少子高齢化により、介護職の人手不足が深刻化しています。給与の低さや人間関係のトラブル、身体への負担などが人手不足の原因です。
本記事では介護職が人手不足である現状や今後の状況、原因と解決策をご紹介します。人材確保に向けて対策を立てたい方は、ぜひ参考にしてください。
1.介護職の人手不足の現状
介護職は深刻な人手不足といわれています。実際にどのような状況なのか、厚生労働省のデータをもとに現状を解説します。
1-1.毎年数万人規模で介護職が不足している
厚生労働省では、保険給付の円滑な実施のため、3年間を1期とする介護保険事業計画を作成しています。第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づいて、都道府県が推計した介護職員の必要数は、2023年度には約233万人、2025年度には約243万人,
2040年度には約280万人になるとしています。
介護職員数自体は増加を続けているものの、高齢者・要介護者数の需要には追いついていない状況です。
2019年度における介護職員数は約211万人であり、この人数が増えず現状維持で推移すると仮定すると、2023年には約22万人、2025年には約32万人が不足する見込みです。
参照元:厚生労働省「 別紙1 第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
1-2.地方により人手不足の状況に差がある
介護職自体の人材不足に加え、介護職は地域により偏在しているという事情もあります。2018年の有効求人倍率は全体が1.46倍であるのに対し介護職は3.97倍と高く、特に介護職の有効求⼈倍率は地域ごとに⼤きな差があるのが特徴です。東京都は6.97%、愛知県は6.49 と高い数字となっています。
高齢者の人口は都市部の方が多いため、介護職は地方よりも都市部で人手不足が深刻化しているのが実情です。
参照元:厚生労働省「介護人材の処遇改善について」
2.介護職の人材不足は今後どうなる?
介護職の人材不足は、2025年問題が大きく影響しています。2025年には約800万人もの「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になり、65歳以上の高齢者を含めると、国民の約30%が高齢者となることで起こるさまざまな問題です。
ここでは、介護業界と2025年問題について解説します。
2-1.介護業界と2025年問題
2025年問題とは、団塊の世代が後期高齢者になることで起こる問題を指します。団塊の世代とは、戦後の第一次ベビーブーム期(1947年~1949年)に生まれた世代のことです。この3年間に生まれた人口は約800万人で、他の世代に比べて人口が突出して多いのが特徴です。
65歳以上の前期高齢者を含めると高齢者の数は3,657万人となり、その比率は30.3%となります。
高齢者が増加する一方で介護職の数は追いつかず、他業種と比較しても深刻な状況です。
参照元:厚生労働省「今後の高齢者人口の見通しについて」
2-2.介護施設の閉鎖の可能性
高齢者が増え続けて介護職が人手不足になると、需要を満たせない介護施設は閉鎖する可能性があります。すでに閉鎖している介護施設はあり、今後さらに増える可能性が高いでしょう。
介護職の人材が不足することで、残った介護職員の業務負担は大きくなります。労働環境が悪化することで退職者が増えるなど、さらに人材不足を招くことにもなりかねません。
3.介護職の人手不足の原因
介護職が人手不足になるのは、複数の原因が考えられます。いくつもの原因が重なり、他業種よりも深刻な人材不足に陥っている状況です。
介護職が人手不足になる原因を解説します。
3-1.給料の低さ
介護職は「体力を使うなど仕事はきついのに給与が安い」というイメージをもたれることも多い仕事です。実際に介護職の仕事はハードである反面、給与は低い傾向にあります。
厚生労働省の調査によると、手当や賞与も含めた介護職の平均月収は2022年度の時点で約31.7万円であり、年収にすると約380万円です。2021年における全体の平均年収が443万円であるのに比べ、低い水準であることがわかります。
仕事内容に対して給与が低いと感じ、報われないと感じることも人材を確保できない理由といえます。
参照元:厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」
参照元:国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」
3-2.人間関係のストレスの大きさ
介護職は人間関係のストレスが多く、離職原因となることも少なくありません。介護職は介護士・看護師・医師など異なる職種の人がチームとなって利用者をサポートする仕事です。そのため、人間関係が重要な要素となります。
特に介護度が高い方の身体介護は協力関係が欠かせません。十分なコミュニケーションがとれないと、業務がスムーズに進まず、満足なサービスを提供できないことにもなります。
また、介護職では、利用者のさまざまな要望に応えることもストレスの原因です。特に認知症のある患者はコミュニケーションをとることが難しく、良好な人間関係を築けないケースもあります。
利用者の家族ともコミュニケーションが必要です。サービス内容についてクレームを受けたり、料金以上のサービスを求めらたりなど、自分自身の責任とは関わらない部分でストレスを受けるケースも少なくありません。給料が低いだけでなく、人間関係も良くないということになると、仕事に対するモチベーションも保てなくなります。最終的には離職を招くなど、人材を確保できない大きな原因となります。
3-3.身体的な負担の大きさ
介護の仕事は身体的負担が大きく、体力的に限界を感じて他の職種に転職する人もいます。介護職には入浴や排泄の介助、車椅子からベッドへの移動など、体力的な負担が大きい仕事もこなさなければなりません。
自分よりも体格の大きな方を介護することもあり、安全に介護するために十分な体力が必要です。本来であれば2人で介助すべき場合でも、人手不足などの事情で1人で行うこともあります。
利用者のケアのほかにも食事の配膳や片付け、施設の掃除など、体力を使う場面は少なくありません。
24時間体制で夜勤などのシフト勤務になり、不規則な勤務体系で働く職場もあります。そのような職場では、体力的面だけでなく生活リズムの乱れも負担となります。
夜勤の場合はスタッフが少なく、多くの利用者を少人数でケアしなければなりません。負担の大きさに離職者が増えれば、さらに職員の負担が大きくなるという悪循環が生まれています。
3-4.評価制度の曖昧さ
介護職では、仕事のできる人もいればあまりできない人もいます。しかし、現場の評価制度が整っていないと、能力差や仕事内容が正しく評価されません。職員の頑張りが給与や賞与に反映されなければ、モチベーションも下がります。
評価基準が整備されていなければ、昇給・昇格の基準が勤続年数など年功序列になりやすく、若手職員から不満も生まれるでしょう。よく働く若い人材が正しく評価されないことは離職につながり、新入社員が定着しないという事態にもなります。
人事評価制度は比較的規模の大きな介護施設では整備が進んでいますが、中小規模の施設ではあまり進んでいないのが現状です。しかし、小規模で職員数が少ない施設ほど人材確保は深刻な課題であり、評価制度の整備が急がれます。
3-5.人材の流動性
全業種と比較すると介護職の離職率は高いとはいえないものの、施設によっては人材が定着せず、人材の流動性が高いところもあります。
離職率が高い上に、採用が難しいのも実情です。採用が難しいのは、同業他社との競争により、必要な人材が確保できないことがあげられます。どの介護施設も人材不足を抱え、少ない人材を取り合う状況です。また、他の産業と比べて労働条件が良くないことも採用が難しい原因となっています。
3-6.少子高齢化
そもそも少子高齢化により労働人口が減少していることも、介護職の人手が不足している原因です。65歳以上人口と15~64歳人口の比率では、1950年には65歳以上の者1人に対して 現役世代(15~64歳)は12.1人という割合であったのに対し、2022年には65歳以上の者1人に対して現役世代は2人となっています。
労働人口の減少という条件は他の業種も同じですが、高齢者を対象にしている介護職は高齢化により需要が高まっていることが、人手不足の深刻化を招いています。
参照元:内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)」
4.介護職の人手不足の解決策
介護職の人手不足を解消するためには、いくつかの対策を講じる必要があります。解決策としてあげられるのは、主に以下の2つです。
- 働き方や労働環境に関する解決策
- 採用に関する解決策
それぞれ、詳しく解説します。
4-1.働き方や労働環境に関する解決策
働き方に関する解決策として、ITツールやユニットケアの導入による業務の効率化・職員の負担軽減があげられます。
それぞれの内容を解説します。
4-1-1.ITツールなどを導入する
介護職は業務内容が幅広く、ITツールの導入で効率化し、業務の負担を減らせる作業も少なくありません。一例として、日報や介護記録などの書類作成があげられます。これらの書類作成を紙媒体で手書きやエクセルで行っているケースでは、手間や時間がかかり、職員の負担となっているのが実情です。それらの作業をITツールを導入してペーパーレス化するだけで、大幅な工数の削減につながります。
事務作業に費やしていた時間を本来の介護サービスにあてることで、より充実したケアの実現が可能です。
ITツールによって記録を電子化することで情報共有がスムーズになり、業務の連携が効率化するというメリットもあります。情報共有が迅速にできることでケアの質も向上し、必要な情報をタイムリーに取得できれば、リスクを減らすことにもつながります。
また、介護職員の身体的な負担を軽減するため、センサーやリフト、ロボットといったIT技術の導入も効果的です。導入にはコスト面でのハードルもありますが、介護職の人手不足を解消するため、普及が期待されています。
厚生労働省では介護現場におけるICTの利用を促進しており、そのためにICT導入支援事業を行っています。従来の紙媒体での情報のやり取りを抜本的に見直し、ICTを介護現場のインフラとして導入することを求めるという取り組みです。地域医療介護総合確保基金を利用し、介護ソフトや情報端末、通信環境機器等の導入などに補助金を支給しています。
4-1-2.ユニットケアを導入する
ユニットケアとは、自宅に近い環境の介護施設で、他の入居者や介護スタッフと共同生活をしながら行う介護手法です。利用者の生活リズムに応じて暮らせるようサポートします。従来の多くの人を効率的に介護するための「集団ケア」に対し、利用者一人ひとりの個性と生活リズムを尊重した「個別ケア」を実現する方法です。
利用者のプライバシーが守られる個室と、他の入居者や介護職員と交流するための居間があり、10名程度を1ユニットとして各ユニットに配置された顔なじみの介護職員が、利用者のケアにあたります。
従来の集団ケアで起こりがちだった人間関係のトラブルをなくし、介護職員のストレスを抑える手法として注目されています。
4-1-3.ハラスメントなどの相談窓口を設ける
人間関係の悩みで離職する職員は多く、人間関係・ハラスメントなどに対する相談窓口を設けることも有効な対策のひとつです。困った問題を抱えたとき、気軽に相談できる窓口があれば、悩みの解決につながります。職員が人間関係の悩みを減らせるだけでなく、事業所・施設でもさまざまな職員の意見を集めて検証し、対策を立てていくことで、労働環境の改善につなげることができるでしょう。
相談窓口が設置されていない職場で働く職員は仕事上の悩みを抱えやすく、調査によると、職場に相談窓口がない介護職員は仕事に関する不安や悩みを多く抱えているという結果が出ています。
参照元:公益財団法人介護労働安定センター「介護労働の現状について 令和元年度介護労働実態調査の結果と特徴」
4-1-4.資格取得支援制度を導入する
介護福祉士の資格を取得する「資格取得支援制度」の導入も、人手不足解消に効果的です。資格取得支援制度とは、業務上必要な資格の取得に対し、会社がサポートする制度を指します。介護職未経験者に対し、働きながら資格を取得してスキルアップすることを支援する制度です。
支援の方法はさまざまで、主に以下の方法があげられます。
- 資格取得にかかるスクール代やテキスト代などの一部または全部を負担する
- 資格取得のための研修や講座を開催する
- 資格手当を支給する
- 資格取得後に報奨金を支給する
介護福祉士は、専門知識と技術を活かして利用者の身体上・精神上のケア、現場職員の指導や育成を行う資格です。介護福祉士は数多くある介護に関する資格の中で唯一の国家資格であり、取得すると仕事の幅が広がります。サービス提供責任者や生活相談員など、介護事業所で配置しなければならない役職があり、介護福祉士の資格を要件とするものも少なくありません。
介護福祉士の資格を取得する方法は、以下の3つのルートのいずれかで受験資格を取得できます。
- 養成施設ルート:指定された養成施設等を卒業する
- 福祉系高校ルート:福祉系高校で定められた科目・単位を取得し卒業する
- 実務経験ルート:3年以上の実務経験と「実務者研修」を修了する
職員は資格を取得することでキャリアアップが図れ、手当がつけば給与も上がります。事業所・施設で資格取得支援制度を設けることは、職員のモチベーションアップにつながり、人手不足解消につながるでしょう。
4-2.採用に関する解決策
採用方法を変えることで、人手不足解消につながる場合もあります。ここでは、4つの解決策をご紹介します。
4-2-1.人材派遣業者を利用する
「なかなか人材を採用できない」「急いで職員を補充しなければならない」というとき、人材派遣業者が役立ちます。人材派遣業者は人材不足の際に、要望に応じた人材を派遣してくれ流サービスです。
人材派遣業者とつながりをもっておけば、職員が産休育休を取得したときや急な退職など、いざというときにすぐ人員を確保できます。職員の採用活動は続けながらも、どうしても人材が必要というときのため、人材派遣業者の利用を視野に入れておくのもおすすめです。
4-2-2.潜在介護士を募集する
潜在介護士を雇い入れるという方法もあります。潜在介護福祉士とは、介護福祉士の資格を保有していながら介護職の仕事をしていない人のことです。何らかの事情で休職していたり、介護業界を離れて別の仕事をしていたりします。
介護・福祉の専門的な知識とスキルを保有している潜在介護士が介護の現場で活躍しないのは、介護業界にとって損失です。潜在介護士が再び介護職として職場復帰できるようにするには、労働環境を改善したり短時間勤務を導入したりするなど、働きやすい環境を作るなどの対策が必要です。
4-2-3.採用戦略を立てる
ハローワークや求人サイトなどに広告を出すだけの「待ち」の姿勢では、競合他社と差別化することはできません。積極的に採用戦略を立て、Webなどを利用して情報を発信していくことが大切です。採用したい人材像を明確にして、採用スケジュールを設定しましょう。
他社と差別化できる事業所・施設の強みを洗い出し、アピールポイントを明確にして積極的に情報を発信することが、人手不足解消につながります。
4-2-4.外国人を雇用する
人手不足の解消には外国人を雇用する方法もあります。人材確保のために高齢者や女性の雇用も重視されていますが、介護の現場はある程度の体力も必要です。海外から日本へ来て働きたいと考えている外国人の多くは年齢が若く、外国人の雇用で若年層の労働力を確保できます。
近年はグローバル化や価値観の多様化により、外国人を雇用する企業も増えている状況です。
外国人は、地方の職場でも採用しやすいという特徴があります。日本人の場合、労働人口は都心に流れやすいのに対し、外国人は地域よりも給与額や社宅・寮の有無で就職先を選ぶ傾向にあるためです。
また、外国人の雇用は、国や自治体による助成金・補助金といった支援も充実しています。介護分野の人手不足を解消するための補助金も増えています。
外国人労働者を雇用する方法は、以下の4つです。
- 在留資格「介護」
- 「特定活動(EPA介護福祉士)」
- 「技能実習」
- 「特定技能1号」
在留資格「介護」は、外国人が介護施設で介護職として働くための在留資格です。2017年より正式に就労ビザとして認められました。
在留期間更新の制限がなく、日本語能力試験でN2以上に合格するか、N2のレベルに相当する日本語能力のある外国人労働者が取得できる資格です。そのため、言葉の壁がなく、職場にも比較的スムーズに馴染めるというメリットがあります。
「特定活動(EPA介護福祉士)」は、日本とインドネシア・フィリピン・ベトナムの経済連携を図るために創設された制度です。母国で看護学校、看護過程を卒業し、母国政府から介護士認定を受けた人材であり、高いスキルをもつ即戦力として期待できます。
「技能実習」は、発展途上国をはじめとする諸外国へ日本の介護分野での技術を移転することが目的です。外国人労働者は「技能実習」により、母国の経済発展に協力することができます。「技能実習」の在留期間には限りがあり、「技能実習1号」の場合は在留資格が1年で、技能実習評価試験に合格すると最長5年間まで在留期間の延長が可能です。
「特定技能1号」は人手不足が深刻化する特定分野の人材採用を目的とした在留資格です。特定分野には介護業界も含まれ、在留期間は5年間となっています。
厚生労働省では、介護分野で働く外国人のための学習用コンテンツ・テキストを作成し、Web上で公開しています。外国人を雇用する際は、ぜひ活用してください。
参照元:厚生労働省「外国人介護人材の受入れについて」
5.介護職の人手不足は年々悪化するため早めに対処しよう
少子高齢化により介護職の人手不足は深刻です。労働人口の減少と高齢化による需要の拡大で、その深刻度は他業種を上回っています。介護職は給与水準が低めで、人間関係のストレスが大きく、身体への負担があることなどが人手不足になる原因です。
介護職の人手不足を解消するにはITツールの導入で職員の負担を軽減したり、相談窓口を設けたりする方法があります。人材派遣の活用や、外国人の雇用を検討するのもおすすめです。
これからさらに深刻化する人手不足に対し、適切な対策を考えましょう。