「人財」という言葉を使う企業もあるように、採用は自社にとっての貴重な財産を獲得するための、重要な活動といえます。優秀な人材を採用できるかどうかは、自社の将来にも影響する問題です。採用には大きく分けて「新卒採用」と「中途採用」の2つがあります。それぞれについて、以下で解説します。
新卒採用とは、高校や大学などの学校を卒業したばかりで、就業経験のない学生を採用する手法のことです。新卒採用の場合、入社時期は通常、毎年4月です。多くの学生が同時期に就職活動をするため、採用に際しては事前にスケジュールを組み、体制を確立させておく必要があります。
新卒採用は日本独特の採用方法で、海外ではあまり見られません。企業の持続的な発展には新卒者を定期的、安定的に採用することが必要との考え方が根底にあったとされます。日本企業ではこれまで、新卒採用が長期にわたり標準的とされてきました。今でも新卒採用を採用活動の中心とする企業は多く、従業員のほとんどが新卒で採用されているという事例も少なくありません。
中途採用は新卒採用とは逆に、過去に就業経験がある人材を対象とする採用活動のことです。退職による欠員が生じた場合や、新規事業に乗り出すにあたってその分野の経験を持つ人材を採用したい場合などに使われます。
規模が小さく、知名度で劣る企業などが主に中途採用で人材を確保してきましたが、近年は大企業でも中途採用を積極化する例が増えています。新規分野への参入で経験者が必要な場合のほか、自社とは異なる文化で育った人材を採用することで組織活性化を図る目的もあるようです。経験者に限定した採用は、キャリア採用と呼ばれることもあります。
採用を行う意味や目的は、企業によってさまざまです。退職者の穴埋めなど不足する人手を補う意味での採用もあれば、事業拡大に向けて要員を増やしたいなどの目的もあります。採用活動を行うにあたっては、「何を目的に採用するのか」を明確しておくことが必要です。そうでなければ、苦労して人材を採用しても、ミスマッチで早期離職してしまうなどの懸念があります。以下に、採用を行う意味や目的について、主なものをまとめました。
10人でやっていた業務を、退職や異動などで欠員が生じて9人でこなさなければならなくなったなどの場合が、欠員補充のための採用の一例です。残された従業員の負荷が大きくなることで生産性が低下したり、有給休暇を取りにくくなったりする心配があるため、採用を行い、欠員を補充することには意味があります。
人材の獲得には、相応のコストもかかります。業務を円滑に継続させるためには、元いた従業員と同等か、それ以上のスキルを持つ人材を補充することが必要です。
新しい事業分野に乗り出そうとした時に、その分野に回せる人手が自社内にない場合もあります。そうした際には、人材を採用して人員不足を解消することが急務です。また、近年の「働き方改革」の流れにより、残業時間の上限が原則として月45時間、年360時間とされ、企業側は従業員に年5日の有給休暇を確実に取得させる必要が生じました。
とくに中小企業などでは、恒常的な人員不足によって働き方改革が進まないといった場合があるため、コンプライアンスの観点からも、人員不足を解消するための採用が不可欠となっています。
技術の進歩や社会情勢の変動などにより、企業の抱える課題は刻々と移り変わり、タイムリーな対応が欠かせません。解決すべき課題に素早く対応するには、既存の社員をゼロから教育するよりも、その分野での経験がある人材を新規に採用したほうが、時間や教育コストを削減できる場合もあります。
自社一筋で勤め上げている社員ばかりのため組織が硬直化している……などの理由で、外部から人材を採用する事例も少なくありません。異なる文化や考え方を持つ人材を取り込むことで、既存の従業員らに刺激を与え、組織を活性化させようという目的です。
同じ一つの事業だけを続けていては、企業を成長させることは困難です。多くの企業は、新たな成長分野に乗り出し、規模と利益を拡大できないか常に検討しています。新事業を始めるにあたっては、そのための人員がいなければなりません。自社内のリソースだけで賄えなければ、採用活動が必要です。
新事業のための組織が増えるとなれば、統括する人材や営業・研究などの人材、バックオフィス的な部門の人材など多様な人材ニーズが生じます。どのような組織を構築し、どのような人材を集めるのかを詰めたうえで、採用活動に入るのが常道です。統括的な立場の人材や、現場リーダーを採用したいケースでは、高度なスキルや豊富な経験などを求めることになり、採用の難度は上がる傾向にあります。
前項で、採用を行う意味と目的を解説しました。では、具体的な採用はどのように行えばよいのでしょうか。採用には多数の手法があり、自社が求める人材を獲得するために適した方法がわかりにくいのが難点です。
人材採用を成功させるには、採用手法それぞれの特徴を把握し、自社に合ったやり方を選択する必要があります。代表的な採用手法9つについて解説します。
ハローワークは、国が運営する公共の職業紹介機関です。無料で求人を公開できるという、大きな利点があります。各都道府県に設置されているため、全国での採用も、地域密着型の採用も、ともに可能です。
ハローワーク経由での採用には助成金が支給される場合もあり、コストを抑えて採用を行いたいニーズにはマッチしています。一方、ハローワークは「就職が困難な人に対するセーフティネット」との面が強いため、高度なスキルを持つ人材などの獲得には向いているとは言えません。
中途採用のイメージがあるハローワークですが、新卒採用にも対応しています。合同会社説明会や就職面接会などを行っているほか、求人充足に向けた相談や助言、雇用管理上の問題の把握などを手助けしてくれます。
ハローワークは、登録できる求人情報が、賃金や労働時間など規定された内容に限られる点がデメリットです。自社の特徴や魅力を強く打ち出すのは、ハローワークでは難しいのが実情です。
民間企業が運営する就職・転職サイトの利用も、人材採用の定番に位置付けられます。求人情報を広告として就職・転職サイトに掲載し、応募を待つスタイルです。業界や業種を横断的に取り上げた総合型のサイトもあれば、飲食業やエンジニアなどに絞り込んだ専門型のサイトもあり、自社の要望に合わせて選べます。
就職・転職サイトの料金体系は、大きく分けて以下の2とおりです。
掲載課金型は、雑誌のように求人情報を掲載する時点で費用を支払うタイプです。成果報酬型は、掲載時には費用は発生しませんが、採用に至るなどの成果が出たタイミングで報酬を支払います。
掲載課金型では、情報を掲載する場所やサイズ、期間、正社員かアルバイトかなどにより費用が変わるのが通例です。料金の目安としては、4週間掲載で3万円~20万円とされます。成果報酬型は、採用した人材の理論年収の30%が報酬となるのが一般的です。
就職・転職サイトには多数の企業が情報を掲載しているため、多くの求職者の目にふれやすいメリットがあります。デメリットとしては、掲載課金型では応募者がゼロでも費用を支払わなくてはならない点が、成果報酬型では報酬が高額になる点が、それぞれ挙げられます。
近年、就職や転職に際して利用が広がっている手法が求人検索エンジンです。求人検索エンジンは、一言で表せば「求人情報に特化した検索エンジン」で、インターネット上に数多くある求人情報をクローリング(情報収集)しています。職種や業種、希望勤務地などのワードで検索すると、クローリングされた情報からマッチする内容が表示される仕組みです。
クローリングだけでなく、就職・転職サイトのように企業側から求人情報を直接投稿することもできます。クローリングは無料で、直接投稿も基本的には無料であるため、低コストで採用活動ができるのがメリットの一つです。その他にも、以下のようなメリットがあります。
求人検索エンジンはあらゆる業種、すべての地域の求人を選別することなくクローリングしているため、多種多様な情報が集まる点が特徴です。さまざまな業種や地域などを希望する求職者が利用するため、自社の情報が多くの人の目にふれやすくなります。一般的な就職・転職サイトでは首都圏や大都市部の求人に情報が偏りがちですが、求人検索エンジンでは地方の求人も網羅されます。
クリック数や表示回数など、自社の求人情報に対するデータが取得できるのも、求人広告エンジンの特色です。データを基に情報内容や表示方法などを変更し、より求職者にアピールするように修正できます。
良いことばかりのようにも思える求人検索エンジンですが、デメリットもないわけではありません。情報量が膨大なため、自社の求人が埋もれてしまいがちになるのは大きなデメリットです。自社の求人サイトを効率よくクローリングさせるには、技術的な条件を満たす必要もあります。
Googleなど一般の検索エンジンと同様に、求人検索エンジンでも結果が上位に表示されなければ、求職者の目に留まりません。上位やクリックされやすい位置に求人情報を表示させるには、有料プランに申し込んで広告として掲載するのが早道です。この点もGoogleなどと共通します。
求人検索エンジンの料金体系は、クリック課金が一般的です。就職・転職サイトのような掲載課金型や、成果報酬型とは異なります。表示の回数や求人の成否とは関係なく、自社の求人情報がクリックされた数に対して費用が発生するのがクリック課金です。
クリック単価は職種や業種、人気度などさまざまな要因によって変動するとされます。求人検索エンジンによっても、クリック単価の設定は異なり、1クリックあたり1,000円などの上限を設けているサイトもあります。
求人情報誌や新聞などに広告を出すという手法は昔からあり、今でも現役です。前述した就職・転職サイトも求人広告のカテゴリーに入りますが、ここでは紙媒体の求人広告について取り上げます。求人広告を掲載する紙媒体として代表的なものは、以下の3つです。
求人情報誌はフリーペーパー化しているものが多く、駅やコンビニ、スーパーなどで気軽に手にできます。エリアを細かく区切って発行されるため、その地域で人材を採用したい場合には有効な手法です。新聞本紙や折込チラシによる求人広告も同様に、地域密着型の人材募集に適しており、パソコンやスマホなどをあまり利用しない層や主婦・主夫、シニア層にアピールする際には有効です。
紙媒体の求人広告は、広告掲載時に料金を支払うため、求人があってもなくても費用が発生します。配布エリアが限られることと、情報を掲載できる面積が小さいために、多くのエントリーが望みにくいのもデメリットです。
就職・転職サイトなどを使わず、企業側から能動的に求職者にアプローチする採用手法を、ダイレクトリクルーティングと呼びます。公開されている、匿名状態の人材データベースを使う方法が主流です。
応募を待つのではなく、企業側から直接連絡できるため、「ぜひ採用したい」という熱意が伝わりやすいのがメリットの一つです。入社時期や待遇などについての希望を直に聞けることは、企業、求職者双方にとっての利点といえます。
自社が求める人材像と近い求職者にピンポイントでアプローチできる一方で、多くの求職者に自社の求人情報を伝えるには向いていません。人材データベースを使う場合は費用が発生します。
人材紹介会社から求職者の紹介を受ける手法も、古くから一般的です。自社が求める人材の要件を伝えておくことで、人材紹介会社がマッチしそうな求職者を紹介してくれるため、手間なく効率的に採用活動を進められます。紹介を依頼するタイミングでは費用は発生せず、紹介された人材を採用するとなった段階で成果報酬を支払うやり方です。
採用活動を事実上代行してもらうことになるため、費用は高めです。成果報酬は想定年収の30~40%とされ、職種などによってバラつきがあります。人材紹介会社と個別の料金交渉は可能な場合もありますが、成果報酬を値切ると紹介の優先順位が下がることもあるため、注意が必要です。
経営層や幹部クラスを紹介してくれる「ヘッドハンティング」も、人材紹介の一つの類型です。一般の転職市場ではなかなか見つからない、高度なスキルを持った人材などを採用する際に利用されます。他社で活躍している人材を引き抜くケースも多く、時間がかかる場合が多いのが難点です。紹介会社としても手間がかかるため、費用は高くなる傾向にあります。
従業員の紹介による採用が、リファラル採用です。従業員から友人や知人を紹介してもらうため、広い意味での縁故採用ともいえます。業務内容や職場の雰囲気を知っている従業員の目を通して、「この人なら自社に合っている」として紹介されるため、ミスマッチによる早期離職などの可能性が低いと考えられます。
企業側は、従業員から紹介を受けた後は、通常と同じ採用ルートに乗せ、面接などの選考を行うのが一般的です。リファラル採用を重視している企業では、紹介者である従業員に数万円~数十万円程度のインセンティブを支払う例もありますが、全体とすれば採用コストを抑制できるのがメリットです。
会場内にいくつかのブースが設営され、複数の企業が同時に説明会を行う合同企業説明会は、就職情報会社や地方自治体などの主催で開かれます。元々は対面型のイベントですが、コロナ禍を受けてオンラインで開催されることも増えてきました。
合同企業説明会には、全業種を網羅したような大規模なものから、一部業界に特化した小規模のものまでさまざまなスタイルがあります。自治体主催の場合は比較的費用が低廉なことも多く、別の企業を目当てに来訪した求職者にアピールできるなどの点がメリットです。
求職者は大企業や有名企業のブースに集まりやすく、中小企業や知名度の低い企業などにとっては効果的でない場合もあります。出展費用は開催規模やブースの広さなどに左右され、おおむね30万~100万円程度だとされます。
SNSを活用した採用活動が、ソーシャルリクルーティングです。X(旧ツイッター)やフェイスブック、インスタグラムなどに自社の採用アカウントを開設し、採用関連のほか、自社の魅力を伝えられるような情報を企業側から投稿します。写真や動画なども投稿でき、若い世代への訴求には向いている手法です。
SNSは自社で運用すればコストがかからないものの、手間がかかるのはデメリットです。1回の投稿で多くの人にアプローチでき、自社のファンを増やせる可能性があるのはメリットですが、採用手法としては効率的でないとの指摘もあります。SNSはブランディングや認知度向上の手段としては有効であり、採用と絡める場合は長期的な視点での活用がおすすめです。
前述したとおり、採用の態様を大きく分けると、新卒採用と中途採用の2つがあります。そのうち、学校を卒業したばかりで就業経験のない人材を採用する新卒採用のメリットとデメリットについて、以下に示します。
新卒採用のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
新卒で採用する人材は、社会人経験がありません。仕事に対する考え方や価値観なども「白紙」の状態で入社してくるため、自社の価値観や社風になじみやすいメリットがあります。
新卒採用を行うことは、若く、やる気にあふれた人材が組織に加わるということです。職場の年齢構成や雰囲気も変わり、従業員の多様性につながって経営にも好影響が期待できます。若いうちから時間をかけて教育できるため、幹部候補を育成しやすいのも新卒採用の利点です。
新卒採用のデメリットは、以下のような点です。
新卒採用を行うには、会社説明会や数回にわたる面接、内定式などのプロセスを経る必要があり、少なからぬコストがかかります。いざ内定を出しても、辞退されることもあり、採用活動の長期化は必至です。
コストと時間をかけて採用しても、新卒の人材には社会人経験がないため、入社してから職場環境や業務になじめず、ミスマッチが起こる可能性は残ります。早期離職の懸念があるのは、新卒採用のデメリットの一つです。
育成に時間がかかるという点は、時間をかけて育成できるメリットと裏表の関係です。就労経験のない新卒人材が、短期間で一人前になると期待するのは無理があります。研修や現場経験を重ねる中で、少しずつ学びを深めてもらうことが必要です。
新卒採用のメリットとデメリットを前項で示しました。では、他所での就業経験がある人材を獲得する中途採用には、どのようなメリットとデメリットがあるでしょうか。以下に詳述しました。
中途採用の主なメリットは、以下の4つです。
中途採用を行う際は、必要とするスキルや経験などを条件とするのが通例です。そうした条件の付いた選考を通過してきた中途採用の人材には、即戦力であることが期待されます。中途採用の場合、採用活動はピンポイントになり、必然的に採用にかける時間は短くなります。
経験のある人材であるため、社会人としてのマナーを含めた、教育にかけるコストや時間が少なく済むのもメリットです。中途採用の人材は、自社とは異なる文化や価値観の中で就労経験を積んできた場合が多く、自社の既存従業員に新しい刺激をもたらしてくれる可能性もあります。
中途採用のデメリットは、以下のような点です。
転職する人の多くは、自分で将来のキャリアプランを考えて、それに沿って転職しています。自社での就労がキャリアプランに合わないと感じたら、再度転職してしまう可能性があります。過去の経験があるため、自分のやり方にこだわりがある人材も要注意です。自社になかなかなじめず、パフォーマンスを発揮できない心配があります。
中途採用だからといって、ミスマッチが発生しないわけではありません。即戦力を期待して採用した人材がミスマッチで退職するようなことになると、選考のやり直しも含めて、時間とコストの無駄は大きなものとなります。
採用を行う前に検討しておきたいのは、採用基準です。採用基準とは、「自社が必要とする人材はどのような人か」という人物像のことを指します。人柄や価値観のほか、中途採用であればスキル、経験などが採用基準です。採用基準を決める上で注目すべきポイント3つを、以下で掘り下げます。
コミュニケーション能力とは、他人と円滑に意思疎通をとることができる力のことです。どのような仕事をするのであれ、社内や社外の関係者とコミュニケーションを取る機会が必ずあります。コミュニケーション能力で重要だとされるのは、以下の3点です。
重要なこととそうでないことを切り分け、相手に伝わりやすいように話すことがコミュニケーションの要諦です。一方、質問に答える際には、相手の意図を読み取り、適切な回答をしなければ、円滑な意思疎通ができません。タフな交渉を必要とする現場でも、相手に好感度を与えることは重要です。営業職や接客業であれば、コミュニケーション能力の必要性はなおさらです。
新卒採用でも中途採用でも、応募してくる際に自社について調べてくるのは、基本中の基本といえます。求職者がホームページやパンフレット、商品などを通じて、自社について深く理解していれば、自社への志望度が高い人材だと判断できます。事業内容を詳しく知っているかどうかは、質問内容から見て取ることも可能です。
新たに入社する人材は、これまでとは異なる環境に身を置くことになるため、適応力の高さも求められます。周囲に溶け込むのが早ければ早いほど、作業効率も上がり、実力を十分に発揮できると考えられます。
仕事に対する考え方や、自社の経営理念にどのくらい共感しているかも、採用を行ううえでの注目点です。仕事に対する考え方は人それぞれですが、そこから自社の社風に合うかどうかがわかることがあります。自社の経営理念は、業務上で迷うことがあった際に立ち戻る、北極星のような存在です。経営理念への共感は、自社の成長に向けて一致団結する上で不可欠であり、採用段階でしっかりと確認する必要があります。
自社にとって必要な人材を外部から雇い入れることが、採用です。採用には大きく分けて「新卒採用」と「中途採用」があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。採用手法もさまざまで、自社に合った手法の選択が必要です。
新卒採用でも中途採用でも、採用基準を決めてブレのない視点で選考を行うことが重要です。「コミュニケーション能力」や「経営理念への共感度」など、ポイントとなる項目を確認して、採用活動を成功に導いてください。