メンバーシップ型雇用は定年までの終身雇用や年功序列の制度を前提にした雇用システムで、古くから多くの日本企業で採用されてきました。
ここでは、メンバーシップ型雇用の概要やジョブ型雇用との違いについて解説します。
メンバーシップ型雇用とは、業務内容や勤務地などを限定せずに雇用契約を結ぶシステムです。終身雇用を前提に総合職として人材を採用し、転勤や異動、配置転換を繰り返しながら長期的に人材を育成します。
一般的に、ポテンシャルを重視する新卒一括採用を行う企業で採用されているシステムです。配置転換によりさまざまな業務を経験し、幅広い知識と長期的視点を持つゼネラリストが育成されます。
メンバーシップ型雇用と相対するシステムにジョブ型雇用があります。欧米諸国で取り入れられているシステムで、特定の業務に専門的なスキルを持つ人材を雇用する仕組みです。
ジョブ型雇用では、人材を採用する際に業務内容や勤務地などの条件を明確に定めて雇用契約を結びます。
職務の範囲が限定されており、職種変更を伴う配置転換がありません。スペシャリストを雇用できるのが特徴です。
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いを表にしました。
メンバーシップ型雇用 |
ジョブ型雇用 |
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仕事の範囲 |
・人に合わせて職務を割り当てる ・複数分野で総合的な業務を行う ・会社の都合で変化する |
・職務に合わせて雇用する ・専門分野に特化した業務を行う ・業務内容・スキル・労働時間などが定められている |
人材の特徴 |
幅広い業務をこなせるゼネラリスト |
専門的スキルを持つスペシャリスト |
主な採用方法 |
・新卒一括採用 ・入社後、各部署に配属される |
・中途採用 ・職務記述書によって入社後の職務を明確に定め、スキルを判断して採用する |
報酬 |
年齢や継続年数に応じて、総合的に決定 |
スキルや成果に応じて評価され、昇給する |
人材育成 |
集合研修など企業主体の教育制度がある |
自主的にスキルアップする |
転勤や異動 |
あり |
なし |
一括採用で長期的に人材育成するメンバーシップ型雇用は、戦後の高度成長期における日本企業に適した雇用システムでした。しかし、グローバル化や働き方改革など時代が変化していくにつれ、従来のメンバーシップ型雇用では不都合なことも出てきています。終身雇用の継続は難しいと認識する企業は多く、ジョブ型雇用への移行を検討している企業も増えているのが現状です。
少子高齢化により労働人口が減少するなか、メンバーシップ型雇用の新卒一括採用では効率の良い人材確保ができないという事情もあります。
技術の進化が激しい時代に、高い専門技術を持つ人材が求められていることも、ジョブ型雇用に注目が集まる理由です。
また、グローバル化が進むなかで国際競争力を高めるには国籍を問わず優秀な人材の確保が必要になりますが、メンバーシップ型雇用のままではその実現も難しくなります。
さらに、価値観の多様化により、人材の多様性を尊重するダイバーシティ&インクルージョンを重視する企業も増えてきました。ダイバーシティを推進するにあたってメンバーシップ型雇用のシステムでは不都合なことも多く、体制の見直しを迫られている企業も少なくありません。
今でこそ否定的に語られることも多いメンバーシップ型雇用ですが、戦後の日本企業が大きく成長するための原動力となったシステムであることは確かです。
メンバーシップ型雇用が持つメリットについてご紹介します。
メンバーシップ型雇用では業務内容を限定せず、数年おきに配置転換が行われます。さまざまな経験を経て広範囲なスキルを身につけ、多角的な視点を持つゼネラリストを育成できるのがメリットです。
広範な知識・スキルと広い視野を持つゼネラリストはマネジメント能力にも優れ、従業員をまとめる優秀な管理職やマネージャーが育ちます。
メンバーシップ型雇用では、会社の状況に応じて柔軟で最適な人材配置ができるのがメリットです。
ジョブ型雇用では業務内容や勤務地を定めて契約するため、業務がなくなれば雇用契約は終了します。欠員が出た部署に配置転換することもできません。
しかし、メンバーシップ型雇用であれば従業員をすぐに異動させることも可能で、スムーズな業務遂行ができます。
メンバーシップ型雇用では、春に卒業する学生を一括採用するのが一般的です。短期間にまとめて大量に採用することで効率的な採用活動ができ、採用コストを抑えられるというメリットがあります。
求める人材を明確にして選考することにより、コストを抑えつつ若くて優秀な人材を確保できるのも大きなメリットといえます。
メンバーシップ型雇用は長期にわたる人材育成により、従業員に「会社に大切にされている」という気持ちが生まれやすくなります。そのため、従業員エンゲージメントを高めやすいのがメリットです。従業員エンゲージメントとは会社に貢献したいという意識や愛社精神を指します。エンゲージメントが高まることで離職が減り、定着率の向上にが期待できます。
従業員エンゲージメントが高まることで意欲的に働くことになり、生産性の向上にもつながるでしょう。
長期雇用により従業員には企業の一員としての自覚が芽生えやすく、帰属意識が高まります。ともに働く従業員同士にも絆が生まれ、チームワークが強化されます。それぞれの知識やスキルを共有し、カバーし合いながら業務を進めることで生産性も高まるでしょう。
お互いに助け合いながら業務を進めることで、従業員のモチベーションも上がります。
前述したように、メンバーシップ型雇用は時代の変化に合わなくなってきた側面もあります。また、スペシャリストを育成しにくいなど、以前から指摘されていたデメリットがあるのも事実です。
ここでは、メンバーシップ型雇用のデメリットについてご紹介します。
メンバーシップ型雇用のもとでは、スペシャリストが育ちにくいというデメリットがあります。従業員は定期的に部署やチームを異動してさまざまな業務につくため、特定の業務に長期間従事できません。専門的な知識やスキルを身に付けるのは難しくなります。
専門的な人材が必要な業務では、部分的にジョブ型雇用を取り入れてスペシャリストを雇用するなどの対応も必要です。
年功序列のメンバーシップ型雇用では、経験年数が増えるごとに給与が高くなり、長期的にみると人件費の負担が大きくなります。
仕事の成果や生産性に関係なく年齢が高いというだけで賃金が上がり、入社して数年の若手はどれだけ成果を出しても先輩社員の給与を上回ることができません。
実力が給与に反映されないという状況は、若手のモチベーションを下げる結果にもなります。
メンバーシップ型雇用では、生産性が下がる可能性もあります。終身雇用と年功序列のシステムは安定しているものの、成果を出さなくても解雇されないという考えも生まれやすくなるためです。
成果を出さなくても給与が上がると思えば、仕事に熱意を持たなくなる可能性もあります。そのような風潮が広がれば、生産性を下げることにもなるでしょう。
メンバーシップ型雇用のもとでは、勤続年数や年齢によって賃金や役職が決定します。極端に言えば、スキルや能力がなくても昇給・昇格できるということです。
そのようなシステムでは若手のモチベーションが上がらず、優秀な人材は実力が評価される企業への転職を考える可能性があります。優秀な人材確保のためには、評価制度の見直しも検討しなければなりません。
海外に向けて事業展開を考える企業では、外国人の雇用も検討しなければなりません。しかし、メンバーシップ型雇用のままでは人材が集まりにくい側面があります。
海外ではジョブ型雇用が一般的であり、メンバーシップ型雇用での人事評価や業務を受け入れられない可能性が高いためです。
また、外国人の雇用を考える場合、海外の卒業シーズンは日本と異なるため、新卒一括採用のシステムも不都合になります。ジョブ型雇用を一部取り入れるなど、雇用システムの変更を迫られるでしょう。
メンバーシップ型雇用は時間をかけて人材を育成する雇用システムであり、人材を育成するためには研修が不可欠です。
メンバーシップ型雇用を採用する企業で特に必要なのが、新人の集合研修とリーダーシップを養成する研修です。
ここでは、メンバーシップ型雇用を採用する企業で必要な2つの研修の内容について解説します。
新卒一括採用をするメンバーシップ型雇用では、新人研修が欠かせません。厚生労働省の調査では、新入社員における入社3年以内の離職率は、高卒で36.9%、大卒で31.2%という高い数字が出ています。
長期的な視野で人材を育成するというメンバーシップ型雇用のもとで、入社後間もない期間で退職されてしまうのは大きな問題です。
新入社員が早期離職する原因のひとつに、採用のミスマッチがあげられます。企業に抱いていた理想と入社後の現実にギャップがあり、離職してしまうのです。このような早期離職を防止するためには、ビジネスマナーや業務内容の習得に加えて、自社の企業理念や風土を浸透させる研修が必要です。
メンバーシップ型雇用のもとでさまざまな業務に携わり、幅広い知識やスキルを身につける従業員は、いずれリーダーとなって組織をまとめていかなければなりません。リーダーとなるためには、新人研修で習得するビジネススキルのほかに、調整力や判断力などが求められます。
そのため、入社から数年後にはリーダーシップを身につける研修が必要です。時代の変化に応じてリーダーに求められる資質や乗り越えるべき課題も変わっていくため、リーダーシップ研修も数年ごとに行う必要があります。
変化の激しい時代において、従来のメンバーシップ型雇用を続けていくことで避けられない課題も増えてきています。メンバーシップ型雇用のままでは不都合な場面があり、在宅ワークの導入で人事評価がしづらくなっていることもそのひとつです。
とはいえ、ジョブ型雇用に移行すれば課題は解決するという単純な問題でもありません。
メンバーシップ型雇用を採用する企業が、今後抱える課題について解説します。
コロナ禍の影響や働き方改革で在宅ワークが推進されたことにより、メンバーシップ型雇用の課題が表面化するようになりました。
在宅ワークでは、個々人の業務内容や役割が明確であることが業務遂行の前提です。しかし、メンバーシップ型雇用では業務の範囲が明確にないことも多く、上司とのコミュニケーションで業務内容を決めていくという場面も多々あります。
また、在宅ワークでは業務内容が見えづらく、従来と同じ評価基準で評価をすることが難しい状況です。
在宅ワークを本格的に導入しようと検討している企業は、ジョブ型雇用への移行も検討する必要があるでしょう。
メンバーシップ型雇用の課題を解決するためにジョブ型雇用への移行を検討しても、思いどおりに進むとは限りません。
これまでもジョブ型雇用への移行を試み、うまくいかなかった事例もあります。
ジョブ型雇用の導入に際しては、従業員の理解を得ることが必要です。年功序列や終身雇用が慣例となっている企業でジョブ型雇用に切り替えるには、従来の制度を大幅に変更しなければなりません。職務内容が変わって給与水準が下がる可能性もあり、従業員から反発も起きやすくなるでしょう。
従業員の同意を得られなければ、ジョブ型雇用への移行は難しくなります。従業員の理解を得られないままジョブ型雇用を導入することは離職率を高める原因にもなり、従業員のモチベーションを下げる可能性もあります。
ジョブ型雇用の導入には、職務内容を詳細に記載した職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成が必要です。対象となる職務を洗い出し、職務ごとに業務内容や達成すべき目標、求められるレベルなどを記載しなければなりません。
メンバーシップ型雇用を採用している企業では、職務内容の定義をうまくできず、職務記述書を作成できないために導入を断念するケースもあります。
職務分析を十分にできていない企業も多く、現場でどのような業務が行われているか人事が把握できていないこともあります。管理職ごとに職務範囲の捉え方が異なる場合も少なくありません。
職務経歴書は一度作成して終わりでなく、定期的な見直しが必要です。職種別に業務内容を確認して評価基準を設定しなければならず、手間や運用コストがかかります。このような事情も、ジョブ型雇用への移行を阻む理由といえます。
メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行は難しい側面があります。また、必ずしもジョブ型雇用に全面移行しなければならないというわけではありません。メンバーシップ型雇用にもメリットがあり、時代が変化しても有益なものはいくつもあります。
さまざまな経験を経てゼネラリストに成長した従業員は、マネジメントスキルの高い管理職やマネージャーとして会社に貢献できます。長期的な人材育成の過程で育まれた従業員エンゲージメントは、企業の成長に欠かせません。
採用では専門的な分野のスキルを重視するなどジョブ型雇用の要素も取り入れつつ、メンバーシップ型雇用の時代に合わない部分は見直しを検討するといった方法もあります。
近年は、「タスク型雇用」という新しい雇用形態も登場し、注目されています。タスク型雇用とは、タスクやプロジェクトごとに雇用するシステムです。
各分野のスペシャリストをタスクやプロジェクトが完了するまでの短期間に限定して採用するもので、業務の効率性を高めてスピーディな業務遂行を可能にします。
メンバーシップ型雇用は広い視野を持つゼネラリストを育てるなどのメリットがあり、従業員エンゲージメントを高めるという効果もあります。その一方で、在宅ワークを導入しいくい、専門的スキルを持つ人材の確保が難しいといった課題も少なくありません。
時代の変化とともにメンバーシップ型雇用のままでは不都合が生じるケースも多く、新しい雇用形態を検討する必要性も出てきています。
長くメンバーシップ型雇用を採用してきた企業にとって、すぐにジョブ型雇用に移行するのはハードルが高い部分もあります。まずは現状の課題を見極め、何を変えるべきかを明確にして自社に合う雇用システムを検討しましょう。