人材不足・人手不足問題は多くの企業が抱える問題ですが、人手不足に対する企業の動向調査によると、以下の5つの業界はとくに深刻だといわれています。
それぞれ人材不足・人手不足が深刻な理由を解説します。
参照元:TDB Economic Online「人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月)」
情報サービス業の人材不足・人手不足は深刻で、2030年には最大で約79万人もの人手不足になるといわれています。
人材不足・人手不足の原因は、レベルに見合った人材が見つからないことです。これまでは一定のスキルを持っていれば、IT人材として重宝されてきました。
しかし、IT技術の進化により、必要とされるスキルが高まり、レベルに見合った人材が少なく、採用できないといったケースが増えています。また、高いレベルにはついていけない余剰人員も増加傾向にあります。
参照元:経済産業省委託事業「- IT 人材需給に関する調査 -」
宿泊業の人材不足・人手不足の原因は大きく2つあります。1つ目の原因は、厳しい労働環境です。宿泊業は24時間・365日営業していることが多く、休日出勤や長時間労働が常態化しやすい傾向にあります。
場合によっては深夜勤務が続くこともあり、プライベートの予定も立てにくくなるようです。また、他の業界に比べて給料水準も低く、とくに小規模な旅館やホテルは労働力に見合うだけの給料を提示できないことが多いといわれています。
2つ目の原因は、ホテル建設と開業ラッシュです。2020年に開催予定であった東京オリンピックを前にホテルの建設、開業ラッシュが起こりました。人材を確保できていないにもかかわらず、建設、開業ラッシュがあったことで、人材不足・人手不足が加速する要因となりました。
建設業の人材不足・人手不足は深刻で、2021年の調査では正社員が不足している割合は半数以上となっています。建設業の人材不足・人手不足の原因は、3つあります。
1つ目の原因は、若い世代が肉体労働を敬遠していることです。建設業は肉体労働や高所作業が多く、過酷なイメージが定着しているため、若い世代の就職率が低くなっています。
2つ目の原因は、厳しい労働環境です。建設業は残業や勤務時間が長く、週休2日制を取り入れている企業も少ないうえ、給料水準も他の業界に比べて低いなど、雇用条件が厳しい傾向にあります。
雇用条件は職業選択をするうえで重要で、わざわざ厳しい雇用条件を好む求職者は少なく、就職率が悪くなっているようです。
3つ目の原因は、技能労働者の高齢化です。2015年時点で、3割以上の技術労働者が55歳を超えています。つまり、10年後には3割以上の技術労働者が退職することになり、今後さらなる人材不足・人手不足に苦しむことになります。
参照元:国土交通省 土地・建設産業局「最近の建設産業と技能労働者をめぐる状況について」
メンテナンス・警備・検査業の人手不足の原因は、2つあります。1つ目の原因は、労働条件が悪いことです。24時間稼働が必要な現場が多く、夜勤や早朝の勤務が多い傾向にあります。
また、野外勤務が必要な現場もあり、夏場や冬場の気温では労働条件はさらに厳しくなるようです。さらに、トイレや休憩場所が用意されていない現場もあり、労働者の体力的な負荷が多い傾向にあります。
2つ目の原因は、拘束時間が長いことです。他の業界では都合にあわせて2〜3時間といった短時間シフトの勤務も取り入れられていますが、メンテナンス・警備・検査業は短時間シフトを導入していることが少ない傾向にあります。
労働者は現場に直行直帰をし、勤務時間の開始や終了を電話連絡で行うことが多く、短時間シフトが増えると管理しきれないためです。近年では仕事だけでなく、プライベートの時間を大切にする若者が増えているため、拘束時間の長い業界は敬遠されやすい傾向にあります。
飲食業の人材不足・人手不足の理由は、2つあります。1つ目の理由は、短期離職です。飲食業はパートやアルバイトといった非正規雇用者が多く、就業や家庭の事情により一定の期間働くと離職するケースが多い傾向にあります。
2つ目の理由は、雇用の不安定さです。飲食店は都心部を中心に競争が激化しており、数年で廃業してしまうこともあります。したがって、労働者は雇用が安定しない飲食店を避ける傾向にあり、人材不足・人手不足につながっています。
多くの企業が人材不足・人手不足の問題に直面しており、今後さらに進行していくといわれていますが、その原因は以下の3つが考えられます。
それぞれの原因を詳しく解説します。
人材不足・人手不足問題が続く原因の一つとして、少子高齢化の進行があげられます。少子高齢化が進む国は多くありますが、その中でも日本は急速に加速しています。
少子高齢化とは、出生率が低下し、15〜64歳までの生産活動に従事できる生産年齢人口が減少するとともに、人口を占める高齢者の割合が増える現象です。少子高齢化が起こると、労働力は減少していくにもかかわらず、多くの人を支えなければなりません。
また、生産年齢人口の減少により、企業間では激しい人材獲得争いが起こります。
2020年時点では生産年齢人口は約7,500万人ですが、2065年には約4,500万人に減少すると予想されています。少子高齢化社会の対策として、高齢になっても労働し続けられる社会づくりや外国人労働者の受け入れ拡大を行っていますが、現状ではまだまだ多くの施策が必要です。
参照元:内閣府「人口減少と少子高齢化」
労働条件・職場環境の悪化や士気の低下は、離職が増え、人材不足・人手不足につながっています。残業時間の多さ、賃金の低さなど労働条件や職場環境に問題を抱えている企業は多くあるようです。
労働者はよりよい労働条件や職場環境を求めて離職し、離職者が増えれば残った人材にしわ寄せがきて、業務が増えたり、労働時間が伸びたりといった弊害が起き、悪循環に陥ります。
労働条件や職場環境を整えることは、労働者が長期的に安心して働くために必要不可欠なものです。
企業と求職者との間でミスマッチが生じていることも、人材不足・人手不足の原因の一つです。人手不足が起きている業界が多くある中で、人材の余剰が発生している業界もあります。
一般職業紹介状況(令和5年4月分)によると、会計事務や一般事務、運搬・清掃・包装等の職業は、求人よりも求職者が多い傾向にあり、働きたいのに仕事が見つからないという構造的失業状態が起きています。
人材不足・人手不足に直面している業界は、以下の3つの問題を抱えています。
人材不足・人手不足が及ぼす影響について、解説します。
人材不足・人手不足が起こると、製造やサービスの提供が十分にできず、事業の縮小が余儀なくされます。
事業が縮小すると、売上も低下し、その影響は従業員のボーナス削減や手当カットにつながります。場合によっては、事業の継続すら困難となり、廃業しなければならないケースも考えられるでしょう。
倒産集計によると、2022年に人手不足によって廃業した企業は140件にものぼります。前年度と比べると、約30件も上回りました。
なんとか事業を継続できたとしても、少ない人数で業務を回すことは、肉体的にも精神的にも労働者の負担となり、結果的にさらなる離職につながる悪循環が起こります。
人材不足・人手不足のまま業務を回す場合、従業員1人あたりの負担が増え、残業時間や休日出勤の増加など職場環境の悪化につながります。人手不足の業界の給料水準は総じて低く、頑張っても報われないという不満を抱える従業員が増えます。
このように、従業員に重い負担がのしかかった状態が慢性化すると、従業員のモチベーションの低下やパフォーマンスの低下、離職者の増加にもつながる可能性もあるでしょう。離職者が増加した場合、さらに1人あたりの負担が増えて、負のスパイラルに陥ります。
人材不足・人手不足の業界は、日々の業務をこなすのが精一杯で人材育成などのキャリア形成や新商品などの開発に時間を割けなくなります。
競争に打ち勝つだけの新商品の開発ができなければ、同業他社とますます差をつけられてしまいます。結果的に事業縮小に追い込まれ、最悪の場合は事業を撤退しなければなりません。
人材不足・人手不足が続いたり、さらに深刻になったりすると、従業員にも企業にも悪影響を及ぼすため、以下のような対策をする必要があります。
それぞれの対策について、詳しく解説します。
人材不足・人手不足を解消するうえで、採用手法や人事制度などを見直すことは大切です。常に求人を出しているにもかかわらず、応募がまったくこないという理由で、人材不足・人手不足に陥っている企業もあります。
このような場合、採用手法が企業に合っていない可能性が高いです。労働者の減少から企業間の人材獲得争いが激化している現代では、ただ応募を待っているだけでは人材獲得は難しくなっています。
なかなか応募が集まらないという企業は、求職者に自らアプローチをする採用手法を用いましょう。
たとえば、求職者に直接アプローチするダイレクトリクルーティング、SNSを活用したソーシャルリクルーティング、社員や関係者から紹介してもらうリファラル採用、自社を退職、離職した人材を再び雇用するアルムナイ採用などがあります。
自社にあった採用手法に変更することで、人材獲得につながる可能性が高くなります。
柔軟な働き方に対応することは、人が安定して働くための基礎となります。柔軟な働き方として、以下のような例があげられます。
生産年齢人口が減少している現代では、女性やシニア層は重要な労働力になるため、彼らにとって働きやすい環境を作ることが大切です。女性は妊娠や出産により離職する確率が高く、シニア層は体力的に長時間勤務することが難しくなります。
そのため、フレックスタイム制や時短勤務制度、テレワークなど、ライフスタイルにあわせて働く場所や時間を変化できるようにすると、労働参加しやすいといえます。
業務内容の効率化ができているか見直すことは、人材不足・人手不足を解消するうえで大切です。日本はお客様第一の丁寧なおもてなしを重んじているため、必要以上に手間やコストをかけてしまっていることがあります。
人材不足・人手不足が深刻化している現代では、無駄な工程や作業を省き、業務内容を効率化することが大切です。
ただし、むやみやたらに削ればよいというわけではありません。業務内容に無駄がないか見直す際は、現在の業務フローを可視化し、改善点や改善方法を決定していきましょう。
従業員のスキルアップを支援・促進すると、人材不足・人手不足を改善できるでしょう。時代とともに、従業員に求められるスキルや経験は変化していきます。
とくに人材不足・人手不足が深刻な近年では、一人ひとりに求められるスキルが高まっており、求められるレベルについていくのが難しくなってしまうケースがあります。
そのため、今いる従業員のスキルアップを支援・促進できるような学び直し制度や研修などがあると、従業員側は仕事への満足度アップやワークライフバランスの向上、企業側は生産性の向上や仕事の効率化につながります。
企業のブランディングを見直すと、人材不足・人手不足解消につながります。ブランディングとは、社外から見た企業のイメージを創造することです。
たとえば、自社のホームページをリニューアルし、社内の雰囲気をより良く見せたり、SNSを利用して働き方改革を行っていることをアピールしたりするといった例があげられます。
福利厚生や給料体系、働き方などのさまざまな項目の中から自社ならではの特徴を見つけ、アピールすると、競合他社と差別化できます。
ブランディングがうまくいけば、「この企業で働いてみたい」「やりがいを感じられそう」といったプラスなイメージを持ち、求職者が増えて人手不足解消につながるでしょう。
社内のDX化を推進することで、人材不足・人手不足の解消につながります。DX化とは、デジタルを活用して組織に変革をもたらすことです。たとえば、タッチパネルでの料理の注文や、AIを搭載した自動音声ガイダンスなどがあげられます。
社内のDX化は、これまで手作業で行っていた業務をデジタル化することで、従業員は付加価値の高い業務に集中できます。
また、それまで手作業の業務を行っていた人員のコストを削減したり、業務のスピードや精度が向上したりすることで、サービスの品質の向上や顧客の満足度にもつながる可能性もあるでしょう。
ITツールなどを活用してテレワーク体制を構築すれば、柔軟な働き方も実現できます。
人材不足・人手不足の問題を抱える企業は多くありますが、中でも情報サービス業、宿泊業、建設業、メンテナンス・警備・検査業、飲食業はとくに深刻だといわれています。
人材不足・人手不足は従業員や企業にさまざまな悪影響を及ぼすため、早急な対策をとることが大切です。
人材不足・人手不足の解決策として、採用手法や人事制度の見直し、柔軟な働き方への対応、業務内容の効率化・スリム化、従業員のスキルアップの支援や促進、企業のブランディングの見直し、社内のDX化の推進があげられます。
人材不足・人手不足がさらに進むと、最悪の場合廃業に追い込まれてしまうこともあるため、早期から取り組みましょう。