近年では、人手不足から十分な採用活動ができていない企業があります。その対策となるのが採用代行です。採用代行の利用により採用業務を効率化でき、採用担当者の負担を減らすことができます。本記事では、採用代行の業務内容やメリット、利用時の注意点について解説します。
1.採用代行とは?
「採用代行」とは、企業の採用にかかわる業務を代行することで、RPO(Recruitment Process Outsourcing)とも呼ばれています。採用活動の多様化により、採用業務の業務量が増えたことから、採用代行を利用する企業が増えてきました。
採用代行が注目される理由として、採用活動の多様化が挙げられます。従来の求人広告やエージェントを利用した求人活動だけでなく、リファラル採用やダイレクトリクルーティングといった言葉が生まれたように、採用活動の種類が増えてきました。SNS型の求人メディアが普及した影響により、応募者数自体も増加しています。
そのため、採用業務そのものの業務量が増加し、採用担当者に負担がかかる一方になっていました。十分な採用活動を実施できず、優秀な人材を確保できない企業もあるでしょう。採用担当者の負担を軽減し、優秀な人材を確保する機会損失を防ぐために採用代行に注目が集まっています。
2.採用代行の業務内容
採用代行業務には、母集団形成や応募者対応、選考業務といった採用活動に直接かかわる業務だけでなく、採用計画の立案といったコンサルティングに近い業務も存在します。また、入社後の定着支援も採用代行に委託できる業務です。
ここでは、採用代行に委託できる業務についてご紹介します。
2-1.採用計画の立案業務
採用代行の業務内容として、採用計画の立案業務が挙げられます。人材確保に困っている企業は、採用計画に問題があるケースが見受けられます。採用計画の立案を委託することで、人事担当者の負担を減らすとともに、採用業務の品質も向上させることが可能です。
採用目標や採用プロセス、予算といった情報から、採用計画自体の立案や既存の採用計画に対するアドバイスをもらえます。採用担当者への教育や研修を実施するケースもあり、コンサルティングに近い業務といえます。
2-2.母集団形成業務
「母集団形成」も、採用代行の業務に含まれます。母集団形成とは、自社に興味を持った人材を集めることです。自社に興味を持つ人材が増えるほど、優秀な人材を採用できる可能性が高まるため、採用活動において必要な活動の一つとされています。
求人サイトの選定や求人広告、求人票の作成、DM配信、企業説明会の開催といった母集団形成に関わる業務を委託できます。専門家である採用代行業者に委託することで、効果的に母集団を形成できるのが特徴です。
2-3.応募者対応や選考に関する業務
採用代行の業務には、応募者対応や選考業務もあります。応募者が多い場合、応募書類や面接の数も増えるため、応対する時間を確保できないケースがあります。せっかく母集団形成をしても、選考業務の質が落ちては優秀な人材を確保することはできません。
応募者対応や選考業務を採用代行業者に委託することで、選考業務の質が上がり、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。筆記試験の採点や合否の連絡といった負担が大きな事務作業だけを委託する方法もあります。
また、内定者のフォローも採用代行業務の一つです。面談や懇親会、研修といった内定者フォローに関わる業務を委託できます。
なお、内定者フォローを怠った結果、内定を辞退されるケースは少なくありません。内定者フォローを委託することで、内定者に対する心理面でのケアができ、辞退者の削減につながるでしょう。
2-4.入社後の定着支援業務
入社するまでの業務だけでなく、入社後の定着支援業務も採用代行に委託できます。入社後の人材サポートも、採用業務の一つです。電話や面談による心理面でのサポートだけでなく、アンケートの実施や現場へのフィードバック、人材定着に対する施策提案によって、人材がパフォーマンスを発揮できる環境づくりをサポートします。
環境づくりにより早期退職リスクが削減するため、定着率向上につながります。
3.採用代行を利用するメリット
ここでは採用代行を利用するメリットをご紹介します。採用代行を利用するメリットには、採用担当者の負担軽減だけでなく、コスト削減や採用力の強化が挙げられます。自社だけで採用活動を実施した場合と比較することで、採用代行のメリットを理解できるでしょう。
3-1.採用担当者の負担軽減
採用代行を利用するメリットとして、採用担当者の負担軽減が挙げられます。採用業務には応募者管理や応募者への連絡、試験日程の調整といった工数が必要な事務業務が存在し、応募者が多いほど採用担当者の負担が増加します。
工数が必要な事務業務を委託することで、自社の採用担当者の負担を軽減できます。負担を軽減できればコア業務に専念でき、採用業務全体の品質も向上するでしょう。
3-2.人件費や採用コストの削減
人件費や採用コストの削減も採用代行を利用するメリットです。たしかに採用業務を委託するには外注費がかかります。しかし、自社で採用業務をすべて行う場合、人件費が必要です。母集団形成や応募者の管理には、専用の管理ソフトや工数が必要です。ソフトの購入や工数も採用コストに含まれます。
採用業務におけるノウハウを持った採用代行業者に委託すれば、採用業務自体が効率的に進められます。結果として、外注費以上に人件費や採用コストを削減できる可能性が高まります。
3-3.採用力の強化
採用力の強化も採用代行を利用するメリットの一つです。前述したとおり、採用代行を利用することで、採用業務を効率的に進めることができます。採用代行業者は多様な企業の採用活動を請け負っているため、パターンに応じた方法を選択できるのが特徴です。
協力して採用活動を実施すれば、採用業者のこれまでの経験を活かした客観的なアドバイスをもらうことができます。採用業者のノウハウや知識を得ることができるため、自社の採用力強化にもつながるのです。
4.採用代行を利用するデメリット
採用代行を利用するデメリットには、ミスマッチの発生や応募者とのコミュニケーション不足による内定辞退があります。委託する業務が多ければ、自社にノウハウが残らない可能性もあります。
これは、採用業者に任せっきりにしてしまうことが原因です。ここでは、採用代行を利用するデメリットと、その対策について解説します。
4-1.認識のずれによるミスマッチが発生する
採用代行を利用するデメリットとして、ミスマッチの発生が挙げられます。採用代行を利用する企業の中には、応募者管理から採用までの採用業務を一括で委託するケースがあります。その場合、採用の判断を下すのも採用代行業者です。
もし、自社と採用代行業者の間で採用基準の認識にずれがあった場合、自社の要件を満たさない人材を採用する可能性があります。そうなっては、採用代行を利用する意味はありません。採用業務を一括で委託する場合や、採用業務のコアとなる業務を委託する場合は、採用基準の認識を確認しましょう。
4-2.応募者とのコミュニケーションが不足する
応募者とのコミュニケーションが不足する可能性があることも採用代行を利用するデメリットです。採用代行の業務には、応募者との連絡があります。応募者との連絡を委託した場合、自社の担当者が応募者の生の声を聞く機会が減ることになります。
その場合、応募者との関係性が構築できず、応募者が不安を感じる可能性があるでしょう。内定を出したとしても、辞退されかねません。応募者との関係性を構築するためにも、応募者とのコミュニケーションを代行業者にすべて任せるのではなく、自社でも対応するようにしましょう。
4-3.自社にノウハウが残らない
採用代行を利用することで、自社にノウハウが残らない可能性があります。採用業務の中で、委託する業務が多い場合、自社の担当者が採用業務に携わる機会が減ります。その結果、自社だけでは採用業務を進められず、自社に余力がある場合でも採用代行を利用するケースも出てくるでしょう。
その場合、採用コストが必要以上にかかることになります。将来的に自社だけで採用業務を進めることを想定しているのであれば、ノウハウを共有する機会を確保することが必要です。
5.採用代行の利用に向いている会社
募集する範囲が広い会社やノウハウが不足している会社は、自社だけでの対応が困難なため、採用代行の利用に向いているでしょう。複数の人材紹介会社を利用している場合も同様です。
また事情により、早急に人材を採用したい会社は、常駐での採用代行の利用がおすすめです。ここでは、採用代行の利用に向いている会社の条件について解説します。
5-1.募集する範囲が広い
採用代行の利用に向いている会社は、募集範囲が広い会社です。募集範囲の広さとは、採用人数が多い場合や、採用職種が多い場合を指します。募集範囲が広い場合、母集団形成や選考業務の範囲が増えるため、採用業務自体の業務量が多くなります。
管理自体も煩雑になるでしょう。採用代行を利用することで、工数がかかる事務作業を委託し、自社での対応が必要なコア業務に集中できます。採用担当者の負担を減らすことにもつながるでしょう。
5-2.ノウハウが不足している
採用業務のノウハウが不足している会社も、採用代行の利用が向いている会社です。歴史の浅い会社で、採用業務自体の経験がない会社もあるでしょう。そのような会社は、採用代行を利用して採用活動を進めることで、人材確保の機会損失を防止することができます。
採用業務をすべて委託するのではなく、共同で進めることで、自社にノウハウを蓄積できます。効率的にノウハウを学ぶためにも、比較的歴史の浅い会社は採用代行の利用が適しているといえるのです。
5-3.人材紹介会社を利用している
すでに人材紹介会社を利用している会社は、採用代行の利用に向いています。人材紹介会社の利用は、優秀な人材を確保するのに有効です。ただし、複数の人材紹介会社を利用している場合、各人材紹介会社と求人要件や試験日程の調整といった連携を取る必要があります。
なお、複数の会社との連絡に必要な工数は少なくありません。対応がおろそかになり、認識にずれが発生する可能性も考えられます。人材紹介会社との窓口業務を採用代行会社に委託すれば、業務の負担を減らすことが可能です。それにより、人材紹介会社のサービスを有効に活用でき、優秀な人材の確保につなげることができます。
5-4.急いで採用したい
事情により、急いで人材を採用したい会社も、採用代行の利用に向いているといえます。採用代行会社の社員を社内に常駐してもらい、採用活動を共同で進めることで、即効性のある採用活動が可能です。
社内に常駐してもらうことで容易に情報を共有できるため、事務的な業務だけでなく、応募者のフォローといった自社で担当する業務も依頼できます。即効性を求める場合は、常駐での採用代行の利用を検討しましょう。
6.採用代行を利用するときのポイント
採用代行を利用するには、厚生労働大臣の許可を取得する必要があります。業務範囲の明確化や採用したい人物像の共有、進捗管理の徹底も採用代行利用時のポイントです。
ここでは、採用代行を利用するときのポイントについて解説します。
6-1.厚生労働大臣の許可を取得する
採用代行を利用するポイントの1つめには、法令を理解することが挙げられます。採用代行は採用代行会社に報酬を支払うことで採用業務を代行する業務委託のことで、職業安定法の第三十六条「委託募集」に該当します。
採用代行を利用するには、厚生労働大臣の許可を得る必要があります。厚生労働大臣の許可を取得せずに、採用代行を利用することは違法行為となるため、注意しましょう。
参照元:職業安定法第三十六条
6-2.業務の範囲を明確にする
2つ目のポイントは、業務範囲を明確にすることです。前述したように、採用代行の業務内容は多岐に渡ります。そのため、採用代行会社との付き合いを継続するにつれ、委託する業務範囲が増えていくことも珍しいことではありません。
自社のメンバーが自己判断で業務内容を追加してしまうケースもあります。その場合、業務内容と費用とのバランスがとれず、トラブルに発展する可能性があります。
トラブルを回避するためにも、業務委託の契約段階で、双方の業務範囲を明確に定めることが必要です。費用についても見積りの基準を明確にしておきましょう。業務ごとの単価設定や業務範囲が曖昧な場合、支払い段階で想定外の費用を請求される可能性もあります。
業務ごとに単価を設定することで、お互いの認識違いを防げます。また、メンバーへの周知も大切です。周知不足によって自己判断での業務追加が発生しないよう、委託範囲をお互いに確認したうえで、採用代行を利用しましょう。
6-3.求める人物像を共有する
3つ目のポイントは、採用代行会社と求める人物像を共有しておくことです。人材を採用する場合、必要なスキルや年齢、考え方といった求める人物像を定義します。選考業務を委託する場合、定義した人物像を採用代行会社と共有することで、認識のずれから発生する採用ミスマッチを防ぐことができます。
人物像は「積極的な人」のような曖昧な定義ではなく「不明点をその場で確認する人」といった具体的に定義することがポイントです。人物を想像できるまで設定することで、認識のずれをなくすことができます。
また、採用計画についても内容を共有することが大切です。双方でディスカッションを重ねることにより採用の方向性を統一でき、安心して採用業務を委託できます。
6-4.信頼できる会社に依頼する
4つ目のポイントは、信頼できる採用代行会社に依頼することです。採用代行会社を評価するポイントは以下の4つです。
- 過去の実績
- 体制と品質担保の仕組み
- セキュリティ対策
- 自社との相性
過去の実績は、規模感や顧客にどのような効果をもたらしたのかを確認しましょう。新卒採用に対応していない会社も存在するため、対応しているターゲットの確認も必要です。
業務を遂行する体制と品質担保の仕組みが整っているかどうかも、確認するポイントです。採用代行は業務委託のため、業務管理の体制が整っていない会社に委託した場合でも、業務指示が出せません。そのため、委託契約前にどのような体制で業務管理をしているのかを確認しましょう。ISOをはじめとした規格を取得しているかどうかも、信頼できる会社を判断する基準といえます。
セキュリティ対策も確認しておきたいポイントです。採用業務は大量の個人情報を取り扱う業務です。セキュリティ対策ができていない会社に委託した場合、情報漏洩により自社が損害を被る可能性もあります。プライバシーマークやISMSといった情報セキュリティに関する規格を取得しているかを確認しましょう。
さらに、自社のルールに合う会社かどうかもポイントです。採用業務の方法や考え方は、会社によって異なります。情報共有の頻度や連絡手段といった業務の進め方が自社と合わない場合、スムーズにやり取りができず、トラブルに発展する可能性があります。自社のルールに合わせて対応してくれるかどうか確認しましょう。
6-5.進捗管理と状況把握
5つ目のポイントは、進捗管理や状況把握を怠らないことです。たしかに、業務委託の場合は業務指示が出せません。しかし、指示が出せないからといって結果だけを待っていては、認識のずれがあった場合に対応できません。
こまめに進捗や状況を確認することで、問題があった場合でもすぐに対応できます。どの頻度で進捗確認を実施するのか、どうやって情報共有するのかを決めておくことで、スムーズに進捗管理や状況把握ができるようになります。情報共有にはクラウドサービスの利用がおすすめです。
進捗管理とともに、面接官や決裁者の予定を管理することも大切です。どんなにしっかり進捗管理ができていても、社内調整ができていなくては採用業務が進みません。採用代行会社だけでなく自社内の進捗も合わせて管理しましょう。
また、デメリットの章で前述したように、応募者とのコミュニケーションを丸投げしないこともポイントです。応募者の意欲低下を防ぐためにも、コミュニケーションを欠かさないようにしましょう。
7.採用業務の負荷が大きい場合は採用代行の利用を検討しよう
採用代行とは、企業の採用にかかわる業務を代行することです。採用活動の多様化や応募者数の増加により、採用業務の業務量も増加したことから採用代行を利用する会社が増えてきました。
採用代行業務には、母集団形成や応募者対応、選考業務といった業務のほかに、採用計画の立案や採用担当者への教育といったコンサルティングに近い業務や入社後の定着支援も挙げられます。
採用代行を利用するメリットとして、採用担当者の負担軽減やコスト削減、採用力の強化が挙げられます。一方、ミスマッチの発生や応募者とのコミュニケーション不足、自社にノウハウが残らない可能性があることもデメリットです。
募集する範囲が広い会社やノウハウが不足している会社、複数の人材紹介会社を利用している会社は、採用代行の利用に向いている会社といえます。早急に人材を採用したい会社は、常駐での採用代行を利用しましょう。
なお、採用代行の利用時にはポイントがあります。採用代行は業務委託のため、厚生労働大臣の許可を取得することが必要です。業務範囲の明確化や採用したい人物像の共有、進捗管理の徹底をすることで、スムーズに採用業務を委託できます。安心して任せられる会社を選ぶこともポイントです。
採用業務の負担を感じている場合は、採用代行の利用を検討しましょう。