円安や諸外国の台頭など、企業が対処しなくてはならない課題は山積みです。これらの課題解決に必要な人材の確保にもまた、効率化や目標の明確化が求められています。以前は業績向上のために設定されていたKPIが、採用活動にも設定されるようになりました。
この記事は、採用活動におけるKPIのよりスムーズな設定と活用のため、KPI設定の基礎から設定の手順とポイント、注意点について解説します。
1.採用活動におけるKPIとは
KPIとは「Key Performance Indicator」の略語で、日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれています。これは最終目標を達成するために通過しなくてはならないポイントという意味で、逆にいえばKPIを達成できなければ目標は達成できません。
とりわけ採用活動でいえば、最終目標は人材の採用と定着です。それを測る指標には、応募者数や内定数(または内定率)、採用コスト(採用単価)、採用後の離職率などが挙げられます。
採用活動にも他の企業活動と同様、達成すべき目標(=ゴール)があります。ここでいうゴールは、求める人材が入社し、離職することなく定着して成果を出すことです。そのためには評価の高い人材が応募するよう適切に広報して募集し、適切に内定、採用される必要があります。その後現場で上司や先輩から教えを受け離職せずに業績に貢献することも重要です。
このような要素は応募者数や高評価の人材数、内定数(内定率)、採用後の離職率などから測ることができます。もし採用活動が思わしくなかった場合、このような指標を記録しておけば、どれに問題があったのかが推測することも、改善することも可能です。
KPIとは、最終ゴールに向かっているかを測るための、より小さなゴールだといえます。その達成具合を見れば全体の進捗状況をはかることができるため、中間目標ともいえるでしょう。
1-1.KGIとの違い
KPIと似た用語に「KGI」があります。こちらは「Key Goal Indicator」の略語で、日本語では「重要目標達成指標」といい、定量的に示された最終目標そのものです。採用活動の最終目標は組織や状況によってさまざまですが、例えば「2022年卒業の学生を18名採用する」「専門学部の学士5名を幹部に育成する」などがこれにあたります。
そのためKGIとKPIは、およそ次のような関係にあるといえます。
- KGI:企業または事業の最終目標
- KPI:採用活動を含む企業活動が、着実にKGI達成に向かっているかを判断するさまざまな指標
KGIはKPIがなければ達成がおぼつかず、KPIはKGIがなければ指標になりようがありません。これらは互いに補完関係にあります。採用活動におけるKPIも、この関係を理解していれば適切な活用が可能です。
2.採用活動におけるKPIを設定する目的
KPIの概要がわかれば、設定する目的がわかってきます。ただ目的は状況によって変化することもあるため、それらに共通するポイントを見極めることが大切です。
ここでは採用活動を例に挙げ、なぜKPIを設定する必要があるのか、その目的について解説します。
2-1.目標までのプロセスを可視化するため
例えばA地点をスタートして、徒歩で5km先のB地点まで移動するとしましょう。このとき、他に何もない平原であれば、まっすぐB地点に向かうのが最短距離です。しかし直線ルートには途中飛び越えられない谷があればこのルートは使えません。一旦、橋のかかるC地点まで迂回する必要があります。
この例えで、KGIはB地点への到達、KPIの一例がC地点への迂回です。この他、ルート上に問題があればその都度回避する、対処するための活動やその準備が必要になります。これらの回避や対処活動、対処活動の準備もKPIです。
このようにKPIを設定すれば、目標までのプロセスが可視化できる上、何をすべきかが個別に定められるため日々適切に活動しやすくなります。これはさまざまな部署から多くの人員がかかわる採用活動には効果的です。
2-2.採用活動の課題の発見するため
全体がうまく進捗していないとき、重要なのは「何が問題なのか」を把握し対処することです。何らかの活動でKPIを設定していなければ、スタート地点から現地点までのルートを総ざらいしなくてはなりません。手間がかかる上に、検証・確認には時間もかかります。
KPIは、スタート地点からゴールまでのルートに適切に定められた中間地点です。うまくいっていないときは、KPI未達成の箇所を見れば課題が発見できます。複数のルートがあるなら、不具合の性質によってどのルートに課題があるかを推測することもできます。
いずれにしても、ゴールまでのルートとチェックポイントであるKPIを設定したからこそ可能なことです。どのような活動にも、予想していなかった問題は発生します。適切に素早く対処するには、KPIを設定していた方が効率的です。
2-3.チームワークを向上させるため
採用活動に限らず、多くの活動には実に多くの作業や業務が必要になります。それを限られた人員でこなすとなれば、どうしても負担は大きくなりがちです。
このような状態が続けば、担当者は納期に追われ大きなプレッシャーを感じるでしょう。体調を崩したり、ケアレスミスが続発したりといったトラブルにもつながる深刻なリスクです。
この原因には、「今何をすべきかが明確でない」または「明確だが統一されていない」「集中できない」といったことが挙げられます。多くの部署が関係する採用活動には、特にチームワークは欠かせません。部署同士が互いに補完しあうことで、より効率よく適切に活動できるためです。
KPIは、ゴールまでの道のりを枝分かれさせたり中間地点の目安を設けたりするため、適切に設定すれば活動やそのタイミングを関係者のだれもが把握しやすくなります。関係者全員が多くの要素を同じように認識するため、結果として齟齬が生じにくくなるのもメリットです。
互いの報告・連絡に使う情報も最小限ですみ、余計な時間や手間がかかりません。関連する他部署の進捗も把握しやすいため、部署間のチームワークの向上にもつながります。
3.採用KPIの設定方法
KPIの概要がわかったとしても、実際の活動に簡単に適用できるわけではありません。うまく設定するには、KPIだけでなくKGIを正しく理解し、順序よく組み立てる必要があります。ここでは採用活動における、KPIの設定手順を詳しく見てみましょう。
3-1.KGIを設定する
KPIは、あくまでも最終目標であるKGIを達成するための指標です。設定するには、まずKGIを設定しなくてはなりません。採用活動においてはKGIを、量的には「採用人数」、質的には「人材の質」とするのが一般的です。
- 採用人数:将来の事業展開に沿って、各部署での必要人数をもとに設定する。新卒採用では入社までの期間が長いため「内定承諾数」と設定することが多い
- 人材の質:部署ごとにどのようなスキルを持つ人材が求められているかなど要件の正確な把握が必要
量と質は、状況によって比重を変える必要があります。絶対数が不足している場合は採用人数を、特定のスキルや経験を持つ人材を求める場合は人材の質を重視するとよいでしょう。
3-2.自社の採用課題を発見する
KGIを設定したら、次はこれまでの自社の採用データを分析し、採用における課題の発見に努めましょう。過去の実績や競合他社の分析などをもとに各選考ステップの歩留まり率から自社の課題を絞ります。
歩留まり率は、採用フローにおいてあるステップから次のステップに進んだ人数の割合です。例えば企業説明会参加者総数のうち書類応募数が少なければ、説明会でのアピールや動機づけが弱い、応募方法がわかりにくいといった課題が推定できます。
ただ歩留まり率が高いほどよいというわけではありません。業界や企業規模ごとに異なる適正値を見極めることが大切です。
3-3.KPIを設定する
KGIを設定し、自社の採用課題の改善が明確になれば、これらを踏まえたKPIの設定ができます。ただし、KPIの設定は現実の業務に影響を与えるため設定には慎重さが必要です。
例えば採用人数を重視して書類選考数における面接数をKPIとした場合、高すぎると面接回数が増え、面接担当者の負担が増えます。とはいえあまり低く設定すると、目標人数が達成できない可能性もあります。大切なのは双方のバランスです。
また面接数における入社数は、面接で応募者がどれくらい自社に魅力を感じたかを測る指標になりえます。面接担当者のスキルやコミュニケーション力にフィードバックすれば、改善することも可能です。
こうして見れば、KPIとKGI、自社の課題の改善がうまくかみ合っていることがわかります。こKPIの設定は、採用活動にも適した目標達成のための手段だといえます。
4.採用KPIを設定する際の4つの注意点
どれほど採用活動の成果が必要でも、ただKPIを設定すればうまくいくというわけではありません。KPIの設定にはいくつかの注意すべき点があり、想定できるリスクは避けることができます。
ここでは、KPI設定における注意点を紹介し、対処における考え方について解説します。
4-1.KGIに関連するKPIを設定する
KPIを適切に設定するには、KGI達成に影響を及ぼす要素が何なのかを、しっかり理解しておく必要があります。そうでなければ、KPIは達成したのにKGIにはまったく影響せず達成できない可能性があります。
採用活動でいえば、本来営業力強化が求められているところ、経理や保守管理のスキルを持つ人材採用数をKPIに設定するといったことが、KGIとかけ離れている例といえるでしょう。
ただ業界のしくみやトレンドなどの要素によっては、一見かけ離れているように見えるだけであることも十分あり得ます。KPIを設定するにあたっては、さまざまな要素をふまえ、具体的な戦略に則っているかどうかに重点を置くようにしましょう。
4-2.達成可能な目標を設定する
KPIの設定によってもたらされるメリットの一つに、担当する人員のモチベーションの維持向上があります。ビジネスではまず企業全体が目指す大目標があり、そのために達成すべき中目標、小目標といった具合に細分化されるのが一般的です。こうすれば業務に取り組む人員が個別の目標に集中し、注力できます。
誰でも目標を達成すると充実感が得られ、さらなるモチベーションにつながるものです。逆にいえば達成できなければやる気を失い、次の目標に取り組む意欲がそがれる場合もあります。そう考えればKPIも、達成できる目標を設定して達成し続け、モチベーションを維持向上させることで着実にKGIに向かうことが重要です。
4-3.達成度を計測できる目標を設定する
KPIは、取り組むすべての人員が目指すべき中間目標です。達成度はだれが見ても同じ、客観的な数値で表せる必要があります。でなければ内容を変更した場合との比較ができず、それがよかったのか悪かったのかが判断できません。
また、人によってとらえ方が変わるような基準も避けましょう。場合によっては部署内が分裂してしまい、その後の活動に支障をきたす可能性があるためです。
採用活動では応募数や歩留まり率、内定承諾率などがKPIには適しています。「○○といった声が聞かれた」「○○に似たケースが多いようだ」といった数値化が難しい内容は、今後の改善の参考にできます。
4-4.期限を設ける
ほとんどの目標は、時間が無限にかけられるなら達成できるでしょう。しかし採用活動は最大でも1年単位で行われるため、かけられる時間には間違いなく限りがあります。しかもKGIより細かなKPIならなおのこと、さらに限られた期間内に成果を求められる傾向です。
そのためKPIは、設定するときに期限を設けるようにしましょう。期限があればできることとできないことを区別でき、準備にかけられる時間から可能な手法を選択しやすくなります。スピーディーな進行が求められ、取り組む人員の行動にもメリハリがつきます。
そもそもビジネス上の目標に、期限のないものなどないといってよく、パフォーマンスは常に時間ごとに評価されるものです。
5.設定したKPIの運用方法のポイント
こうして設定したKPIは、計測した後どのように行動するかによって意味づけが変わります。ただ達成できたかどうかだけをチェックするのではなく、問題が発生していないか、修正すべき点はないかなどにも注意し、より着実にKGIに向かうよう調整しなくてはなりません。
ここではKPIの計測値を、どう活用すべきかを解説します。
5-1.数値をリアルタイムで把握する
化するため、KPIは常にリアルタイムで数値を把握することが求められます。応募者数や内定者数といった重要な指標を繰り返し振り返れば、抱える課題をいち早く発見することも可能です。すぐに改善行動をとれば、さらなる悪化を防ぐこともできます。
ビジネスにおける目標の達成度は、常に時間ごとに評価されます。採用活動におけるKPIも同様、定期的に更新して共有し、適切な改善ができるよう効果的に活用するようにしましょう。
5-2.進捗状況に合わせて適宜修正する
KPIの計測は、あくまでKGIの達成に順調に進捗しているかを確認するための手段です。計測結果は順調であればよし、順調でなければどの部分をどのように修正するかを素早く把握して適切に対処するためにあります。結果の把握から対処までに時間がかかっていては、KGIの達成は遠のくばかりです。
計測結果をリアルタイムに把握すれば、最小限の修正で済みます。関係する人員の手間や時間を節約するためにも、適宜修正するよう努めましょう。
5-3.数値の標準値を用意しておく
KPIの計測結果をより効果的に共有するには、結果が予定よりよいのかよくないのかを判断できる標準値をあらかじめ設定し知らせておくと効果的です。そうすれば、計測結果を伝えれば誰もが達成度や進捗具合を同じように評価でき、必要な対策にも素早く取り掛かれます。
対策開始時期を調整したければ、標準値前後の数値を指定しておきましょう。標準値は定める方法によって、採用活動そのものをコントロールすることができます。実際に業務に携わる人員が、できるだけ行動しやすくなるよう上手に活用しましょう。
5-4.PDCAを回す
KPI計測結果のリアルタイムな把握とそれに基づく適宜の修正は、PDCAサイクルでいうとCからAにあたります。ご存じの通りPDCAサイクルはスムーズに回すほど目標達成に近づく手法です。採用活動におけるKPIも、同じように適切なタイミングでサイクルを回すことが求められます。
また課題や問題が上がったら、できる限り素早く対処し始めることも、PDCAサイクルの鉄則です。そのためには担当者の配置や行動開始の基準、報告・連絡・相談の正確さも欠かせません。単にPDCAサイクルを回すだけでなく、うまく回すための組織づくりや意識づけにも配慮する必要があります。
6.採用KPIを設定して正しく運用しよう
KPIとは、最終目標であるKGIを達成するために通過すべきチェックポイント、または中間目標だといえます。KGIが遠い、つまり難しくかかる時間や手間が多く煩雑なほど、日々の活動が本当に最終目標に近づいているのかわからなくなるものです。KPIはそのような戸惑いを解消し、採用活動においても大いに活用できます。
うまく活用するためにKPIは、KGIと強く関連づいており、達成可能で明確な指標であることが大切です。計測結果もリアルタイムに把握して標準値に基づき適切に評価すれば、必要に応じて素早く対処することができます。PDCAサイクルに上手に組み込めば、それだけ着実にKGI達成に近づくことができるでしょう。
採用活動における成果は人にまつわるため、非常に変化が激しいといえます。だからこそKPIを設定して正確に把握することが重要です。解説した注意点やポイントを踏まえ、採用活動における最高の成果が得られるよう上手に活用しましょう。