メンバーシップ型雇用とは、職務などの条件をつけずに雇用するシステムです。終身雇用や年功序列制を前提とし、日本で古くから採用されています。本記事ではメンバーシップ型雇用の内容について解説するとともに、近年注目を集めているジョブ型雇用との違いや企業の事例をご紹介します。
1.メンバーシップ型雇用とは
「メンバーシップ型雇用」とは、職務内容や勤務地などを限定せず雇用契約を結ぶシステムです。長期雇用を前提としており、将来を見据えて幅広い知識とスキルを持つ人材を育成します。
古くから日本で採用されてきたシステムですが、近年はジョブ型雇用に移行する企業も増えています。ここでは、メンバーシップ型雇用の内容やジョブ型雇用との違いについてみていきましょう。
1-1.職務を限定しない雇用形態
メンバーシップ型雇用は業務内容を限定せずに雇用するシステムで、新卒一括採用が代表的です。広範囲な知識を持つジェネラリストを育成することを目的とし、採用後は研修などで教育を行い、定期的な配置転換や異動などでキャリアアップを図ります。
定年を迎えるまで働き続ける終身雇用と、勤続年数や年齢により賃金が上がる年功序列制を前提とした雇用形態です。
1-2.ジョブ型雇用との違い
長年日本の企業で主流を占めていたメンバーシップ型雇用に対し、近年はジョブ型雇用への移行を検討する企業も増えています。ジョブ型雇用は業務内容やスキル、勤務地などを定めて雇用するシステムです。
欧米を中心とした海外の企業では採用されることの多いシステムで、契約で決めた業務以外は担当せず、配置転換や異動もありません。専門性の高い人材を雇用することで、会社の専門性を高められるのが特徴です。
1-2-1.ジョブ型雇用が注目される理由
ジョブ型雇用が注目を集めているのは、労働人口の減少により人手不足が続いているためです。特にIT分野をはじめとする専門職は、技術の急速な進化も相まって深刻な人手不足が続いています。
ジョブ型雇用であれば従業員は専門の業務に集中でき、スキルを磨いてより専門性の高い人材に成長することができるのです。
また、ビジネスのグローバル化により、国際競争力を高める必要性が高まっています。世界の市場で生き残るためには企業が専門性を高めることが求められ、そのためにジョブ型雇用への移行が検討されているのです。
2.メンバーシップ型雇用のメリット
メンバーシップ型雇用は、企業にも従業員にも多くのメリットを与えます。日本企業の多くが長年採用してきたのもそのためです。
まず、職務を限定せず雇用した人材は、経営方針や育成などの観点から柔軟に配置転換できるのが大きなメリットといえるでしょう。また、終身雇用を前提に採用しているため、長期的視点でさまざまな業務に精通したジェネラリストを育成できるのも、メンバーシップ型雇用ならではのメリットです。メンバーシップ型雇用のメリットを4つご紹介します。
2-1.配置転換しやすい
メンバーシップ型雇用は業務を限定せずに採用しているため、経営方針の変更や育成目的、業務で欠員が出た場合など、臨機応変に従業員を配置転換することができます。事業計画の転換などで担当している業務が廃止されることになっても、ほかの業務に配属されて雇用契約の維持が可能です。
企業にとっては人材を失わずに済み、従業員も仕事を失わずに済むという双方にとってメリットがあります。
そもそも、メンバーシップ型雇用は終身雇用と年功序列を前提としているため、一度採用されれば解雇されにくいシステムです。労働組合を持つ企業が多く、従業員は急に解雇されるといった心配をせず安心して働くことができます。
2-2.長期的な人材育成ができる
メンバーシップ型雇用は終身雇用を前提に採用しているため、長期的な計画により人材育成ができるのもメリットです。広範な知識を持つジェネラリストを育成することで、事業計画の達成に向けて柔軟な人材配置ができます。
そのため、メンバーシップ型雇用を採用する企業ではジョブローテンションや研修など、人材育成を行う環境を整えているのが一般的です。従業員にとってはキャリアアップのための研修など教育の場や機会が多く用意されているため、キャリア形成が図れるというメリットがあります。
2-3.組織のチームワークが強まる
昇進雇用を前提として長期にわたり働き続けるメンバーシップ型雇用では、企業の一員としての自覚が培われ、チームワークを高められるのがメリットです。時間をかけて社員同士の関係性が培われ、技術を共有・補完しながら高いチームワークにより生産性を高めることができます。
勤続年数を重ねることで、企業に対する従業員の貢献意識や愛社精神が醸成され、エンゲージメント(組織に対する愛着心や愛社精神)も向上するでしょう。
2-4.採用コストを抑えられる
メンバーシップ型雇用は、採用コストを抑えられるというメリットもあります。メンバーシップ型雇用の代表ともいえる新卒一括採用は短期間でまとめて採用するため、コストを抑えることが可能です。
通年採用の場合は欠員が出た際に採用活動を行うため、その都度広告を出して採用計画を立てるなど手間やコストがかかります。必要なときに求める人材が見つかるとは限らず、採用が長期化する可能性もあるでしょう。
メンバーシップ型雇用であれば卒業生をターゲットにしてまとめて採用活動を行うことで、コストを抑えながらポテンシャルの高い優秀な人材を確保できるのがメリットです。
3.メンバーシップ型雇用のデメリット
メンバーシップ型雇用にはデメリットもあります。ジェネラリストの育成を目的とするため、専門分野のスペシャリストを育てづらいという点です。また、年功序列制をとっていることで、人件費がかかるという側面もあります。
また、年功序列ではスキルではなく勤続年数や年齢によって賃金や役職が決まるため、優秀な若手のモチベーションが下がりやすいのもデメリットです。
ここでは、メンバーシップ型雇用のデメリットをみてみましょう。
3-1.専門分野のスペシャリストが育ちにくい
メンバーシップ型雇用の人材育成は、基本的に幅広く総合的な知識を身につけることを目的にしています。さまざまな業務を経験するため定期的に部署や拠点を異動し、特定の業務を長期間行うことはほとんどありません。そのため、専門的なスキルを持つスペシャリストが育ちにくいのがデメリットです。
このようなメンバーシップ型雇用のデメリットを解消するために、ジョブ型雇用が注目されているのです。
3-2.人件費がかかる
年功序列のもとでは、勤続年数や年齢を重ねるほど報酬や役職が上がります。企業は実際の業務への貢献度とは関係なく、給与を支払わなければなりません。ときには成果と人件費が見合わない場合もあるでしょう。
例えば、高齢になって生産性が下がる従業員もいます。定年の引き上げや雇用延長など各種施策によっても人件費はかさみ、企業にとって大きな負担となっているのです。
3-3.優秀な人材のモチベーションが下がる
スキルよりも勤続年数や年齢によって賃金や役職が決まる年功序列制は、優秀な若手のモチベーションを下げることにもなります。
どれほど専門性の高いスキルを持っていても賃金やポジションが上がりづらい状況では、仕事への意欲をなくすでしょう。より条件のよい他社への転職を考えても不思議ではありません。優秀な人材を失ってしまう可能性もあります。
3-4.リモートワークに向かない
近年は働き方改革やコロナ禍の影響により、リモートワークを導入する企業が増えてきました。しかし、リモートワークはメンバーシップ型雇用のもとでは運用しづらい側面があります。
メンバーシップ型雇用では業務内容の範囲が明確でないことも多く、上司とのコミュニケーションで業務範囲が決まる場合も少なくありません。しかし、直接のコミュニケーションがとれないリモートワークではそのような業務進行が行いづらいのがデメリットです。
また、メンバーシップ型雇用における従業員の評価は、業務の成果だけでなく、会社への貢献度や勤務態度などを見て判断する場合があります。勤務態度など業務内容が見えにくいテレワークでは評価しづらいのもデメリットといえるでしょう。
3-5.社内研修が必要
メンバーシップ型雇用では基本的に業務の経験がない人材を雇用するため、人材育成のための教育が欠かせません。教育には時間やお金、人手が必要です。
特に新卒一括採用を行う場合、戦力になるまでにはかなりのコストが必要になるでしょう。中長期の人材育成計画を立て、研修やOJTなどのカリキュラムを構築して効率的な教育を行わなければなりません。
4.メンバーシップ型雇用で行われる研修
メンバーシップ型雇用では、人材育成のために研修が欠かせません。代表的な研修は新卒や中途の採用時に行う座学の新入社員研修と、職場で業務を実践しながら学ぶOJTです。
研修は新入社員が少しでも早く業務を覚えて職場になじみ、離職を防止するという目的があります。メンバーシップ型雇用で実施される、代表的な研修を2つご紹介しましょう。
4-1.新入社員研修
新入社員研修は新しく採用した社員を対象に、ビジネスに必要な心構えや知識、スキルなどを指導する座学の研修です。新卒採用の場合はほとんどが社会人としての経験がないため、学生気分を切り替えるマインドセットから始まり、ビジネスマナーなど広く網羅的な学びが必要になります。
新入社員は、今後上司や先輩社員と共通の目的をもって仕事を行わなければなりません。そのため、会社への深い理解も求められます。研修のカリキュラムには会社理念やビジョン、方向性を盛り込み、しっかり伝えることが大切です。
4-2.OJT
「OJT」は「On The Job Training」の略であり、職場で実際に業務を行いながら学ぶ研修です。全員を対象に行う座学の研修が終わったあと、各配属先に戻って上司や先輩社員から指導を受けます。
座学で学んだことをアウトプットすると同時に、研修やマニュアルだけでは習得しづらいスキルを身につけることができる方法です。
業務をしながら指導を受けることで経験に基づくノウハウや知識を効率よく学べ、早期に戦力となることが期待できます。
また、早く業務を覚えられるため、仕事へのモチベーションを高めて離職防止につなげられるでしょう。担当する上司や先輩社員にとっても、指導を通して業務の目的や仕事の流れをあらためて確認する機会になります。
5.メンバーシップ型雇用の事例
戦後の高度成長期以降、多くの企業がメンバーシップ型雇用を採用しています。その代表といえるのがトヨタ自動車です。同社は「モノづくりは人づくり」という理念のもとに、創業当時から人材育成を大切にしてきました。
人材育成の基本的な考え方として中長期的視点から教育を行うことを大切にし、特に人事異動は人材育成の重要な手段と捉えているのが特徴です。
具体的には自己申告制度とジョブローテーションを組み合わせています。「将来の目指すべき人物像」と、そうなるために必要な経験や能力を従業員自身が考え、上司とすり合わせた結果をもとに部門内外のジョブローテーションを行う方法です。
同社の人材育成の基本は業務を通じたOJTであり、部下の育成は上司の最も重要な責務の一つに位置づけられています。
このようなメンバーシップ型雇用を採用しているトヨタ自動車ですが、2019年には豊田社長による「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」という発言が話題を呼びました。国際競争が激化するなかで、企業はメンバーシップ型雇用のあり方について検討を余儀なくされる時期にきているのかもしれません。
6.メンバーシップ型雇用は日本特有の雇用形態
メンバーシップ型雇用は、日本企業の多くが古くから採用している日本特有の雇用形態です。業務や勤務地を限定せずに雇用契約を結び、中長期的な計画でジェネラリストの育成をしていきます。
「柔軟な人材配置ができる」「チームワークを強化できる」などメリットの多いシステムですが、ビジネスのグローバル化や国際競争の激化により、ジョブ型雇用への移行を模索する企業も少なくありません。ジョブ型雇用を一部取り入れるなど、今後のメンバーシップ型雇用のあり方は変化していくことも考えられるでしょう。