ここでは、トライアル雇用の目的や試用期間との違いについてみていきましょう。
トライアル雇用は、就業経験や知識の不足、長期ブランクなどを理由に就職が難しい人の救済措置として設けられた制度です。
ハローワークを介して採用した対象労働者を原則として3ヵ月試用し、適性を見極めて期限の定めのない雇用契約を結びます。事業主と求職者双方において採用のミスマッチを防ぐとともに、事業主には人材を確保しながら助成金を受給できるというメリットもあります。
トライアル雇用は、試用期間とは異なります。トライアル雇用は原則として3ヵ月という期間が設定され、期間満了後に双方が合意すれば本採用となります。しかし、事業主に採用の義務はありません。
これに対し、試用期間は労働者と雇用契約を結び、一定期間は業務に対する適性を判断する時期にするというものです。期間は一般的に1ヵ月〜6ヵ月の間で自由に定められます。トライアル雇用は適性がないと判断すればその後の契約を解除できますが、試用期間は本採用を前提として雇用するため、試用期間後に解雇する場合は正当な理由が必要です。
また、試用期間は企業が各自の自由な採用活動において実施されるのに対し、トライアル雇用は労働契約や助成金の支払いに厚生労働省やハローワークが介在するのが特徴です。
参照元:厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」
さらに試用期間のようなトライアル期間満了後の採用義務がなく、事業主に負担がないのもメリットです。
ここでは、トライアル雇用のメリットについてご紹介します。
トライアル雇用は要件を満たせば国から助成金が支給され、採用コストを削減できるのがメリットです。
通常の採用では求人広告を出すなどの費用もかかり、応募を待って選考するなど手間や時間もかけなければなりません。しかし、トライアル雇用の場合はハローワークから条件に合う応募者を紹介されるため書類選考の必要がなく、比較的短時間で採用ができます。
トライアル雇用はトライアルの期間で自社に合う人材か適性を見極めるため、ミスマッチを防ぐことが可能です。自社に合うかどうかは、働いてみないとわからない部分があります。応募書類や面接の印象で採用しても、実際に働いてみたら相性が合わないという場合もあるでしょう。
トライアル雇用ならそのような不都合を防ぎ、3ヵ月間の雇用でしっかり適性を判断することができます。
トライアル雇用では、会社側の意向で契約を解除することが可能です。採用の自由度が高く、自社の状況や労働者の適性を判断し、正規に雇用するかを選択できます。
採用が前提の試用期間の場合、労働者に業務の適性がないと判断した場合にも容易に契約を解除できません。トライアル雇用にはそのような負担がなく、断りやすいのがメリットです。
また、助成金を受け取れるというメリットはありますが、申請の手続きには時間と手間がかかります。
トライアル雇用のデメリットについて、詳細をご紹介します。
トライアル雇用で雇い入れる人材には条件があります。就業経験が少ないか、休職期間が長い求職者が対象とされているため、基本的なビジネスマナーから教育が必要になる場合もあるでしょう。事前にしっかりした教育体制を整える準備が求められます。
即戦力を求める場合は、並行して中途採用を募集する採用活動が必要になります。
教育体制の整備とともに、人材育成に時間とコストがかかるということも把握しておく必要があります。未経験、あるいは長期ブランクのある労働者は、人材育成を目的とした研修が必要です。採用コストは抑えられても、育成に関するコストや時間をかけなければなりません。
また、助成金もすぐに支給されるわけではないため、持ち出す費用が必要になることは承知しておいてください。
トライアル雇用では助成金を受け取れるのがメリットですが、支給されるのはトライアル雇用の期間が終了してからであり、時間がかかります。
また、申請手続きでは計画書・結果報告書の作成など段階的な手続きが必要です。各段階で指定のフォーマットを使った手続きをしなければならず、担当者には負担をかけることになります。
これ以外にコロナ禍の特例として、以下の2つのコースが設けられています。
ここでは、一般トライアルコースと障害者トライアルコースの内容をご紹介します。
一般トライアルコースは、職業経験や技能、知識が不足することにより就職が困難な求職者を試行的に雇用する事業主に助成金が支給される制度です。
助成金を受給するには事業主と対象労働者ともに要件を満たす必要があり、求人はハローワークを通して行います。
ここでは、一般トライアルコースの受給要件と支給額について解説します。
4-1-1.受給要件
事業主・対象労働者の受給要件は、以下のとおりです。
(事業主)
事業主の条件は多く、その一部として以下のような要件があげられます。
これら以外にも要件があるため、詳しい内容は都道府県労働局・ハローワークへお問合せください。
(対象労働者)
トライアル雇用の対象となる求職者は、以下のいずれかの要件を満たすことが必要です。
4-1-2.支給額
支給額は最長3ヵ月で、対象者1人あたり月額最大4万円が支給されます。
このうち、対象労働者が母子家庭の母または父子家庭の父の場合は、1人あたり月額5万円(最長3ヵ月間)です。
ただし、トライアル雇用期間中に労働者が離職した場合でトライアル雇用が1ヵ月に満たない月があるときは、以下の理由がある場合に限り減額の対象となります。
また、休暇や休業があった場合には、支給対象期間中の月ごとに支給額を計算します。計算式は、以下のとおりです。
労働者が1ヵ月間に実際に就労した日数÷就労予定の日数
計算結果が75%以上の場合は全額支給されます。75%未満の場合には、パーセンテージに応じて支給額が変わります。
障害者トライアルコースは、就職が困難な障害者を一定期間雇用することにより適性や業務遂行可能性を見極め、障害者の早期就職の実現・雇用機会の創出を図ることを目的とした制度です。
トライアル雇用の期間は、基本的に3ヵ月です。労働者の適性を確認したうえで継続雇用へ移行できるため、障害者雇用への不安を解消できます。
受給要件や支給額を確認しておきましょう。
4-2-1.受給要件
障害者トライアルコースの事業主・対象労働者の要件は以下のとおりです。
(事業主)
一般トライアルコースと同じ要件のほか、さらに要件があります。詳しくは最寄りの都道府県労働局・ハローワークへお問合せください。
(対象労働者)
障害者雇用促進法に規定する障害者のうち、次のいずれかに該当する方が対象です。
4-2-2.支給額
障害者トライアルコースでは、対象労働者が精神障害者の場合は月額最大8万円を最長3ヵ月間支給されます。また精神障害者の場合、助成金の支給対象期間は変わりませんが、トライアル雇用期間は最大12ヵ月設けることが可能です。
それ以外の障害者は、最長3ヵ月間、最大4万円が支給されます。
なお、週20時間以上の就業時間に勤務することが難しい人を雇用する場合、「障害者短時間トライアル雇用」という制度もあります。
週10~20時間の短時間の試行雇用から開始し、職場への適応状況などに応じて試行期間中に20時間以上の就労を目指す制度です。この場合の試行期間は最長12ヵ月間で、支給金額は月額最大2万円です。
参照元:厚生労働省「トライアル雇用」
参照元:厚生労働省「トライアル雇用助成金の申請様式ダウンロード」
対象労働者の離職などで3ヵ月未満のトライアル雇用となった場合、支給申請期間も前倒しになります。対象労働者の離職日から2ヵ月が申請期間となるため、注意してください。
また、仕事への適性を見極めてから相互理解を得て本採用するため、長期の労働を見込めるのもメリットです。トライアル雇用を上手に活用し、自社に合う人材を見つけましょう。