「コンピテンシー」とは、優れたパフォーマンスを発揮する人の個人的な能力や行動特性のことをいいます。コンピテンシー面接は、応募者の経歴や学歴ではなく、応募者のコンピテンシーすなわち能力や行動特性に着目した面接手法のことです。
コンピテンシー面接では、経歴や学歴からは測ることのできない、個人の能力や行動特性を見ることができるため、上手く運用すれば採用後のミスマッチなどを防ぐことができます。
従来の一般的な面接手法では、履歴書や職務経歴書の記載を基準として、その内容についての受け答えを中心に面接が進められます。
一方、コンピテンシー面接では、応募者がこれまでに物事に対してどのような姿勢、行動を取ってきたのかということを深く掘り下げて、物事に取り組む際の思考や行動特性を評価します。
このように、一般的な面接手法とコンピテンシー面接では評価の対象が異なるため、同じ応募者であってもどちらの手法を用いるのかで評価は変わってくるでしょう。
一般的な面接手法においては、経歴や学歴など世間一般で優秀とされる応募者が高い評価を受け、コンピテンシー面接では企業が求める行動特性を有している応募者が高い評価を受けることになります。
コンピテンシー面接 |
一般的な面接 |
|
評価の対象 |
個人の能力、行動特性 |
経歴や学歴 優秀な人材か |
評価の手法 |
客観的評価 面接官による評価ぶれがない |
主観的評価 面接官により評価が異なる |
コンピテンシー面接と一般的な面接の違いについて説明しましたが、ここでは、コンピテンシー面接を導入する具体的なメリットとして、次の4点について詳しく解説します。
コンピテンシー面接は、応募者の行動特性に着目したものであるため、自社で採用した場合に具体的に働いている姿をイメージしやすいでしょう。
学歴の高い応募者であっても、学歴だけでは本人の行動特性を測ることはできないため、実務で予想したとおりの活躍ができるとは限りません。
応募者が場面ごとにどのような行動を取ることができるのかを、面接の段階で見極められるのはコンピテンシー面接のメリットの一つです。
コンピテンシー面接では、評価の対象が個人の能力や行動特性のため、客観的な指標で評価することが可能です。一般的な面接と異なり、印象などの主観的な評価は加えられないため、面接官との相性によって評価が異なるわけではありません。
また、応募者の行動特性を見抜くためのマニュアルも確立されているため、面接官の高いスキルも必要ないのです。
従来の一般的な面接方法では、どうしても応募者の性別、年齢、学歴などの表面的な指標が大きな判断要素となっていました。
コンピテンシー面接では、本人の能力や行動特性という本質的な部分を評価することになるため、性別、年齢、学歴などは評価対象とならず、それらの表面的な指標に左右されずに評価することが可能です。
コンピテンシー面接では、応募者の能力や行動特性の分析から、自社の業務内容と応募者の能力、行動特性が合っているのかを見極めることになります。
そのため、実際の働きぶりを見ると面接時のイメージと違ったというような状態を防ぐことができ、合わない人材を採用してしまうという危険性を減らすことができるでしょう。
コンピテンシー面接にはメリットだけでなく、もちろんデメリットもあります。ここでは、従来の一般的な面接の手法ではなく、コンピテンシー面接を導入する場合のデメリットを次の3つに分けて解説します。
コンピテンシー面接では、自社の社員の中から社内におけるコンピテンシーモデルを作成する必要があります。
社内におけるコンピテンシーモデルとは、社内で優れた結果を出している人材の能力や行動特性のことです。コンピテンシーモデルがなければ、評価の基準が定まらないため、面接を実施することができません。
そのため、コンピテンシー面接の導入には、社内にコンピテンシーのモデルとなるような社員がいることが前提となります。
コンピテンシー面接を実施するには、コンピテンシーのモデルとなる複数の社員からヒアリングを行い、優れた結果を出す社員に共通する能力や行動特性を見出し、そこから面接事項を作成する必要があります。
さらに、コンピテンシー面接をより効果的なものとするには、応募者が入社後に割り当てられる部署ごとに面接事項を作成する必要があるのです。結果として、全ての面接事項を作成するにはかなりの手間がかかるでしょう。
コンピテンシー面接は、行動特性を見極めることができる面接手法ですが、実際に人材を採用するとなれば、やはり経歴や学歴も一定の指標となり、応募者のやる気を測るうえで志望動機を確認することも重要です。
そのため、実際には、コンピテンシー面接だけで人物を評価するのは難しく、従来の一般的な面接手法も組み合わせて評価することが多いでしょう。
コンピテンシー面接の評価では、コンピテンシーレベルを評価基準とするのがよいでしょう。コンピテンシーレベルとは、評価対象の行動特性を段階ごとに分ける考え方です。具体的には、次の5つのレベルがあります。
以下では、この5つのレベルの内容について具体的に解説します。
受動行動のレベルにある人材は、仕事に対して受動的な行動特性を有しています。つまり、自ら行動するのではなく、上司などから指示を受けるなどして初めて行動するという特性です。
しかも、指示を受けての行動にも責任感を持てないため、このレベルにある人材を採用しても、任せられる仕事はほとんどないといってもよいでしょう。
通常行動のレベルにある人材は、仕事に対して通常やるべき最低限度のことは行うという行動特性を有しています。つまり、上司などからの指示を受けなくとも、やるべき作業を行うことができますが、仕事の工夫をするようなことはなく、誰でもできることを淡々とこなすという特性です。
普段の仕事には責任感を持って行動するため、創意工夫が求められるような仕事でなければ、仕事を任せられるでしょう。
能動・主体的行動のレベルにある人材は、仕事に対して自分自身の意思に基づいて、主体的に取り組むという行動特性を有しています。つまり、与えられた仕事をこなすだけでなく、仕事を終えるのに必要なことを自分自身で考えて、行動に移すことができます。
このレベルの人材であれば、会社の中で与えられた役割は十分にこなすことができます。
創造・問題解決行動のレベルにある人材は、仕事に対して主体的に取り組むだけでなく、仕事の課題を見つけ、それを解決するために行動できるという行動特性を有しています。
つまり、与えられた仕事の枠内にとどまらず、仕事の課題を解決するための新たなアイデアを出して、それを提案したり、行動に移したりすることができます。
このレベルの人材であれば、会社の中でも、プロジェクトの中心メンバーの役割を与えたり、部下を持たせて仕事をさせたりすることができるでしょう。
パラダイム転換行動のレベルにある人材は、誰も思いつかないようなアイデアを発見し、それを行動によって実現するという行動特性を有しています。しかも、このアイデアは、周囲の人が疑問を抱くようなものではなく、説明を受けた人が納得し賛同するようなものです。
このレベルの人材は、これまでの担当者が思いつかなかったような独自のアイデアで仕事内容を改革し、大きな成果を上げられる可能性を有しています。
ここまで、コンピテンシー面接の内容について様々な解説を行ってきましたが、ここからは、コンピテンシー面接を実施するための具体的な方法を解説します。コンピテンシー面接は、決まった流れに沿って質問を重ねて、応募者を評価する面接手法です。
ここでは、コンピテンシー面接の質問の流れと、質問に利用できるSTARというフレームワークの解説をします。
コンピテンシー面接における質問の流れは、次のとおりです。
この流れに沿って質問することで、応募者が課題に直面したときに、どのような行動を取るのかという行動特性を見極めることができます。
このようにコンピテンシー面接は、決まった流れで進められるので、質問事項とそれに対する回答を記録する評価シートを作成するのがおすすめです。評価シートに記録することで、より客観的にぶれのない評価をすることが可能になります。
コンピテンシー面接での具体的な質問内容には、「STARフレーム」を利用するのが便利です。STARフレームとは、次の頭文字を取って、その順番に質問を繰り返すことで、具体的な状況における応募者の思考方法や行動特性を見出す方法のことをいいます。
つまり、特定の状況における課題を特定し、課題解決のためにどのような行動を取り、どのような結果を出したのかということを聞き出す質問方法です。
Situation(状況)では、次の内容を聴き取ります。
Task(課題)で聴き取るべき事項は次のとおりです。
この質問で、課題、問題点を自分で見つけられるのか、他の人にいわれて初めて気づくのかという行動特性を見極めることができます。
Action(行動)では、次の内容を聴き取ります。
Result(結果)で聴き取るべき事項は次のとおりです。
STARフレームを用いて、応募者のこれまでの取り組みの掘り下げを行うことで、応募者のコンピテンシーのレベルを見極めることができます。
コンピテンシー面接を導入する場合には、STARフレームを使いこなせるようにすることが重要です。
コンピテンシー面接について解説しました。コンピテンシー面接を導入するのは手間のかかる作業ですが、上手く導入することができれば採用のミスマッチを防ぐことができ、会社に合う人材を多く採用することができます。
コンピテンシー面接の方法を確立し、入社後の活躍をイメージできる人材を採用していくようにしましょう。