採用環境が厳しさを増すなか、潤沢な母集団を集めることが採用の成否を左右します。より多くの応募者の中から選考することで、自社にマッチした優秀な人材を確保できる可能性は高まります。
厚生労働省発表による2022年4月の有効求人倍率は、1.23倍でした。前年同月の有効求人倍率は1.09倍であり、上昇傾向は続いています。慢性的な人手不足の状態にあり、人材獲得競争はさらに厳しくなることが予想されます。
こうした環境のなか中途採用を成功させるには、単に応募者の数を集めるだけではなく、自社に興味・関心をもつ人材に特化した、母集団形成が必要とされます。
中途採用の母集団形成では、求める水準を満たし、入社後の活躍が見込める応募者を意識的に集める必要があります。自社の採用ニーズにマッチした応募者を集められれば、採用成功の可能性が高まるためです。
優秀な人材を必要数確保するためには、母集団形成の段階から戦略的にターゲットとする人材にアプローチすることが求められるでしょう。
「自社に興味がある」あるいは「働きたいと思っている」応募者を集めることで、採用活動を効率よく進めることができます。また、最終的な採用人数から逆算することで、どのような母集団を形成すればよいのか、戦略的な組み立てが可能になります。
採用戦略が明確になることで、母集団形成の手法に工夫の余地が生まれます。結果として精度の高い母集団が形成され、ニーズに合致した人材を効率的に採用できるのです。
新卒採用と中途採用の母集団形成では、ターゲット層やスケジュールに大きな違いがあります。また、新卒と中途では、採用ニーズも異なるため選考基準にも違いが生じます。
さらに、中途採用は経験の浅い第二新卒採用と、専門的なスキルをもつ即戦力人材採用の2パターンがあり、異なるアプローチが必要です。それぞれの特性を正しくつかむことが、適切な母集団形成に欠かせない要素となるでしょう。
新卒採用の母集団形成は、長期戦であるといえます。早い段階から自社に興味をもつ学生を集め、長期間かつ継続的に接点をもつことで、信頼関係を構築していくことがポイントです。
選考スケジュールは、学業に影響しないよう配慮が必要です。就業経験のない学生がターゲットであるため、選考基準はスキルや経験よりも、ポテンシャルが重視されます。
中途採用の母集団形成は短期決戦であるといえます。中途採用は採用ニーズが発生した時点から、数週間で選考を行うことも珍しくありません。経験者採用において、この傾向は強く、採用要件を明確にしたうえで絞られた母集団形成を行います。
第二新卒の場合は、新卒採用と異なりスケジュールの縛りはありません。その分、他社とも接触している可能性があるため、短期間でまとまった母集団を集め、スムーズに選考につなげることが望ましいでしょう。
ターゲットを絞った母集団形成を継続的に行うことで、新規入社者の質が上がり、結果として社員全体の質も向上していきます。自社の理念や社風に合わない応募者が、入社する可能性が低く抑えられるためです。
スキルや知識の不足といったミスマッチが生じなければ、人材の定着率は上がり、早期の活躍も期待できます。結果として社員の質の向上につながるでしょう。
自社の理念や事業内容に興味をもつ応募者を母集団として集めることで、採用の確実性が増していきます。こうした応募者と適切な接点をもてば、自社へのロイヤリティを高められ、入社してくれる可能性も高まるでしょう。
また、母集団をデータ管理し活用することで、精度の高い採用計画を立案できます。応募経路や学歴などいくつかの属性でデータを分析すれば、入社後に活躍する応募者の傾向がつかめるでしょう。
自社にマッチした人材が集まりやすい母集団形成の仕組みが構築できれば、採用コストの抑制にもつながります。理念や経営方針に共感し業務内容に興味をもつ、入社の可能性が高い応募者にピンポイントにアプローチできるためです。
母集団形成の運用が軌道にのれば、対応に関わるコストは削減されるでしょう。それだけではなく、応募者の情報管理や募集媒体に関わる費用についても、ある程度予測が立てやすくなります。結果として採用予算が適正化され、長期的なコスト削減につながるのです。
正しい手順を踏まえることで、確実な母集団形成が可能になります。とくに中途採用の母集団形成においては、採用の目的を明確にすることが必要です。
欠員による即戦力の補充なのか、事業拡大を見越した第二新卒の大量採用なのか、採用の目的によって具体的な手法が異なります。採用の目的を明確にした上で、対象の職種や求めるスキル・経歴を設定しなくてはなりません。
企業は中長期的な事業計画に基づき運営されています。事業計画を達成するために必要な人員は、あらかじめ計画に盛り込まれている場合がほとんどでしょう。そのため、採用の目的やターゲット、具体的な募集人数は、事業計画を確認したうえで設定することが望ましいといえます。
事業計画に即した目的でターゲットを定義し、必要人数を逆算した採用計画を立てるとよいでしょう。そうすることで、どのポジションでどのようなスキルをもった人材がどれくらい必要か、具体的なイメージができるようになります。
事業計画に基づいた採用目的と要件、採用人数が定まれば、次はスケジュールに落とし込む作業が必要です。スケジュール策定も事業計画がベースとなります。いつまでにどのような人材が何名必要なのかを明確にし、具体的な採用スケジュールを策定するとよいでしょう。
その際、求職者の動向も考慮に入れることを忘れてはいけません。中途採用市場は、時期により求職者が増減することが予測されます。適切なタイミングで施策を講じ、ターゲットを取りこぼさない母集団形成が理想的です。
ターゲットとなる人材を、いつまでに何人採用するのかが明確になれば、計画実現に向けた具体的な採用方法の検討に移ります。
例えば、20代の第二新卒や未経験者がメインターゲットであれば、求人媒体や採用イベントが適した方法といえます。即戦力の経験者であれば、人材紹介やダイレクトリクルーティングが選択肢となるでしょう。
それぞれの方法により、コストや工数は異なります。ターゲットに応じた採用方法を十分に検討し選択することで、精度の高い採用が行えるでしょう。
近年ではアルバイトから新卒採用まで、さまざまなニーズに応じた採用手法がサービスとして展開されています。なかでも、中途採用に適していると思われるのが、以下に挙げる6つの手法です。
同じ中途採用とはいえ、第二新卒と即戦力の経験者採用では、メインターゲットが異なります。それぞれに適した手法があり、使い分けが必要になってくるでしょう。しかし、いずれの場合も自社に魅力を感じ興味をもってくれる応募者を、効率良く集めることに変わりはありません。
求人媒体として広く用いられているのが、求人サイトです。さまざまな職種や目的に応じ細分化されてきており、中途採用に特化したサイトも多数あります。Web上に募集要項を掲載し応募を待つスタイルですが、サービスによっては登録者にスカウトを送ることもできます。
求人サイトは募集要項を広く発信できることが特徴です。そのため、広範囲のエリアで募集したい場合や、大人数の母集団を集めたいときに適した手法といえるでしょう。
なお、ネット上の求人が主流ではありますが、フリーペーパーや新聞など紙ベースの求人媒体も、エリアや職種によっては有効な手段となる場合があります。
求人検索エンジンは、求人情報に特化した検索エンジンで、比較的新しい採用媒体といえるでしょう。検索エンジン上には、インターネット上で公開されている求人情報が集約されています。
これまでは、求人媒体に費用を支払い掲載することが一般的でしたが、求人検索エンジンは、求人がクリックされたことに対して課金されるクリック課金が主流のため、採用コストを抑えられるメリットがあります。
一般的に採用イベントは、人材会社や自治体などが主催する合同説明会など、多くの企業が1つの会場に集まり、それぞれのブースで来場した求職者と接点をもつ手法です。
採用イベントは、短期間に多くの求職者とコンタクトできることが特徴です。しかし、企業の知名度によっては、集客に苦戦することも考えられます。どれくらい応募が来るのか予測が難しく、思うような効果が得られないリスクもあります。
しかし、これまで自社を知らず興味のなかった求職者と接点をもてたり、実際に働いている社員を知ってもらえたりという良い面もあります。媒体では接点をもちにくい求職者に会える点は、大きなメリットといえるでしょう。
ダイレクトリクルーティングは、企業が直接求職者にコンタクトをとる手法です。求職者はサービス運営会社のデータベースに自身の経歴やスキルを登録します。企業はデータベースをチェックし、自社の求める要件にマッチした求職者がいれば、直接スカウトを送りアプローチします。
企業にとっては、要件に合致した人材にピンポイントでアプローチできる点がメリットです。即戦力となる人材を少人数、確実に採用したい場合に適した手法といえるでしょう。
ただし、日常的なデータベースのチェックやスカウトの送信など、担当者の負担は多くなりがちです。また、一人の対象者に対する工数は多くなり、大人数の採用には不向きといえます。自社の魅力を伝え、口説き落とす力量が問われる面もあります。
リファラル採用は、既存の社員や知人からの紹介で応募者と接点をもつ手法です。人脈を通じて行われるため、転職市場に現れない人材を採用できる手法といってもよいでしょう。
応募者は紹介者を通じて、カルチャーや仕事内容をある程度把握して応募します。そのため、自社の社風や理念に共感した、マッチ度の高い人材をピンポイントで採用できる点が特徴です。
紹介による採用のため、求人に関する費用は発生しません。紹介者に報酬を支払う企業もあるようですが、一般的な求人サービスを利用するよりは費用を抑えられます。
反面、紹介が頻繁にあるわけではなく、要員計画にそった採用には不向きな面があります。入社後の配属にも一定の配慮が必要になるでしょう。
ソーシャルリクルーティングは、SNSを利用した採用手法です。TwitterやLine、FacebookなどのSNSを活用し、自社の魅力を発信します。有
料広告を利用すれば、年齢や地域・志向性といった細かな属性を指定し、狙うターゲットにピンポイントで情報を届けられるでしょう。
また、SNS上に自社のアカウントを開き、母集団を集めることも可能です。自社のアカウントに興味をもってくれる層に、直接訴求できることがメリットといえます。マッチ度の高い人材との接点が期待できるでしょう。
反面、企業の魅力を訴求するためには、魅力あるコンテンツを発信しなくてはなりません。フォロワーを集めるための頻繁な投稿や、動向分析などの業務も日常的に発生します。相応の負荷が予想されるため、実施に際しては慎重に検討したほうがよいでしょう。
ターゲット人材をより多く集めることが、効果的な母集団形成です。自社に興味と共感をもつ応募者をいかに集めるかが、中途採用成功のカギを握る重要なポイントといえます。
また、中途採用ではターゲットに求めるスキルや経験は、よりシビアです。求める採用要件を明確にしたうえで、応募者との信頼関係を構築することが求められます。
自社が必要とする人物像をペルソナとして設定することで、自社にマッチした人材に焦点を当てた採用が可能になるでしょう。「ペルソナ設定」とはマーケティングの手法で、実在しそうな人物像を架空上に設定し、ターゲットを具体化する手法を指します。
また、応募者と接点をもつなかで、想定するターゲットとのズレが生じることがあるかもしれません。そうしたときはペルソナを見直す必要があります。場合によっては応募資格の見直しまでを図ることもあるでしょう。ターゲットを明確化するペルソナ設定と見直しは、中途採用の母集団形成において重要なプロセスといえます。
ターゲットとなる人材のペルソナを設定したら、次に採用手法の選定が必要です。ターゲットが若手な第二新卒や未経験者の場合と、即戦力の経験者の場合では使用する求人媒体も異なるでしょう。
求人媒体は「総合型」と「特化型」の2種類に大別されます。「総合型」は求人サイトや検索エンジンのように、多くの人に求人を見てもらうことを目的としています。これに対し「特化型」はダイレクトリクルーティングのようにターゲットを絞り込み、ピンポイントにアプローチするものです。
求人媒体の特性を考慮し、ターゲットにあった手法を選ぶことが重要です。また状況によっては求人内容や運用も見直す必要もあるでしょう。
応募者との信頼感関係の構築は、母集団形成の大きな目的でもあります。そのためには応募者との接点を極力増やし、ロイヤリティを高める働きかけが必要です。
母集団を放置してしまえば、競合他社に流れてしまうリスクが高まります。しかし人事スタッフや採用担当者だけで完璧なフォローが難しいこともあるでしょう。
ときには現場の社員に協力を仰ぎ、応募者と接点をもってもらうことも必要です。採用後に勤務が想定されるポジションの社員と応募者の、コミュニケーション機会を設けるなどするとよいでしょう。
母集団形成の施策は、定期的な検証を行うことで精度の向上を図る必要があります。どの媒体から集めた応募者が多く採用に至ったのか、どの施策が応募者から高い評価を得たのかなど、データを詳細に集め分析します。その際、費用対効果についての検証も忘れてはいけません。
厳しい採用環境の中、実りある母集団形成を行うためには、定期的な検証により施策の精度を向上させ、次に活かしていくことが欠かせません。
母集団形成は、自社の採用ニーズを満たすターゲット人材の応募を増やす取り組みです。そのためには、自社の理念に共感し、興味をもってくれる人材を多く集めることが求められます。
厳しい採用環境のなか中途採用を成功させるためには、ターゲットにあった採用手法で可能な限り多くの応募者と接点をもつことが必要です。その上で、信頼関係を構築することが欠かせません。今一度自社の母集団形成を見直してみてはいかがでしょうか。