報酬制度とは?目的や作り方、運用方法、運用時の注意点についてご紹介

人事ノウハウ

従業員のエンゲージメントを高めるためには、適切な報酬制度を作ることが大切です。報酬制度は人事評価と連動させることで、納得性が高いものになります。本記事では、報酬制度の目的や作り方、運用方法について解説します。

1.報酬制度とは?

image22-jpg「報酬制度」とは、従業員の報酬を決める制度で、人事評価や等級をもとに決定します。そのため、人事制度と深い関係性を持っているといえるでしょう。ここでは、報酬制度の概要と目的について解説します。

1-1.従業員の賃金を決める制度

報酬制度とは、人事評価や等級をもとに従業員の報酬を決める制度です。報酬とは、給与や賞与、退職金、福利厚生を指しています。報酬制度の考え方には以下の4つが存在します。

  • 年功主義
  • 職能資格主義
  • 職務等級主義
  • 成果主義

以前は年齢や勤続年数に対して報酬を決定する「年功主義」が一般的でした。しかし、転職が一般的となった近年では、従業員に競争意識を持たせる「成果主義」を導入する企業が増えてきています。

1-2.報酬制度の目的と役割

報酬制度の目的には、以下の3つが挙げられます。

  • 従業員のモチベーションを向上させる
  • 人件費の整合性をとる
  • 経営方針と方向性を合わせる

報酬制度は、賃金を決定するだけでなく、人事管理と深い関係性があります。人事管理とは、企業のビジョン実現や目標達成のために、人材を活用することです。人材のモチベーションが上がる要因の一つに報酬があります。人事管理の一環として、報酬制度が関わってくるのです。

報酬制度の目的には、人件費との整合性をとることも挙げられます。従業員に支払う報酬は人件費の予算内に収める必要があります。そのため、適切な報酬を設定し人件費との整合性をとることが必要です。また、報酬制度は経営方針を表すものでもあります。経営方針に合わせた制度設計にすることで、従業員に対するメッセージを伝えることができます。

2.報酬制度の種類

image14-4報酬制度で設定される報酬は、給与と賞与、インセンティブに分けられます。報酬制度は、これらの報酬に対する条件や基準を定めるのが一般的です。ここでは、報酬制度で設定される報酬の種類について解説します。

2-1.給与

給与には大きく分けて以下の4種類が存在します。

  • 基本給
  • 能力給
  • 職務給
  • 諸手当

「基本給」は、給与のベースとなる賃金です。残業代や賞与も基本給をもとに算出されます。年齢や勤続年数、学歴、能力、経験、業績といった要素から設定されることが一般的です。

「能力給」は、知識や能力、経験といった業務の遂行に必要な能力をもとに算出される賃金です。職能給と表現する企業もあります。

「職務給」とは、役職や担当する業務の価値に対する賃金です。職務に対して支払われるため、わかりやすい基準になっています。

「諸手当」は、これまでご紹介した3種類以外の賃金のことです。残業代や休日出勤手当、退職金が該当します。通勤手当や家族手当といった福利厚生も諸手当の一つです。

2-2.賞与

「賞与」は、毎月支払われる給与とは別に支払われる賃金です。ボーナスとも呼ばれ、一般的には「基本給の何ヵ月分」のような計算で支払われます。

賞与の支給は法律では定められていません。そのため、企業の方針や、利益によってその都度支給額が変動します。また、定額制や非金銭的報酬制を採用する企業、賞与の支給自体がないといった企業も存在します。

基本的には、残った人件費の還元が、賞与の目的ということを理解しましょう。

2-3.インセンティブ

「インセンティブ」も、毎月支払われる給与とは別で支払われる報酬です。成果を出したことに対する報奨やモチベーション向上を理由に支給されるケースが見受けられます。

賞与では、ほとんどの場合が賃金で支払われますが、インセンティブは賃金が支払われるとは限りません。賞与や給与と一緒に支払われる「金銭的報酬」を採用する企業もあれば、表彰や旅行といった「非金銭的報酬」を採用する企業もあります。

3.報酬制度の作り方

image13-2ここでは、報酬制度の作り方について解説します。報酬制度は、適切な手順を踏んで作成することが大切です。いきなり報酬テーブルを作成するのではなく、現状把握や賃金設定の根拠を決めるといった準備が必要です。作成後の運用シミュレーションや従業員への説明をすることも、報酬制度の作成に欠かせません。

3-1.現状把握

まずは自社の現状把握から実施します。「誰がどのような報酬体系になっているのか」「どのような基準になっているのか」を確認しましょう。現状把握をすることで、自社の基準や傾向が見えてきます。

従業員の声を聞くことも大切です。匿名のアンケートを実施するといった手法で、自社の報酬制度に対する意見を集めれば、人事や経営層とは異なる視点からの気づきを得ることができます。

3-2.評価制度と整合性を確認

報酬制度の現状把握ができたら、評価制度と報酬との整合性を確認します。以前は年功制度を採用する企業が一般的でした。しかし、転職が当たり前となった近年では、年功制度が成り立たなくなりつつあります。中途採用で即戦力の人材が入ってきた場合、能力や貢献度が高いにもかかわらず、勤続年数が少ないため低い評価になってしまうケースが存在します。

その場合、貢献度と報酬が見合っていないことに対し、不満を持つ従業員も出るでしょう。ただし、簡単に報酬を上げた場合、人件費が不足する恐れがあります。どのように評価制度との整合性をとるのかを決めることが大切です。

3-3.報酬体系を設計

報酬体系の設計では、賃金設定の根拠を決めていきます。内部要因と外部要因から公平性の高い基準になるように検討しましょう。内部要因では、企業の方針に沿って何を重視するのかを決めたうえで、体系を決めます。

すぐに結果を求めるのであれば、成果を出した従業員を優遇できるように、ボーナスやインセンティブの水準を上げるとよいでしょう。会社に長くいてほしいのであれば、勤続年数を基本給の根拠にする方法もあります。リーダーを目指す人材を増やしたいのであれば、職務給を上げることも一つの方法です。

外部要因では、地域や同業他社との比較がポイントです。これらの水準よりも自社の水準が低ければ、どんなに整合性がとれた報酬制度でも人材流出の可能性は高まります。自社だけでなく、外部とのバランスを考えることも大切です。

報酬ごとの支給目的をまとめておくことで、報酬制度の透明性が高まります。報酬制度は、金銭的な要素が強いため、従業員に対するメッセージが伝わりやすい制度です。前述したように、インセンティブの支給や勤続年数の反映によって「結果を出すこと」や「会社に長くとどまってほしいこと」を伝えることができます。

従業員に、何を伝えたいのかを整理したうえで、報酬制度を設計しましょう。

3-4.基本給を設定する

報酬体系を設計したら、基本給を設定します。基本給は等級制度と連動させるとよいでしょう。職種や部署によって基本給を変える会社がありますが、その場合ジョブローテーションや異動によって、基本給も変動します。

それでは従業員から理解を得ることは簡単ではありません。社内での公平性を保つためには、等級制度と連動させる形が望ましいでしょう

基本給の幅を設定することも必要です。幅の設定方法には、重複型と接合型、開差型の3つがあります。重複型は、1つ上の等級と基本給の幅を被らせることで、降格した場合のダメージを減らすことができます。ただし、昇格した場合でも基本給が変動しないため、昇格に対するモチベーション向上には向いていません。

接合型は等級ごとに基本給の幅が分かれています。そのため、等級が上がるとともに基本給も上がる仕組みです。開差型は等級ごとの基本給に差があるタイプです。例えば、係長と課長の間にある程度の差をつけることで、係長に残業代を支払っても、支給額は課長の方が大きくなります。公平性という意味では理にかなった仕組みといえます。

自社の状況や風土に合わせた型を選びましょう。

3-5.報酬テーブルを設計する

基本給が設定できたら、報酬テーブルを設計します。基本給や能力給、職務給といった給与について、具体的な支給額を決めます。給与ごとに一覧にするとよいでしょう。

昇格した場合の給与変動や、従業員の年齢構成あるいは組織体制が変更になった場合の報酬をシミュレーションし、従業員や人件費への影響を考慮した上で報酬テーブルを決めます

3-6.賞与テーブルを設計する

報酬テーブルの設計とともに、賞与テーブルも設計します。ここで思い出す必要があるのは、賞与の本来の目的は、余った人件費を従業員に還元することです。

賞与に充てられる賃金があるのなら、固定給として支払ったほうが従業員の生活は安定します。しかし、業績は必ずしも安定するものではありません。状況によっては思ったように業績が上がらないこともあります。

賞与は予定していた業績を残せなかった場合の調整賃金ともいえます。賞与の目的を見失うことなく、人件費の調整を考慮したうえで賞与テーブルを設計しましょう。

3-7.運用時のシミュレーションをする

報酬テーブルと賞与テーブルの設計が終われば、報酬制度自体はできあがります。できあがった報酬制度が、5年後や10年後といった中長期的に運用できるのかシミュレーションしましょう

確認するポイントは、業績や組織構造の変化にも対応できるかどうかです。人件費は現在だけを基準にするのではなく、業務を拡大したときの人件費も想定するとよいでしょう。評価制度や福利厚生、就業規則といった賃金と関連する制度との整合性の検証も必要です。

3-8.従業員の理解を得る

運用時のシミュレーションも終わり、報酬制度が完成したら、従業員に対する周知をします。ここでは、説明するだけでなく理解してもらうことが大切です。文書で通知するだけでなく、説明会を開催し、従業員と対話することで理解してもらいましょう。

報酬制度を変更する理由や目的、変更による効果を伝えることで透明性が高まり、従業員からの理解を得られるでしょう。

4.報酬制度を運用する際の注意点

image21-4報酬制度の運用には、評価制度との連動や自社に適した制度の選択といった注意点があります。インセンティブを導入する場合は、公平性に注意しましょう。従業員が多い会社の場合、ツールを導入することで、担当者の負担を軽減できます。

ここでは、報酬制度を運用する際の注意点について解説します。

4-1.評価制度と連動させる

報酬制度は評価制度と連動して運用することが大切です。報酬は評価をもとに決定することで、従業員からの理解を得ることができます。従業員が理解し納得できる報酬制度にするためにも、評価制度と連動させ、従業員に説明できるようにしましょう。

評価制度に求められるものは、時代とともに変化します。従業員のニーズが変わってくるためです。しかし、人事や経営層はその変化になかなか気づくことができません。労働基準法や関連する法律の改正、世間の声といった社外の変化に敏感になり、評価制度を見直すことも必要です。

従業員からのヒアリングやアンケートで従業員の声を聞くことも有効です。評価制度を定期的に見直し、報酬制度との連動性を確認しましょう。

4-2.自社に合った報酬制度を導入する

報酬制度は自社に合ったものを導入しましょう。報酬制度には、従来の年功主義から成果主義といった多様な考え方があります。賞与にしても、定額制や出来高制があります。福利厚生も企業によってさまざまです。

近年では成果主義に移行する企業が増えているものの、年功主義が悪いというわけではありません。また、中小企業と大企業では考え方が異なります。中小企業の中には、充実した教育システムや予算が十分ではないところがあります。

大企業と比べて競争意識が高くない職場環境の企業もあるでしょう。そのため、大企業で成功している報酬制度を導入しても「思ったような効果が出ない」というケースは珍しくありません。中小企業の場合は特に、自社の状況や風土に合った制度を導入することが大切です。

 

 

4-3.ツールでの運用

ツールを活用して報酬制度を運用することで、業務の効率化につながります。従業員が増え、個人情報の取り扱いや管理する項目が増えると、担当者の負担は増加します。そこでツールを導入すれば、管理が必要な情報の一元管理が可能です。

「人事評価はこのデータ」「給与はこのデータ」といった、項目ごとに異なるデータで管理する必要がないため、人事業務の効率が上がります。担当者の負担や人件費を削減するためにも、ツールを活用した運用が効果的です。

4-4.インセンティブは公平に設定する

インセンティブを設定する場合、公平性を意識することが大切です。インセンティブを導入している企業の中には、営業職のみにインセンティブが発生するところがあります。これは売上に対する営業職の影響の大きさや成果のわかりやすさが原因です。

しかし、特定の職種や部門だけインセンティブが発生する場合、従業員から不満が出る可能性が考えられます。インセンティブが発生する根拠を明確にし、公平に設定することで、従業員からの理解を得ることにつながります

また、非金銭報酬によって独自性を出すことも有効です。数年前の賞与額は覚えていなくても、表彰された記憶は残っているものです。非金銭報酬は金銭報酬よりも記憶に残りやすいため、独自性のある非金銭報酬を考案できれば、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。

非金銭報酬は表彰や旅行、商品など、アイデア次第で自由に制度設計できます。従業員からのアイデアも募りながら検討するとよいでしょう。

5.納得性の高い報酬制度を作り、エンゲージメントを向上させよう

 

 

image11-2報酬制度は、人事評価や等級をもとに従業員の報酬を決める制度です。そのため、人事制度と深く関わっています。報酬制度で設定される報酬は、大きく分けて給与と賞与、インセンティブです。報酬制度とは、これらの報酬に対する条件や基準を決める制度といえます。

報酬制度を作る際は、いきなり報酬テーブルを作成するのではなく、現状把握や賃金設定の根拠を決める、といった準備が必要です。作成後は、運用シミュレーションによる制度の整合性の確認を実施しましょう。従業員への説明は一方的に通知するのではなく、対話することで従業員からの理解を得やすくなります。

運用時は、評価制度と連動させることを意識しましょう。安易に流行りの制度を導入するのではなく、自社の条件や風土に適した制度を選択することも大切です。インセンティブを支給する場合は、内容だけでなく公平性にも注意しましょう。

また従業員が多い会社の場合、ツールを導入して従業員のデータを一元管理することで、担当者の負担軽減や業務効率化につながります。従業員にとって納得性の高い報酬制度を作成し、エンゲージメント向上につなげましょう。

 

 

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