求人広告を作成するときには、求人広告に記載されている内容が法律に則ったものであることが求められます。次の6つは、求人広告に関わる可能性がある法律です。
・男女雇用機会均等法
・雇用対策法
・労働基準法
・職業安定法
・最低賃金法
・著作権法
それぞれの法律においてどのような部分が求人広告と関わるのか、また、どのような書き方をすれば法律への抵触を回避できるのか解説します。
採用選考は、応募者本人の能力や適性に基づいて実施されなくてはいけません。「男女雇用機会均等法」においても、本人の能力とは関係のない性別で応募を制限することは禁じられています。
例えば、女性スタッフやガードマン、看護婦などの表現はいずれも性別を指定するため、原則として求人広告に使用することはできません。スタッフや警備員、看護師のように性別を特定しない表現に言い換え、応募者の能力と適性によって仕事に向いているか判断するようにしましょう。
「雇用対策法」では、年齢を指定した求人を禁じています。「30歳までのスタッフ募集」「若い方募集」などのように、能力や適性ではなく年齢で応募を制限することは原則として認められていません。
仕事の中には、ある程度の年齢の方に適していると思えるものもあります。例えば、学生をターゲットとしたアパレルブランドのショップ店員であれば、顧客層と年齢が近い人材のほうがよいと判断できるでしょう。
とはいえ、その仕事に対して熱意があり、接客・販売のスキルが高い人材であれば、年齢に関わりなく応募できなくてはいけません。「学生をターゲットとしたアパレルブランドの販売スタッフ募集」のように顧客層を明確に記載し、求職者自身が選択できるようにしておくことが大切です。
参照元:厚生労働省「募集・採用における年齢制限禁止について」
「労働基準法」は、労働者の労働基準について定めた法律です。最低基準について定められているため、雇用する側は労働基準法の基準以上で労働条件を決定することが求められます。
例えば、労働基準法では以下のように労働時間と休日、休暇の条件を定めています。
・労働時間:原則として1日8時間まで、1週間に40時間まで
・休日:毎週1日以上あるいは4週間に4日以上
・休憩:6時間を超える労働に対して45分以上、8時間を超える労働に対して1時間以上
求人広告に「勤務時間は8〜18時(1時間休憩あり)」や「1ヵ月に3日は完全休日」と記載されている場合であれば、労働基準法に違反していると考えられます。労働基準法に則った労働条件に修正することが必要です。
参照元:厚生労働省「労働時間・休日」
「職業安定法」では、求人広告や募集要項を掲載するときは仕事内容や給与などを明確に記載することが定められています。また、実際の労働条件などを的確に表現することが必要であり、誇大あるいは虚偽の内容は認められていません。
もし最初に提示した条件を変更しなくてはいけないときは、変更したことと変更前・変更後の内容がわかるように以下のように記載します。
・当初:基本給1ヵ月30万円 → 基本給1ヵ月25万円
また、虚偽の表示ではなくとも、一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示にならないよう注意してください。例えば営業職中心の業務を「事務職」と表示するなど、実際の業務の内容と乖離する名称を用いるのはNGです。
「最低賃金法」では、賃金の最低限度額が定められています。万が一、この基準以下で契約をした場合であっても、雇用者は最低賃金以上の報酬を払うことが必要です。
最低賃金には、地域ごとに定められた基準と、特定の産業において定められた基準があります。例えば、東京都の最低賃金は1,041円(2021年度)のため、原則として、東京都で働くすべての労働者は1時間あたりに換算して1,041円を超える賃金で雇用契約を締結することが可能です。
もし最低賃金以上の賃金を支払わない場合には、50万円以下(特定の産業における最低賃金基準に満たない場合は30万円以下)の罰則を科せられることになります。
参照元:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
参照元:厚生労働省「最低賃金制度とは」
求人広告に許可なく転記した文章や写真を掲載すると、「著作権法」に触れる恐れがあります。制作者の著作権を侵害する行為とされ、差し止めが請求されるだけでなく、場合によっては法的措置が取られる可能性もあるため注意が必要です。
参照元:総務省「著作権法」
ここでは、求人広告に明記が必要な項目と、明記されていない場合の罰則等をご紹介します。
求人広告を掲載する際は、改正職業安定法により労働条件等の明示が義務付けられています。明示が必要な項目は、以下のとおりです。
「募集者の氏名または名称」では、求人企業とグループ企業が混同されるような表示は禁じられています。
また、「賃金」で固定残業代を採用する場合、基礎となる労働時間数を明示せず、基本給に含めて表示することはできません。さらに、モデル収入例を必ず支払われる基本給のように記載することもNGです。
なお、改正職業安定法では「正確かつ最新の内容に保つ義務」が新設されています。募集を終了・内容変更した場合には、速やかに求人情報の提供を終了もしくは内容を変更する、いつの時点の求人情報か明らかにするなどの措置が必要です。
労働条件を明示しない場合、職業安定法違反となるため注意しなければなりません。職業安定法の内容に違反した場合、違反の内容ごとに懲役や罰金といった罰則が定められています。
また、求人広告において以下のような虚偽の表示・誤解を生じさせる表示は禁じられています。
虚偽の広告または条件を提示して職業紹介、労働者の募集等を行った者については、職業安定法違反として「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の対象となります。
ほかにも、労働条件が変更になったのに変更内容を速やかに明示しない場合、行政による指導監督が入る場合があります。
参照元:e-Gov法令検索「職業安定法」
求人広告で法律を遵守するのは当然ですが、それはただ「法律で規定されているから守る」というだけではありません。守るべき理由について把握しておくことが大切です。
ここでは、求人広告で法律を遵守すべき理由を2つご紹介します。
求人広告の掲載で法律の遵守が求められるのは、求職者の「職業選択の自由」を守るためです。「職業選択の自由」は日本国憲法第22条で定められている基本的人権であり、誰もが職業を自由に選択できることが憲法で保障されています。
求人広告も求職者が自由に職業を選べるよう配慮しなければならず、労働条件を明確にして正しい選択ができるようにしなければなりません。
参照元:e-Gov法令検索「日本国憲法」
法律のルールを守るのは、自社のメリットにもつながります。正確な求人広告を掲載することで、自社に適した人材を確保できる可能性が広がるためです。不確かな求人広告では求職者の興味を惹かず、採用活動をスムーズに進めることができません。
求人広告掲載には守るべきルールが多く手間がかかると感じることもあるでしょうが、時間をかけてでも適切に行うことが、企業の利益につながります。
法律を遵守し、正しい求人広告を作成するためにも、よく間違うポイントについて知っておくことが必要です。特に次の2点は間違う恐れがあり、慎重にチェックすることが求められます。
・性別・年齢を指定せずに労働条件を記載する
・客観的に正確な数字を記載する
それぞれのポイントについて解説し、正しい書き方の例をご紹介します。
原則として、求人広告では性別や年齢を指定した労働条件を記載することはできません。特定のスキルや適性を必要とする業務について記載するときは、性別や年齢を明記するのではなく業務内容について詳しく説明することで、求職者自身が判断できるようにしておきましょう。
例えば、次のような表現を用いることで、性別や年齢を指定せずに労働条件を記載することは可能です。
・20代をターゲットとするアパレルブランド
・業務内容は主に荷物の上げ下ろし
給与や休日などの数字を記載するときは、客観的に正確な数字のみを記載することが必要です。例えば、基本給25万円、週休2日のように、採用されたすべての労働者に該当する内容だけを記載しましょう。
状況によっては、年齢や性別を限定した求人広告を作成することもできます。例えば、次の3つの状況では、年齢や性別を限定した募集が可能です。
・女性労働者の割合が4割を下回っているとき
・定年が決まっているとき
・期間を限定せずに若年層を募集するとき
それぞれの状況について解説します。
かつては、性別による役割を固定したことから、男女の雇用機会に不均等が生じていました。今も残る男女の不均等な状態を是正する目的で、積極的に特定の性別を雇用することは法律に違反する行為ではありません。
例えば、職場に女性が極端に少ないときは、不均等な状態を是正する目的で積極的に雇用することができます。しかし、単に女性を優遇する、女性を優先して採用することは、男女雇用機会均等法に反する行為です。目的が法に適っているかを確認したうえで、女性を優先して採用するようにしましょう。
年齢で応募を制限することは、本来であれば禁じられています。しかし定年が決まっている場合、定年までの年齢の人材を募集することは違法ではありません。例えば、65歳定年のため65歳未満を募集するという求人広告は、法的にも問題がない行為です。
長期勤続によるキャリア形成を図るという目的で、特定の年齢以下の人材を雇用期間を限定せずに募集することができます。ただし、対象者の職業経験については不問とし、新卒者でなくても新卒者と同等の処遇にすることが条件です。このように意図的に若年層の人材を雇用することで、長期間の雇用が可能になり、安定した人材確保を実現できます。
参照元:厚生労働省「男女均等な採用選考ルール」
参照元:厚生労働省「年齢制限禁止パンフレット」
求人広告には、法律で掲載を禁止されている表現があります。差別表現や特定の人を差別・優遇する表現です。また、実態と異なる好条件は求職者をだます求人広告であり、許されません。
求人広告に掲載してはいけない禁止表現について、みていきましょう。
求人広告において性別を理由とする差別表現をすることは、男女雇用機会均等法で禁止されています。
男女雇用機会均等法は、雇用の分野で男女の均等な機会と待遇の確保を図るための法律です。募集・採用、配置・昇進等の各ステージで性別を理由とする差別を禁じています。
求人広告において禁止されている性差別表現は、多岐にわたります。
禁止される内容 |
禁止となる表現例 |
OKとなる言い換え表現例 |
性別を理由に求人の対象から排除する表現 |
女性(男性)歓迎 |
女性(男性)活躍中 |
主婦歓迎 |
主婦(夫)歓迎 |
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営業マン |
営業マン(男女)、営業職 |
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看護婦・ウェイター・ウェイトレス |
看護師・ホールスタッフ |
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男女それぞれの募集人数を記載 |
募集人数:男性3名、女性2名 |
募集人数:5名 |
性別で異なる採用方法を記載 |
・男性のみ面接あり ・女性のみ説明会あり |
男女ともに同一の採用方法を実施 |
性別で異なる条件を記載 |
一般事務(男性:未経験歓迎、女性:経理の経験あり) |
一般事務(経理の経験者歓迎・未経験可) |
求人における性差別には例外があります。以下のように、業務を遂行する上で一方の性でなければならない職務等は法律違反になりません。
また、職場改善などの理由で女性のみを求人の対象とする、もしくは女性を優遇することは、「ポジティブ・アクション」として違反となりません。
ポジティブ・アクションとは、過去の慣習などから営業職に女性はほとんどいない、管理職は男性がほとんどを占めているなどの等の男女間格差が生じている場合に、これを解消するために企業が行う自主的な取り組みです。
男女雇用機会均等法8条では、男女労働者間の事実上の格差を解消する目的で行う 「女性のみを対象・優遇する求人等の取り組み」については法に違反しない旨が明記されています。
参照元:厚生労働省「女性労働者についての措置に関する特例(第8条)」
参照元:厚生労働省「女性の活躍推進協議会 ポジティブ・アクションって、なに?」
年齢差別表現は、雇用対策法により禁止されています。年齢差別表現となるのは、主に以下のような場合です。
禁止される内容 |
禁止となる表現例 |
OKとなる言い換え表現例 |
求人対象から特定の年齢層を排除する記載 |
・募集年齢:40歳まで ・18歳以上募集 |
募集年齢を記載しない |
特定の年齢層に条件をつける記載 |
40歳以上は経験者を優遇 |
(年齢関係なく)経験者優遇 |
年齢制限には、法律で定められた例外があります。
労働施策総合推進法 施行規則第1条の3第1項に定められている、以下の場合です。
例外事由1号 |
定年年齢を上限に、その上限年齢未満の労働者を期間の定めのない労働契約の対象として募集する場合(例:定年が60歳の会社が、60歳未満の人を募集する) |
例外事由2号 |
労働基準法その他の法令により、特定の年齢層の就労が禁止・制限されている業務の場合(例:危険有害業務や警備業務) |
例外事由3号 イ |
長期的にキャリア形成を図る目的で、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集する場合(基本的に35歳未満を想定・それ以上でも可) |
例外事由3号 ロ |
技能・ノウハウの継承の観点から、特定の職種において労働者数が少ない特定の年齢層に限定し、期間の定めのない労働契約の対象として募集する場合(30~49歳のうち、5~10歳幅の年齢層) |
例外事由3号 ハ |
芸術・芸能の分野で表現の真実性などの要請がある場合(芸術作品のモデルや演劇などの役者) |
例外事由3号 ニ |
60歳以上の高年齢者や就職氷河期世代の不安定就労者などに限定して募 集する場合(上限年齢は設けないこと) |
特定の人を差別したり、優遇したりする表現は労働基準法で禁止されています。該当するのは、以下のような事由です。
禁止される内容 |
禁止となる表現例 |
OKとなる言い換え表現例 |
人種・民族・国家を限定または対象外とする |
・外人 ・後進国 |
・外国人 ・発展途上国 |
居住地を限定または対象外とする |
・県内にお住まいの方 ・通勤時間1時間以内の方 |
・地元企業で活躍したい方 ・〇〇にお住まいの方は通勤しやすい! |
身体的な特徴や心身の障害・病気に関して差別的な表現をする |
・色盲・色覚異常 ・ブラインドタッチ |
・色覚障がい ・タッチタイピング |
身体条件や性格を限定または対象外とする |
・身長〇cm以上 ・体力のある方 ・コミュニケーション能力が高い方 |
(身体的特徴は記載しない) ・体力が必要な仕事です ・周りとコミュニケーションがとれる方に向いている仕事 |
普段何気なく使っている言葉が差別に該当する場合もあります。差別の意識はなくても、受け取る側によっては不快な思いをするような表現になっていないか、十分注意しなければなりません。
参照元:e-Gov法令検索「労働基準法」
実態と異なる好条件を掲載するのは求職者をだます行為であり、労働基準法・最低賃金法などで禁止されています。経営状況によっては求人広告の掲載時から入社までに労働条件が変わる可能性もありますが、その場合は速やかに変更について説明しなければなりません。
また、実態とは合っていても、条件が法律に違反していないかのチェックは必要です。以下のような問題はないか確認しておきましょう。
参照元:e-Gov法令検索「労働基準法」
参照元:e-Gov法令検索「最低賃金法」
求人募集では、性別に関わらず均等な機会を与えることが法で義務付けられています。どちらかの性別を差別的に扱う表現はもちろん、一方を優遇する表現も禁止です。差別とは気づかずに差別的な表現をしてしまう場合もあるため、注意しなければなりません。
例えば、次のような一方の性に呼びかける求人広告はNGです。
これらは、以下のような表現にすることで、差別表現ではなくなります。
男女の区別をつけない、もしくはどちらの性に向けても記載するようにすることが大切です。
年齢を制限する表現は、例外事由を除いて禁止されています。20歳以上、35歳までなど、年齢の表記はできません。
例えば、次のような求人広告はNGとなります。
ただし、企業や現場の現状を表す表現であれば差別表現になりません。例えば、以下のような表現です。
特定の人を差別・優遇する表現のNG例として、
の2パターンについて紹介します。
人材を採用するときは、募集する仕事への適性や応募者本人の能力から判断する必要があります。応募者本人の能力や適性とは関係のない条件で、応募者を制限するような求人広告はNGです。例えば、次のような求人広告は公正とはいえず、適切ではありません。
出生地や居住地などは、応募者本人の能力とは関係のないものです。求人広告に記載しないのはもちろんのこと、応募の際に戸籍謄本や本籍地が記された住民票の提出を求めることも禁じられています。
宗教や人生観は、個人が自由に決めることができるものです。これらは仕事への適性や能力を図る際にまったく関係がないため、面接時に尋ねたり、求人広告で募集条件として提示したりすることは禁じられています。また、仕事とは関係のない個人情報について尋ねることは、基本的人権を侵害することにもなりかねません。
例えば、求人広告に次のような内容を記載することはNGとなります。
実態と異なる好条件の求人広告としてNGになるのは、以下のような掲載です。
求人広告で提示された条件と実際の労働条件が異なっていても、直ちに違法になるというわけではありません。採用時に実際の労働条件を提示し、求職者が合意すれば契約は成立します。
しかし、求職者を集めるために最初から変更するつもりで好条件を提示し、採用後は不利な条
求人広告には、企業が求める人材について詳細に記載することが必要です。仕事内容や勤務場所、勤務時間、給与などについて正確に記載することで、求職者は知りたいと思う情報を獲得でき、応募しやすくなります。
また、正確かつ詳細な情報を記載するだけでなく、法律に則った求人広告であるか確認することも大切です。法律に抵触する内容を記載していると、求職者からの信頼を得にくくなるだけでなく、社会的な信用も失うことになりかねません。求人広告として掲載する前にご紹介した6つの法律に抵触していないか確認するようにしましょう。