近年、自社と同じ業界あるいは業種で経験を積んだ人材を採用するキャリア採用を導入する企業が増えています。
ここでは、キャリア採用の目的や中途採用との違い、キャリア採用が近年注目されている理由を解説します。
キャリア採用は、これまでの実務で培ったスキルや経験を活かし、即戦力となって活躍できる人材を採用することを目的として行います。採用基準は、求職者の実務経験やスキルが中心です。
例えば、営業職の募集であれば、「法人営業の経験2年以上」といった募集がキャリア採用になります。
ほかにも「〇〇業界の経験〇年以上」「人事部門での実務経験〇年以上」というように、より具体的な表現で記載されます。
特にキャリア採用は、短期的な事業計画のもとで導入されることが少なくありません。急に欠員が生じて即戦力が必要な場合や、事業拡大で人員を増やしたいときなど、補充すべきポジションが明確な場合に専門知識・スキルを持つ人材を求めて導入されます。
中途採用とキャリア採用は異なります。中途採用はキャリア採用よりも広い意味があり、実務経験は業界や職種を問いません。ただ就業経験があることを要件とします。
卒業後の勤務経験があれば、自社の業種が未経験でも中途採用の対象です。そのため、中途採用は第二新卒者や自社にとっての「未経験者」も含まれます。
即戦力となる人材の採用をキャリア採用と呼び、新卒以外の採用を中途採用と呼ぶと考えてよいでしょう。
近年、キャリア採用を導入する企業が増えており、その背景には労働者の就労意識が変化していることがあげられます。終身雇用制度が当たり前ではなくなった現代では、キャリアアップのために転職を選ぶ人も増えています。人材の流動化により、転職市場でも即戦力となる人材を獲得しやすい状況です。
また、テクノロジーの進化が早い時代においては市場の変化も早く、変化に対応できる人材を採用したいという企業のニーズが高まっています。そのため、特にIT関連のスキルを持つ人材のキャリア採用が注目されています。
労働人口の減少により企業の人材不足が深刻化していくなか、できるだけ早期にスキルの高い人材を確保したいという企業が増えていることも、キャリア採用が注目されている大きな理由です。
基本的にどの業種・職種でもキャリア採用の導入は可能ですが、特に専門的な経験・スキルが求められる職種で導入されるケースが多い傾向にあります。
主に、キャリア採用が導入される職種は以下のとおりです。
人事や経理・財務、法務などの管理部門は、経験者を募集するケースが多くみられます。経験により培ったスキルや知識が役立つ分野であり、ある程度のキャリアを積んだ人材が求められるためです。
特に財務や法務は、未経験者が対応できる業務が限られ、高い専門性が要求されます。即戦力を求める企業は少なくありません。企業によって大きな違いが生じにくい業務でもあり、転職後に即戦力となりやすい点も、キャリア採用に向いています。
営業職は未経験歓迎の案件も多い職種ですが、取り扱う商品によってはキャリア採用が向いています。特に高額商品は成約に至るまでに高いスキルが必要であり、教育に時間をかけるよりもキャリア採用を選ぶ企業が少なくありません。
また、経営・事業企画は、事業の状態やマーケットの状態、自社商品やサービスの特性を熟知し、事業成長のための戦略を立案・策定するスキルが求められます。未経験から教育することが容易ではなく、即戦力になるためには時間がかかるため、多くの企業でキャリア採用を行っています。
エンジニアはキャリア採用に向いている職種の代表といえる職種です。IT技術の進化やDXの推進などで、即戦力として活躍できるエンジニアを求める企業は増えています。
キャリア採用の導入により、企業は教育にかけるコストを減らすことができ、業務の役割を理解してからの採用になることで、ミスマッチも減らせます。
入社後の早い時期からの活躍が期待でき、企業の成長を加速できる点もメリットです。また、自社に新しいノウハウを取り入れることもできます。
ここでは、キャリア採用を導入する主なメリットをご紹介します。
キャリア採用は経験・スキルを持つ人材を採用するため、入社してから比較的早い時期からの活躍が期待できます。時間をかけて未経験者を育てるよりも、早く事業の成長スピードを上げることができます。
また、キャリア採用の人材はビジネスマナーも身についており、教育にかける時間やコストが必要ありません。現場の負担が減ることもメリットです。
キャリア採用でスキルの高い人材を採用することは、社員のモチベーションを高めるというメリットもあります。例えば営業職でキャリア採用した場合、キャリア採用で入社した人材が成果を上げて業績アップに貢献している姿は、既存社員に刺激を与えます。負けずに頑張ろうと意欲を高める社員も多いでしょう。その結果、一人ひとりの生産性が上がり、企業の成長を加速させます。
キャリア採用では、候補者のこれまでの実務経験などから、自社にはない新しいノウハウや考え方、価値観を取り入れられるというメリットがあります。
技術の進化が早く変化の激しい時代には、新しい価値観やノウハウを取り入れることが欠かせません。従来の価値観にとらわれていては、時代の変化に取り残されてしまいます。
キャリア採用で迎え入れる人材は、社外の考え方や価値観をもたらし、新しい視点を与えてくれる可能性があります。自社では当たり前だったことが、実は時代にそぐわなかったということはよくあることです。社外の発想を取り入れることで、より柔軟に時代に適応していくことができます。
キャリア採用を導入する際は、デメリットも把握しておかなければなりません。
デメリットの1つ目は、採用コストが上がるという点です。キャリア採用で迎える人材はスキルや経験があるため、未経験者や新卒採用よりも採用単価や給与相場が高くなる傾向にあります。そのため、同じ職種の経験者に支給されている平均給与の相場に合わせなければ、応募が集まりません。
キャリア採用を導入する際は、採用コストが上がることを想定して、予算を組む必要があります。
給与水準が上がることで人件費のコストはかかりますが、教育コストがかからない点と早期の活躍が期待できる点を考えれば、採算がとれると考えられます。
デメリットの2つ目は、キャリア採用の人材が、自社の社風や文化になじまない可能性がある点です。企業文化に慣れずに働きづらかったり、社員との人間関係がうまくいかなかったりすることも考えられます。前職のやり方が定着しており、それにこだわってしまうケースもあるでしょう。
社会人経験のない新卒であれば比較的社風になじみやすいものですが、前職経験が長いほど、新しい会社の社風になじみづらい可能性があります。特に、大企業からベンチャー企業への転職など、企業規模の異なるケースで起こりがちです。社風になじめない場合、早期退職につながることもあります。採用の際は経験やスキルだけでなく、自社の社風に合うかという観点からの見極めも必要です。
キャリア採用を進める際は、次の時系列ごとに押さえるべきポイントがあります。
それぞれのポイントを解説します。
キャリア採用の募集前には、会社として求める人物像を設定し、募集要件を絞り込むという2点が必要です。
今後の事業計画を踏まえ、達成するためにどのような人材が必要なのかを考え、求める人物像を明確にします。キャリア採用では必要なスキルや経験が決まっているため、そのほかの条件は曖昧になりやすい傾向にあります。実際に、求める人物像が不十分なまま採用活動を始めてしまうケースも珍しくありません。
しかし、スキル以外の人柄や価値観などの条件が曖昧であると、採用のミスマッチが起こりやすくなります。
必要なスキルや経験だけでなく、価値観、性格など、人物像の設定に必要な要素を洗い出してください。その上で、求める人材を見極める基準を定めます。
基準を定める項目は、以下のとおりです。
人物像の設定には、現場の声を反映させることも大切です。現場としてどのような人物を求めているのか、ヒアリングすることも必要になります。
洗い出した人物像やヒアリングの内容をもとに、採用基準を設定します。スキルや経験以外の要素は見極めが難しく、選考前にしっかり採用基準を設定しておくことが大切です。
必要要件が多すぎると該当する人材が見つからないということになりかねないため、これだけは外せない必須項目と、あれば歓迎する項目とに分け、優先順位をつけてください。
求める人材に応募してもらえるよう、募集要件を作成します。その際は、求める人材の給与相場や待遇を確認しておくことが大切です。同じような職種の給与相場よりも大幅に低い給与や待遇では、応募が集まりません。転職サイトなどをみて、他社の同じ職種がどのくらいの給与で募集しているかをチェックしておいてください。
給与とともに、労働環境の確認も必要です。ワークライフバランスを重視する人も増えており、長期間勤務の職場は避けられる傾向にあります。他社の傾向をチェックするとともに、できるだけ残業を減らしていく取り組みも大切です。残業の少ない職場であれば安心して応募できます。
募集時は、自社の情報を積極的に発信すること、よいところばかりではなく、課題などもありのままに伝えることが大切です。
募集では他社ではなく自社を選んでもらえるよう、積極的な情報発信が必要です。募集要項には業務内容や給与などの必須項目だけでなく、職場の写真や入社後のキャリアプランなど、求職者が知りたいと考えられるさまざまな情報を記載します。
他社と差別化できる職場の魅力や自社の強みを洗い出し、興味を持ってもらえるよう、自社の魅力をアピールしてください。
入社後に職場でどのように過ごせるかをイメージできれば、応募を検討する求職者も増えると考えられます。そのため、業務内容は具体的に記載し、福利厚生や職場環境なども詳細に記載してください。他社にはないユニークな福利厚生などがあれば、アピールポイントになります。
また、キャリア採用の対象となる人材は、企業を選ぶポイントとして企業の将来性に着目する傾向があります。ほかにも、これまで培ってきたスキルや経験に業務内容が合致するか、前職の不満が解消されるかなど、より深い情報を求めることもあるでしょう。それらに応えるため、企業側でも詳細な情報提供が必要です。できるだけ詳しく、正確に自社の情報を伝えることが求められます。
採用活動は入社がゴールではなく、入社後に定着して活躍してもらわなければなりません。そのためには、自社のよいところばかりを伝えるのではなく、課題となっている部分もありのままに伝えることが大切です。
入社してから会社の抱えている問題を知ることになると、思っていたことと違うということにもなりかねません。まだ体制が整っていない部分や実現できないこと、乗り越えるべき課題も伝えないと、入社後にギャップを感じて離職してしまう可能性があります。再び採用活動をしなければならず、余計なコストがかかる結果にもなります。
そのようなことにならないためにも、会社の現状について、ありのままに伝えてください。それを踏まえ、なお入社意欲を持ってくれる人であれば、早期退職のリスクも抑えられます。
キャリア採用の選考では、スキル・経験の評価とともに、候補者の人柄や自社との相性を評価することが大切です。いくらスキルが高くても、自社との相性が合わなければ入社後の活躍は期待できません。ミスマッチによる早期離職のリスクもあります。
選考時に押さえるべきポイントを解説します。
まず、これまでの経歴やスキルを確認します。スキルや経験が自社の業務に活かせるかをチェックするためには、スキルを理解できる現場社員も同席しするのが理想的です。
面接では、候補者が自身のスキル・経験をこれまでの実務でどのように活かしてきたのかを確認し、自社の業務や方向性に照らし合わせて判断します。
どの段階の面接でも、自社が候補者を選ぶのではなく、「自社を選んでもらう」というスタンスが必要です。
転職市場は活性化しているとはいっても、労働人口の減少により企業の人材獲得競争は激しさを増しています。他社に先駆け、スキルや経験を積んだ人材を確保するのは難しい状況といえるでしょう。
候補者も、業務内容や待遇面、自分の経験やスキルをより活かせる環境かをシビアに比較検討しています。他社ではなく自社を選んでもらうためには、ミッションや仕事のやりがいなども含め、自社の魅力を詳細に伝えていく必要があります。
また、候補者の人柄や価値観などを中心に見極めることも大切です。これまでの経験や実績に対してどう考え、行動したのかを知ることで、自社にとって必要な人材かを確認できます。
自社と価値観が合うかを確認せず、学歴や経歴、過去の実績だけに注目していると、入社後のミスマッチにつながってしまいます。
転職でキャリアを築いていくことを考えている人材の場合、会社が合わないとわかればすぐに転職を決断してしまう可能性があります。早期退職にならないためにも、自社との相性を見極めることが大切です。
他社との差別化を図るため、選考の過程で経営者や上司、同僚と交流する機会を設けるという方法も有効です。具体的な業務や人間関係についてイメージしてもらえば、入社後のギャップを減らし、早期離職の防止につながります。
内定後のフォローも大切です。内定者は入社後の不安を感じやすく、適切なフォローを行わないと内定を辞退される可能性があります。また、スキルの高い人材は他社でも内定をもらっている可能性があり、より丁寧なフォローを行う会社を選ぶことも考えられます。
そのため、内定者には十分なフォローが欠かせません。担当者から定期的な連絡や面談などを行い、コミュニケーションを重ねながら不安や心配の解消に働きかけてください。
社員との交流会や、内定者懇親会の開催もおすすめです。社員や内定者同士の交流を深めることで、入社意欲も高まります。
また、キャリア採用は即戦力だからといって、入社後の教育が不要というわけではありません。スキルや経験があっても、仕事の進め方など環境の異なる場所ですぐに実力を発揮できるとは限らず。実務に入る前の教育が必要です。まずはどのような研修が必要かを確認して準備を行い、現場でフォローする担当者も決めておかなければなりません。
キャリア採用を導入するに際しては、スキルや経験以外も評価することが大切です。また、早期に職場になれるためには、オンボーディング施策の実施も求められます。
キャリア採用を成功させるために注意すべき点について、詳しく紹介します。
キャリア採用の目的は即戦力となる人材の採用であり、どうしてもスキルや経験に注目しがちです。そのため、スキルや経験が申し分なければ、ほかの要素をあまり考慮することなく「よい」という判定を下すハロー効果に陥る可能性があります。
ハロー効果とは、ある対象を評価するとき、一部の特徴的な印象に引きずられて全体を評価してしまうことです。ハロー効果はポジティブにもネガティブにも働きます。例えば面接の場面では、学歴がよいことに引きずられ、全体的によい評価をしまうというのがハロー効果の一例です。学歴がよいから仕事ができるとは限らず、評価が歪められることになります。
キャリア採用では、特に候補者のスキルや経験に意識が向きやすくなり、ハロー効果が起きて他の要素を適正に評価できない可能性があります。スキルや経験は入社後も磨くことができますが、考え方や人柄、会社との相性などは容易に変えられません。
ミスマッチによる早期離職を防ぐためには、スキル・経験の要素とともに、スキル・経験以外の要素も総合的にチェックすることが大切です。
ハロー効果で人選を誤るとミスマッチが起こりやすくなるだけでなく、「本当に自社に適していた人材がほかにいたのに、逃してしまった」という事態にもなりかねません。
キャリア採用者が少しでも早く職場に慣れ、即戦力として活躍してもらうためにはオンボーディングが大切です。オンボーディングとは、新しいメンバーが早く組織になじみ、力を発揮できるようにするために支援する取り組みを指します。
職場に慣れるための施策にOJTがありますがオンボーディングとは異なります。OJTは実務を通して仕事を教える教育手法であるのに対し、オンボーディングは文化や職場の人間関係など環境全般になじむための支援を含み、OJTよりも広い範囲に及ぶサポートです。
オンボーディング施策では、業務に必要な知識だけでなく、企業文化や社内ルールを伝えます。オンボーディングの実施により、新メンバーは新しい環境のもとで、早期に能力を発揮できるようになるでしょう。
入社直後のオンボーディングとして、以下のような施策があげられます。
入社初期だけではなく、職場に慣れたあとも1on1ミーティングなどの定期的な面談や懇親会、定期的なスキルアップ研修など、継続的なフォローが求められます。
キャリア採用は、自社の業種についてスキルや経験のある人材を採用することです。キャリア採用で獲得した人材は即戦力が期待でき、企業の成長を促します。他社で培った新しいノウハウや価値観を取り入れられるという点もメリットです。
キャリア採用を成功させるには、選考前から入社後まで、押さえるべきポイントがあります。選考ではただスキルや経験だけに着目せず、人材の価値観や会社との相性などもチェックすることがミスマッチを防ぐためにも大切です。
また、即戦力として活躍してもらうためには、入社後のオンボーディング施策が求められます。キャリア採用を成功させ、事業の成長を加速させてください。