることで、企業全体のスキルも底上げされレベルアップにつながるのです。
4-3.モチベーションアップにつながる
個人目標が組織目標とリンクしているため、自身の目標達成が組織に対する貢献に直結します。自己目標達成に向けた努力が組織からの賞賛の対象となるため、モチベーションも向上しやすくなります。
また、個人目標の達成が、自身の高評価につながります。賞与や給与といった金銭的な報酬に直結することでもあるため、モチベーションに大きく影響すると考えられます。
4-4.評価の透明性が確保できる
MBOは目標の達成度により評価が決まります。評価結果が一目瞭然で、わかりやすい点が多くの企業で導入が進んだ理由の一つといえます。
個人が立てた目標を上司と面談のうえ、評価の指標とするため、達成できたことと達成できなかったことが、双方で明確に認識できます。評価の透明性が確保できるため、評価する側は精神的な負担が軽くなり、評価される側も納得度が高まる可能性があります。
5.MBOのデメリット
一方でMBOには、デメリットもいくつか存在します。まず、管理職の負担が増えることが挙げられます。一度立てた目標を期の途中で臨機応変に変更できないことも、運用を難しくしているポイントです。
目標の自主性が損なわれた場合、単なるノルマ管理のツールとして活用されてしまう恐れがあります。MBOのメリットである、自律的な従業員の育成が機能しなくなってしまうでしょう。その他のデメリットについて詳しく解説します。
5-1.目標設定が難しい場合がある
バックオフィス業務など、業務内容によっては定量的な目標が設定しにくいことがあります。こうした部門では達成の指標が曖昧になり、やりにくさを感じることもあるようです。
個人目標は組織目標と連動することが前提のため、従業員によっては自由な目標設定ができないと感じてしまうこともあります。
人事評価と連動することも、弊害をもたらす要因です。目標の達成度が給与や賞与といった金銭的な処遇に直結するため、低い目標を設定しがちな従業員が出てくる恐れがあります。多くの従業員が達成容易な目標を設定すれば、組織としての生産性向上は見込めなくなってしまいます。
5-2.評価の公平性が確保されない場合がある
個人や部門ごとに目標の難易度に差が出てしまった場合、評価の公平性が損なわれることが考えられます。
数値指標で計測できる定量的な目標であれば、難易度について客観的な判断は可能です。しかし、数値化できない定性的な目標の場合、評価者の主観が入ると公平な評価ができなくなるリスクがあります。
こうした点が従業員の不満として表面化すると、モチベーションの低下にとどまらず、協調性を損ない、組織運営がうまくいかなくなることも考えられるのです。
6.MBOの運用フロー
MBOの運用フローはPDCAサイクルで管理することで、精度の向上が見込めます。まず、個人目標を設定し、達成までの計画も含め上司である評価者と共有します。
計画を実行する際には、期日から逆算したチェックポイントを設け、進捗管理を行うことで達成の可能性が高まります。最終的には達成度を確認し、次の目標に向けたアクションを起こすといった流れです。
6-1.目標設定
個人目標の前提となる、組織目標を共有することからはじめます。個人目標が的外れなものにならないためにも、組織目標との関連性を重視しなくてはなりません。
現実的には、個人目標は組織目標を細分化し、担当者別に振り分けたようなイメージになります。目標の概要が固まれば、次は達成度の設定です。可能な限り、他の従業員や部門と難易度をそろえることが望ましいでしょう。
容易に達成できる目標を設定した場合、個人と組織の成長は見込めません。その点を、管理者は厳しくジャッジする必要があります。
6-2.計画・実行
目標達成に向けた計画を立てるプロセスです。最終的な達成期限から逆算して、実行計画を作成していきます。その際、目標も細分化し「いつまでに何を達成する」といったチェックポイントを設けておくと、進捗管理が容易になり最終目標達成の可能性が高まります。
計画を立てる際には、エクセルなどを用いた目標管理シートを作成しておくと、計画の全体像と進捗を可視化できます。
6-3.進捗管理
計画の実行中は、定期的に進捗管理を行います。進捗確認は本人だけでなく、上司も交えて行うことが望ましいです。計画時に設定したチェックポイントごとに、順調に計画が進んでいるのか、またそうではないのか、確認をします。
もし、順調に進んでいないのであれば、原因を考え修正を図らなくてはなりません。上司はうまくいかない原因を取り除くアドバイスをするなど、適切な支援を行う必要があります。
6-4.評価と評価後のフォローアップ
計画の実行期間が終了したら、各個人の目標の達成度を上司が評価します。事前に設定した達成基準に基づき、客観的な判断をしていきましょう。
上司は単に、評価の結果を通知するだけでは不十分です。なぜその評価にいたったか、理由も含めフィードバックしなくてはなりません。
評価結果によっては、納得がいかなかったり、悔しさを感じたりする従業員もいるでしょう。こうした部下の感情を、次の目標への意欲に転換させるようなフォローが上司には求められます。
7.MBO導入の課題と注意点
MBOを適切に運用していくためには、評価(マネジメント)する側の管理者が、目標管理に関する知識を高めておくことが欠かせません。目標の難易度に対する客観的なジャッジや、評価後のフォローアップで従業員の成長を促すためにも、知識と経験が必要です。
MBO運用においては、人事評価に偏りすぎるあまり、本来の目的が損なわれないようにすることが課題といえます。そのためにも、以下のポイントを十分に注意しましょう。
7-1.自主性を尊重する
目標が、押し付けやノルマにならないように注意が必要です。あくまで組織目標の達成が目的ですが、従業員の自主性を尊重しない個人目標を立てさせた場合、MBOの運用そのものが形骸化してしまいます。
大切なことは従業員一人ひとりが、組織目標を理解したうえで、自身がどのような役割を担わなくてはならないのかを判断できることです。その判断のもと自主的に目標を設定し、達成に向けた行動を起こし、自己成長につなげていくことが理想といえます。
7-2.適切な目標を設定する
MBO運用において適切な目標設定は、もっとも重要なポイントといえます。個人目標は組織目標とリンクし、個人目標の達成が業績向上に貢献することが前提です。その前提を踏まえたうえで、個人の目標設定はより具体性をもった内容にしなくてはなりません。
目標の難易度も適切に設定する必要があります。難易度の低い目標は、MBO本来の目的である、個人と組織の成長につながりません。反対に難易度が高すぎる目標も、達成に向けたモチベーションを失わせてしまいます。
7-3.達成基準を明確にする
目標の達成度は、可能な限り数値化できる明確な基準が望ましいといえます。定性的な目標は解釈の違いにより達成度に認識の相違が生じやすく、評価への不信感につながることが考えられるためです。
数値化できない定性目標の場合は、評価者と被評価者の間で綿密にすり合わせを行い、明確な達成基準を共通認識としておく必要があります。そのためにも両者の間には、普段から良好なコミュニケーションが欠かせません。
こうした良好な関係性が評価の納得度を左右します。MBOを従業員一人ひとりの成長へとつなげる重要なポイントとなるのです。
7-4.プロセスも評価する
MBOにおける評価は、目標に対する成果が中心になります。しかし、従業員の成長を促す視点を加えたときには、成果に向けたプロセスもバランスよく評価に加味することが望ましいでしょう。
厳密に成果だけを評価基準とすると、状況変化により目標達成が困難になった場合、評価への不満につながることが考えられます。また個人目標に執着するあまり、チームワークを無視する従業員が出てきて組織力を低下させる懸念もあるためです。
こうしたことを防ぐ意味でも、成果だけでなく、目標達成に向けた行動も評価項目に加えるといったバランスが必要になります。
8.適切なMBO運用で組織強化を図ろう
MBOによる目標管理は、適切に運用することで従業員の自主性を育みます。目標に対する高い意識をもった集団が形成され、組織力の強化を図ることができます。
そのためには、組織の管理者がMBOに関する知識を深め、適切に運用することが欠かせません。適度な難易度の目標達成に向け、従業員一人ひとりが最大限の努力をすることで成長し、最終的な組織目標が達成されることが理想です。今一度、自社のMBOの運用を見直してみてはいかがでしょうか。