離職率の平均を知ることで、自社の離職率が高いのかを確認できます。健全な企業運営のためには、離職率が高い企業の特徴を理解し、社員の定着率を高めるための工夫が必要です。本記事では離職率の平均や高い企業の特徴を紹介し、定着率を高める方法もお伝えします。
1.離職率とは?
「離職率」とは一定期間を定め、その期間内に辞めた社員の割合を示す数値です。主に、入社1〜3年以内に退職した人の割合を指します。
離職率の計算方法や、計算の基準となる一定期間に特別な基準はありません。基本的に「1年間の離職者数÷年度初めの社員数×100」で計算しますが、何を基準にするかは企業により異なります。
年度初めから1年間に離職した割合にする場合もあれば、新卒社員が3年以内に離職した割合や、過去5年をさかのぼって中途社員が1年以内に離職した割合など、企業ごとにさまざまな方法で計算されています。
極端な例を挙げれば、3ヵ月以内など短期間を基準に計算することも可能です。そのため、離職率の数値を見る場合は、何を基準として計算しているかを確認しなければなりません。
厚生労働省が公表している資料に基づき、離職率の平均をみてみましょう。
1-1.日本企業における離職率
日本企業全体における離職率は以下のとおりです。
- 2018年(平成30年):14.6%
- 2019年(令和元年):15.6%
- 2020年(令和2年):14.2%
離職率の平均はおよそ15%になります。令和2年で下がってはいるものの、減少傾向にあるかどうかは、今後の動向をみていく必要があります。
参照元:厚生労働省「平成30年雇用動向調査結果の概況」
参照元:厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概況」
1-2.新卒採用の就職後3年以内の離職率
大学卒における新卒採用の就職後3年以内離職率は一般平均に比べて2倍以上となり、高い傾向にあります。
- 2016年(平成28年)入社:32.0%
- 2017年(平成29年)入社:32.8%
- 2018年(平成30年)入社:31.2%
こちらは大学卒の数字ですが、短大卒、高卒、中卒の順にさらに離職率は高くなる傾向がみられます。
参照元:厚生労働省「学歴別就職後3年以内離職率の推移」
1-3.業種ごとの離職率
離職率は業種ごとに異なります。2020年(令和2年)で平均の高い業種は以下のとおりです。
- 宿泊業,飲食サービス業:26.9%
- サービス業(他に分類されないもの):19.3%
- 生活関連サービス業,娯楽業:18.4%
サービス業関連の業種で離職率が高くなっています。
一方、建設業や製造業などの職種は離職率が低い傾向にあります。ただし離職率が低い背景には、そもそも人材不足より入職率が低いという状況があります。
参照元:厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概況」
2.離職率が高い理由
ここまで、離職率は採用の形態や業種によって差があり、特に新卒採用やサービス業で多い傾向を確認しました。新卒者で離職率が高いのは、労働時間などの条件や人間関係によるものが多く、サービス業に離職が多いのは賃金水準が低い、労働時間が長いといった理由があげられます。
ここでは、新卒者やサービス業で離職率が高い理由についてみてみましょう。
2-1.新卒者の離職率が高い理由
厚生労働省が新卒者を含む若年労働者(15~34 歳)に対し、初めて勤務した会社を辞めた理由について調査した結果は以下のとおりです。
- 労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった: 30.3%
- 人間関係が良くなかった: 26.9%
- 賃金の条件が良くなかった: 23.4%、
- 仕事が自分に合わない: 20.1%
新卒者の離職は採用のミスマッチによる場合も多く、採用段階でのしっかりした対策が必要といえるでしょう。
参照元:厚生労働省「平成30年若年者雇用実態調査の概況」
2-2.業種によって離職率が異なる理由
日本企業全体の離職率平均が約15%程度なのに対し、サービス業は離職率が高い傾向があります。離職率が26.9%と最も高い「宿泊業、飲食サービス業」は、具体的には旅館、ホテルなどの宿泊業と、レストランなどの飲食業です。
2番目に離職率が高い「サービス業(ほかに分類されないもの)」とは、廃棄物処理業や自動車整備業、職業紹介・労働者派遣業など幅広いサービス業のことです。
3番目の「生活関連サービス業、娯楽業」のうち、生活関連サービス業とはクリーニング業や理容・美容業、一般公衆浴場業、旅行業、家事サービス業・冠婚葬祭業などのことで、娯楽業には映画館などがあげられます。
これらのサービス業は、離職率だけでなく入職率も高いのが特徴です。多くの人が採用されながらもすぐ離職するという、人材が常に流動的で定着しない事情が読み取れます。
定着しないのは、賃金水準が低めなこと、労働時間が長く休日や深夜の勤務があることなどが主な理由とされています。
3.離職率が高いことの企業への影響
離職率が高い状態を放置することは、企業にとって良い影響を与えません。まず、離職率が高いと連鎖が働き、離職率はますます高まる傾向があります。次々と離職していく社員を見て、自分も離職へと気持ちが動く社員もいるでしょう。
人材不足になると残された社員の負担が大きくなることも離職の原因です。そして、離職率が高いまま対策をせずに採用活動を続けることは、コストの無駄使いにつながります。そのような状態が続けば、やがて経営自体が危うくなる恐れがでてきます。
また、離職率の高い会社は労働環境が厳しいのではないかなどマイナスイメージを持たれる可能性が高まります。求人広告を出しても人材が集まらない要因にもなり得ます。
4.離職率が高い企業の特徴7つ
離職率は業種により差がありますが、それとは別に企業によっても違いがあります。離職率の高い業種でも社員が定着している企業がある一方で、離職率が低い業種の中でも社員が定着せず離職率の高い企業は存在します。
離職率が高い企業には、いくつかの共通した特徴があります。どのような特徴があるのか詳しくみていきましょう。
4-1.職場での人間関係が悪い
離職率の高い職場の多くが、人間関係が悪いという状況を抱えています。「顔を合わせても挨拶をしない」「社員同士の交流がない」といった環境で、パワハラをする上司や先輩社員がいる場合もあります。人間関係が悪い職場は、出社するのも苦痛になるでしょう。
人間関係が悪いと社員が定着しないだけでなく、チームワークが図れずに業務の進行にも支障をきたします。
4-2.残業による長時間労働が当たり前になっている
過酷な労働環境も離職率が高くなる理由の一つです。長時間労働しなければこなせない業務量であったり、残業や休日出勤をすることにより仕事熱心と褒められる環境であったりすれば、社員が定着しなくても無理はありません。
長時間労働が必ずしも離職率の高さに結びつくとは限りませんが、一般的な企業で残業による長時間労働が当たり前になっている場合、離職率が高くなる大きな原因と考えられます。
4-3.社員がやりがいを感じられる職場環境でない
社員が仕事にやりがいを感じられないと、離職が多くなります。「仕事が誰かの役に立っているという実感がない」「仕事がつまらない」といった状態です。頑張って仕事をしても公平に評価されない場合も、やりがいを失うでしょう。
社員がやりがいを見いだせない理由としては、適切な人事評価制度を導入していない、仕事の意義や目的をしっかり社員に伝えていないといったことも考えられます。
4-4.休暇を取りにくい職場環境である
休暇を取りにくい職場も離職率が高くなる傾向にあります。離職率が高くて人材が不足している会社は忙しくなりがちで、さらに離職が加速するという悪循環に陥りやすいのが特徴です。所定の休日はあっても業務が多くて休日出勤を余儀なくされる、有給休暇も取得しにくいという状況は、離職を考える原因になります。
近年は「プライベートの時間もしっかり確保したい」とワークライフバランスが重視される傾向にあり、休日も満足に取れない労働環境は社員の定着が難しくなります。
4-5.ストレスの多い業務内容である
ストレスがかかる業務内容の場合、社員は定着しません。顧客のクレームに対応する仕事や、厳しいノルマを課せられている業務などが挙げられます。業務内容はある程度想定して入社する場合でも、想定を超えるストレスだったというケースもあります。
また、ハラスメントが横行しているなど、ストレスの多い職場環境も離職者が多くなる傾向です。ハラスメントの被害者でなくても、職場の雰囲気がストレスになり離職を考える社員もいるでしょう。
4-6.会社の将来性を感じられない
「業績が悪い」「扱っている商品やサービスに魅力がない」など、会社に将来性を感じられない場合も離職につながりやすくなります。
社員にとって、勤めている会社の経営が安定しているかどうかは働くうえで当然の前提です。経営に不安を感じる状況の場合、社員が離職を決意する理由になるでしょう。
経営トップに才能を感じない、新しい商品が開発されるわけでもないなど、業績が上向く希望も抱けなければ離職率は高くなります。
4-7.教育制度がない
教育制度がなく、仕事をしていても成長をする可能性がない場合、長く続ける意欲が失われるでしょう。同じ仕事の繰り返しで変化がなく、古いビジネスモデルのままである場合、キャリアアップは期待できません。
自己研鑽ができて成長できる仕事に転職したいと考え、離職を決意する社員が増えるのは仕方ないともいえるのです。
5.離職率を下げるための方法8つ
離職率が高い会社でも、工夫することで離職率を下げることは可能です。まず、各社員の価値観に寄り添い、エンゲージメントを高めること、社員が働きやすい職場環境に整えることなどが考えられます。企業理念を見直し、社員に周知・浸透させることも必要です。
ここでは、離職率を下げるためにできる8つの方法をご紹介します。
5-1.問題を抱える社員の改善をサポートする
問題を抱えている社員がいて人間関係を悪くしている場合には、改善策を考えましょう。問題のある社員は業績を上げている場合も多く、会社側からは状況を見極めにくいかもしれません。匿名のアンケートを行う、離職を申し出る社員にヒアリングするなど、さまざまな方法で情報を集めることが必要です。
問題のある社員が判明したら、適切な指導を行います。改善が難しい場合は配置転換や業務内容の変更を行い、職場の雰囲気を変えるよう対処する必要があります。
5-2.労働環境を整える
労働環境に問題がある場合、働き方改革に取り組むのも一つの方法です。働き方改革は国が推進する政策であり、社員個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにすることです。時間外労働の削減や幅広い人材活用、多様な休暇制度など、さまざまな取り組みが提案されています。
働き方改革の取り組み事例は豊富にあるため、自社に合う方法を見つけて少しずつ取り入れながら労働環境を整えていくとよいでしょう。
参照元:厚生労働省「働き方改革特設サイト」
5-3.メンタルヘルス対策を推進する
社員のストレスを解消するため、メンタルヘルス対策に積極的に取り組むことも離職率を下げる対策になります。職場のメンタルヘルスケアは、以下の4つのケアをメインに行いましょう。
- セルフケア
- ラインによるケア
- 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
- 社外サービスによるケア
まず、社員がセルフケアを行えるよう、教育研修や情報提供を行います。ラインによるケアは、職場環境の把握と改善や、社員からの相談対応などが挙げられます。
セルフケアやラインによるケアが効果的に実施できるよう、事業場内産業保健スタッフなどのサポートも大切です。メンタルヘルスに関する社外サービスを活用し、情報提供や助言を受ける方法もあります。
5-4.新入社員を積極的にサポートする
新入社員が職場になじめるよう、積極的なサポートが必要です。新入社員をサポートするためには、既存社員が自発的に手を差し伸べる風土を熟成させなければなりません。
そのような風土がない場合、メンター制度の創設や社内イベントなど社員が交流できる場を設けてコミュニケーションを促進することが効果的です。メンター制度は部署外の先輩社員が担当になり、業務や業務以外の悩みの相談に乗りながらサポートする制度です。
積極的に新入社員をサポートする仕組みを作ることで、全社的にもコミュニケーションが活性化します。社員が定着しやすい職場環境を作ることができるのです。
5-5.採用のミスマッチを防止する
新卒など新入社員の離職原因で多いのが、採用のミスマッチです。そのため、採用時にミスマッチを防ぐことが離職率の低下につながります。
自社に合わない社員を見抜けるようにするには、まず求める人物像を明確にすることが必要です。また、面接官によって判断が異ならないよう客観的な判断基準を設けるなど、採用計画を緻密に策定します。
5-6.社員1人ひとりの価値観に寄り添う
離職率を下げるには、社員1人ひとりの価値観に寄り添うことが大切です。社員アンケートや面談などを通し、社員の価値観を把握することから始めてみましょう。
社員の価値観を尊重し、意向に沿った人員配置を行うことが大切です。知識やスキルに合う仕事・役割を任せることで、社員は会社に信頼感を抱くようになります。そして、会社から大事にされていると実感し、この会社に貢献したいというエンゲージメントを向上させることができます。
5-7.企業理念を見直す
仕事へのやりがいがないことが離職の原因と考えられる場合、企業理念を見直してみましょう。企業理念は自社の存在意義を明らかにするために必要なもので、社員に浸透させることが大切です。
見直した企業理念は経営トップからメッセージとして発信したり、研修の項目に加えたりして社内に浸透させ、各社員が企業理念のもと同じ方向性で仕事に取り組めるようにします。
5-8.人事評価制度を見直す
社員が納得できる人事評価制度を構築すれば、仕事へのやりがいが感じられ、モチベーションも高まります。まず、現在の人事評価制度の見直しを行ってください。客観的な基準を作り、公平に評価するためのシステムを作りましょう。
評価する社員の研修や勉強会を行い、正しく評価する体制を作ることも大切です。評価される社員の意見も汲み取りながら適正な人事評価制度を構築することが、離職率低下につながります。
6.離職率を下げて健全な会社運営を行いましょう
離職率の平均は、新卒やサービス業で高い傾向です。個々の企業でも、「労働環境が悪い」「仕事へのやりがいが感じられない」といった職場は離職率が高くなります。離職率を下げるためには、企業の状況に応じ、企業理念の見直しや労働環境の改善などさまざまな対策があります。
自社の離職率が高いと感じる場合、放置したままでは連鎖でさらに離職率が高まる可能性があります。離職の原因を見極め、対策を考えましょう。