STAR面接とは、候補者の過去の行動を4つの視点から深堀りし、本質を見極める手法です。自社との相性を見極め、ミスマッチを防止する目的で行われます。
本記事ではSTAR面接の手法について説明し、メリットや質問例、実施のポイントを紹介します。
1.STAR面接とは
STAR面接とは、あらかじめ質問項目や評価基準を定め、過去の行動を深堀りして判断する面接の手法です。限られた時間の中で候補者の本質に迫り、採用のミスマッチを防止する手法として注目されています。
本記事では、STAR面接の概要や目的について解説します。
1-1.候補者の本質に迫る面接のテクニック
STAR面接の「STAR」は、次の4つの頭文字をとっています。
- Situation (状況):どのような状況にあったか
- Task(課題):その状況下でどのような課題があったか
- Action(行動):課題に対してどう行動したか
- Result(結果):行動したあと、どのような結果を得られたか
面接では、過去にとった具体的な行動についてこれら4つの視点から質問し、掘り下げながら候補者の本質を探ります。
1-2.ミスマッチ防止を目的に行う
STAR面接の主な目的は、ミスマッチの防止です。4つの視点からなる質問で候補者の本質を探ることで、「入社後に活躍できる人材か」など、自社と候補者の相性を見極めることができます。
ミスマッチは、企業と候補者のニーズにギャップが生じることです。面接の短い時間で候補者の人柄や価値観を判断するのは難しく、自社と相性の合わない人材を採用してしまうケースもあります。ミスマッチが起これば早期離職を招きやすく、採用にかけた手間とコストが無駄になってしまいます。
ミスマッチの原因は他にもさまざまなありますが、面接などの選考段階で判断を誤ることも大きな原因のひとつです。
STAR面接では、過去の状況と行動についてシンプルに質問するだけで候補者の本質を見極めることができます。候補者も面接官の意図から外れることなく、求められる答えをスムーズに回答できるため、正しい評価につながりやすいのが特徴です。そのため、ミスマッチによる早期離職の防止が期待できます。
2.STAR面接を行うメリット
STAR面接を行うことで、候補者の人柄・価値観を的確に把握できるなどのメリットがあります。ここでは、STAR面接を行うメリットを3つ紹介します。
2-1.候補者の価値観がわかる
STAR面接では、候補者の価値観を把握できるのがメリットです。STAR面接で行う質問は、過去の具体的な行動について4つの視点から問いかけます。回答に際して候補者は、自分の行動を振り返って深く考えなければなりません。
よくある質問を想定してあらかじめ用意された回答は面接官の受けの良さを考えがちで、候補者の本質を見極めにくい可能性があります。
しかし、STAR面接で実施する質問は、候補者の過去の行動をもとに掘り下げるため、より実態に即した回答と候補者の人柄や価値観を見極めることが可能です。
2-2.候補者が自覚していない人柄もわかる
4つの視点による質問に答えていくことで、候補者も自己理解を深めます。そのため、候補者自身が自覚していない人柄や隠れた能力を引き出すことも可能です。
例えば、冷静に対応できる能力やストレス耐性などは本人も自覚していないことも多く、通常の質問では判断しにくい可能性があります。
STAR面接では、実際に起こした行動に対する質問・回答から候補者の中に隠れた能力を判断し、自社が求める人材かどうかを見極めることが期待できます。
2-3.候補者の本音を引き出せる
面接前の候補者はあらかじめ質問を想定し、十分な対策をして当日にのぞみます。万全に準備された回答からは、候補者の内面を把握するのは難しい場合もあるでしょう。候補者の本音がわからない可能性があります。
STAR面接であれば、過去の行動に対する質問を掘り下げる過程で本音を引き出すことが可能です。
用意した回答ではなく過去の行動に基づいて本音を語ることは、候補者自身の緊張を和らげる効果もあります。リラックスした会話のなかで候補者は自分の内面を表しやすく、より候補者の本質を見極められるでしょう。
3.STAR面接の問題点
メリットの多いSTAR面接ですが、注意したい側面もあります。STAR面接はあらかじめ定めた評価基準・質問項目を用意し、同じ基準で候補者を評価する仕組みです。そのため、面接の都度、候補者に合わせて質問をアレンジするといった対応ができません。例外的な質問は、他の候補者との公平性が保てなくなるためです。
面接の場で得られる候補者の回答は予測できず、候補者の回答によってはイレギュラーな質問をしたい場合もあるでしょう。自由な質問を通してコミュニケーションが進むこともあります。STAR面接では、そのような対応ができないのがデメリットです。用意した質問では候補者について詳しく判断できない場合、他の選考方法も組み合わせることも必要になります。
STAR面接は、ハロー効果の影響を受ける可能性がある点もデメリットです。ハロー効果とは、候補者の特徴が他の特性の判断にも影響を与えることです。
例えば、「学歴が高いから能力も高い」「声が大きく元気だから積極性がある」など、書類や第一印象で得られる情報から先入観を持ち、過大評価してしまうことを指します。ハロー効果が起こると客観的で公平な評価ができないだけでなく、候補者の本質を見極められず、ミスマッチが起こる可能性があります。STAR面接を採用する際は、ハロー効果を排除する対策を立てることも必要です。
4.STAR面接の質問例
STAR面接の質問は4つの要素に分けて行われ、それぞれの質問でテーマを決めて深堀りしていきます。ここでは、実際の質問例を4つに分けて紹介します。
4-1.Siituation(状況)に関する質問
Siituation(状況)に関する質問は、候補者が過去に置かれていた状況や課題の背景に関する質問です。候補者がそこでどのような立場にあり、どのように行動を起こしたかを知るために質問します。背景について質問することで、ストーリーの設定ができます。
例えば、「困難を乗り越えた経験」というテーマで質問するときは、以下のように深堀りしていきます。
- 困難を乗り越えた経験を教えてください
- そのときの組織体制・チームはどういう構成でしたか?
- あなたはどのような役割・ポジションにいましたか
- そのときの困難な状況を教えてください
過去の状況を把握するために、体制や候補者の役割、状況の詳細などを深堀りします。
4-2.Task(課題)に関する質問
Task(課題)に関する質問では、過去の状況でどのような課題に対応したかを質問します。仕事を進めるなかで問題を解決する能力は必要であり、課題に直面した際の行動・思考パターンを知ることで、解決能力の高さ・ストレス耐性を見極めることができます。
過去に直面した課題に関する質問は、主に以下のとおりです。
- 困難を乗り越えるための課題はどのようなものでしたか?
- 課題に対して、自身のスキルをどのように活かしましたか?
- これまで経験したトラブルの中で印象的だったものを教えてください
- 緊急性の高いトラブルでしたか
- トラブルが起きた要因はどのようなことが考えられますか
- 課題解決のためにどのような役割が求められましたか
実際に課題に取り組んだときの経験を掘り下げることで、候補者の対応力・トラブル発生時にどのような行動がとれるかを判断できます。
4-3.Action(行動)に関する質問
Action(行動)に関する質問では、課題に対して候補者が具体的にどのような行動をとったのかを確認します。Siituation(状況)で明らかにした背景に対し、どのように取り組んだのか、何を感じ考えながら行動したのかを掘り下げる過程です。
行動に関しては、以下のような質問をします。
- 課題を解決するため、最初にどのような行動をとりましたか?
- チームのメンバーにはどのように働きかけましたか?
- 目標を達成するため、どのような手順で進めましたか?
- 行動をするとき、どのようなことを考えていたか教えてください
- 行動をするなかで、自分の強みはどのように発揮されましたか?
候補者は現在も必ず同じ行動をとるとは限りませんが、質問により行動・思考パターンの傾向を見極めることができます。
4-4.Result(結果)に関する質問
Result(結果)に関する質問では、候補者の行動によってもたらされた結果について掘り下げます。単に、トラブルが解決したか、より良い結果が得られたなどの事実を確認するのではありません。結果が候補者にどのような影響を与えたか、得られたことや反省した点は何かなどを深掘りします。
結果に関する質問例は、以下のとおりです。
- 課題に取り組むことで、困難をどの程度乗り越えましたか
- 目標はどのくらい達成されましたか
- 一連の行動に対し、点数を付けるとしたら何点になりますか
- 自分の行動によって問題の解決にどのような影響を与えましたか
- 一連のトラブルを通して学んだことを教えてください
- 反省点を今後にどう活かしましたか
反省点があれば、失敗の経験をその後にどう活かしたかなどを見極めることも大切です。行動の結果をどのように受け止め、今後に活かしたかを聞くことで、物事を客観的に捉えるか・成長につなげられるかといった点を判断できます。
5.STAR面接のフレームワーク
自社が求める人物像により、見極めたいスキルや強みは異なります。そのため、STAR面接では、まず面接で見極めたいスキルの設定を行います。設定したスキルに対し、STARの各要素ごとに質問項目を作成するという流れです。
ここでは、見極めるスキルとして、「主体性」と「ストレス耐性」を例にSTAR面接のフレームワークを紹介します。回答をどのように深堀りするかを考える際の参考にしてください。
5-1.主体性を見極めるときのフレームワーク
候補者に主体性を求める場合、STAR面接の4つの要素について以下のような質問を展開します。
【Siituation(状況)】
- チームの目標に対して、あなたが設定した目標を教えてください
- 自分自身で立てた目標があれば、教えてください
- 自らが主体的に動かしたプロジェクトはありますか
- 達成が難しい目標に取り組んだことはありますか
- チームではどのような役割をしていましたか
- どうしてその役割を任されたと思いますか
【Task(課題)】
- 目標を達成する上で何が課題でしたか
- 目標の達成難易度はどのくらいでしたか、その理由も教えてください
- そのプロジェクトは何か課題を抱えていましたか
- 役割を努めるなかでどのような課題に気づきましたか
- 課題だと感じた理由を教えてください
- 課題の難易度はどの程度だと感じましたか
【Action(行動)】
- 目標達成のためにまず何を始めましたか
- 目標達成するため、どのような行動をしましたか
- 周囲に協力を求めましたか
- 解決策を考えるとき、周囲に助言を求めましたか
- 課題を解決するために、自分で工夫・改善したことを教えてください
- 課題解決に向けて具体的にどのような行動を起こしましたか
- 目標達成のために周囲に助言を求めたことはありますか
【Result(結果)】
- 目標達成はできましたか
- 目標を達成して、どのような行動が役立ったかを教えてください
- 自分自身が産んだ成果はなんだと思いますか
- 主体的に取り組んだなかで得られたことはありますか
- とくに主体的に取り組んだことは何ですか
- その学びから、自社の業務に活かせそうなことがあれば教えてください
深堀りにより主体性を確認することで、候補者の仕事に対する姿勢や課題解決へ取り組み方がわかります。
5-2.ストレス耐性を見極めるときのフレームワーク
候補者のストレス耐性を見極めたい場合、次のような質問で深堀りします。
【Siituation(状況)】
- これまでの経験でストレスが大きかったのはどのような出来事ですか
- どのようなことをストレスに感じましたか
- これまで一番面倒だと感じたのはどのようなことでしたか
- 苦手と感じる仕事はありますか
【Task(課題)】
- そのときはどのような役割をしていましたか
- どのような課題があったと思いますか
- これまでストレスを感じることにかかわる頻度はどれくらいありましたか
【Action(行動)】
- ストレスとうまく付き合うために工夫をしたことはありますか
- 課題を解決のためどのような行動をとりましたか
- どのようにして壁を乗り越えましたか
- ストレスを感じることに関わらないようにする工夫をした、乗り越える努力をしたことはありますか
- ・ストレスを感じたときの気分転換はありますか
【Result(結果)】
- 結果はどうでしたか
- 今後同じような状況になったとき、どのような改善・工夫をしたいですか
- 当時を振り返ってみて、自分にかけたい言葉はありますか
これまで、候補者がストレスとどのように向き合っていきたかを掘り下げることで、忍耐力や仕事への取り組み方がわかります。
6.STAR面接を実施する際のポイント
STAR面接を実際に進める際は、以下の手順で行います。
- 求める人物像を明確にする
- 面接で見極めたい要素を洗い出す
- 要素ごとに質問項目を作成する
- 質問項目ごとに評価項目を作成する
それぞれ、進め方のポイントを紹介します。
6-1.求める人物像を明確にする
STAR面接ではすべての面接官が同じ視点で評価できるよう、自社が求める人物像を明確にすることから始めます。求める人物像とは、企業が成長・発展していくために必要なスキルや考え方、行動特性を持った人物のことです。STAR面接を実施する上では、求める人物像を具体的な人物として設定することが大切です。
人物像が明確でないと、面接官ごとに評価がずれてしまう可能性があります。ミスマッチを防止するためにも、詳細な人物像の設定を行ってください。
6-2.面接で見極めたい要素を洗い出す
人物像を設定したら、面接で見極めたい要素を洗い出します。フレームワークで紹介した「主体性」や「ストレス耐性」などがこれにあたります。見極めたい要素の洗い出しは、人物像の設定とも重なるものです。どのようなスキルや強みを持つ人物が必要かを考えることで、自ずと見極めたい要素が明らかになります。
ただし、要素が多すぎると、面接の短い時間内で判断しきれません。焦点がぼやけてしまわないよう、洗い出した要素の中で特に重要な項目を絞り込んでください。
6-3.要素ごとに質問項目を作成する
要素を洗い出したら、要素ごとに質問項目を作成します。STARの各段階で候補者から聞き出すポイントを確認してください。
Situation(状況)であれば、背景や目標、チームワークなどをテーマにして質問項目を作成します。Task(課題)では、「状況」で取り上げたテーマに関して役割や課題、難易度などを質問します。
Action(行動)の質問項目は、行動の理由や工夫したことなどです。Result(結果)は具体的な成果や学んだこと、振り返って改善すべきと思うことなどが質問になります。
見極めたい要素について、これらの内容を質問項目として作成してください。
6-4.質問項目ごとに評価項目を作成する
作成した質問項目ごとに、評価基準を作ります。評価方法は、5段階評価や回答を100として点数を付ける方式などがあります。より客観的で公平・公正な評価ができる基準を設けてください。
問題点の項目でも説明しましたが、STAR面接ではあらかじめ用意した質問項目や評価項目に沿って行います。決まった要素の行動・思考パターンやスキルは掘り下げやすいものの、イレギュラーな質問で候補者の新たな一面を見出すことはできません。
このような不都合な点を補うには、リファレンスチェックなど他の手法を取り入れることもひとつの方法です。リファレンスチェックとは、主に中途採用の選考で行われるもので、候補者の勤務状況や人柄などを前職の関係者に聞き取る手法です。面接で得た情報との整合性も確認でき、判断の正確性を確かめる役割もします。
7.STAR面接を行う際の注意点
STAR面接を行う際は、いくつか注意したい点があります。候補者に圧迫感を与えないことや、候補者の「意見」ではなく「事実」を掘り下げるという点です。
ここでは、STAR面接を行う際の注意点について詳しく解説します。
7-1.圧迫感を与えないようにする
STAR面接はひとつの状況を掘り下げて質問するため、質問の仕方によっては候補者に圧迫感を与える可能性があります。質問があらかじめ用意されていることで、面接官は迷うことなく間髪入れずに質問しやすいことも圧迫感を与えやすい理由です。
面接の場でもともと緊張している候補者は、圧迫を感じることでさらに萎縮してしまう可能性があります。正確な情報や本音などを引き出せないことになりかねません。
掘り下げる際はあまり畳み掛けず、威圧的にならないよう注意が必要です。「柔らかい口調にする」「候補者の話には頷くようにする」といった対応をするとよいでしょう。候補者の回答を否定することも避けてください。候補者が回答につまる場面があれば、助け舟を出すなどの配慮も大切です。
7-2.「意見」ではなく「事実」を掘り下げる
候補者への質問では、過去の行動についての「事実」をもとに掘り下げることが必要です。事実に対する候補者の「意見」を掘り下げてしまうと、判断を誤る可能性があります。「意見」はあくまでも候補者の主観であり、客観的・公平な評価を妨げます。ミスマッチを起こす可能性があるでしょう。
候補者がこれまでどのような行動を取ってきたのかという客観的な事実に着目し、評価基準に則って評価してください。
8.STAR面接でミスマッチを防止しよう
STAR面接は4つの視点から候補者の過去の行動を掘り下げ、本質を見極める手法です。求める人物像をもとに質問項目や評価項目を定め、基準に沿って評価します。深堀りにより候補者の本質を見抜き、採用のミスマッチを防止する目的で行われます。
STAR面接では候補者の価値観だけでなく、本人も気づかなかった人柄を引き出すことも可能です。より的確に自社との相性を判断することができるでしょう。STAR面接を取り入れ、ミスマッチによる早期離職を防止してください。