採用ミスマッチによる早期離職は、採用した企業と退職した社員の双方にとって不幸なできごとです。ミスマッチを生じさせないためには、原因を正しく把握したうえでの対策が欠かせません。本記事では採用ミスマッチの原因と、防ぐための対策を具体例とともに解説します。
1.採用ミスマッチの現状
採用ミスマッチの現状を、早期離職者の状況と離職理由から推察してみます。
2021年10月に厚生労働省が公表した資料によると、新卒入社した社員のうち、3年以内に離職した割合は高校卒で36.9%、大学卒で31.2%でした。過去の状況をみても若干の変動はありながら、おおむね3割台の離職率で推移しています。
離職の理由については「令和2年雇用動向調査結果の概要」によると、「定年や契約期間の満了」を除いて男女ともに上位を占めるのが以下の3点です。
- 給料等収入が少なかった
- 労働時間、休日等の労働条件が悪かった
- 職場の人間関係が好ましくなかった
いずれの理由も入社前の想像や認識と現実とのギャップが、離職の原因と推察されるものです。こうした採用ミスマッチにより、入社した人材の約3割が、平均的に失われ続けている現状が浮かび上がります。なんらかの対策が必要なことは明らかです。
参照元:厚生労働省「新規学卒者の離職状況を公表します」
参照元:厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概要」
2.採用ミスマッチがおこる原因
ミスマッチを生み出す原因は、企業側と応募者側の認識の相違です。選考過程で、応募者のイメージのズレや誤解を解消する取り組みが不十分な場合に、ミスマッチは生じやすくなります。企業側の原因として考えられるのが以下の6つです。
- 媒体ごとに求人情報に偏りがある
- 応募者に開示している情報が不足している
- 求人で良いことだけ伝えている
- 面接方法や評価が属人化している
- 面接での相互理解が不足している
- 入社後のフォローが不足している
詳しくみていきましょう。
2-1.媒体ごとに求人情報に偏りがある
求職者の多くは、求人媒体や人材紹介会社から提供される情報により応募を検討します。求人媒体によっては求人票のフォーマットの制約によって、伝えられる情報量が限られることがあります。
その場合、どうしてもメリットばかりがフォーカスされる傾向が強くなることは否めません。こうした情報の偏りが、求職者に過剰な期待を抱かせる原因として考えられます。
2-2.応募者に開示している情報が不足している
情報不足により、自社に対する理解が浅いまま入社してしまうことが、ミスマッチの原因になります。応募者は求人情報や企業ホームページ、選考を通じて提供される情報をもとに、自身の働く環境をイメージします。
企業側が十分な情報提供を行っていない場合、応募者は自身の経験から楽観的に情報を解釈してしまう恐れがあります。その結果、「実際に入社してみたら想像以上に厳しい環境だった」、というギャップを感じてしまうのです。
2-3.求人で良いことだけ伝えている
意図的かそうでないかは関係なく、ネガティブな情報を伝えないことも、採用ミスマッチの原因です。採用活動では、優秀な人材を一人でも多く採用したいという思いから、自社の良い面ばかりを強調してしまうものです。
その結果、応募者はプラスのイメージが膨らみ、会社に必要以上の期待を寄せるようになります。その期待が裏切られたと感じたときに、モチベーションを下げてしまう可能性があります。
2-4.面接方法や評価が属人化している
面接で客観的な評価基準が機能していない場合、採用ミスマッチが生じやすくなります。面接官の好みなどの主観が入りすぎた場合、会社が人材に求める要件と採用基準が合致しなくなる恐れがあるためです。
このように、面接方法や評価の基準が属人化していると、一人の応募者に対する合否の判断が、面接官によっては真逆になることも考えられます。場合によっては、ミスマッチを生じさせる原因となるため注意が必要です。
2-5.面接での相互理解が不足している
面接において表面的な情報のやりとりに終始し、相互理解が不足した場合にも、採用ミスマッチにつながりやすくなるでしょう。面接では企業側だけでなく応募者の側も、できる限り「自分」を良く見せようという心理が働くものです。
こうした面接では、踏み込んだ話やお互いの本音は出にくく、相互理解が進みません。企業・応募者双方が、表面的な情報から思い込みを生じさせた場合、ミスマッチのリスクを高めます。
2-6.入社後のフォローが不足している
入社前のコミュニケーションにより、十分に理解を深めていたとしても、実際に入社してみると思いがけないギャップを感じることがあるものです。そのような場合に適切なフォローがなければ、早期離職のリスクを高めてしまいます。
とくに職場の雰囲気や人間関係が入社前の想像と違った場合、大きな悩みとなることが考えられます。そうした不安や不満を、タイムリーにフォローできる体制が必要となるのです。
3.採用ミスマッチによる企業のリスク
採用ミスマッチにより早期離職者が出ることは、コスト面のダメージだけでなく、企業イメージの低下など、さまざまなリスクをもたらすでしょう。具体的には以下の5つが挙げられます。
- 従業員の早期離職につながる
- 採用コストやオペレーションコストの損失となる
- 採用ノウハウが蓄積されない
- 既存社員のモチベーションが低下する
- 企業イメージが悪化する
詳しく解説します。
3-1.従業員の早期離職につながる
入社後のポジションや仕事内容が曖昧なまま入社した場合、ミスマッチが原因でモチベーションが低下し、本来のパフォーマンスを発揮できないことがあります。また面接時の判断が的確ではなく、業務に適性がない人材を採用してしまうミスマッチも考えられます。
こうした事態は早期離職につながるため、十分な注意が必要です。入社した人材が活躍できないことは、会社にとっての損失であることを認識しなくてはなりません。
3-2.採用コストやオペレーションコストの損失となる
採用ミスマッチによる早期離職は、コスト面で大きな損失をもたらします。まず、これまでの採用にかかったコストはすべて無駄になります。また、欠員を補充するために、新たに採用する場合は追加コストが必要です。
さらに、費やしてきた育成コストも無駄になります。入退社に関わる事務手続きなど、オペレーションコストまで含めるとかなりの損失となるでしょう。早期離職が多発した場合、莫大なコスト損失となることを理解しておく必要があります。
3-3.採用ノウハウが蓄積されない
採用ミスマッチが頻発し採用活動がうまくいかない場合、採用の成功パターンやノウハウが社内に蓄積されません。こうした状態が続くと、ミスマッチを防ぐ採用手法が構築できないため、さらにミスマッチを重ねる悪循環に陥る可能性が高くなります。
外部の採用代行サービスを活用するなどして、ノウハウを吸収するのも一つの方法です。採用プロセスを共有してもらい、学ぶことで自社に採用ノウハウが蓄積されていきます。
3-4.既存社員のモチベーションが低下する
採用ミスマッチによる早期離職は、育成に関わった既存社員のモチベーションを低下させます。新人の育成には相応の負荷がかかるものです。早期離職が頻繁におこることで負担とストレスが増大する可能性があります。
離職にまで至らなくとも、採用ミスマッチにより不満を抱えたままの社員がいることは、周囲のモチベーションにも悪影響を及ぼします。
人材の補充がうまくいかなければ、負荷はいつまでたっても軽減されません。最悪の場合、戦力である既存社員の離職につながるリスクもあります。
3-5.企業イメージが悪化する
離職率の公開はハローワークをはじめ、さまざまな求人媒体で義務化が進んでいます。離職率が高い企業は、それだけでマイナスイメージを持たれてしまうでしょう。
離職率が高止まりしている企業は、「なんらかの問題を抱える企業ではないか」と、求職者は警戒心を強めるものです。その結果、採用の難易度が上がり、優秀な人材が集まりにくくなることが考えられます。求職者だけでなく、取引先をはじめとしたステークホルダーからの印象も悪くなる可能性があります。
4.採用ミスマッチを防ぐための対策
採用ミスマッチを防ぐ対策は、入社前の選考段階と内定〜入社後のフォローの両面から考える必要があります。早期離職による損失を回避するためには、以下9つの対策を実施するとよいでしょう。
- 採用ターゲットを明確にする
- 求人媒体には正しく情報を掲載する
- 会社が期待するパフォーマンスを伝える
- ネガティブな情報も含めて企業のありのままを伝える
- 応募者自身の考えを聞いておく
- 面接でお互いを理解する
- 入社後の受け入れ体制を整える
- 内定者への定期的なアフターフォローを行う
- 現場社員との交流の場を設ける
詳しくみていきます。
4-1.採用ターゲットを明確にする
自社の経営計画に照らし合わせ、どのような人材を採用するか、ターゲットを明確にしましょう。新規事業の立ち上げの場合と既存事業の拡大による増員の場合は、求める人材のタイプやスキルも違ってきます。それぞれの採用に応じた採用要件を定義する必要があります。
定義した採用ターゲットに近い人材が社内にいる場合、その人材の適性検査を実施して行動特性を把握し、面接に活かすのも一つの方法です。
4-2.求人媒体には正しく情報を掲載する
労働時間や休日など労働条件に関すること、給与や福利厚生など処遇に関する情報は、正確に提供されなくてはなりません。曖昧さや誤解を生じる表記であれば、改善の必要があります。
仕事内容や求めるスキルレベルなどについても、可能な限り具体的に掲載することが望ましいです。求職者が知りたい情報を、不足なく伝える姿勢は企業としての信頼につながります。
4-3.会社が期待するパフォーマンスを伝える
必要なスキルレベルや、発揮してほしいパフォーマンスは、選考の段階で具体的に伝えましょう。入社後に担当してほしい業務内容の認識がずれていたり、求めるスキルレベルに達していなかったりすることは離職の原因になりうるためです。
どのような業務で、どのような成果を期待するのか、会社が求めるパフォーマンスを明確にすることで採用ミスマッチを防ぐことにつながります。
4-4.ネガティブな情報も含めて企業のありのままを伝える
入社時に伝えられなかったネガティブな側面を知り、ギャップを感じた場合にもミスマッチが生じます。自社の良い面だけでなく、ネガティブな情報もありのままに伝える姿勢が必要です。
優秀な人材を獲得したい気持ちから、自社の良い面ばかりを伝えてしまうことがミスマッチの原因です。こうしたことは、企業として「RJP(Realistic Job Preview)」に取り組むことで回避できます。RJPは「現実的な仕事情報の事前開示」を意味する理論で、応募者への誠実な情報開示の重要性を示唆しています。
4-5.応募者自身の考えを聞いておく
企業と応募者の認識のズレもミスマッチの原因となります。企業側が応募者自身の考えを把握することが、採用ミスマッチ防止のポイントです。
応募者の能力を発揮できる得意分野や苦手なこと、どのような環境で仕事をしたいかを質問しましょう。譲れない条件はないか、今後のキャリアプランにどのような考えを持っているかも確認するとよいでしょう。こうした応募者の本音を引きだすためには、選考時の十分なコミュニケーションが不可欠です。
4-6.面接でお互いを理解する
面接は、一方的に応募者のスキルや適性を判断する場ではないという認識を持つ必要があります。丁寧なコミュニケーションにより、お互いの理解を深めることが大切です。
面接時の対話で応募者の考えをしっかりと汲み取り、それが自社の仕事でどのように活かせるかをすり合わせるとよいでしょう。応募者は面接官の態度や姿勢からも、敏感に社風を感じとります。相互理解の姿勢を示すことは、自社に対する良い印象につながります。
4-7.入社後の受け入れ体制を整える
入社後のフォローの体制を整えておくことも大切です。心構えができていない状態で、いきなり業務に参加させると戸惑いを覚え、ギャップを感じさせてしまう恐れがあります。事前にコミュニケーションを図る機会を設けることで、受け入れ部署になじみスムーズに業務に入れます。
会社が、新入社員と既存社員のコミュニケーション機会を設けることも一つの方法です。ランチミーティングや1on1ミーティングを制度化することを検討してもよいでしょう。双方に心理的な壁を作らせないことが、離職の防止につながります。
4-8.内定者への定期的なアフターフォローを行う
内定後に企業からの連絡が少なければ、内定者は「本当にこの会社で大丈夫か」と不安になるものです。継続的に連絡をとることで、こうした不安を解消させ、入社前の辞退を防がなくてはなりません。
頻繁に連絡をとることは、内定者に気軽に相談できる機会を与えます。密なコミュニケーションにより、内定者の近況を知ることで、入社後の受け入れ体制を整えることができます。定期連絡だけでなく、内定者懇親会などイベントを企画するのも一つの方法です。
4-9.現場社員との交流の場を設ける
選考段階や内定後に現場社員との交流機会を設けることも、採用ミスマッチの防止に効果的です。現場の社員と接することで、自社の社風や文化をリアルに感じとってもらえるためです。
具体的な取り組みとしては、配属が予定される部署の社員に面接に参加してもらうことや、内定後に先輩社員との座談会を設けることが挙げられます。採用活動に現場社員が参加することで、人事と現場との「求める人材」の認識をそろえられる効果も期待できます。
5.採用ミスマッチをなくすための具体例
ここでは、採用ミスマッチをなくすための具体的な取り組みを5つご紹介します。対策は選考の精度向上と、応募者の自社に対する理解を深めてもらう取り組みの2つの側面から考えるとよいでしょう。
- 構造化面接法を導入する
- 適性テストを行う
- 体験入社を導入する
- カジュアル面談を取り入れる
- リファラル採用を活用する
以下で詳しく解説します。
5-1.構造化面接法を導入する
面接力を高める取り組みが、採用ミスマッチの防止には効果的です。面接官による評価のばらつきを抑え、面接の精度向上を図るには「構造化面接法」を取り入れるとよいでしょう。
構造化面接法とは、評価の基準や面接時の質問を定めたマニュアルに沿って面接を行う手法です。すべての面接官が応募者に同じ質問をし、同じ基準で評価するため、より客観的な判断が可能になります。
評価基準の設定には、自社で高いパフォーマンスを発揮している人材の行動特性を盛り込みましょう。
5-2.適性テストを行う
適性テストの実施も客観的な判断基準を取り入れる手法の一つです。面接では測りきれない応募者の特性を客観的に把握できます。
適性検査の実施により、応募者の性格傾向や業務適性、コミュニケーション能力やストレス耐性などの指標が客観的なデータとして得ることができます。適性検査のデータと面接の結果を総合的に評価することで、自社が求める人物像に合致した人材を採用できる可能性が高まります。
5-3.体験入社を導入する
体験入社を実施すれば、社内の雰囲気を肌で感じてもらうことができます。実際の業務を体験してもらうことで、より具体的な入社後のイメージを与えることにもつながります。
さらに、自社の社員と接してもらうことで、ネガティブな情報も含め自社の実情への深い理解につなげることができます。短い期間であっても実際に職場を体験してもらうことは、採用ミスマッチの防止には実効性の高い方法です。
5-4.カジュアル面談を取り入れる
「カジュアル面談」とは正式な選考に入る前に、企業側の担当者と求職者が行う面談のことです。選考が前提の面接ではないため、お互いにリラックスした雰囲気で話すことが可能です。
企業側は自社の魅力を、よりリアルに伝えアピールできます。求職者は「この会社は自分に合わない」と感じれば選考を断ればよいので、より具体的に会社の実情について質問できます。選考前にお互いの知りたい情報を収集し、相互理解を深められることがメリットです。
5-5.リファラル採用を活用する
「リファラル採用」とは、自社社員の紹介や推薦による採用手法です。リファラル採用の候補者は、紹介者である社員を通じて会社の実情を知ったうえで応募します。
実際の職場の雰囲気や仕事の厳しさなど、良い面もネガティブな面も理解して入社するため、入社後のミスマッチは生じにくい傾向にあります。紹介者である社員を通じて、事前に候補者の経歴やスキル、人物像を把握できることもミスマッチの防止に役立ちます。
6.適切な対策で採用ミスマッチの防止を図ろう
採用ミスマッチによる早期離職は、退職した社員と企業の双方にとって不幸な結果です。離職率が高まることは、コスト面のダメージだけでなく、企業イメージの悪化や生産性の低下につながる重大事と認識しなくてはなりません。
こうした事態を防ぐためには、応募者と企業の相互理解を深める取り組みが有効です。応募者に対し誠実な情報提供を行い、丁寧なコミュニケーションを図ることで採用ミスマッチの防止を図りましょう。