採用プロセスとは、採用計画の策定から内定・入社後のフォローまで、一連の流れを指します。採用プロセスを最適化することで採用活動の課題を見つけ、求める人材の獲得が可能です。
本記事では、採用プロセスの工程や重要である理由、よくある課題・改善策を解説します。
1.採用プロセスとは
採用プロセスとは、採用計画の策定から入社までの一連の工程を指します。採用活動を円滑に進めるためには、採用プロセスの見直しや改善が欠かせません。
採用プロセスは新卒と中卒採用とで異なります。ここでは、それぞれの特徴を解説します。
1-1.新卒の採用プロセスの特徴
新卒採用は4月入社に合わせた一括採用が一般的であり、前年の3月〜4月が採用開始時期になります。
新卒のスケジュールの策定は政府主導で行われており、年度によって変わることもあります。2024年度卒については、大学3年生の3月から広報活動が解禁され、大学4年生の6月から採用活動が解禁されるというスケジュールになっています。
ただし、近年は大学3年の6月頃からインターンシップを開始するなど採用活動の早期化が進んでいるのが実情です。
採用プロセスを策定する際は、次年度の新卒採用スケジュールをチェックするとともに、インターンシップの開催など早期のアプローチも必要になります。
1-2.中途の採用プロセスの特徴
中途採用の採用プロセスは、新卒のように一定の決まりがあるわけではありません。一般的に、事業の拡大や欠員補充など自社の都合で行われており、時期に縛られず、比較的自由に採用計画を策定できます。
新卒がポテンシャル採用であるのに対し、中途採用は主に即戦力になる人材の獲得を目的として行われるのが特徴です。
中途採用は、主に退職者が増えやすい年度末やボーナス時期に採用活動が活発になる傾向にあります。希望する人物像に合った人材を見つけるのが難しい現代では、通年採用をしている企業も少なくありません。
2.採用プロセスの一般的な流れ
採用プロセスは、採用計画の策定から入社後の段取りまで、一連の流れを指します。ここでは、採用プロセスの一般的な流れについて、それぞれの工程を解説します。
2-1.採用計画を策定する
まず、企業の事業戦略や経営計画に基づいた採用計画の策定から開始します。事業戦略や経営計画の実現に必要な人材を、いつまでに何人採用すればいいのか、経営陣と擦り合わせながら計画を立てます。
ここで重要なのは、採用する人材のペルソナを明確にすることです。性別や年代だけでなく、必要なスキル・経験、ライフスタイル、家族構成、趣味、価値観など、詳細な属性を検討していきます。
実際にいる人物をイメージできるような、具体的な人物像を設定します。入社後のミスマッチを防止するためにも、ペルソナの設定は欠かせません。
2-2.母集団を形成する
採用計画を策定したら、母集団の形成に進みます。母集団とは自社の求人に興味を示す応募者の集まりです。母集団はただ多く集めればいいというわけではありません。自社が求める人材が含まれていることが大切です。集めた母集団の質・量が採用活動の成功を左右するため、母集団形成は採用プロセスにおいて重要な工程となります。
自社が求める人材を意識した母集団形成により、採用後のミスマッチを防ぐのがメリットです。母集団形成を意識しないで求人募集を行うと、自社に合わない人材が集まるなど、採用活動がうまくい可能性があります。
採用活動を成功させるには、母集団形成の段階からターゲットを絞ったアプローチが必要です。
母集団形成の方法はさまざまです。従来は求人媒体等に掲載し、応募を待つ手法が一般的でした。近年はダイレクトリクルーティング等、データベースに登録された人材に企業が直接スカウトする手法も増えています。
2-3.企業説明会やセミナーを開催する
新卒採用の場合、企業説明会やセミナーを実施する企業もあります。選考前に自社のことを知り、興味をもってもらうために効果的です。企業理念やビジョン、仕事内容、職場の雰囲気など、あらゆる角度から自社への理解を促し、応募につなげます。近年はコロナ禍もきっかけとなり、オンライン説明会を実施する企業も増えてきました。
新卒採用では大手就職情報サイトや大学、地方自治体などが全国各地で合同説明会を開催するため、参加して自社をアピールするのもおすすめです。
中途採用の場合、大量採用する企業を除き、会社説明会を行わずに選考を行うのが一般的です。ただし、中途採用でも通年で募集している企業などは、定期的に説明会を実施しているところもあります。
2-4.採用選考を実施する
採用選考は一般的に、書類選考・筆記試験・面接の流れで行われます。書類選考では新卒採用の場合、履歴書・エントリーシートを、中途採用では履歴書・職務経歴書を応募者が提出し、選考を進めることが一般的です。募集する職種や企業によっては、適性検査や専門スキルを確認する実技試験を実施する場合もあります。
面接の回数は企業により異なり、1〜3回ほどが一般的です。1〜2次面接は人事担当者が実施し、最終面接は役員が行うなど、面接の段階ごとに面接官が異なる場合もあります。
面接では採用基準を明確にし、設定したペルソナに合う人材を見極めなければなりません。複数回・複数人の面接により候補者の適性をチェックすることで、採用のミスマッチを防止できます。
ミスマッチを防止するためには、採用担当者だけでなく現場社員も同席するなどの工夫も必要になります。
2-5.採用通知を送付する
選考を終えたら内定者への採用通知を送ります。通知を出したらそれで終わりではなく、内定辞退を防ぐために、こまめな連絡が必要です。
内定者は、一社だけでなく複数応募していることがほとんどであり、内定後の対応次第では他社を選んでしまう可能性もあります。まずは内定後のスケジュールを共有し、その後も密にコミュニケーションをとってください。「この会社に入社したい」と思ってもらえるような対応が必要です。
2-6.内定〜入社までのフォローを実施する
内定後から入社までは、接触する頻度を高めることが大切です。主に、次のようなフォローを行います。
- 内定者面談
- 内定者研修
- 内定者アルバイト
- 内定者同士や先輩社員との懇親会・座談会
定期的に面談の機会を設けることで、内定者にありがちな入社後の不安を軽減できます。また、内定者研修で入社後に必要になるスキルを身につけてもらえば、入社意欲も高まります。
職場の雰囲気に慣れるため、入社前にアルバイトで働いてもらうことも効果的です。社員との交流により、不安なく入社を迎えられます。
さらに、内定者同士や先輩社員との懇親会・座談会も、交流を深めて安心感を醸成し、入社への意思を固めてもらうために有効です。
2-7.入社後から独り立ちまでの段取りを組む
入社受け入れから組織に馴染み、戦力となってもらうまでの段取りも大切です。このような受け入れ準備のことをオンボーディングと呼びます。オンボーディングは、新入社員を企業で活躍できる人材に育成する施策・プロセスのことです。新入社員の成長を促すとともに、早期離職を防ぐ目的もあります。
新人研修は入社直後の基本的なスキルを習得することを目的とするのに対し、オンボーディングは配属後も継続して育成する施策です。先輩社員がサポート役となるメンター制度も取り入れるなど、しっかり教育体制を整えて取り組むことが求められます。
3.採用プロセスの重要性
採用プロセスを適切に行うことは、次の点で重要です。
- 人事の採用工数を効果的に投下できる
- ミスマッチを減らせる
- 人材を集めやすくなる
それぞれ、詳しく解説します。
3-1.人事の採用工数を効果的に投下できる
採用プロセスの流れを事前に確認することは、人事の採用工数を効果的に投下するために大切です。例えば、求める人材像を明確にせずにペルソナに合わない求人サイトを選んでしまっては、求める人材の応募は見込めません。
採用プロセスを最適化することで、不要な情報発信や人件費を削減できます。コストを抑えながら、効率的に採用活動を進めるためにも、採用プロセスの策定は重要です。
3-2.ミスマッチを減らせる
早期離職に多い理由として、「イメージしていた会社と違った」「社風が合わなかった」という内容が多くあげられます。
採用プロセスの最適化は、このようなミスマッチを減らして早期離職を防止するために重要です。ペルソナを明確にし、適切な方法で求人募集を行うことで、求める人材が集まる可能性が高まります。
また、採用プロセスのひとつである説明会やセミナーの開催により、自社をアピールして企業への理解をより深めることができます。
3-3.人材を集めやすくなる
採用プロセスの改善・見直しは、より多くの人材を集めるために大切です。これまで、求人募集に人が集まらないのは、採用プロセスに問題があった可能性があります。採用プロセスの各工程が適切に行われないと、思うように応募者が集まりません。自社が求める人材が集まる可能性も下がります。
採用プロセスを策定することでプロセスごとの課題に気づき、改善策を立てられるでしょう。適切な手段で求人募集ができれば、応募者を増やすことができます。
4.採用プロセスにおけるよくある課題と改善策
採用プロセスの策定では課題を見つけ、改善していくことで円滑な採用活動を実現できます。ここでは、採用プロセスにおけるよくある課題とその改善策をご紹介します。
4-1.採用コストが高い
採用コストが高いと感じる場合は、採用計画策定の段階に問題がある可能性があります。
まず、採用単価を計算してください。採用単価とは、採用者1人あたりにかかったコストのことです。「採用コストの総額÷採用人数」の計算式で算出できます。過去の採用活動に比べて採用単価が高い場合、採用手法に課題があると考えられます。
求人サイトや人材紹介会社など、複数の採用手法を利用している場合、それぞれの費用対効果を算出してください。コストが高額であるにもかかわらず採用実績が低い手法があれば、手法の見直しが必要です。
4-2.応募数自体が少ない
応募数が少なく母集団を形成できないことも、よくある課題のひとつです。応募が集まらない場合、求人募集の工程に問題がある可能性があります。そのため、求人媒体や掲載の内容について見直しが必要です。
求人募集に人が集まらないのは、次のような原因が考えられます。
- 自社の魅力を十分にアピールできていない
- 閲覧数が少ない
- 応募のハードルが高い
- 媒体がペルソナに合っていない
- 掲載時期があっていない
求人広告の掲載情報が少ない、具体性がないといった場合、入社後のイメージができません。企業の魅力が伝わらず、応募しようという気持ちにならないでしょう。自社の魅力が伝わり、入社後の具体的なイメージができる情報を提供することが必要です。
求人サイトの場合は掲載している件数が非常に多く、インパクトにかける求人広告は埋もれてしまうことも少なくありません。そのため、閲覧数自体が少ない可能性もあります。
競合と比較し、自社に注目してもらえるような広告内容を検討してください。
また、応募条件が厳しすぎるなどハードルが高い場合、求職者の応募意欲を下げてしまいます。厳しすぎる条件は、「応募しても無理」と初めから諦めてしまう可能性があります。
利用している媒体がペルソナに合っていない場合も、応募者が集まらない原因のひとつです。広告が呼びかける相手が媒体を利用していないのでは、応募も集まりません。
求人の掲載時期が求職者が活動する時期と合っていない可能性もあります。中途採用の場合、転職活動の動きは新年度の4月や夏の賞与を受け取ってからなど、波があります。あまり転職者の動きがない時期に求人を出しても、応募者を集めることはできません。
4-3.定着率が低い
入社までは順調に進んでも、早期離職してしまう場合があります。定着率が低いのも、採用プロセスにありがちな課題です。早期離職が起こるのは、自社についての理解が足りず、ミスマッチが発生していることが原因と考えられます。
面接官のスキルが不足していることで、ミスマッチが起こる場合もあります。スキルが不足していると、求職者の特性を適切に見極められなかったり、求職者の本質を引き出す質問ができなかったりするでしょう。うまく質問できないと求職者の価値観や考え方などを引き出すことができず、採用のミスマッチを起こす可能性があります。
また、内定後のフォローや育成に問題がある場合もあります。適切にフォローができないと職場に馴染めないまま、早期離職につながることも少なくありません。
4-4.求める人材からの応募がない
応募数は多くても、求める人材からの応募がなければ意味がありません。自社が求める人材が集まらないという課題がある場合、設定したペルソナに対して効果的にアピールできていない可能性があります。
求人広告の内容や説明会でのアピール内容、選考基準について見直しが必要です。これらに問題がなく、どうしても理想の人材からの応募が少ないという場合、採用手法を変えてみるのもひとつの方法です。
自社からスカウトメッセージを送れるダイレクトリクルーティングの手法であれば、求める人材に対して効率的なアプローチができます。
4-5.入社してもらえたものの活躍できていない
入社して定着しても、思うような活躍をしてもらえない場合もあります。採用のミスマッチや人材育成に課題がある可能性があり、採用プロセス全体の見直しが必要です。
採用したいと思っていた人材の設定がそもそも間違っていたり、面接の際に候補者を見極められなかったりといった原因も考えられます。あるいは、人材育成の内容に不備がある可能性もあります。
ペルソナの設定や求人広告、面接の選考基準など、各工程に問題がないかをチェックしてください。
5.採用プロセスをより効果的にするためのポイント
採用プロセスにありがちな課題と改善策について紹介してきました。さらに、採用プロセスを最適化して採用活動を成功させるには、いくつか押さえておきたいポイントがあります。
ここでは、6つのポイントを解説します。
5-1.採用したい人物像を明確にする
採用プロセスの流れでもお伝えしたように、採用したい人物像を明確にするためのペルソナ設定が重要です。人物像を明確にしておくことで、面接官が複数いる場合にも判断にブレが起こりません。人物像が明確でない場合、面接官によって判断が異なり、ミスマッチが起こる可能性があります。本当に採用したい人材を逃すことにもなりかねません。
ペルソナとして詳細な人物像を設定することにより、求める人物像が知りたい情報に絞って発信でき、効率的な採用活動ができます。
ペルソナが明確でなければ、どのような情報が求める人物像に効果的な内容かわからず、ありきたりで焦点のぼやけた内容になる可能性があります。そのような情報は他社の情報に埋もれやすく、ペルソナとは異なる層からの応募が増えることにもなるでしょう。初めにしっかりペルソナを設定しておくことが、採用プロセスを最適化するポイントです。
5-2.選考前にカジュアル面談を行う
採用のミスマッチを防止するには、一般的な採用プロセスの間にカジュアル面談を取り入れる方法もおすすめです。カジュアル面談とは、企業と候補者がリラックスしながら対話する方式であり、相互理解を深めることを目的に行われます。
面接官が一方的に質問する面接では候補者の本音を引き出せない場合もあります。しかし、カジュアル面談はフランクな状態で気軽に交流でき、面接のような合否判断に関わらないため、候補者からの本音を引き出しやすいのがメリットです。企業と候補者の相互理解を深め、ミスマッチの防止や候補者の入社意欲を高めるために役立ちます。
5-3.入社後も適宜フォローする
早期離職を防止するためには、入社後のフォローも欠かせません。新入社員は入社前からさまざまな不安を抱えており、企業は不安を解消できるような体制を整える必要があります。
長く企業で活躍してもらうためにも、しっかりと体制を整えて適切にフォローすることが大切です。
そのため、入社後には定期的な面談を行い、職場環境や仕事に馴染んでいるか、人間関係で困っていることはないかなどを確認してください。
本人の適正に応じ、今後のキャリアプランを作成することも大切です。キャリアプランニングにより長期的な目標が明確になり、新入社員のモチベーションを高めることができます。
十分なフォローを行うことで信頼関係が築かれ、入社後の活躍が期待できるでしょう。
5-4.採用管理システムの導入で業務効率化を図る
採用活動がうまくいかない原因には、リソースが不足している可能性もあります。採用プロセスの工程は多く、担当者の負担が大きくなるとうまく対処できないこともありがちです。
業務の効率化には、採用管理システムを導入する方法もあります。採用管理システムとは、採用業務をデータ化して一元管理し、効率的に管理するシステムです。 求人情報の作成や求職者情報の管理、選考の進捗管理など、さまざまな業務をシステム内で行えます。システム化により、業務の効率化を図れる点がメリットです。
採用プロセスを簡略化・効率化することで、担当者はより重要な業務に注力できます。コスト削減や、採用活動の質を向上させる効果も期待できます。
5-5.社内全体で採用活動に取り組む
採用活動は、社内全体に周知することが求められます。人材は企業が成長するために不可欠な経営資源のひとつであり、採用はその人材を獲得するための重要な施策です。そのため、全社的に取り組まなければなりません。
採用プロセスを周知せずに経営陣や人事部の担当者のみで決定した場合、採用の目的や方針が全社員に共有できないことになります。
現場にどのような人材が必要なのかを知るには現場社員の協力も必要であり、一部だけが採用プロセスを認識している状態ではスムーズな協力を得ることが難しくなります。採用プロセスを円滑に進まないことにもなりかねません。
5-6.採用代行サービスも検討する
担当者だけでは採用プロセスの工程に手が回らないという場合は、採用代行サービスを利用する方法もあります。採用代行サービスとは、RPO(Recruitment Process Outsourcing)と呼ばれ、採用に関する業務を企業に代わって行う人材サービスです。
求人広告の掲載から選考・面接、内定後のフォローまで、さまざまな採用業務をサポートします。事務的な業務だけにとどまらず、採用計画の策定や課題分析などにも対応しています。さらに、母集団形成や内定・入社後の研修など、企業の必要に応じて幅広い業務の依頼が可能です。
近年は労働人口の減少で人手不足に悩む企業が増え、採用手法も多様化しています。新しい手法を取り入れる場合、社内だけでは対応できない企業も多く、採用代行サービスの利用が注目されています。
採用業務の一部、あるいはすべてをプロに委託することで担当者は重要な業務に専念でき、採用活動の質を高められるのがメリットです。また、業務の一部を委託して工程を観察することで、最先端のノウハウを社内に蓄積できるという利点もあります。
6.より効果的な採用プロセスを作ろう
採用プロセスとは採用活動における一連の流れであり、策定により各工程の問題点や課題に気付き、改善策を立てることができます。採用活動の効率化や、採用コストの削減にもつながります。
採用活動がうまくいかない原因は、ペルソナの設定が不明確であったり人的リソースが不足していたりなど、企業によってさまざです。
原因ごとに対策も変わるため、まずは採用プロセスを見直して自社の課題を見つけ、より効果的な採用活動を実施しましょう。